第三章 騎士・その1

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 翌日からしばらくは平穏無事に過ぎた。なんでか、宮古のスキンシップが以前より激しくなったような気もするが、それはいいとしよう。ミレイユも、特に学校で問題を起こすことはなかった。本屋で長々と立ち読みしている客に注意するとか、信号無視をしたおっさんに上から目線で説教するとか、よくわからないことは平気でやっていたが。


 で、金曜日の放課後になった。


「今日は霧島さんを招待したいと思います」


 帰り道、ミレイユがいきなり言ってきた。俺と腕を組んでいた宮古の気配が一変する。


「霧島くんを招待するって、どういうことですか?」


「わたくしの部屋にです。食事会をしようと思いましたので」


「へえ」


 俺は少し考えた。ま、ただ飯が食えるなら、俺に文句はない。


「べつにかまわな――」


「あたしも行っていいですか?」


 俺が言うのをさえぎって宮古が言ってきた。ミレイユが笑顔で首を振る。


「申し訳ありませんが、今回は遠慮していただけますか?」


「え」


「今回、わたくしは魔王族として、『レギオン』の霧島さんに話したいことがあるのです。宮古さんは、パラレル・ワールド・ウォーの存在を知っていても、『レギオン』とは無関係なのでしょう?」


「――それは、ま、そうですけど」


「これは、霧島さんの、仕事に関する話ですので」


「――わかりました」


 宮古が悔しそうに唇を噛んだ。で、俺を見あげる。


「あのね霧島くん? 浮気したら赦さないからね」


「俺は何もしねーよ。つか、浮気以前に俺たちは付き合ってねーだろが」


「でも、これから付き合うんだからね」


 何を根拠に言ってるのかなーこいつは。ま、宮古が俺に好意を持つ理由そのものはわかるんだが。できれば早いところ、心が折れて欲しいものだ。


「じゃ、しょうがないね。今日は霧島くん、ミレイユさんと食事会をしていいよ」


 相変わらず、俺と腕を組みながら宮古が宣言した。


「ただ、土曜日は、あたしと付き合ってね」


「ま、そりゃ、いいけど」


 反射で答えてから俺は我に返った。あれ? なんでこんな約束をしちまったんだ?


「じゃ、あたし、ここで帰るから」


 宮古が俺から手を離した。気がついたら、いつもの別れ道である。


「明日、遊びに行くからね」


「おう」


「霧島くん、またね」


 宮古が手を振ってから背をむけた。走るみたいにして去っていく。


「あれ、悲しんでるんじゃない?」


 これは指輪のヒジリの声だった。


「なんで?」


「恋のライバルができたから」


「ミレイユがか?」


 俺はミレイユを見た。俺とヒジリの会話はミレイユにも聞こえている。ミレイユの表情は変わらなかった。


「わたくしは、話したいことがあるだけです」


「だとさ」


 俺はヒジリに言った。


「どうなんだろうね?」


「女性の言うことは信用するのが礼儀だろ」


 女性の言うことが信用できないというのも真理だが、ここで言うべきことじゃない。二〇分後、アパートに戻った俺は、いつも通りに指輪をはずそうとして、思いとどまった。今夜は寝ているオートマトンを起こす必要はない。


 私服に着替えて、風呂の用意くらいは自分でやろうかな、と思っていたら、扉がノックされた。


「はいよ?」


 扉をあけたら、想像どおり、ミレイユが立っていた。こっちもワンピースの私服である。


「食事の準備ができましたので、どうぞ」


「おう」


 俺はうなずいた。――冷静に考えたら、これから女性の部屋に招待されるのである。なんかテンパるもんなんだな。俺は俺で、ノンアルコールのドリンクでも買っておけばよかったか。

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