第五章 異形混血・その1

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「ここに、休戦協定を無視した魔族がきている話は聞いているわね?」


「そりゃ、まあ」


 場所を変え、喫茶店に入った俺たちはセイラの話にうなずいた。


「わかっているだけで、三人。そのうちのひとりは私が片付けたわ」


「昨日の件は、俺も感謝してるよ」


「あたしも助かりました」


 俺の横で宮古も返事をした。セイラが俺と宮古を交互に見る。


「残るは、あとふたり」


 正確には、ドゾとヘルハウンドのひとりと一匹なんだが、とりあえず俺は話を聞くことにした。


「私は、あなたの力を借りたい。援助要請をだしたっていう話は聞いているわね?」


「ああ。それなら、べつにかまわないぞ」


 俺は右手の指輪を見せた。


「いざってときは、ヒジリの回線でもスマホからでも呼び出しをかけてくれ。すぐに駆けつける」


「そうではなくて、いつも一緒に行動してほしいのよ」


「は?」


「ひょっとして、あなたも?」


 表情を変えた宮古が、いきなり俺に抱きついてきた。宮古の表情に気づいたセイラが苦笑する。


「あなたたち、そういう関係だったのね。安心して、そういう意味じゃないから」


 宮古に言い、セイラが俺のほうをむいた。


「ただ、私も不安なのよ。敵が、まだふたりいるから。トリナのときはひとりだったし、後ろから不意打ちだったから、なんとか勝てたけど。もし、残りのふたりが一度に襲いかかってきたら、私も生きて帰れる保証がないし」


「なるほど」


「だから、私とあなたが、常に一緒に行動しておけば、二対二で戦えるでしょう? そういう不安もぬぐえるから」


「そういうことか」


 俺は宮古から腕を解き、自分で自分の腕を組んだ。少し考える素振りをする。


「ちょっと質問。残りふたりの魔族の能力を知ってるか?」


 セイラが、何を言ってるんだ? という顔をした。


「そんなもの、知るわけないじゃない。個々の魔族の能力なんて、秘中の秘よ。危険分子の魔族と遭うときは、私たちが死ぬときか、相手を殺すとき。常識でしょう?」


「そうだったな」


 ドゾは指弾術を使った。もう一匹のヘルハウンドは――ま、あの形状じゃ、襲いかかって噛みちぎるのが基本だろう。あまり難しく考えなくてもよさそうだ。


「どう? 一緒に行動してくれる?」


 ただ、考えなくちゃいけないことが、ほかにあった。


「俺は、『レギオン』の仕事で、ミレイユの護衛も任されてるんだ」


「いま、やってないじゃない」


「やばいときにはヒジリ経由で連絡がくる。いまは、とりあえず安全なはずだ。それから、魔族の一匹はミレイユを狙っていた。もうひとりは俺を狙ってきた。つまり、わかってるだけで、俺は自分の身を守らなくちゃいけない上に、ミレイユの護衛もしなくちゃならないわけだ」


「――何が言いたいの?」


「一度にふたつも仕事をこなさなくちゃいけないんだ。これで限界ってこと。おまえに何かあったら、共闘はできるが、一日中、ずっと一緒に行動するっていうわけにはいかない。第一、明後日は月曜だ。俺には学校もある」


「それは――」


「それに、魔族のひとりは、明らかに俺を殺しにきた。おまえじゃない。単純に考えて、俺と一緒にいたら安全になるんじゃなくて、俺と一緒にいたら、おまえがあぶなくなるんだ」


「――確かにそうだわ。仕方がないわね」


 セイラが悔しそうにうなずいた。コーヒーが三つくる。


「霧島くん、セイラさんを助けてあげられないの?」


 コーヒーを飲みながら、宮古が訊いてきた。


「べつに助けないと言ってるわけじゃない。ただ、ずっと行動するのは無理だと言っただけだ。俺にはミレイユの護衛もあるんでな」


「うーん、そっかー」


 宮古が少し考えた。


「だったら、セイラさん、沢田先生と一緒に行動したらどうですか? あの先生もマジックユーザーだし」


「彼女の能力は戦闘むけじゃないわ。“忘却の時刻”や、それに似た異空間をつくったり、時空転移ができる程度よ。そもそも、ただの連絡員だし」


「あ、そうなんだ」


 宮古が感心したような顔をした。ぶっちゃけ俺もである。沢田先生の能力は異空間製造オンリーだったのか。俺も知らなかった。


「ま、そういうわけだから。とりあえず、俺の実力はわかっただろ? いざってときは呼んでくれ。俺は俺で行動するから」


 コーヒーを飲み干し、俺は立ちあがった。のんびりコーヒーを飲んでいた宮古も、慌てて飲み干して立ちあがる。


「じゃあな」


 言い、俺は伝票をとった。セイラも立ちあがる。


「あの、コーヒー代くらいは」


「今日の出費は俺が払うことになってたんだよ」


 宮古と約束をしちまったからな。俺は伝票を持ってレジまで行った。

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