第33話 この世界で変わらない永遠の”愛”を
※閲覧注意、口移しや洗脳、監禁要素あり。
カーテンが風に揺らされ、その隙間から陽の光が射し込む。
ソーフィヤは、その光に顔を照らされ、ゆっくりをまぶたを開いた。
「ちょうどいい時間かな……」
背伸びしながらゆっくりとソーフィヤは横に視線を移した。
そこには、いつも同じようにヒカルが寝ていた。
それは安心しきった表情で、ソーフィヤは、ずっとそれを見ているはずなのに”温かい気持ち”になった。
(幸せ)
そう、あの日。ソーフィヤがヒカルを手に入れてから何十年ものときが流ていいた。だが、ソーフィヤもヒカルもあの時と同じ姿のままだ。
それどころかソーフィヤは少し若返っているようにすら見える。
自己変態。それによって永遠の命と美貌を手に入れた。
そしてそれだけではなくヒカルすらもソーフィヤは完全に手中に収めていた。
「ヒカルぅ」
ゆっくりとヒカルに近づきその頬にキスをする。
「起きて」
その言葉にヒカルのまぶたがゆっくりと開いていく。
まるでソーフィヤの言葉に反応し身体が勝手に動いているように。
「はい、起きた―。お寝坊さんだねぇ」
ソーフィヤの表情は、目に入れても痛くないというほど蕩けきっっていた。
まるで愛しい我が子に接する母親のような表情でもあり、愛しい恋人を見るような女の表情でもあった。
だが、ヒカルの表情は。
「うー、あー」
ヒカルは、口を半開きにし、焦点の合わない瞳は虚空を見つめていた。
ソーフィヤはそれを見て、特に驚いた表情を見せることはなかった。
当然だ。なぜならヒカルをこのようにしたのは他ならぬソーフィヤなのだから。
今も、ヒカルの頭の中には、小さなソーフィヤの分裂体が存在していた。
その分裂体は、ヒカルの脳内に寄生し、その体に一切の苦痛を与えずヒカルを支配していた。
もはやヒカルに自由意志などなく、ただ与えられたものに反応するだけの肉でしかなかった。
ヒカルの顔と歯を洗い、ゆっくりと腕を取り歩かせる。
ヒカルは怯えいている子供のように、ソーフィヤの腕にひっついたままだ。
「ほぉら、ご飯だよ~」
リビングに入ると、ソファの前のテーブルに食事が容易されていた。
パンに、卵焼き、味噌汁、ウマイウサギモドキの甘辛煮。そしてミルク。
ヒカルを起こす前に準備していたのだ。
「はい、あ~ん」
ゆっくりとソファに座り、用意していた食事をスプーンで掬いヒカルの口元に運ぶ。だが、ヒカルの口は食べ物を飲み込もうとせず、口の端から食べ物が零れていった。
「フフ、じゃあ今日もいつもので食べさせてあげる」
そういったソーフィヤの次の行動は常軌を逸していた。
「じゃあ、パンからね」
ソーフィヤはパンを自分の口に含む。
そして、咀嚼した後、ヒカルとくちびるを合わせた。
ソーフィヤはうっとりとした表情で、自らの口内にあるものをヒカルに流し込んだ。
まるで、それは親鳥が、子に餌を与えているような光景であった。
ヒカルが、こうなってから、ずっとこの行為は続いている。
時折たまに、ヒカルが自分で飲み込むこともあるが、基本的には口移しが二人の食事風景だった。
”食事”を終えたソーフィヤはヒカルを車椅子に乗せ外に出た。
外に出ると眼前には、広大な海と雲ひとつない青空が見渡す限り広がっていた。
ソーフィヤの金色の髪が、風に従い横に靡く。
ヒカルも強い風に眼を閉じた。
そう、ここは以前ヒカルがいた土地ではない。
いや日本ですらなかった。そして大地ですらない。
ヒカルたちが今いるのは約10kmの長さがある海上メガフロート。
ソーフィヤの手によって作られた巨大人工浮島であった。
それもただのフロートではない。
それは、ヒカルたちが今いる場所からは感じられないが、太平洋上をゆっくりと動いていた。
