第7話 卵食べたい……

家である。まごうことなき探し求めていた家である。

それが今僕の目の前にあった。


身の丈ほどの柵状の門の前に車を止めて、外に出る。

助手席のサンはおねむだ。


2階建ての某国民的アニメにでてくるような家。

ただ違うのは屋上に太陽光パネルがあることぐらいだろう。

綺麗に正方形の地形の家だ。

犬が軽く走れそうな庭もある。


庭には小さいが風車のようなものもある。

たどってみると恐らくバッテリーのようなものにつながっていた。


この家の持ち主はよほど電気を自給自足することに意味を見出していたらしい。


「うむ……よさげ」


あとは中である。

少なくとも生命反応はネズミは数匹いるだけだ。


「おじゃましまーす」


ゆっくりとはい……れなかった。

なので庭の窓に回りそこから入ろうとしたがそこも入れなかった。


きちんと鍵がされている。


「うむむ」


どうしよう。これからこの家は僕のものなのでできるだけ傷つけたくない。


こんな世界になって倫理観とかとうになくなってしまった。

すみません家主さん、この家僕がもらいますぜ。


と心の中で言い訳していると二階の窓は空いていることに気がついた。

あそこから入れそうだ。


問題はどうやってあそこまで登るかである。

すると排水管があることに気がついた。あそこから登れるかもしれない。


ゆっくりと排水管に手をかける。

くぼみに脚を引っ掛けながら登っていく。


実はこうういうの得意なのだ。幼き頃、友人と秘密基地を作りまくっていたことを思い出す。


「よっ」


飛び出た屋根に飛び乗る。

やはり二階の窓に鍵はされてなかった。

まあこんな目立つところでこんなことしたらすぐ警察だからね。


「おじゃましまーす」


そこは倉庫部屋であるらしかった。

通販の箱がたくさん重ねられている日頃使われていない部屋。


靴を脱いで中にはいる。少し埃っぽい。


廊下に出るとすぐ階段があった。

降りていく。


居間に30代くらいであろう女性の遺体があった。

死んでててもわかる。美人だ。

遺体に手を合わせる。


「とりあえず居候させていただきまーす」


そんな感じで僕は念願の住居を手に入れた。






サンを車から降ろし中に入れてまた探索する。

サンも勝手に中を探索している。


太陽光発電の設備は問題なく動いていた。

スイッチを入れると家の中が光に包まれる。

久しぶりに見る文明の光である。やったぜ。


とりあえず死体から情報を読み取ったりものをあさっていくと色々なことがわかった。

この家は居間にいた女性の一人暮らしであったらしい。


結婚していたが夫とは死別、子供は居ない。

一階の奥にある夫の部屋を見てみたがサバイバルとか電気設備の本がある。

どうやら太陽光パネルとか風力発電は夫の趣味だったらしい。


いい趣味である。


彼女の記憶の中の夫に感謝し僕は家の探索を続けた。


一階の玄関から数歩歩くとドアが二つある。

1つ目はトイレだった。

2つ目は脱衣所があり、奥に浴室があった。


きちんと完備されている。

まあ水はでないであろうが。


僕は雨水を溜める装置も早急に作らねばならない事に気がついた。


浴室とトイレの前には大きな居間があり、その奥に死んだ夫の部屋。

そしてそこから数歩歩くとダイニングキッチンと勝手口。


一階はとりあえず見終わったので二階に戻る。

二階には二つ部屋があり、奥の部屋が僕が入ってきた部屋だ。


もう一つ手前の部屋を覗く。

そこは彼女の部屋だった、見るからに女物と分かる服や小物が並んでいる。


なんとなく見ては行けないという気分になり閉じる。

これで基本的にこの家の探索は終わった。


後ろから“声“したので振り向くとサンがいた。

どうやら階段を登るのに疲れたらしい。


サンを抱いて最初に入った倉庫部屋で横になる。

落ち着ける場所を見つけたと思うとドッと疲れが押し寄せてきた。


結構疲れていたらしい。

僕の意識はすぐに彼方に消えた。





起きたのは数時間たった後だった。時計を見ると時刻は午後一時。

サンはそばで丸くなっていた。


よく眠る犬である。寝る子は育つ。数年後にはサンがとんでもないほど大きくなっているかもしれない。

UEというスーパーウルトラ謎エネルギーに満たされた今の世界ならありえる。


超巨大ゴールデンレトリバーいい……。


これからどうしよう。

そのうちホームセンターに水タンクとか取りにも行きたい。

家にもゲームを取りにいけねばならない、なんてことを思っていると僕は一つやるべきことを思いついた。







庭にでると小さなガーデンが見えた。

色々な苗が植えてある。


その近くにスコップがあったのでそれを握る。


何をするかと言うとお墓づくりだ。この家に住んでいた彼女へのせめてもの祈りのようなもの。あと勝手に使わせてもらうことへの償いか。


スコップを持って庭を歩く。

と庭の隅っこに人一人分は軽く入りそうな空間を見つけた。


そこをスコップで掘っていく。






一時間後。僕はそこそこの深さの穴を掘った。

これなら大丈夫だろう。


新聞紙を穴に敷き詰める。

そして家の中に入る。


彼女がいる居間へ行き、首に手を回してお姫様抱っこの要領で持ち上げる。


さすがにひどい匂いだ。

腐り始めた肉と放置された排泄物の匂い。


嗅ぎなれたとはいえさすがにきつい。

しかも力が入ってない人間の肉というのは重いことに気がついた。


重心が安定しない。


ゆらゆらしながら彼女の肉体を庭まで持っていく。

