第六章 悪意ある遺物・その2

 その日の深夜、俺はヒジリのオートマトンに揺り動かされて目を覚ました。身体を起こして、隣で寝ているミレイユを見る。


 ありがたいことに、ミレイユは布団のなかで静かに寝息を立てていた。起きられても面倒だし、ここは気配を消しておくか。


「きたよ。『レギオン』からの回線で。勝負したいって」


 気配を消した俺にむかって、ヒジリが小声で言ってきた。


「なんて言ってた?」


 同じく、俺も声を落として訊いた。


「いまからこいだって。ひとりで」


「場所は?」


「あの学校でいいって。たぶん、霧島を誘きだして、その隙にミレイユを誘拐するつもりだろうね」


「おまえもそう思うか」


 とは言うものの、ここで行動しないわけにもいかない。あえて釣られる手しかなかった。


「ファリーナのことは、何か言ってるか?」


「おとなしくひとりできたら返してやるって」


「やっぱり、そういうことを言ってくるか」


 俺は立ちあがった。ヒジリが見あげる。


「行くの?」


「行くしかないだろう」


 俺はタンスの上に置いていたスマホを手にとった。ヒジリに渡す。


「いまからでいいから、宮古にメールをして呼びだしてくれ。朝までミレイユと一緒にいてくれれば、それでいい」


 言って、俺は寝ているミレイユのそばに転がっている剣を拾いあげた。


「じゃ、行ってくる」


「え」


 ヒジリのオートマトンが心配そうな顔をした。自分の手にはまっている指輪――本体を指さす。


「僕は行かなくていいの?」


「最初から剣を持って行くんだ。召喚する必要がないんだから、AIジュエルは必要ないだろう」


「それは、そうだけど」


「いままでありがとうな」


 俺はヒジリの頭をなでた。ヒジリが困った顔で俺を見あげる。


「それは死亡フラグだよ」


「そんなもの、俺は信用してないんでな」


 笑って言い、俺は玄関に立った。


「ここで静かに待ってろよ」


 言ってから靴を履きかけ、俺は、もうひとつ言わなくてはならないことを思いだした。振りむく。


「もし、明日になっても俺が帰ってこなかったら、おまえがミレイユの護衛をしろ。俺の跡を継げ」


「え」


「もうファリーナと喧嘩はするなよ」


「そんなのって」


「いいか、これは命令だ」


 声を押し殺しながらも強く言い、俺は背をむけた。

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