ミステリー発生!
「財産なんか、うちにあるの? 僕ら、じいちゃんの年金で育ててもらったんでしょ?」
「バカ言うな。年金で男二人、育てられるかよ。じいちゃんはバブルのころ、株で儲けてたんだ。それなりに金持ちだったよ」
し……知らなかった。
「おれらを引きとるために、このうち改築しただろ。家電も好きで、すぐ最新式、買ってきてたし」
そ……そう言えば。
「じゃあ、なんで、猛。大学進学やめたんだよ。じいちゃんに出してもらえば、よかったじゃないか」
「かわりに資格とらせてもらったよ。大型免許とか。海技士資格とか。猟師とか」
ああ……そういえば、変な資格試験、いっぱい受けてたような。高一のころから、夏休みになるといなくなって。さみしかった……。
「あけてみよう」と、猛は言った。
「どうやってあけるの?」
「カギがどっかにあるはずだ」
カギねぇ……そんなの、見当もつかないよ。
僕はいつものように途方にくれた。
こういうのは兄ちゃんに任せるにかぎる。
すると、間髪入れず、猛。
「かーくん! あきらめるな」
「あ……あきらめてない」
「じゃあ、考えろ」
「そんなこと言ったって、思いつかないよ。猛はどうなんだよ? 思いつくの?」
「見当はつく」
「ええっ!」
ショック。
これまでの人生で、いくども味わった敗北感……。
やっぱり、兄とは根本的な作りが何か違う。
「そんなの、なんでわかるの?」
「ふだんのじいちゃんの行動を思いだしてみる」
「ふうん?」
じいちゃんの行動ねぇ。
朝起きて、ラジオ体操。
それから、仕事(探偵事務所)に出ていく猛のために、朝ごはんを作る。
僕は大学生だから、たいてい十時ごろまで寝てる。僕が起きたころには、じいちゃんは愛猫のミャーコと、ひなたぼっこをしてる。
「じいちゃん。おはよう。今日の夕方、コンパ行ってもいい? 夕食の下ごしらえはしとくからぁ」
「おお。いいぞ。じいちゃんはカニクリームコロッケが食べたいなぁ」
じいちゃんは洋食が好きだ。
ビーフシチューとかも好きだった。
ミルクセーキとか。
若いころ、最初の奥さんと、大阪で暮らしてたせいらしい。そのころ通ってた洋食屋さんがなつかしいようだ。
「今からムリだよ。カニもないし」
「じゃあ、買ってこよう」
「いや……ホワイトソース作るのが…………わかったよ。クリームコロッケでいい? コーン缶ならあるし」
じいちゃんはニヤっと笑う。
ハッ! もしや、カニはフェイクか。最初からクリームコロッケって言うと、僕がめんどうくさがると思って……。
「じゃあ、ホワイトソース作っとくからね。時間があれば、衣つけとくけど。自分で揚げてね?」
「うんうん。薫は優しいなあ」
それで僕は大急ぎでクリームコロッケ作りながら、出かけるしたくをするのだった……。
あっ、しまった。思い出、脱線した。
猛はするどい。
「薫。今、なに考えてた?」
聞いてくるので、
「クリームコロッケ……」
「うん。だよな。変な顔してた」
変な顔はよけいですよぉー。
「じいちゃんと猛は性格、似てるよね」
「思考法が似てたよな 。だからな。わかる。そこの和ダンスの一番下の引き出しをあけてみろ」
「引き出し、三つあるけど?」
「小さいほうの下だ」
和ダンスは一番上と下だけ、それぞれ引き出しが三つある。一番上は均等に横並び。一番下は、長いのが一つと、そのよこに上下に小さいのが二つ。
言われたとおり、一番下の小さい引き出しを、すっとひらく。
あった! カギだ。
「スゴイ! 兄ちゃん。なんでわかったの?」
「かんたんだよ」
と言って、兄は押入れから出てきた金庫風小箱の裏側を見せた。
僕は前面ばっかり見てたんで気づいてなかった。裏面に紙が貼ってある。変な図形の描かれた紙だ。大きな長方形のなかを、さらに直線で、いくつかの長方形に区切ってる。
「これは……」
「そこの和ダンスの図だろ」
なるほど。
カギの出てきた引き出しに当たる場所に、星印がついてる。
「なんだよ! もっともらしいこと言って。ほんとはこんなヒントがあるんじゃないかよぉ。兄ちゃんのバカ。バカ。ズルっこー」
猛は笑って、僕にコブラツイストをかけてきた。
こういうヤツだ。兄は。
「いたい。いたい。兄ちゃん、いたい」
「じゃあ、あけてみようか」
じゃあって、なんなんだと思いながら、カギをあける。
さて、ここで、この小箱の構造を詳しく述べよう。
小箱は前面が観音開きになっている。今どき、観音開きって言っても、わからないか。両扉のことだ。その他の三面は、つるっと、ぺたん。
カギを手前の扉のカギ穴にさしこむ。
扉はひらいた。あくまで、扉は……。
なんと、扉の内側に引き出しが三つあった。その一つ一つにカギ穴がある。
「猛……カギが増えた」
「増えたのはカギ穴だよ。このカギであけられるかも?」
おおっ、さすがは猛。
さっそく、カギをさしこむ。が、ひらかない。
僕はガッカリした。
「ああ、違うんだ……」
が、そこは猛だ。いきなり、一番上の引き出しをひっぱった。すると、意外にも引き出しはあいた。
「あれ? あくんだ」
「ここだけみたいだな。カギかかってなかった」
なるほど。あとの二つは、引いてもひらかない。
しかも、ふるとカタカタ音がする。
「カギっぽい音がする……なかに入ってない?」
「これ、三つともカギが違うのかもしれないな。三段めのカギが二段めに入ってるとか。そんな感じかな」
「ねえ、もしかして、ここの土地の権利書とか、そういうのが入ってるんじゃ?」
「いや。そういうのは全部、生前に渡されたよ。おれが二十歳のとき」
「ぎゃあっ。また、のけもの。いつのまに。次男って、地位低い。いいけどね」
兄が笑って手をのばしてくる。
またコブラツイストか? いや、違った。引き出しに入ってたものをとりだしただけだ。
「なにそれ、手紙?」
出てきたのは封筒だ。
猛はだまって封をきる。
ぽとんと、オリヅルが一つ、こぼれおちた。
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