第19話 ソーフィヤ・イリイニチナ・ラズドゥホヴァ
電気。
19世紀後半から、急速な科学技術の発展により、手頃なエネルギーとして使われ始める。
現代人はまさにソレなしでは生きていけない程重要なエネルギー。
古代でも電流を流す魚は存在しており、人々はそれを魚の神としていたこともあるということを聞いたことがある。有名なところでは雷はギリシャ神話の主神ゼウスの権能でもある。
そして僕がまたゲーム引きこもり生活をするためにはこの電気をどこかから入手しないといけないわけだが。
1、発電機を探す。
2、能力を使う。
とりあえず入手にはこの二つの選択肢があるわけだが、どうしよう。
発電機はガソリン探すのが結構めんどくさいので個人的には却下。
となると簡単に電気を入手するためには能力を使うしかない。
僕の魔法の可能性は無限大だ。生命に関することならだいたいなんでもできるといっても過言ではない。
一度、電気入手のため色々まとめてみよう。
僕が今使える魔法は6つ。
”声”。”分析”。”自己進化”。”複製”。”生命操作”。”生命創造”。
ゲーム的に言うならば生命魔法EXとでも言う感じの能力。
その能力を使って電気を入手するには、3つの可能性がある。
1、自己進化によって自身の体に発電器官を組み込む。
2、生命操作によって他の動物の身体に発電機能を加える。
3、生命創造によって最初から発電器官を持つ生物を生み出す。
まずは1の可能性から試してみよう。
「ハツデンシロ~」
適当に呪文を唱える。
そして魔法は僕の身体を発電できる身体に変えた。
数時間後。
僕の右腕は人間のものではなかった。
黒く変色し、5メートルほど長くなった僕の右腕。
その右腕から大量の火花が散る。
身体のエネルギーが右腕に集中していく。
集中。右腕に。エネルギーを。加速。加速。
そして僕は溜まりに溜まったエネルギーを空に向かって一気に放出させた。
「
僕の右手のひら、その中心から光が漏れる。
轟音。
すべてを切り裂く音とともにそれは生まれた。
巨大な光の柱。
それが僕の右腕から放射されていた。
ロボットものでよく見るラスボス兵器の超巨大極太レーザー。
一言で表したらそれだった。
そんなものが僕の右腕から発射されていた。
光の柱は数秒で消え、宇宙へと消えていった。
アニメでよく見る光景が現実に僕の眼の前で起こっていた。
「凄すぎて草、なにこれ」
身体が軽い、横を見ると、右腕が消えていた。
切断されたわけではなく、何かに燃やされたように炭になっていた。
動くとポロポロ落ちる。グロ。
痛覚をカットしていたから気づかなかった。
あまりのエネルギー量に右腕だけでは耐えられなかったらしい。
僕の身体全体からもプシューと湯気が出ている。
「再生」
にゅるんと炭の中から小さな手が生えた。
そして一瞬で元の腕に戻る。よし治った。
「おいおい、ついにビーム打てるようになっちまったよ」
なぜ電気、発電器官を身体に埋め込むという試みからレーザービームを撃っているのか。少し前にあったことを語ろう。
実験は成功した。僕の身体はあっさりと電気を生み出せるようになった。
電流や電圧の知識なんてオームの法則ぐらいしかしらなかったが、モバイルバッテリーから出る電気をそのままコピーしようと思ったらあっさりできた。
僕の身体でできるということは他の生物でもだいたい可能である。
つまり、ボクの能力はただのネズミを電気を生み出すネズミにできるのだ。
その他にも最初から電気を生み出すだけの生物を生み出してもいいだろう。
実験は成功した。
ただその後がいけなかった。簡単に電気を生み出せることを知り調子に乗った僕はさらに能力の実験にのめり込んだ。
思ったのだ。電気を生み出せるなら、この身体のエネルギーをそのまま外に打ち出せるんじゃねえかと。それをなんとなく気合でやってみたら。
