兄と帰る

 *



 文化祭初日が終わって、校門を出ると、猛が待っていた。いる気はしたが、ほんとにいた。


「何してんの? 猛」

「かーくんこそ、何してたんだ?」


「僕は……えっと……ぶらぶらしてた」

「おれから逃げまわってたくせに」


 あれッ? バレてた?


「バレてるよ」


 心の声、読まれてる。


「ええっ、じゃあ、なんで、いつもみたいに『かーくん、可愛いぞ!』とか言って、抱きついてきたり、ほっぺチューしたり、姫ダッコしてグルグルまわったりしなかったの?」


 そのせいで中学の三年間は、とても残念なものとなった。いや、残念なのは、猛の評判がね。“あこがれの東堂先輩”から、“ちょっと残念な東堂先輩”に、あーら、早変わり。


 猛のきわめつけのブラコンだけは、みんなに知られちゃいけない。そのために僕はこの一週間、どんだけ苦労したことか。


「だって、かーくん。中学の文化祭のとき、すごく怒ったから……」


 しょんぼりする猛……可愛いなぁ。


「だって、兄ちゃんにはずっと、みんなの“あこがれの東堂先輩”でいてほしいんだよ」


「かッ、かーくん!」

「タンマ。タンマ。抱きつかないの。うちまで待ちなさい」

「わかってるよ」


 抱きつこうとしたくせに!


「ほら、かーくん。これ」と言って、猛はポケットから何かをとりだした。ぽとんと、僕の手に落とす。


 見れば、ホニャちゃんマスコットだ。

 的当てでとった限定版。

 背中に羽、生えてる。ホニャ天使——!


「ありがとうッ! 猛ぅー!」


 猛が笑う。

「おいおい、抱きつかないんだろ?」


 ハッ! そうでした……。


 僕らはならんで、うちに帰った。

 夕焼け空が真っ赤っか。

 今日も一日、楽しかったね。兄ちゃん。

 来年も、また来てよ。

 僕らの文化祭に——

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