オマケ かーくんのかーくんによる、かーくんのための超ど素人園芸日記的な
第16話 マーガレットのつぶやき1 その一
ボクはマーガレット。
サクラベールって品種なんだ。
白い一重咲きの花びらに、ふわーっとピンクのグラデーションが入ってね。ふっ。われながら可愛いぜっ。
お店で四百円で売られてたところを、本日めでたく、かーくんに買われました。
さらば。いっしょに並んでた仲間たち。みんな、いい人に買われるんだよ。ボクはひとあしさきに——って、ちょっと、あの、かーくん? まだ別れのあいさつが……ま、いっか。
というわけで、やっきました。
かーくんのうち。
ああっ、縁側だ。縁側がある。いい感じの半日陰ぇー。
ボクね。お日さま嫌いじゃないけど、カンカン照りは苦手。
ね? 聞いてる? かーくん。
ああ……何してるかと思えば、植えかえね。たしかに、ポットのままじゃ大きくなれないしね。
第一、オシャレじゃない。
ボクはねぇ、可愛いから、アール・ヌーヴォー調の白い鉢なんか似合うと思う……んだけど、なんか渋い陶器の鉢、出てきたな。ぬか床に使われてきた
まさか、それに植えるの?
ボク、ぬか床に植えられちゃう?
ああ……鉢底ネットに鉢底石が敷かれていく。鹿沼土、赤玉土と腐葉土まぜこんで、ぬか床は着々と準備が整って……えいっとポットから引きぬかれたボクは、ぬか床へ——
ボクはしばらく気を失った。
ぐったり。
もしかしたらポットから抜かれたとき、根っこに傷がついちゃったのかもしれないけど、ボク的には、ぬか床がショックだった。
気づいたときには、しっかり、ぬか床におさまってた。
いいもんね。いいもんね。
どうせボクなんか、ぬか床で充分なんだ。
二、三日、ぬか床でスネるボクだった。
けど、縁側は心地よい半日陰だし、化学肥料が効いてきたのか、日に日に元気になっていく。
根っこ、ついたな。この感じ。
ああ、もういいよ。どうせ植わっちゃったら、自分じゃ見えないし。アール・ヌーヴォーに植わってるんだと思いこんどく。
よしっ。そう決まれば咲くぞ。
すでに店屋で、それなりに咲いてはいたんだけど、買われたからには、がんばらなくちゃ。
栄養食べて、お水吸って、いっぱい光合成するぞ。
ボクが陽だまりでボンヤリ光合成してると、となりで声がした。
「よっ。新入り。やっと元気になったな」
なんと、縁側には先客がいた。
ミニバラだ。ミニ。
微妙にピンクっぽい(これが、のちにとんでもない裏技やってくれる原因か)気のする赤い花のやつだ。
なんか花数少ないし、貧相なやつだなぁ。哀れ。
ボクの心の声を読んだように、ミニバラは弁明した。
「おれはね、一回戦、咲きおわったの。今、新芽伸ばして大きくなってるとこ。葉が充実したら、またいっぱい咲くんだよ」
「あっ、そうですか」
「それとね。おまえ今、『あっ、ミニバラ』って思ったろ? おれ、ミニバラって言われるの好きじゃないんだよね」
でも、ミニバラなんじゃ……。
「おれはね、いつかデッカイ男になる! 普通サイズのバラになるんだ!」
「あ……そうですか」
なんかムダに熱いやつだなぁ。
だからバラって、めんどくさいんだよね。とくに赤いやつ。
ボクはひ弱なキク科なんで、こういう日向ヤローには、正直つきあいきれない……と思ってると、今度は反対側から声がした。
「ミニバラだろうと、普通サイズだろうと、どっちだっていいんですよ。あなたは恵まれてます。好きなだけ大きくなれるでしょ」
ちょっとすました風の声。
ふりかえると、そこには雑草が山盛り生えていた。
ええと……店にはいなかったタイプのやつなので、品種はわからない。
野草かな? 赤紫の三つ葉だ。それと、縞々の長い
こいつらは寄せ植えか。かわいそうに。寄せ植えってオシャレだって人間は言うけど、一つの鉢で競いあうって、ボクは疲れるから嫌いだな。
「あ、どうも。寄せ植えなんですね」
ボクが声をかけると、赤紫の雑草はクスクス笑った。笑いながら怒った声を出す。
「そうなんですよ! もう、こいつら、鬱陶しくて、鬱陶しくて! ああ、もう黙れ! 笑うな。ボクが今、話してるんだ。このストーカーどもめ!」
雑草が笑ってるってことは、縞柄の葉っぱが話してるのかな?
