第18話 原初の厄災

遠くから遠吠えが聞こえた。

遠くというのは距離ではなく意識の距離。

サンの声だ。僕は朦朧とした意識のまま思った。


目をゆっくりと開ける。

晴天。青空。もう朝だ。


僕が長い眠りから目覚めて翌日の朝。


うーんと背伸びをする。


近くではサンがちょうど起きて空に吠えていた。

それにしても本当にでかくなったなあとふと思う。


サン。僕が三年と少し前拾った子犬。

それが今や大型バス並に大きくなっていた。


もうサンが頭を下げてくれないと撫でることもできない。


時の儚さを感じる。


そんな感じでしみじみしながらあたりを見渡す。

僕達の家だったものは粉々に粉砕され、その回り百メートほどに連なっていた家もすべて何かに踏み潰されボロボロになっている。


まるでここで怪獣大決戦があったように。

というか実際にあったのだが。しかも何度も。


”能力”でサンの記憶を読みとったのでわかる。

実際に何度も怪獣大決戦が行われていた。


クソデカハリネズミとか何故か脚が生えた巨大サメとか。


サンはその全てをその胃袋に収め今ここにいる。


サン恐ろしい子っ。


その他には昨日使った焚き火の後。

これくらいである。


つまり。


「なにもない」


とりあえずの再優先事項はお家の入手である。










起きた後、サンの狩りに同行し朝ごはんをゲットする。

朝ごはんを食べ終えた後、僕はどうやって家をゲットするかと思考した。


また家さがしの旅に出るか?おそらく今の僕ならすぐに見つかるだろう。

うーん。


でも結構気に入ってるんだよなこの場所。

川も近いし、少し離れた場所にはホームセンターや本屋もある。


そんな時、僕の脳裏に北海道にありそうな暖炉付きのログハウスが浮かんだ。


あれなら頑張ったら素人でも造れるんじゃない?と少し思う。

大工さんに怒られそうだが、こちらには建築の知識の代わりに、能力というチートがあるのだ。能力バンザイ。


どうしようなんか行ける気がして生きた。


そう考えると、次から次にアイデアが浮かんでくる。


材料は木材。僕の”生命創造”と”複製”、”生命操作”の力の一つでも使えばほぼ無限に調達できる。


お、だったらツリーハウスとかもありかも。

ゲームに出てくるような巨大な大樹をつくるのもいいかも。


……いいかも。


そんな感じで僕は早速建築に取り掛かった。










数時間後。

結論から言います。無理でした。


大量の丸太の前で僕は転がっていた。

正直言おう。舐めていた。


丸太のつなぎ方とかぜんぜんわかんねえ。

どのくらいの寸法でやるのかも謎。


まず平らな木材の切り出しができない……。


大工さんの死体でもあれば、そこから記憶を抜き取ったりできるのだが、三年で死体はほとんど動物などに食べられ消えてしまっている。


どうしよう。丸太の上に転がる僕をサンが微笑ましい眼で見ている。

なんだやんのかコラ。


なんというか三年の間にすっかり保護者役が定着してしまったらしい。

はあ、サンが金髪の優しい犬耳お姉さんだったら良かったのだが。


……ん?。


僕が三年前のあの日、得た能力はなんだっけ。

”生命操作”。


それは身体の何から何までを操作できる力。洗脳、身体変化なんでもござれである。


あれ?これできちゃうんじゃない?。

え、サン人化できちゃうんじゃないのこれ。


え、しちゃう?ケモミミロード開いちゃう?。


うをおおおおおおと僕は丸太の上を左右に転がる。

サンをそんな眼で見るなんて許せん(自分が)。


とりあえず忘れよう。

今は家の事だ。


たぶん本気で能力を使えばできる……できる気がするが。

うーん、もっときちんと家を作りたい。


「なら作れる人をつくればいいんじゃ」


バシっと起き上がる。

そうだ、生命創造の力を試すいい機会だ。


僕にできなかったのに、僕が創造した生物ができるのかという謎もあるが、そこらへんは能力が勝手に調整してくれるらしい。


紛れもなくチートである。


僕の瞳が能力準備に伴い変化していく。

黒一色だったのがその中に光り輝く小さな輪が生まれるのを能力で自覚する。


