第四章 試合・その3

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「霧島くーん」


 翌日の早朝、扉の外からの甘い声で俺は叩き起こされた。宮古の声である。そういえば、土曜日は宮古と付き合うとかなんとか約束したっけ。俺は起きあがった。パジャマ代わりのジャージを脱ぐ。


「霧島くーん、起きてー」


「もう起きてるよ。いま着替えてるから、ちょっと待ってろ」


 とりあえず、部屋着に着替えて――いや、だったらジャージでよかったな。適当に外出用の服を探そうと思ってたら、ヒジリのオートマトンも起きてきた。


「おはよう霧島。服? 順番だと、今日はこれになるけど」


 言い、洋服ダンスから服を引っ張りだしてくる。着たら洗って乾かして、ほかの奴を着て、それを洗って乾かしたら、またほかの奴を着て、の繰り返しでローテーションを組んでたんだが、ヒジリを買ってからは、全部ヒジリに任せっきりだったから、よくわからなくなってた。たまには自分でチェックしないとまずいかもしれない。


「霧島くーん」


「わかったわかった。いまあける」


 俺は扉をあけた。ワンピースを着た宮古が笑顔で立っている。買い物袋を持っていた。


「おはよう霧島くん。一緒にご飯食べよ。今日はあたしと食事会だから」


 うれしそうに買い物袋を見せてくる。


「コンビニで買ってきたんだけど、サバ味噌弁当と焼肉弁当と、それからウーロン茶とオレンジジュースと」


「とりあえずあがれ」


 俺は手招きして宮古を部屋に入れた。宮古がスキップするみたいに部屋にあがってくる。


「こういうのって、通い妻って言うんだよね?」


 俺と宮古を見ていたヒジリが余計なことを言ってきた。宮古が俺の腕に自分の腕をからませてくる。朝からまったく。


「えへへ。ヒジリちゃんもそう思う? あたしって、やっぱり霧島くんの奥さんなんだよね」


「いいから離れろ。それからヒジリ、今日はもういいから」


「あ、そう」


 言ってヒジリが部屋の隅まで言って仰向けに寝っ転がった。動かなくなったところを確認してから、オートマトンの手から指輪を抜いて、自分にはめる。


 振りむいたら、宮古がちゃぶ台の上にコンビニ弁当を並べていた。


「ちょっと待ってくれ。まずは歯を磨かないと」


「あたしが磨いてあげようか?」


「冗談はやめてくれ」


 適当に歯を磨いて、それから俺は宮古と朝食をとることにした。子供の食う駄菓子の一口とんかつもある。


「これも、ご飯のおかずになるから。あと、ふりかけも持ってきたんだけど」


「一口とんかつはもらうから」


「それから、お弁当はサバ味噌と焼肉とどっちがいい?」


「おまえが買ってきたんだから、おまえが食いたいほうを食いな」


「いいの? じゃ、あたし、サバ味噌とオレンジジュース」


「じゃ、俺は焼肉とウーロン茶だな。ところでいくらだった?」


「え、そんなの、気にしなくていいから」


「そういうわけにもいかないだろ」


「うーん」


 宮古がちょっと考えた。


「じゃ、今日は、ずっと霧島くんと一緒にいるから、お昼ごはんとか、何か出費があったら、そのときは霧島くんが払ってね」


「おう」


 とりあえず、焼肉と一口とんかつで飯を食いながら宮古を見たら、同じく、うれしそうにサバ味噌を食いはじめた。それから飯をオレンジジュースで流しこんでる。


「米とオレンジジュースってうまいのか?」


「好きな人と一緒に食べていたら、なんでもおいしいんだよ」


「ふうん」


「本当に熱烈アピールだね。いい加減に付き合っちゃったら?」


 これは右手にはめているヒジリの言葉だった。


「おまえ、叩き割られたいのか?」


「僕を割ったら、これから妖魔退治、どうするんだよ?」


「どうでもよくなるときだってあるんだぞ。『レギオン』の借金は自己破産で片付くし」


「おー怖。じゃ、黙ってよっと」


 とりあえずヒジリを黙らせ、俺は朝食に集中した。――まあ、うまいものはうまかった。好きな人と一緒だから、ではなくて、単純にコンビニ弁当はうまいから、だからだが。

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