これは……ナルコユリじゃなくて、なんてやつだったかなぁ? 見たことはあるんだけど。
こういうのが、かーくんの趣味なのか? ちょっと心外。花じゃないじゃん。ボクはもっと華麗な連中と並びたかったなぁ。そのほうがボクの可愛さがひきたつ。ちょっと暑苦しいけど、ミニバラのほうがマシ。
ところが、縞柄は言った。
「よろしく。僕は蘭です。かーくんさんのつけてくれた名前は、蘭さん。まんまですよねぇ」
思わずボクは叫んだ。
「えッ? 蘭? どこに蘭がいるの?」
「ここです。ストーカーどもに囲まれてて、見えづらいかと思いますが」
あッ……いた! 蘭だ!
なんと、縞柄のなかに隠れて、緑の葉っぱがピンと立っていた。
ち……小さいなぁ。
雑草と縞柄に完全に包囲されてる。
「なんか……いろいろ大変そうですね」
わッと、蘭さんは泣きだした。
「大変? 大変なんてもんじゃありません。大きくなりたくても、こいつらが邪魔で、思うように根も伸ばせないんですよ?——ああ、もう、すりよってくるな! 根っこ、からめるな! 気色悪いんだよ。おまえら!」
か……かわいそうな花だ。
花、咲いてないけど。
「でも、主役は蘭さんなんですよね? 名前つけられてるくらいだから」
「もちろん、僕がこの鉢のあるじです。そりゃね、もともと縞柄とは寄せ植えにされてました。けどね、この雑草は予定外に生えてしまった侵入者なんです。僕が植えられるとき、鉢に残ってた土をそのまま再利用されたんです。その土のなかに、こいつらがまざりこんでて、勝手に芽吹いたってわけですよ」
「そうなんだ……」
だって蘭が好き。いっしょにいたいよ。クスクスクス……と笑う雑草たちを、ボクは背筋(茎)も凍る思いでながめた。ボクのとこにも、あんなの入ってたら……やだな。
それにしても、蘭さんには名前があるのに、ボクにはないのか。
ちょっとジェラシー。
ボクはサクラベールだから、桜とか、あるいはベール? マーガレット……なんか女の子みたいだな。ボク花だから、性別ないんだけどさ。
と思ってたら、ミニバラが言った。
「おれは、たける。よろしくな。かーくん」
「かーくん? 誰が、かーくん? ボクを買ってくれた人?」
「なに言ってんだ。『キミの名前は今日から、かーくん』って、かーくんに言われてたろ」
「ええッ? ぜんぜん覚えてないんですけど」
「ああ……あなた、気絶してましたもんねぇ」と、蘭さん。
「気絶。気絶。かーくん弱虫」と、雑草どもが、せせら笑う。
なんか蘭さんに言われてるみたいで、腹立つなぁ。蘭さんじゃないってことは、わかってるんだけど……。
「かーくん? なんでボク、かーくん?」
「かーくん(人間)が、この家の住人の名前をつけたんだよ。かーくんは、かーくん(人間)の名前」
「僕と、たけるさんも、そうですよ」
たけると蘭さんが教えてくれた。
つまり、この家には、薫、猛、蘭という人間が住んでいて、ボクらを育ててるのは薫。あだ名が“かーくん”だから、ボクは、かーくんと名づけられたようだ。
「あの人、けっこう大雑把なとこあるから、気をつけたほうがいいですよ」
うーむ。まざりこんだ雑草をそのままにしとく人だから……いっきに不安になるなぁ。
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