結論、できた。それがさっきの光景である。
今の僕だったら、まじで崩壊前の世界でも世界征服できたりすんじゃねえの?と僕は本気で思った。
『今日の日記
レーザー打てるようになったぞい』
*
空の彼方。人類に宇宙と呼ばれていた空間。
地球と呼ばれた星の周回軌道上にその物体はあった。
様々な部品が複雑に絡まり、巨大な”何か”を作っている物体。
巨大な機械の球体。
太陽光パネルが横に広がるさまは光が見ればトンボみたいだなとでも思っただろう。
それはまさしく宇宙船。本体の側面には「NOAH」という組織の名が刻まれている。
その内部。
そこにソーフィヤ・イリイニチナ・ラズドゥホヴァという女はいた。
ソーフィヤはある国際的な組織の宇宙飛行士件研究者であった。
「宇宙空間での完璧な自給自足システム」の開発。
それがソーフィヤ達の研究だった。
宇宙空間での完璧な自給自足システムはもうある程度完成していた。
ある一定の材料と、微生物、太陽光さえあれば、30人以内、24年と6ヶ月までという期限付きなら自給自足は今の時点でも可能だった。
NOAHプロジェクト。ノアの方舟からの由来だ。
宇宙空間で人類が生きていけるように結成された計画。
そのシステムの、メンテナンスや改良の為にソーフィヤたちは宇宙にいた。
間違いが起きないよう優秀な女性メンバーだけで結成され、期間は5年程度。
「今にしてみれば笑えるな」
総勢9人の組合員がいたはずの宇宙船にはもはやソーフィヤ一人しかいない。
食料が足りなかったわけではない。その研究のため、9人でも数十年は生き延びることは可能だった。
だが、みないつのまにか絶望して死んでいった。
三年と半年ほど前、地球にある隕石が落下したその日からすべてが変わった。
その隕石が落下後、すぐに地球にいる組織と途絶えた。
ありえなかった。どの状況でも通信だけは取れるはずだった。
乗組員の誰もがそれを機械の故障とでも思っていた。
そして次の日、すべての人類が死亡していることを宇宙から確認した。
そしてみんなが簡単におかしくなった。
乗組員の中で一番リーダシップのあったジェシーが一ヶ月後に一番最初に死んだ。薬を飲み、眠るように自殺していた。横には家族の写真が置いてあった。
一番明るかったシャルロットはジェシーが死んだ次の日、同じように薬で死んでいた。
シャルロットの親友だったリディはシャルロットの遺体の横で裸で死んでいた。リディも薬による中毒死だった。
いつも何を考えているのかわからなかったローラは三ヶ月後、彼氏の写真を見ながらナイフで手首を切って死んでいた。
同じロシア生まれだったダーリヤは半年後、狂って外に宇宙服で飛び出していった。そして大気圏で燃え尽きて死んだ。
ジェシーの次にリーダーシップがあったカナメという日本人の女は、宇宙生活十ヶ目くらいから部屋に引きこもっていた。そしてその一週間後、部屋で餓死しているのが発見された。
一年が過ぎる頃には自分を含めてもう三人しか残っていなかった。
身体を鍛えることが趣味だったスウェーデン人のフレヤはナイフを自分の首に挿して死んでいた。二年と9ヶ月が過ぎた頃だった。
メンバーの中で唯一子持ちだったシュェリーは、子供の写真を見ながら薬で死んでいた。その横には「ママを許して」と書かれた遺書があった。3年が過ぎたころだった。
そして今、生き残っているのはソーフィヤ一人だけになった。
別に何か心を支える強いものがあったというわけではない。
むしろなかったから生き残っているのだとソーフィヤは思う。
ただ死ぬのがめんどくさいから怠惰で生き残っているだけなのだ。
ソーフィヤには家族がいた。
優しい父と美人な母と、二つ歳が離れた妹の四人家族。
ソーフィヤは生まれつき、感情が表にでない人間であった。
一時期は両親や教師から自閉症とも疑われた。
