第16話 地球人は滅びました


僕がTSという新たな性癖に目覚めて三日目。

天気は曇り空で、窓から見える世界はいつも以上に憂鬱だった。


「そろそろ真面目に考えるか」


テーマは今世界中でどれだけ生き残っている人がいるかということである。

分裂能力と”声”を使い分体で日本中を回ったところ生き残りはゼロであった。


なら世界ならどうだ。


普通に考えて世界には70億人もの人がいるのだ。

僕だけが特別のはずがない。


超能力者だって絶対いたはずだ。僕がそうなんだから。

だって70億人もいるんだぜ?


自分だけと考えるほうが不自然だろう。


だが日本に僕と同じような存在はいなかった。


とりあえず僕はそれを確かめなければならない。たとえ絶望が待っていたとしてもその答えを僕は知りたいのだ。


だから今から考えることはどうやって世界中の生き残りがいるか探そうかである。


「分裂は間違いなく使うか」


”自己進化”で作る僕の分裂体は有用であると思う。

だが前のように一羽では時間がかかりすぎる。


「なら僕が分裂体をつくるように分裂体が分裂体を作ればいい」


僕の中でそんな考えが浮かんだ。

何かに突き動かされるように早速能力を使うことにした。


「分裂」


僕の左腕がポロッと取れた。

断面からは一切血が出ていない。まるで粘土のような腕。


ふふこんなこともできるようになったのだ。

わざわざ刀を使わなくても分裂できる。


肩の断面からにゅるっと新しい腕が生える。


そして切断された左腕がスライムのように変化して、最終的に鳥になった。


「キュキュ(誕生)」


鳥になった僕の左腕。

鳥の僕が今からすることは結構単純である。


まず、人間を探すこと。

そして周りの生き物やUEを吸収して2つに増えること。


これだけである。

つまり2進数的にどんどん数が増えていくのだ。


1、2、4、8、16、32、64……とでもいうように。

これならば短期間で世界を覆える。


一匹の分裂体で日本を回るのにかかった期間は一ヶ月。

この分裂能力は時間がたてば立つほど加速していく。


それなりの期間で世界を回れるだろう。


そんなわけで僕の左腕からできた、謎の鳥は希望を背負って窓から飛んでいった。












僕が自身の左腕を鳥にしてから66日。

分裂鳥による世界探索はおわった。


結論から言おう。


地球に人間は誰一人生き残ってなかった。


「はは」


部屋の中で空虚に笑う。

そんな僕をサンが心配そうに見る。

またちょっと大きくなったな。


「ははは」


心が真っ黒に塗りつぶされる。

誰も、誰もいない。


地球には僕一人。


なんだよ、それ。


力が抜ける。もう何もかもめんどくさい。


するといつもの頭痛が僕を襲ってきていた。

能力進化だ。


だがもうどうでもいい。


「なんかもう疲れたわ」


サンがキャンキャンと吠える。

サンはもうひとりでも生きていけるだろう。


ここまで大きくなったのだ。

野生に返しても問題ない。


はは、本当に一人になっちゃった。


視界がくるくる回る。

あーあ、もう起きたくないな。


全部夢だったらいいのに。

そんなことを思いながら僕の意識は闇に包まれた。

















光が意識を失った後、光の身体からそれは現れた。

殻。身を護る殻、それが光の身体を覆い隠していく。


サンは吠えた。


キャンキャン待って待って!とでもいうように。


そして光だったものは完全に殻のようなものに包まれ動かなくなった。

光が動かなくなった部屋でサンはずっと光だったものにすがりついていた。





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