第一章 魔王族の末裔・その3
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「あら、霧島くんと知り合いだったの?」
すっとぼけた顔で沢田先生が訊いてきた。沢田先生も知っている側の人間だからな。なるほど、俺のクラスに転校してきたってのは、そういうことか。
「ま、知り合いと言ったら、知り合いなんですけどね」
「あなたは、昨日の――」
「じゃ、ミレイユさんは、何かあったら、霧島くんに頼りなさい」
予想どおりの台詞を沢田先生が並べたてた。ミレイユが不思議そうに沢田先生を見る。
「日本では、そういう理屈で保護者が決まるのですか?」
「あら、だって、知り合いなんでしょ? ほかに知り合いがいたら、その人でもいいけど。あ、体育の授業が難しいか」
「あ、だったら、そのときは、あたしがなんとかしますよ、先生」
と、手をあげたのは宮古である。
「ほら、あたし、暇人だし」
自分で言う台詞じゃないが、沢田先生もうなずいた。
「じゃ、そういうことで。ほかのみんなも仲良くしてあげてくださいね」
「「「はーい」」」
「じゃ、ミレイユさんは、一番後ろの席で――」
等々あって、ミレイユは俺のクラスの生徒ということになった。ま、これで終わるわけがないとは俺も思っていたが。
簡単にホームルームが終了して、とりあえず帰る準備をしていたら、
「霧島くんは、あとで視聴覚室にきなさい」
案の定、沢田先生が言ってきた。
「はい、わかりました」
返事をしてから、なんとなく周囲を見まわした。ほかの連中は、いつものことだって表情で帰宅の準備に入っている。実際の話、いつもの話だからな。
あとは、宮古以外の女子が、ミレイユの周りに集まっていた。
「アメリカのどこからきたの?」
「綺麗な髪。銀色でさらさらで。お人形みたい」
「お父さんとお母さんの、どっちがアメリカ人だったの?」
等々、質問を浴びせかけていた。ま、魔王族の気配を纏っているんだから、いつかは俺も関わってくることだろうが、いまは無視していい。
「じゃ、霧島くん、あたし、下駄箱で待ってるからね」
「先に帰っていいぞ」
宮古に言い、俺は教室をでた。廊下を歩いて階段を降りて、隣の校舎とつながっている渡り廊下を歩いて、途中で振りむく。
ミレイユが立っていた。美少女なんだが、無表情なので考えが読みとれない。
よく見ると、頬から顎にかけてのラインや肌の色は北欧なのに、目のあたりの掘りが浅かった。眉の周辺だけ見ると、東洋の顔立ちである。
「ほかの女子と話してた気がするんだけど」
とりあえず質問してみた。
「用があるので、一時的に、わたくしへの興味は失ってもらいました」
なんか、すごいことを言ってきた。ま、“忘却の時刻”の内側にいたくらいだからな。そういうことができるんだろう。そもそも、魔王族の気配だし。
「それで、なんか用か?」
試しに訊いたら、
「わたくしはミレイユ・倖田と言います。あなたのお名前は、なんでしょうか?」
自己紹介と質問をしてきた。そういえば俺からは自己紹介をしてない。
「霧島光一って言うんだ」
「あなた、昨日、“忘却の時刻”を越えて、なかに入ってこられましたわね」
つづけて、ちょっとシャレにならないことを言ってきた。軽く左右を見まわす。――とりあえず、話を聞いている人間はいない。
「そうだけど、場所を考えてものを言うべきだと思うぞ」
「あなたは、勇者なのですか?」
お構いなしに質問してくる。
「さすがはアメリカ育ちだな。思いっきり空気読めてねえ」
「クウキヨメテネエとは、どういうことでしょうか?」
「言いたいことをはっきり言う子供って意味だ」
「言いたいことをはっきり言えるのは大人だと思いますが?」
「日本にきた以上は言葉だけじゃなくて文化も覚えるんだな。郷に入っては郷に従えって言葉がある」
言って俺は歩きだした。視聴覚室まで行くだけなんだが、相変わらずミレイユが横を歩いてくる。ま、何を言ってきても適当にはいはい言って流しておけばいいだけの話だ。
「わたくしは魔王族です」
俺は無視できずに振りむいた。わざと質問しないでいてやったんだが、まさか自分から言ってくるとは。
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