穴の前まで到着した。ゆっくりと彼女、ーーさんの身体を穴に下ろす。


「何か上に植えようかな」


そういえば’能力’でのぞき見た彼女の好きな花は桜だった。

桜を上に植えよう。


こうして生命は廻るのだと思う。

ゆっくりと彼女の上に土をかける。


そして完全に埋め終わった後、もう一度手を合わせた。


「ーーーーさん。ーーさんの大切な家を勝手に使わせてもらいます。文句は死んだ後に天国でお願いします」


僕が天国に行けるかはわからないけど。



今日の日記

『太陽光発電は問題なく動いていた。とりあえず二階の倉庫部屋を使わせてもらうつもりだ。早くベッドで眠りたい』




あれから一日がたった。

僕は二階の倉庫部屋を掃除し使っていた。

一階より二階が好きなのだ。朝日も入るし外の様子も見れる。


ーーさんと死んだ夫の部屋には殆ど触っていない。

なんとなく悪い気がしたのだ。


とりあえずダンボールを外に出し、真っ平らな状態にした。

なので廊下の奥にはダンボールの山が積まれている。


そして濡らした布ですべて床、壁を拭く。そしたらそれなりにキレイな部屋になった。


サンも僕と同じ倉庫部屋で寝ている。部屋の隅にダンボールが二つ。トイレとサンの寝床だ。


僕はその向かい側でダンボールを敷いて寝ている。

今日は色々快適な生活のためにホームセンターなどで揃えるつもりだ。


サンが小さな口を大きく開けて欠伸をした。

それで’行くの?’と’声’で伝えてくる。


おうと返事をするとサンが腕に飛び込んできた。

どうやら運べということらしい。


うーんこの。

ゴールデンレトリバーってもっと穏やかで優しいと思っていたのに現実と理想のギャップが辛い。


とりあえず前々から計画していた犬の躾の本も入手することに決め部屋から出た。





車の鈍いエンジン音と風をきる音が周りを満たす。

今僕は車でいつものホームセンターへと向かっていた。


ホームセンター最強である。


助手席にはサンがいて後ろ足だけで器用に立ち流れていく窓の外を眺めている。

しっぽを振って結構楽しそうだ。


流れていく景色はいつもと変わらない。


止まった車。野良の猫・小鳥・飛び散ったペットボトルやチラシ。


それが無造作に風景を作っている。

だけどなんとなく違和感があるような気がしないでもない。


気のせいだろうか。


しばらく経ってもその違和感は消えなかった。

そしてなんやかんや運転しているうちにホームセンターに到着する。


「えーとなんだっけ」


僕は家で書いたメモ帳を見る。さきほど買うものリストを作っておいたのだ。

……買うものではないか。


『買うものリスト

テーブル・発電機・サンのベッドとトイレ・生活用品・水を貯めれる巨大タンク・モニター・物干し竿・クッション・ベッド』


いつも通うホームセンターは便利なもので家電からペット用品まで色々なものが置いてある。ベッドコーナーもあったのでとりあえずは揃うだろう。


何回か通わないといけないかもしれない。

いつものようにホームセンターに入り、懐中電を列に並べて視界を確保する。


ベッド車に入るかな、それだけが心配である。












ベッドは結局入らなかったのでホームセンターの軽トラを借りて後ろに載せた。

マットと骨組みが別なので二階に持っていくのは簡単ではないけれどできなくはないだろう。


なんとかベッドを二階まで運び組み立てる。


一時間ほどでベッドは完成した。

念願のふかふかベッドである。


ベッドに飛び乗りその感触を堪能する。

サンも僕のまねをしてベッド飛び込んでくる。


「さいこう」


車のマットやテントでずっと寝ていたからかもう感激どころの話ではなかった。

最高。それ以外に表せられない。


毛布も一番高いのを取ってきたので最高の肌触りだ。


最高……。





それから車と他の家具を取りにホームセンターに戻った。

なんとなくぼんやりする。

サンはまだ家で寝ている。あれが気に入ったようだ。

まあ今からサンのベッドも取りに行くんだけど。


持ってきたベッドがサンに占領され僕が犬用ベッドでねる悪夢のような光景が頭に浮かんだが考えないことにした。


そしてその帰り道。


「ん?」


なにかの’声’が聞こえた。

その声に向かっていくとそこはおじいちゃんがすんでいそうな一軒家だった。


そこから’声’と鳴き声が聞こえている。


聞いたことあるような声だ。知ってる動物。


そこにはいた。


にわとり。二羽のとり。鶏。


鶏が二匹ケージに居た。

数日餌与えられてないと思うがまだ生きている。


多分オスとメスだろうかわからない。


「毎朝のご飯ゲット……」


僕は鶏二匹を捕まえ車に乗せた。
















そんな感じで家具と鶏を手に入れ部屋に色々家具を入れる。

とはいっても基本的にはベッド・テーブル・モニター・サンのトイレとベッド・その他のものはきほん一階に置いてある。


鶏は庭に放流した。でられないようになっているし前のケージより広いので鶏は喜んでいた。


あと足りないものはゲーム機ぐらいだろう。

それも明日取りにもとの家に行くつもりだ。


とりあえず家、完成である。



今日の日記

『朝はフレークを食べた。そろそろこの味に飽きてきた。

あとついに、住処が基本完成した。

ホームセンターから帰る途中で鶏も拾った。

毎朝新鮮な卵食べたい。』

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