何をしてもされても無表情。そんな子供。
だが感情がないわけではなかった。
ただ表情筋を動かすのが苦手だっただけなのだ。
ソーフィヤと違って、妹は表情豊かでよく笑う子だった。
両親はそんな妹を大層かわいがっていた。
あたり前だろうと子供ながらにその光景を見ながら思った。
こんな無表情の自分より、よく笑う妹のほうが可愛がられるのは。
怒りは湧いてこなかった。
だが妹にはなくて自分にだけあったものがあった。
それは頭脳。
ソーフィヤの父は、世界的な研究者だった。
その頭脳をソーフィヤは受け継いでいた。
まるでレールを敷かれるようにソーフィヤはこの道に進んだ。
特に苦ではなかった。
こんな自分でもここまで育ててくれた感謝があったのかもしれない。とはいっても、もう長いこと家族にあってはいないが。
それは6年前、ソーフィヤが20の時だった。
父に婚約者を紹介された。
紹介された男は父の研究仲間の子供だった。
男は、それなりに優秀だったと思う。顔も整っていて、優しく、それなりの大学もでて頭も悪くなかった。
ソーフィヤは昔から恋愛事に興味を持てなかった。
美人の母の美貌を受け継いでいて、無表情でも男は寄ってきたがなんとも思わなかった。
自分はほんとうに普通なのだろうか、どこかで感じる異物感、そんな思いもこの頃強くなっていた。
恋愛には興味は持てなかったが、別に拒否するほどでもなかった。
だからいいと思った。誰かと付き合えば自分は普通になれるんじゃないかと思った。
男も、無表情の自分を笑わせようと頑張っていたと思う。
そんな生活が一年ほど続いた。
そんなある日。夜、自分の家に帰ると明かりがついていた。
ソーフィヤは男が来てるのだろうと思った。
扉を開けるとベッドの上に裸の妹と男がいた。
ソーフィヤはそんな状況でも眉一つ動かさなかった。
あれから家族とはあまり連絡を取っていない。
婚約も当然、解消になった。
悲しいとも特に思わなかった。
そして今、ソーフィヤはたった一人で宇宙にいる。
もう地球にも、宇宙にも人間は自分ひとりだけだろう。
自分はこれからどうするのだろう。自給自足システムの限界まで生きるつもりだろうか。
もう何もわからない。
「私は生まれないほうが良かったかもしれないな……」
なんのために自分は生まれたのか。
答えなんてあるわけがない。ただ父と母がやることやって自分が生まれて流されるまま生きてきただけだ。
「私らしくない」
思わずつぶやく。
そうやら一人になったことで随分感傷的なったらしい。
自分もそろそろかなと思う。
そんな時、それは艦内に鳴り響いた。
緊急アラートだ。三年と半年ここで生きてはじめての経験。
そしてそれは現れた。
眼前に広がる大きな窓。
下には見飽きた青と白に彩られた星が見える。
そこにはあった。
「なに……あれ」
光の柱。
それが地球から放射されていた。
柱は宇宙のどこまでも続いている。
まるで神話のような神々しい光の輝き。
光の柱はそして少しづつ細くなっていき宇宙の彼方へ消えた。
「今のはどこ、アジア?」
光が放射されていた場所。
それは間違いなく地球上だ。
ソーフィヤが知る限り、あんな現象を起こせるのは人間しかいない。恐らく何かの兵器だろう。
「え」
顔を何かが伝う。顔に手を当てると瞳から涙が流れていた。
ずっと一人だった。その長いストレスはソーフィヤの心を知らず知らずに蝕んでいたのだ。
誰かがまだ生き残っているかもしれない。
それだけでこんなにも感情が動くとは自分でも思わなかった。
涙が止まらない。こんなにも泣くのは人生で初めてだ。
ソーフィヤはあの光があった場所をただじっと見つめていた。
自分の止まっていた時間が動き出したような気がした。
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