第四章 試合・その3
2
「霧島くーん」
翌日の早朝、扉の外からの甘い声で俺は叩き起こされた。宮古の声である。そういえば、土曜日は宮古と付き合うとかなんとか約束したっけ。俺は起きあがった。パジャマ代わりのジャージを脱ぐ。
「霧島くーん、起きてー」
「もう起きてるよ。いま着替えてるから、ちょっと待ってろ」
とりあえず、部屋着に着替えて――いや、だったらジャージでよかったな。適当に外出用の服を探そうと思ってたら、ヒジリのオートマトンも起きてきた。
「おはよう霧島。服? 順番だと、今日はこれになるけど」
言い、洋服ダンスから服を引っ張りだしてくる。着たら洗って乾かして、ほかの奴を着て、それを洗って乾かしたら、またほかの奴を着て、の繰り返しでローテーションを組んでたんだが、ヒジリを買ってからは、全部ヒジリに任せっきりだったから、よくわからなくなってた。たまには自分でチェックしないとまずいかもしれない。
「霧島くーん」
「わかったわかった。いまあける」
俺は扉をあけた。ワンピースを着た宮古が笑顔で立っている。買い物袋を持っていた。
「おはよう霧島くん。一緒にご飯食べよ。今日はあたしと食事会だから」
うれしそうに買い物袋を見せてくる。
「コンビニで買ってきたんだけど、サバ味噌弁当と焼肉弁当と、それからウーロン茶とオレンジジュースと」
「とりあえずあがれ」
俺は手招きして宮古を部屋に入れた。宮古がスキップするみたいに部屋にあがってくる。
「こういうのって、通い妻って言うんだよね?」
俺と宮古を見ていたヒジリが余計なことを言ってきた。宮古が俺の腕に自分の腕をからませてくる。朝からまったく。
「えへへ。ヒジリちゃんもそう思う? あたしって、やっぱり霧島くんの奥さんなんだよね」
「いいから離れろ。それからヒジリ、今日はもういいから」
「あ、そう」
言ってヒジリが部屋の隅まで言って仰向けに寝っ転がった。動かなくなったところを確認してから、オートマトンの手から指輪を抜いて、自分にはめる。
振りむいたら、宮古がちゃぶ台の上にコンビニ弁当を並べていた。
「ちょっと待ってくれ。まずは歯を磨かないと」
「あたしが磨いてあげようか?」
「冗談はやめてくれ」
適当に歯を磨いて、それから俺は宮古と朝食をとることにした。子供の食う駄菓子の一口とんかつもある。
「これも、ご飯のおかずになるから。あと、ふりかけも持ってきたんだけど」
「一口とんかつはもらうから」
「それから、お弁当はサバ味噌と焼肉とどっちがいい?」
「おまえが買ってきたんだから、おまえが食いたいほうを食いな」
「いいの? じゃ、あたし、サバ味噌とオレンジジュース」
「じゃ、俺は焼肉とウーロン茶だな。ところでいくらだった?」
「え、そんなの、気にしなくていいから」
「そういうわけにもいかないだろ」
「うーん」
宮古がちょっと考えた。
「じゃ、今日は、ずっと霧島くんと一緒にいるから、お昼ごはんとか、何か出費があったら、そのときは霧島くんが払ってね」
「おう」
とりあえず、焼肉と一口とんかつで飯を食いながら宮古を見たら、同じく、うれしそうにサバ味噌を食いはじめた。それから飯をオレンジジュースで流しこんでる。
「米とオレンジジュースってうまいのか?」
「好きな人と一緒に食べていたら、なんでもおいしいんだよ」
「ふうん」
「本当に熱烈アピールだね。いい加減に付き合っちゃったら?」
これは右手にはめているヒジリの言葉だった。
「おまえ、叩き割られたいのか?」
「僕を割ったら、これから妖魔退治、どうするんだよ?」
「どうでもよくなるときだってあるんだぞ。『レギオン』の借金は自己破産で片付くし」
「おー怖。じゃ、黙ってよっと」
とりあえずヒジリを黙らせ、俺は朝食に集中した。――まあ、うまいものはうまかった。好きな人と一緒だから、ではなくて、単純にコンビニ弁当はうまいから、だからだが。
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