第17話 マーガレットのつぶやき2 その一



 はーい。かーくんでぇーす。

 かーくん……え?

 マーガレットのかーくん、ご存知ない?

 まあ、前回も一人ブツブツ、つぶやいてただけだからね。


 ボクが花屋さんから買われてきて、はや数ヶ月ぅー。


 ボクのお母さん《ご主人》は、大雑把だけど勘はするどい、かーくん。うん。ボクと同じ名前。ボクが、かーくんの名前を貰ったんだ。

 愛情深いが恐怖の園芸ビギナーだ。

 ボクも二度ほど殺されかけた……。

 でも、嫌いになれないんだよねぇー。


 さて、前回、ボクから株分けされたチビかーくんたちは、無事に根づいて、人間かーくんの友達に貰われていきましたぁ。

 バイバーイ。新しいおうちで、スクスク大きくなるんだよー。


 それはいいんだけど、暑いね。

 毎日、どんより曇っちゃって、空梅雨なのに、この暑さ。

 じめじめした湿気のせいで、このごろ、たけるの元気がない。


 あっ、たけるはボクの縁側仲間のミニバラね。


 あと、縁側の仲間は蘭さん。

 蘭さんは雑草&縞柄の観葉植物と寄せ植えされたかわいそうな蘭だ。小さな青い鉢に、赤紫の三つ葉が、てんこ盛り。


 蘭さんは前から、この雑草をすっごく嫌っていた。

 たしかに、いつもクスクス笑いながら蘭さんをとりかこんで、ストーカーっぽいよね。


 逆に縞柄はボクの知るかぎり、ひとこともしゃべったことがない。

 それはそれで、コワイ!

 なんか変なこと考えてないよね?

 話すまも惜しんで根っこを伸ばし、鉢を占領してやろうとか。それで蘭さんの根っこを枯らしてしまおう……とか? こ、コワイよ!


 しかーし、その蘭さんに、ついに分鉢のチャンスがめぐってきた。

 ころは六月下旬。

 前述のとおり、梅雨のまっただなか。

 植えかえに適した時期とは言いがたい。

 水辺の植物ならいざ知らず、たいていの花は湿気が苦手。

 日本特有の高温多湿ね。


 あの神的ミニバラ(すっごいタフ)のたけるでさえ、葉っぱに白い粉がふくと言って、人間かーくんが騒いでるほどだ。


「たける。なんで粉ふくのかな?」

「……むれるんだよ。おれ、もっとスカッと快晴。風通しもビュウビュウのほうが好きなんだよな」


 たけるはもともと赤い花を咲かす品種だけど、一輪のなかでピンクと赤の花びらを混在させたりする、ものすごいやつだ。ハート形の葉っぱなんかも作っちゃう。その特技、ボクも欲しいよ。


 そのたけるにして、近ごろ、ため息をついてることが多い。

 マコちゃん(最近、買われてきたプチトマト)も、葉っぱカビるしさ。

 うちのメンバー、みんなグロッキー気味。


 一番、元気なのはボクねぇ。

 前に切りもどしてもらったから、快調。快調。

 快調すぎて、あんまり、人間かーくんにかまってもらえない。

 人間かーくんは毎日、たけるの葉っぱの白い粉をふきとることに忙しい。


「たける。これ、カビじゃないよね? ほっとくと枯れない?」

「んん……枯れるかもねぇ」


 無気力なたける! 初めて見た。


「心配だなぁ。やっぱり二株がいっしょになっちゃってるのがよくないのかな。枝がかさなりあって風通しが悪いのか……」


 そう。じつは最近になって判明した事実。たけるは一人(一株)じゃない。苗のときに二株が抱きあわせで売られてたのを、そのまま鉢に植えられちゃったのだ。


 大雑把な人間かーくんならではの失敗だなぁ。

 今さら気づいて、人間かーくんは苦にしている。


「うーん……わけるべき? やめとくべき? 梅雨ってバラの植えかえどきじゃないよねぇ」


 ああ……こういう悩みだした人間かーくんは要注意だ。

 以前、ボクが殺されかけたのも、こんなときだった。心配してくれてるのはわかるんだけどさ。園芸ビギナーだから、いらないことしてくれるんだよね。

 まあいい。今回の犠牲者はボクではなさそうだ。


 たけるは自分でも、イヤーなふんいきを察知した。


「ちょ……ちょっと待てよ。人間のほうのかーくん。おれ、このままでいいって。おれとおれは二人で『たける』。生まれたときからいっしょの兄弟なんだ。なあ、る?」

「うん……ぼくたち、バラバラにしないでよ。根っこもからまってるし」


 バラなだけにバラバラだって!

 あはは——とか笑ってる場合じゃなかった。


 なんか、今、たけるのようすが変だったぞ?

 いつものたけるの他に、弱っちい声が聞こえたような?


 そうか。たけるは二重人(花)格だったのか!

 そんで、いつものタフガイが『たけ』、弱っちいのが『る』なわけね。

 知らなかったよ。たけるのなかで、そんな住みわけができてたなんて。


 しかし、人間かーくんは聞く耳持たない。毎度のことだけどさ。人間ってボクらの声、聞こえないのねぇー。


 決定打は蘭さんだ。

 そのころ、蘭さんはようやく、新芽を出したばかりだった。これまで雑草に埋もれて、よく見えなかったけど、人間かーくん、これを発見した。


「ああっ、蘭さんに新芽が出てるー! 新芽から花が咲くんだよね? 蘭さんの花、見たい。見たい」

「僕、咲く気ありませんよ? 今年、時期外れたじゃないですか」


 蘭さん、なにしろ寄せ植えにされちゃって、栄養全部、縞柄と雑草に持っていかれちゃってるもんね。遅まきながら、人間かーくんはそのことに気づいた。


「鉢、ギュウギュウだねぇ。いっぱい、いっぱいかなぁ。根詰まりしちゃってるよね、これ」


 あ、悩みだしたぞ。危険信号。


「こんなに小さい鉢で、ゴチャゴチャ……てことは、たぶん根っこはからまりほうだい。でも、蘭の根っこは丈夫だから、長い場合は切ってもいいってテレビで言ってた。ほかの二つはダメになったら、それまでかな」


 ブツブツ言ってる。

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