第一章 魔王族の末裔・その7
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俺とミレイユが下駄箱に行ったら宮古が待っていた。笑顔で俺を見つめる。
「霧島くん、待ってたわよ」
「先に帰っていいぞって言っただろ」
「それって、べつに帰らなくていいってことじゃない。だったら、あたし、いくらでも待つから」
笑って宮古が言いながら近づいてきて、俺の腕と自分の腕をからませてきた。
「これから靴を履きかえるんだから、少し待てって」
「あ、そうか。ごめんね」
宮古が俺から離れ、それから、ちょっと俺の背後に目をむけた。
「ミレイユさんも、これから帰るんですか?」
「ええ」
ミレイユが笑顔でうなずいた。
「確か、同じクラスの方でしたわね。あらためて、わたくしはミレイユ・倖田と言います」
「私は宮古梢恵って言いまーす」
にいっと宮古が笑って言い、ふざけた感じで敬礼するような手をした。ミレイユが笑顔のまま、俺と宮古を交互に見る。
「おふたりは交際されているのですか?」
「してないよ」
「してません」
俺と宮古が同時に答えた。ミレイユが驚いた顔をする。
「予想外の返事ですね。とても仲が良さそうに見えましたのに」
「あたし、霧島くんのことが好きなんです。だから告白して、結果待ちなんです」
「俺は付き合う気なんかないってはっきり言ったはずだけど」
「でも、がんばってれば、いつか想いが通じるかもしれないし」
「そういうのをストーカーって言うんだ」
「じゃ、霧島くん、あたしのことをストーカーだって訴える?」
「そういうことはしないけどさ」
「じゃ、いいじゃない」
「あの、宮古さんは、どうしてそこまで、霧島さんのことが気になっているのでしょう?」
ミレイユの疑問は当然のものだった。宮古が笑顔で俺に抱きつく。
「あたし、強くて優しくて格好良くて、ワイルドな人が好きなんです。だから霧島くんにひと目ぼれしたんです」
「霧島さんがワイルドですか?」
宮古の言葉に、ミレイユが、とてもそうは思えないという顔をした。
「ミレイユさんも、いつかわかりますよ。霧島くんって、ときどき、すっごくすごい、凄みのある顔をするんですよ」
「すっごくすごいって重複してるぞ。それから、まだ靴を履き替えてないんだから離れててくれ」
で、靴を履き替えて、学校をでた。あらためて俺と腕を組んだミレイユが、興味深そうな顔でミレイユのほうをむく。
「それで、ミレイユさんは、どこに住んでるんですか?」
「家は、これから霧島さんに案内していただきます」
「「は?」」
宮古と同時に妙な返事をし、俺は振りむいた。本日はこれで三度目である。
「俺はおまえの家なんて知らないぞ」
「知っているはずです。霧島さんのお隣ですので」
「「はあ?」」
「『レギオン』とわたくしたちの間での協定で、そう決まりました。こちらで、わたくしの保護者を務めてくれる人間のそばに住むようにと。その人が霧島さんだとはわたくしも存じませんでしたが」
ミレイユが宮古にむかって説明し、それから俺のほうをむいた。
「ですから、霧島さんの住んでいる家の隣に、わたくしは住むことになったはずです」
ここまで言ってから、ミレイユがはっとした。
「宮古さんには、言わなくていい話でしたわね。どうしましょう? やはり、記憶を消してしまいましょうか?」
軽く物騒なことを言ってくる。後遺症を残さずに、そういうことができるからだろうが。俺は手を左右に振った。
「いいからいいから。宮古は知ってる側の人間だから」
「おっどろいた。ミレイユさんも、そういう人だったんだ」
驚いたと言うより、あきれたみたいな感じで宮古がつぶやいた。ミレイユは話が見えてないから、訳がわからないという顔をしている。しょうがないから、俺が説明することにした。
「宮古も、ちょっと特殊な境遇でな。第二次異世界大戦で、『レギオン』と魔王族が何をやってきたのかは知ってるんだ。所属はしてないけど」
「あ、そうだったのですか」
ミレイユはミレイユで、少し意外そうな顔をした。
「では、この学校では、わたくしのことを知っているのは――」
「俺と沢田先生と宮古だけだよ。俺が知ってる限りではな」
「では、わたくしは、一通りの皆様と顔を合わせてきたのですね」
「ま、そういうことだ」
「それで、ミレイユさんは、『レギオン』のアメリカ支部なんですか? それともアメリカ本部なんですか?」
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