事件発生!

 *



 いいかげん、逃げつかれたなぁ。

 あっち行ったり、こっち行ったり。

 どこ行っても猛が追ってくる。


 しかも、行くさきざきで、猛は何かカッコイイことをやらかしてくれる。


 バスケ部のロングシュート球投げワッショイ。

 柔道部のハンマーハンマー。

 剣道部のモグラ面たたき。

 茶道部の茶会(これはまとも)。


 ふふふ。わが兄め。

 今日もまた母校に伝説を残していくのか。


「あれ? こっちに弟がいるって聞いてきたのに、どこ行ったんだ?」

「あっ、東堂さん。弟さん、見ませんよ?」


 ろうかの向こうからそんな話し声が聞こえる。

 僕は家庭科室にひそんでいた。そこは手芸部の展示室になっている。人形や服やバッグや、いろんな手作り品が置かれている。

 ホニャちゃんマスコットも販売してるが、売り子はカゴ持って、校内を歩きまわってる。家庭科室には誰もいない。


(はぁ……逃げきれるかなぁ? 猛。しつこいぞ)


 僕がため息ついてると、どっかから、ホニャーンと変な声が聞こえた——ような気がした。


 なんだ? 今の……?


 目の前にはでっかいホニャちゃんのぬいぐるみ。

 まさか、こいつが鳴いたんだろうか?


 いくら好きだからって、ぬいぐるみが鳴いたよ——なんてファンタジーを信じる年じゃない。どっちかっていうと、僕はホラーっぽい展開を想像してしまった。


 ちょっと……怖いかも。

 もう出よう。

 猛に見つかる前に、もっと遠くに行っとかないと。


 そっと家庭科室のドアをあける。ろうかに人影はなし。


 僕は階段へと急いだ。

 ろうかを歩いているとき、まがりかどで女の子にぶつかってしまった。


 あれ? さっきの他校の子か?

 ブレザーが黒いから目立つよね。うちは紺。


 僕らは、もろにろうかに倒れこんでしまった。


「大丈夫ですか?」


 僕が声をかけると、女の子はハッとした。そして、キッとにらんで走っていった。

 ええっ……なんでぇ?


 ふりかえると、むこうがわからも女の子が歩いてくる。

 そのうしろに見えてるのは——猛だ! とりまき、ひきつれてる。


 僕は急いで階段をかけおりた。


 そのときだ。

 ガチャン!——と、ものすごい音がした。

 ガラスでも割れたか?


 立ちどまっていると、わあわあと悲鳴が聞こえてきた。


「ヒドイ! これ。誰がやったん?」

「おれ、見たよ。さっき、ここからメイド服の女がとびだしていった」

「メイド——あれやない?」


 あれよあれよといううちに、僕は家庭科室の前までひっぱっていかれる。

 教室のなかには破片が散乱している。あれは色から言って、さっきまで健在だった展示品の人形だ。


 わあ……ヒドイな。粉々だ。作るの大変だったろうに。


 かたわらで女子生徒が泣いてる。人形の製作者だろう。


「えッ! ちょっと待ってよ。まさか、僕が壊したってことになってるの?」


 みんなの目がそうだと告げている。

 これは……困ったぞ。

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