第27話 ウホッ いい腐女子 其の6

「ええっ、成一君をモデルにですか」


 そんな風に驚いて見せる冬馬だったが、その言葉に期待が入り混じっているのを俺は聞き逃さない。


 冬馬みたいな腐女子が、俺のような男の子をモデルに絵を描けるというのは、この上ない喜びのはずだ。もう一人男がいないとカップリングが成立しないので、その点はご不満かもしれないが、そこは我慢してもらわなければなるまい。


「冬馬さん、これからも、ああいった絵をお描きになられるのかな」

「それはその……」

「俺としては、ぜひとも描き続けてほしいんだけど、その際に、あのお尻の穴付近の描写はいったいどうされるおつもりなんですかねえ」

「お尻の穴付近ですか……」

「このまま、お尻の穴付近の、得体のしれない穴に突っ込まれるような表現をしていくつもりなの」

「そりゃあ、最低限のリアリティは確保していきたいですけど」

「ま、俺はお尻の穴に実際に突っ込まれた経験があるわけじゃないから、体験談を求められても困るけど、お尻の穴を使って快楽を享受している男二人組を、描いているご婦人方が大勢いらして、それを読んで楽しんでいらっしゃる女性もたくさん存在するようだし、ファンタジーとしてそう言ったものを描くなら、何の問題もないのではないかな」

「問題ありませんか、成一君」


 冬馬はすっかり乗り気のようである。


「となると、男と男がつながっている部分の描き方に、多少の修正を加える必要があるんじゃないかな。冬馬さんは、これまでお尻の穴の少し上あたりに突っ込まれる演出をされてきたわけだけど、これからはお尻の穴に突っ込まれる表現をされるわけだ。となると、少しばかりの体勢の変化をさせなければいけないんじゃない」

「いちいちごもっともです、成一君」

「それに、鏡に自分を映して、その鏡に映った映像の記憶を頼りに描くというのも、なんだかんだ言って限界があるんじゃないかな。やっぱり、実際に目の前でポーズを取っている人間を描くのが一番だよ」

「わたしもそう思います、成一君。お願いします。わたしの前でいやらしいポーズをとってください。そして、そんな成一君を描かせてください」


 こうして、俺はまんまと冬馬の目の前でいやらしいポーズができることになったのだ。冬馬の合意の上で。


 令和元年の、すっかりセクシャルマイノリティとしての権利を主張することに味を占めた、自分の存在をこれでもかとアピールする腐女子どもに、無理やりいやらしいポーズをさせられて、あまつさえその風景を写生されるのは、俺の男としての尊厳を否定されることである。


 だが、この千九九九年の、自分は日陰者でございますと恥ずかしがって、おのれの存在自体をひた隠しにしているような、奥ゆかしい引っ込み思案な女の子の前で、俺がいやらしいポーズをする。そのことで、冬馬がこれまで秘密にしてきた、男と男の絡み合いを好む自分の性癖を解放させるのは、何とも言えずぞくぞくするではないか。


 これまで男を毛嫌いしてきた堅物女に、男による快感を体で覚えこませて、快楽落ちさせることに似た快感を俺は今味わっている。千九九九年、万歳!


「さあ、冬馬さん。さっそく君が俺に見せてくれた男二人組の絵のうちで、突っ込まれている方の男のポーズをとるよ」

「えええ、いきなり、突っ込まれているポーズですか。最初から、飛ばしすぎではありませんか、成一君」

「何を言うんだ、冬馬さん。いままで、お尻の穴付近にイマジナリーアズホールを作り出してきた君は、何よりも先に正しい男の人体構造を学ばなければならない。それには、突っ込まれている男のポーズを見るのが一番ではないか」

「で、ですが、このような場所で、そのようなはれんちなことをしてしまっては……」

「いいや違うよ、冬馬さん。これはゲイ術のためなんだよ。崇高すうこうな目的あっての行動なんだ」

「わ、わかりました、成一君」


 そう言って、俺は冬馬の目の前でいやらしいポーズをとる。冬馬の目の前で机の上に体育座りをし、そのまま少し体を後転させて、両足を大開脚させて股間をおっぴろげる。俺の前の椅子に座っている冬馬に、俺のお尻の穴の部分が丸見えになるような形だ。


 念のため言っておくが、きちんと制服は着たままである。念のため


 冬馬も、恥ずかしがっているような素振りをしてはいるものの、内心では俺のいやらしいポーズに興味津々きょうみしんしんなはずだ。そう俺は確信している。そして、俺は自分のお尻の穴の部分を指さして、一応言葉の上で、冬馬に俺の恥ずかしい部分を見るよう強要するのだった。


「いいかい、冬馬さん。ここがお尻の穴だよ。本来ならばここに突っ込まれるはずなんだ。全くそれなのに、あんなイマジナリーアズホールを作り出すなんて、これだから、男とろくに話したこともないくせに、想像力だけは無駄に達者な君みたいな女はいやなんだ。さあ、しっかり見るんだよ、冬馬さん。ちゃんと現実の男というものを

 勉強するんだ」

「はい、しっかり勉強させていただきます」

「いいや、足りないぞ、冬馬さん。どうした、君のゲイ術家としての魂はそんなものか。さあ、もっとじっくりと俺の恥ずかしい部分を観察するんだ。そして、君の本能のおもむくままに、描き給え」

「わかりました。描かせていただきます」


 こうして、俺は自分の恥ずかしい姿を、無理やり冬馬に写生させるのだった

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