一つの町すら軽く入るほどの、超巨大なフロート、いや船であり、海上に浮かぶ森林であった。そしてその森林の中には、二人の家を含めたいくつかの施設があった。
全てを完成させるのに制作年月約12年と8ヶ月。
一から、建築を勉強し、ヒカルが以前作ったゴーレム戦隊を最大限活用し完成した。
自己変態によって、ビル一つを片腕一つで破壊できるソーフィヤにとって、重機をつかずとも、建設は可能であった。
ここには誰もいない。
ヒカルとソーフィヤ以外誰も。
いる生物は、ソーフィヤの手によって完全に家畜化された動物たちだけ。
電力も、食料も、完全な自給自足。
たった二人のためだけに完全に管理された人工の島。
「ここを、私達のためにつくったんだよヒカル」
大地に住んでいては、幾度もUEによって進化した動物が食べ物を探して家に襲撃してくるのだ。それをソーフィヤは嫌った。
問題なく、勝てるとはいえ何度も二人の邪魔をされるのは、煩わしかった。
だから作った。
誰にも邪魔されない安全な場所を。
誰もいない海上に。
波も嵐も、問題はなかった。
問題ないように”計算”して作ったのだから。
この動く島には、人類の英知とも呼べるすべてのものが保管してある。
まずは本。
世界中に存在していた、すべての本を一箇所に集めた。
その数、約1億5000万本。
どんな大図書館よりも、そこには本があった。
そして、娯楽。
世界中の、ビデオ、DVD、音楽、映画、ドラマ、何もかもそこにはあった。
すべてを集めるのに7年の時間を必要とした。
そして、他に残しておくべきとソーフィヤが考えた様々なもの。
この島には、人類の今までの歴史、文明がすべて存在しているといっても過言ではなかった。
島の名をNOAH。
NOAH《人類が残してきた全て》である。
いつのまにか、空は薄暗くなっており、夕焼けが島を照らしていた。
遠くでは、カモメが仲良く空を羽ばたいていた。
ソーフィヤとヒカルはの姿は、二人の寝室にあった。
(ヒカルぅ…… )
数十年の時を経てもソーフィヤのヒカルへの愛情は減らなかった。
いや、減るどころか日に日に”愛”がソーフィヤを支配していく感覚がある。
人を愛することがこんなにも幸せなことだとは思わなかった。
愛する人は自分がいないと生きていけない。その事実がソーフィヤを歓喜に震わせた。
ヒカルに触れているだけでこんなにも幸せなの。
おかしいくらい。ううん、ずっとヒカルに出会ったときから私はずっとおかしいんだ。
事実、ソーフィヤの頭の中では、ヒカルに触れているだけで快楽物質がドバドバ放出されていた。なんの操作もしていないはずなのに、ソーフィヤは自己変態によってそれが感じられた。
(あぁ、幸せぇ)
いまのヒカルは、ソーフィヤがいなくなれば、なにもできない。
自分で食事をとることも、戦うこともなにもできない。
ううん、ヒカルだけじゃない。わたしもヒカルがいないとこの世界で生きていけない。もし、ありえない仮定であるが、ヒカルが死んだ場合、ソーフィヤには間違いなく自死を選ぶだろうというという確信があった。
今でも、ヒカルに触れていない、ヒカルの姿が見えないときは、こころにぽっかりと穴が開いてるような感覚がある。
それほど、ソーフィヤはヒカルに依存していた。
いや、ヒカルの形をしただけの心のない肉に。
「ヒカルぅ、愛してる、誰よりも、何よりも」
ソーフィヤはそう言い、ヒカルに覆いかぶさっていった。
ずっと、二人きりで良い。
ずっと、ずっと。
ここなら、誰にも邪魔できない。
二人だけの世界。
この世界で変わらない永遠の”愛”を。
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