第十二話 兄の誕生日

第12話 兄の誕生日1

 〜バースデイゲーム〜




 これは兄の誕生日にまつわる話だ。

 僕と兄と蘭さんのささやかなゲーム。


 とりあえず、自己紹介しとこう。

 僕の名前は東堂薫。兄は猛。


 東堂家には不思議な運命がある。

 一族のなかで一人だけ長生きする男子がいて、そのほかは全員、早死にしてしまう。

 そして、東堂家の血縁のなかで、もはや生きている男子は僕と猛だけ。


 つまり、僕か猛のどっちかが、早晩、この世からいなくなる。

 たぶん、それは僕なんだと思う。猛は長生き男子の特徴をそなえている。


 だからね。

 誕生日は僕らにとって、特別な日……。



 *



 八月八日。パチパチの日。

 猛の誕生日だ。


 前日になって、とつぜん、蘭さんが言った。


 この麗しい青年は僕らの友人。同居してから三年めに突入。


「僕と競争しませんか?」

「へ?」


 また、蘭さんが変なこと言いだしたぞ。

 蘭さんは日常生活において、サプライズとかが大好きだ。きっとよからぬことを考えついたんだ。


 僕はのんびりゴロゴロしてるのが一番なんだけどな。


「競争って?」

「明日、猛さんの誕生日でしょ?」

「うん。焼肉して、ケーキ買って、お酒のんで、プレゼントあげるんだよね?」

「そんなのつまらない! ふつうすぎる」


 いや。ふつうでいいんだけどさ。


「ほら。去年みたいにサプライズとか言ってると、事件に巻きこまれたりするから……」

「わかってますよ。だから、サプライズパーティーはあきらめたんじゃないですか。僕も夏バテだし」


 夏バテなのに、変なことに体力使わないほうがいいんじゃないかな……。


 しかし、蘭さんは僕の意見なんて聞いてくれる人じゃない。

 嬉しそうに目を輝かせて、ポッケからトランプみたいなカードをとりだした。


「こんなの作ってみました!」


 見れば、誕生日、おめでとうと書かれた、バースデイカードだ。


 ただし、ずらりと二十枚ほど。色は白、黄色、赤の三色。大きさは黄色が名刺サイズ。白はその半分ほどで、赤は黄色の倍だ。


「なにこれ……」

「猛さんにバースデイカードですよ」

「いや、それはわかるけど」


 僕が聞いてるのは、ってことだ。


 よく見ると、それぞれのカードには、蘭の花のイラストと、カエルくんのイラストの描かれたものがある。

 どうやら、それが、蘭さんと僕をあらわしているらしい。


 つまり、白十枚、黄色三枚、赤一枚がワンセット。ワンセットずつを僕と蘭さんが手札にするってことのようだ。


 蘭さんは説明する。


「白は小さいから一点ね。黄色が十点。赤は五十点。これをね。明日一日で、猛さんに何枚、渡せるかで競うんです」


 ううっ、また、めんどうなことを。


「そんなの朝イチで、ポイッて渡せばすむことじゃないの?」

「ダメ。それじゃおもしろくないでしょ? ルールを作りました。一度に渡していいのは一枚。ただし、猛さんにカードを渡したって気づかれないように渡さないといけません」


「つまり、『はい。猛ぅ。誕生日、おめでとう』って、渡しちゃダメってことだよね?」

「そうです。猛さんに見せずに、かつ、必ず手渡ししないといけません。または、体のどこかにくっつけるのはアリ」


 なるほど。そういうゲームか。


「それで、あさっての零時になったとき、合計点の高いほうが勝ち」

「勝ったら、何かあるの?」

「誕生日ですからね。猛さんのお願いをなんでも聞いてあげることにしましょう」

「わかった」


 というわけで、わけのわからないままに、わけのわからないゲームが始まった。

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