第六章 悪意ある遺物・その5
3
「悪意ある遺物が聖遺物を使うとはな」
俺は半ばからへし折れた剣を構えながらつぶやいた。くそ、普段と長さが違うから、間合いがつかみにくい。いや、そもそも、この状態で戦えるのか? いや、できなくてもやるしかない。覚悟を決めた俺の前で、セイラが眉をひそめた。
「常軌を逸した強固な精神力と、限界まで練りあげた念気功。ソードファイター霧島光一の強さの秘密がわかったわ。さすがは魔王アメシストアイズを滅ぼした勇者、権俵寅吉の子孫といったところかしら」
「そんなんじゃねえよ」
俺の言葉を無視し、セイラが御魂斬りをむけた。ヤバい。嫌な予感がする俺を見ながら、セイラが目を細めた。
「だったら、その心を折ることからはじめないとね。ちょうどいいことに、この聖遺物は精神思念体をも斬れると聞いているわ。ここは実験体になってもらうから」
「やめろ。そんなことしたら死んじまうぞ」
言いながら俺は剣を振った。駄目だ、スピードがでない。さっき、ドゾに腹を射抜かれて、まただからな。蓄積したダメージが足を引っ張っている。俺の剣をやすやすと避けた――いや、届かなかったのか――セイラが、すいと音もなく接近した。ここまできて西江水だと!? 反応できない俺の前に御魂斬りが迫る。
俺の胸を御魂斬りが貫いたのは、次の瞬間だった。
「馬鹿野郎――」
笑みを浮かべるセイラを見ながら、俺は膝をついた。ひい爺さんの御魂斬りが、肉体だけではなく、俺の心までも蝕んでいく。『レギオン』で培ってきた精神力が、念気功が、幻聴とともに崩れ落ちていく。
俺のなかの、封印までもが、破 壊 さ れ て い く
「なるほど、凄まじい効果ね。これが聖遺物の力か。魔王アメシストアイズが滅ぼされた理由もわかった気がするわ」
何が起こっているのかわかっていないセイラが言い、オレから御魂斬りをひき抜いた。
「ミレイユを拉致するときも、暴れるようだったら、これで少し傷つけるとおとなしくなるかもね――」
ここまで言い、セイラの気配が一変した。突っ伏しているオレにもわかる。セイラが不気味なものを前にしたような顔でオレを見下ろした。
「あなた、心臓を貫かれて、どうして、まだ死なないの?」
「そっちの小剣で貫かれたら死んでいただろうよ」
オレの返事に、セイラが眉をひそめた。
「何を言っているの? 御魂斬りで貫いたのよ。肉体だけではなく、精神思念体まで破壊されて死ぬはずだわ」
「それで、おまえは『俺』の封印をぶっ壊しちまったんだ」
オレは顔をあげた。セイラの表情が変わる。
「あなた、何よ、その角」
「だから言ったんだ。自分だけが悲劇のヒロインだとは思わないほうがいいって。悪意ある遺物なんて、それほど珍しいもんでもないって。そんなことしたら死んじまうぞって」
オレは立ちあがった。セイラが怯えた顔で後ずさる。何を見ているのかはわかった。オレの両眉の上から、左右のこめかみから、耳の後ろから、そして頭頂部から。あるいはねじ曲がり、あるいは天にむかってそりかえった七本の、黄金色に輝く角。
「オレも、悪意ある遺物だったんだよ」
セイラの、紅蓮に燃える瞳がオレを凝視した。その美貌には恐怖が宿っている。
「まさか、ゴールデンホーン――」
「それは親父の名前だ」
オレが言うと同時に、大地が音を立てて震撼した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます