第29話ウホッ いい腐女子 其の8
「やっぱり駄目ですか? わたしの描いた絵。わたしがありのままに表現した成一君」
そう尋ねてくる冬馬である。ここで、めちゃくちゃに冬馬のイラストをけなすことは簡単である。しかしそんなことをしてしまっていいのだろうか。
そりゃあ、俺の意図したような作品ではなかったが、絵というものは、モデルではなく描いた画家のものではないのか。
だとすると、冬馬の絵を批評するにあたり、モデルである俺の
そうだ、ここは俺の個人的なもくろみなど捨てて、きちんと客観的な批評をするべきだ。そうに決まってる。となると、イラストとしては、冬馬の絵は実に大したものだ。
「えっ、そんなことないよ、冬馬さん。よく描けているよ。素晴らしい。これはお金が取れるレベルだよ。冬馬さんの絵、お金を払ってでも見たいって人はたくさんいるよ。これなら、プロにだってなれるんじゃないかな」
「お金ですか、プロですか」
俺は、おおいに冬馬の絵を称賛したつもりだったのだが、冬馬はどこか不満げである。俺がそんな冬馬を妙に思っていると、冬馬が俺にぐいぐい迫ってくるのだった。
「成一君自身は、わたしの絵をどう思いますか」
「お、俺自身と言いますと」
思いもよらない冬馬の質問である。まさか俺自身の見解を冬馬に問われようとは。
「わたしは、お金とかプロとか、そんなものはどうだっていいんです。成一君が私の絵をどう思うか聞きたいんです」
「ど、どう言うことなのかな」
「成一君、わたしの絵を見ても、気持ち悪がらずに、ちゃんと見てくれました。学問的な事も話してくれましたし、デッサンにも協力してくれました。あんな恥ずかしい格好までしてくれて。そんな人、成一君が初めてなんです。だから、お金とかプロとかの話じゃなくて、成一君個人の感想が聞きたいです。成一君が私の初めての人だから」
「と、冬馬さんの初めての人である俺の感想ですか」
冬馬が言うには、俺が彼女のファーストボーイズラブボーイらしいが、さて、どう言ったものか。
令和元年の頃の俺が、もし冬馬の描いたような絵をネット上で見かけたら、すかさず笑いの種にする書き込みをしていただろう。
「いいよこいよ」
「おっす、お願いしまーす」
「あーいきそ」
と言った
しかし、そもそもこう言ったネットスラングを、千九九九年の女子高校生である冬馬に言っても、ピンと来やしないだろう。そもそも、
第一、ここまで冬馬が一生懸命描いてくれた絵である。笑い物にするなんて失礼な気がする、少なくとも、こちらも真剣に向き合うべきではないのか。
そう考えて、俺は冬馬が描いてくれた絵を、もう一度見返すのだった。
自分が恥ずかしそうにあえいでいる絵を、それも描いた本人の前でじっくり見ると言うのは、これまた上級者向けである。これは今まで味わったことのない気持ちだ。となると、この感情を率直に冬馬へと話すのが、彼女への礼儀なのかもしれない。俺は、意を決して冬馬に自分の気持ちを、ありのままに話すことにするのだった。
「その、冬馬さんが俺のいやらしい絵を描いたわけだから、当然俺の感想も、結構下品なものになると思うんだけど、それでもいいかな」
「はい、成一君。どんと来てください」
俺の下品な物言いをすると言う提案を、冬馬はしっかり肯定してくれた。
となると、これはこれで悪くない。イラストのモデルが俺であることは少々気になるが、自分の趣味を人にあかせない内気な美少女に、ポルノめいた言葉を、好きなだけ浴びせられると言うのは、ちょっとやそっとでは体験できないことだ。過去にタイムスリップできてよかった。
そこで俺は、自分の言語能力を駆使して、冬馬に卑猥な言葉を投げかけるのだった。
「冬馬さんってさあ、いっつもこんなこと考えているの」
「こ、こんなことと言いますと」
「だから、裸の男と男が抱き合っているようなことだよ。この絵、もう過激すぎるじゃない。男が股をおっ広げさせられたり、四つん這いにさせられたり、別の男の股間に座らせられたり」
「そ、それはそのう……」
「だいたいさあ、男同士でいやらしいことをするこの絵さあ、やっぱり不自然だよ。もちろん、個人の趣味は尊重されるべきだよ。そう言う趣味を持つ男性がいることは事実だし、そう言う男性を、冬馬さんみたいな女性が楽しんで観賞するのも自由だと思うけどさあ、それを、俺みたいなノーマルな男の子に見せつけるのは、逆にそちら側の押し付けが過ぎるんじゃないかなあ。いや、僕は平気だけど、冬馬さんがこう言ったものを、誰彼構わず見せつけるようなら、俺としても、冬馬さんとは距離を取らざるを得ないと言うかなんと言うか……」
「わたし、そんな、誰彼構わずなんてしません。成一君だけです」
「いいや、冬馬さんは、俺以外とも交遊するべきだ。正直、俺には冬馬さんみたいな趣味はない。だから、冬馬さんのイラストの正直言ってよくわからない。だけど、冬馬さんと趣味を同じくする人間が、一定数いることは確かだ。冬馬さんが、そう言う人と繋がりを持つことはいいことだと思うよ」
「繋がりって言っても、どうすればいいのかわかりません」
「そこはそれ、いい方法があるんだなあ」
「いい方法ですか」
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