第三章 騎士・その2

「どうぞ」


 招かれるまま――とは言っても、隣の部屋に行くだけだが、俺はミレイユの部屋にお邪魔した。


 で、入って驚いた。室内は、俺と一緒なんだが、金髪で、一〇歳くらいの美少女がいる。ヒジリのオートマトンと同じで、メイドの格好をしていた。俺を見て、なんでか軽くにらみつけてから、ミレイユに目をむける。


「ミレイユ姫様、今夜の食事会のゲストは、その人間なのですか?」


「そのとおりですが、その言葉使いはゲストに失礼ですよ、ファリーナ」


「あ、これは失礼を」


 ファリーナと言われたメイド美少女が俺のほうを見て、軽く頭をさげた。訳がわからず、ミレイユのほうを見る。


「『レギオン』からオートマトンでも買ったのか?」


「ファリーナは、わたくしの使い魔です。むこうでも、わたくしとともに行動していたのですが」


「へえ」


「ひとり暮らしの手続きを終えるまで、魔界に待たせておいたのです。先日、つれてきました。これからは、この部屋で一緒に住みます」


「ふうん。そういえば、従者を呼ぶとか言ってたな」


 さすが魔王族だ。きちんと実力を見たわけじゃないが、やっぱり、使い魔をつくるとか、やれることはやれるらしい。ミレイユがほほえんだ。


「わたくしが、妹のように思っていた使い魔です。侍女の姿をしているのは、霧島さんのお部屋で仕事をされているヒジリさんをお手本にさせていただきました」


「ジジョってなんだ?」


「侍女とは――」


 俺の質問に、ミレイユが、少し困った顔で言いよどんだ。


「わたくしは、日本語で言ったはずなのですが。メイドと言い直せば、わかっていただけますでしょうか?」


「あ、メイドって、日本語で侍女って言うのか」


 知らなかった。感心する俺の前で、ミレイユが少しうつむく。


「ですが、申し訳ありません。わたくしの知っている使い魔のつくり方が、曽祖父のころの古流だったもので。いま聞いてもわかる通り、どうしても言動が差別的に」


「俺は気にしてないから」


「そう言ってくださると助かります」


 ファリーナは無言で背をむけ、室内のテーブルに皿を並べていた。俺の部屋はちゃぶ台なんだが、このへんは育った文化圏の違いだな。


「つまり、今夜の食事会は、ファリーナがつくるということか」


「そのとおりです。それが何か?」


「いやべつに」


「そうですか。どうぞ、あがってください」


「失礼します」


 とりあえず靴を脱いで俺は部屋にあがった。ミレイユに招かれて席に着く。


 すぐに料理がきた。というか、ご飯を盛る茶碗がきた。テーブルに並べている皿に置かれていく。あと、みそ汁を入れるお椀も。


 黙って見ていたら、さらに焼き魚と納豆がでてきた。


「どうでしょうか? 日本の料理を忠実に再現したつもりなのですが。何かおかしな点があれば、ご指導くださるとうれしいです」


 ボケっと見ていたらミレイユが訊いてきた。そういうことか。


「えーとだな。茶碗は、そのまま置いて、下に皿を敷く必要はないと思う。あとは問題ないだろう」


「そうでしたか。ファリーナ?」


「失礼いたしました」


 ファリーナが言い、茶碗とお椀の下の皿を持って行った。で、少しすると、木でできた、でかい容器がくる。


「お櫃は、探すのに時間がかかりました」


「へえ」


 これ、お櫃って言うのか。蓋をあけると白米が入っている。それから鍋もきた。なかは豆腐の味噌汁である。俺より日本人の食生活してるじゃねえか。


「では、いただきましょう」


「じゃ、いただきます」


 目の前にだされた割り箸をとろうとしたら、目の前でミレイユが両手を合わせた。


「いただきます」


 目をつぶってお辞儀をする。あわてて俺もミレイユに合わせた。それから、あらためて割り箸をとる。食事会のはじまりだった。

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