第一章 魔王族の末裔・その7

      3




 俺とミレイユが下駄箱に行ったら宮古が待っていた。笑顔で俺を見つめる。


「霧島くん、待ってたわよ」


「先に帰っていいぞって言っただろ」


「それって、べつに帰らなくていいってことじゃない。だったら、あたし、いくらでも待つから」


 笑って宮古が言いながら近づいてきて、俺の腕と自分の腕をからませてきた。


「これから靴を履きかえるんだから、少し待てって」


「あ、そうか。ごめんね」


 宮古が俺から離れ、それから、ちょっと俺の背後に目をむけた。


「ミレイユさんも、これから帰るんですか?」


「ええ」


 ミレイユが笑顔でうなずいた。


「確か、同じクラスの方でしたわね。あらためて、わたくしはミレイユ・倖田と言います」


「私は宮古梢恵って言いまーす」


 にいっと宮古が笑って言い、ふざけた感じで敬礼するような手をした。ミレイユが笑顔のまま、俺と宮古を交互に見る。


「おふたりは交際されているのですか?」


「してないよ」


「してません」


 俺と宮古が同時に答えた。ミレイユが驚いた顔をする。


「予想外の返事ですね。とても仲が良さそうに見えましたのに」


「あたし、霧島くんのことが好きなんです。だから告白して、結果待ちなんです」


「俺は付き合う気なんかないってはっきり言ったはずだけど」


「でも、がんばってれば、いつか想いが通じるかもしれないし」


「そういうのをストーカーって言うんだ」


「じゃ、霧島くん、あたしのことをストーカーだって訴える?」


「そういうことはしないけどさ」


「じゃ、いいじゃない」


「あの、宮古さんは、どうしてそこまで、霧島さんのことが気になっているのでしょう?」


 ミレイユの疑問は当然のものだった。宮古が笑顔で俺に抱きつく。


「あたし、強くて優しくて格好良くて、ワイルドな人が好きなんです。だから霧島くんにひと目ぼれしたんです」


「霧島さんがワイルドですか?」


 宮古の言葉に、ミレイユが、とてもそうは思えないという顔をした。


「ミレイユさんも、いつかわかりますよ。霧島くんって、ときどき、すっごくすごい、凄みのある顔をするんですよ」


「すっごくすごいって重複してるぞ。それから、まだ靴を履き替えてないんだから離れててくれ」


 で、靴を履き替えて、学校をでた。あらためて俺と腕を組んだミレイユが、興味深そうな顔でミレイユのほうをむく。


「それで、ミレイユさんは、どこに住んでるんですか?」


「家は、これから霧島さんに案内していただきます」


「「は?」」


 宮古と同時に妙な返事をし、俺は振りむいた。本日はこれで三度目である。


「俺はおまえの家なんて知らないぞ」


「知っているはずです。霧島さんのお隣ですので」


「「はあ?」」


「『レギオン』とわたくしたちの間での協定で、そう決まりました。こちらで、わたくしの保護者を務めてくれる人間のそばに住むようにと。その人が霧島さんだとはわたくしも存じませんでしたが」


 ミレイユが宮古にむかって説明し、それから俺のほうをむいた。


「ですから、霧島さんの住んでいる家の隣に、わたくしは住むことになったはずです」


 ここまで言ってから、ミレイユがはっとした。


「宮古さんには、言わなくていい話でしたわね。どうしましょう? やはり、記憶を消してしまいましょうか?」


 軽く物騒なことを言ってくる。後遺症を残さずに、そういうことができるからだろうが。俺は手を左右に振った。


「いいからいいから。宮古は知ってる側の人間だから」


「おっどろいた。ミレイユさんも、そういう人だったんだ」


 驚いたと言うより、あきれたみたいな感じで宮古がつぶやいた。ミレイユは話が見えてないから、訳がわからないという顔をしている。しょうがないから、俺が説明することにした。


「宮古も、ちょっと特殊な境遇でな。第二次異世界大戦で、『レギオン』と魔王族が何をやってきたのかは知ってるんだ。所属はしてないけど」


「あ、そうだったのですか」


 ミレイユはミレイユで、少し意外そうな顔をした。


「では、この学校では、わたくしのことを知っているのは――」


「俺と沢田先生と宮古だけだよ。俺が知ってる限りではな」


「では、わたくしは、一通りの皆様と顔を合わせてきたのですね」


「ま、そういうことだ」


「それで、ミレイユさんは、『レギオン』のアメリカ支部なんですか? それともアメリカ本部なんですか?」

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