「厨ニ能力め」


どんな生物を創ろう。

条件はとくにない。まずはお試しだ。


頭の中にその生き物を思い描く。


「生命よ」


空間が歪んだように錯覚する。

その中心、その中から小さな球体が現れる。


その球体はどんどん大きくなっていき、最終的にはバスケットボールくらいの大きさで止まった。


透明な球体。その中に何かがうごめいている。

僕は両手を透明な球体の下に差し込む。


球体が割れ、その中の生物がゆっくりと僕の手のひらに降りてくる。


その生き物は形を持っていなかった。

色も持っていない。


あるのは水分。そして目玉が一つ。


透明なスライム。


「キュイ」


スライムが僕の口を真似て声をあげる。

何者にも染まってない不定形な生き物。


崩壊前の世界には存在しない生命。


そして僕が初めて能力で創り出した命。


「かわいい」


そうだな名前は、クラウスライムとでも名付けようか。


知能はそこまでない。


特徴は何でも吸収する捕食能力。


僕はこの三年後の世界で起きた後一つ思ったことがある。

なんか汚いと。


崩壊した建物のがれきもそうなのだが、サンも含めた巨大怪獣の糞が所々に落ちているのだ。それをどうにかしたかった。


クラウスライムはなんでも食べる。


瓦礫だろうが、死体だろうが、糞だろうが。

なんでも食べてなんでもエネルギーに変換する。


僕はクラウスラウムをゆくと地面に下ろす。


「おお、進んでる」


クラウスラウムはゆっくりと地面を這う。

クラウスラウムが這った後にはゴミひとつない。


僕はこの後小一時間、掃除をするクラウスラウムを眺めていた。













クラスライムのおかげで元の家のまわりが雑草一つないキレイな土地になった。


よし、とりあえず土地は整えたぞ。


今度は実際に僕の手足となって働く存在を創ろう。


どんなのがいいだろう。


僕は頭の中でその生物をイメージする。


作業するのだから力は強く、器用な方がいい。


なおかつチームワークがあって、物静か。


見た目は……。





よしだいたいイメージは固まったので能力を使う。


「生命よ」


先ほどと同じように球体が現れ新たな生命が数体誕生する。


僕の目の前には2メートルを超える大柄な存在がいた。


それは一言で言えばゴーレム。


石のように見える甲殻を纏う人形の生物。

それが五体。


ゴーレム。見た目は石に見える甲殻を纏う巨人。

ファンタジーならどのゲームにもだいたいいる存在。


知能はある程度有しており、視界も聴覚もあるが、口がなく味覚が存在しない。


性格はどの個体も主人に従順である。


そして一番の特性は、空間把握能力。

一ミリのズレも許さない生まれながらの建築屋。


そうだなゲーム的に言うのであれば建築スキルS、鍛冶スキルSとでも言う感じ。


「ではいけ、ゴレームさん達。早速家をつくるのだ」


ゴーレムたちは何も言わず作業を開始した。










五時間後。


「すげえ」


僕の目の前には立派なログハウスが存在していた。

と言ってもドアも窓もないが、ログハウスっぽいものはできていた。

しかも結構広い。


すごい。


ホームセンターからドアノブとか、ネジをもってこればもっといろいろなものをちゃんと作れるだろう。


「すごいぞゴーレムさん達」


ゴーレムたちはどこか嬉しそうだ。

こんな感じでとりあえず僕の家は完成した。







『今日の日記

三年後にまた日記はじめました。光です。

今日は家を作りました(といっても作ったのは僕ではない)。

それなりに立派です。これならまたゲームをもってきて引きこもり生活できそうです。

今日はこれで終わり、明日は電気設備をどうにかしようと思います。

おやすみなさい』

















クラウスライム。

光がお試しに生み出したその生き物が数千年後、世界を滅ぼす”原初の厄災”として恐れられるのを光はこの時欠片も想像していなかった。

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