第17話 ガチンコ 其の5

「あんたに? プロレス技を?」


 頓狂とんきょうな声を上げる和香さんを、俺は説得するのだった。


「もちろん、ごっこ遊びでお願いします。本当のプロレスをしろとは申しません。子供の頃の和香さんに、お姉さんがしてくれたように。きっちり手加減をした上で、わたくしにプロレス技を体感させてほしい」

「今、ここでかよ」

「はい、ここでです。しかしながら、わたくしは受け身が取れません。ですから、投げ技を、和香さんにして欲しいとは申しません。チョップやエルボーと言った、打撃技も勘弁して欲しいです。関節技や絞め技をお願いしたいのです」


 そんなことをお願いしながら、俺は和香さんのよく鍛え上げられた、肉付きのいいグラマラスな体つきを、上へ下へと眺め回すのだった。


 やみの長距離を走りきるために、必要としない筋肉を削ぎ落としたような、スレンダーここに極まれりと言った、華奢な体つきも俺の大好物だ。


 しかし、せっかく過去にタイムスリップできたんだ。少しくらい俺の無双を楽しませてもらってもいいではないか。一人だけじゃなく、二人目の女の子の体を楽しませてもらって、何がいけないのだ。


 それにしても、和香さんの豊満なバスト。たくましい大胸筋が容易に想像できる胸板、和香さんは女の子だが、ここはあえて胸板と形容させてもらうが、その胸板に勝るとも劣らない存在感を主張しているおっぱい。そう、おっぱいだ。制服を着ていても、そこに紛れもなくあることを隠しきれない、豊満なおっぱい。それだって、俺が欲してやまない女性の神秘である。


 さらに、実にムッチリとしている、スカートからのぞかせている太もも。太さだけを見れば俺とどっこいどこいだろうが、俺のだらしなく脂肪で包まれたそれと違って、和香さんの太ももは、美しい筋肉で構成された、まさに芸術品と言って良い代物だ。


 そして、バストやヒップは、制服からはみ出さんばかりに、その肉付きの良さを俺に示してくれているが、ウエストはきっちり引き締まってくれている。確認できないが、ひょっとしたら腹筋が割れているのかもしれない。そのおなかに、指でつまめるような贅肉ぜいにくは付いちゃっているのだろうか。


 その上、ふくらはぎには、ちょっとやそっとではとてもつけられないような、しっかりとしたふくらみが確認される。格闘家にとって、下半身が命なんてことはよく聞くが、その言葉通り、厳しいトレーニングで作り出された努力の結晶だろう。


 そんな風に、和香さんの肉体美を、心の中でたたえながら、俺は、決していやらしい気持ちでこんな申し出をしているのではないと意見を述べるのだった。


「その、和香さんはプロレスが好きであることを、ある程度はおおやけにした上で、自分のプロレスに対する、本当のスタンスを明らかにできないと悩んでいておられた様子でしたが、わたくしは、プロレス好きであること自体、周りには秘密にしていたんですね」

「へえ、そうなんだ」

「わたくしの周りでは、プロレスの話題になると、プロレスという言葉の後に、(笑)がついて、“プロレス(笑)”になるような状況だったんですよ。もちろん、わたくしはプロレスが大好きでございますが、そんなことを言ってしまっては、『じゃあ、プロレスごっこしようぜ。お前が技かけられろよ』となって、ただ一方的に、わたくしが痛めつけられるような結果になること請け合いでございまして……」

「まあ、そういうこともあるだろうな。プロレス自体馬鹿にされることも多いし」

「ですから、わたくしは、一度でいいから、プロレスごっこを楽しみたいと、常日頃から思っていたんです。ただ一方が加虐心かぎゃくしんを満足させる、独りよがりなものではなく、お互いがお互いを、そして何よりもプロレスそのものに敬意を払っているような、プロレス技の掛け合いを」

「その気持ちはわかるけども。あたしだって、親戚しんせきの姉ちゃんがいなかったら、どうなっていたかわからないし」


 和香さんは、俺が一緒にプロレスごっこをする相手すら、生まれてこのかた令和元年まで、和香さんにしてみれば千九九九年までだろうが、いなかったことに同情してくれているようだ。こうなれば、後一息かもしれない。


「お願いします、和香さん。せっかく、和香さんという、プロレスの話がなんの気兼ねもなしにできる相手と巡り会えたんですよ。わたくし、プロレス技がかけられたいんです。テレビで見ることしかできなかった、あのプロレス技の数々を、是非ともこの体で体験したいんです。もう、頭の中で想像するだけなんていうことからは卒業したいんです」


 そう長々と、自分がどれだけプロレス技をかけられることに飢えてきたかを主張したら、和香さんが、何やら釈然としない様子ではありながら、俺の要求を受け入れてくれるのだった。


「わかった、わかったってば。いいよ。頼みごとがあるならしろって言ったのはあたしだしな。それで、まずはどの技だ」


 和香さんが俺のお願いを快諾かいだくしてくれたので、俺は喜んでプロレス技をリクエストするのだった。

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