第20話 (地球上の)人類は滅びました。

風が鳴る。

下をみると、地面が遠くに見える。


今、僕は高層マンションの屋上にいた。


この街も変わったなとしみじみ思う。

野良犬が群れをなし、謎の生物が街を闊歩し、植物が建物を覆い始め、小さな平屋は巨大怪獣に潰されているのも多い街。


そして人間は僕だけしかいない街。


強烈な風が僕の頬を撫でる。


「行くか」


僕は背から6対の翼をだして高層マンションの屋上から飛び降りた。







0.3秒後。

僕の手には10メートルの魚の死体があった。

クソデカ魚。前の世界なら泉の主とでも言われていそうな魚である。

最大の特徴はなぜか、その魚には何故か脚が生えていた。


こんなのクリハンで見たことあるぞ……。

美味しいのだろうか。この謎の怪魚が今日の僕とサンのご飯である。


唐突だがUEの影響で進化した動物の形態はだいたい三種類である。

1、大きくなる、単純に巨大化。サンがこのタイプだ。とは言ってもサンは僕の能力の影響で普通の巨大化とは違うみたいだが。まあ次。

2、姿は変わらないが、脚が早くなるなど、もともとの動物が得意としていた技能を更に強化する進化。これは草食動物が多い。

3、姿も能力も元になった生物とはかけ離れているタイプ、コープスワームなどがこれにあたる。だいたい厄介。


このクソでか怪魚は、1と3のハイブリットだ。

まあ、屋上から観察していた限り結構強かった。


湖から飛び出して、水を飲んでいた草食動物を一気に丸呑みしていた。

恐ろしや。こんな生物、能力が進化する前なら銃を持っても近づかない。


「美味しかったらいいなあ」


味は結構楽しみである。

僕は怪魚をもはや触手と化した終ノ翼フリューゲルで持ち上げながら家に帰った。







「まっず」


ビビるほど、怪魚はまずかった。

まず泥臭い。しかもなんというか身が全身筋肉のようでクソ硬いののだ。


「焼きすぎたかな」


横を見ると、サンが美味しそうに怪魚にかぶりついていた。


時刻はもう夜になっており、宇宙には満天の星空が煌めいている。

あたりは真っ暗で焚き火の明かりが周囲を照らしている。


周りにいるのはサンとゴーレム戦隊と僕だけ。(クラウスライムはどこかに逃走した)。


真っ暗な中焚き火をしていると不思議な気分になる。

心が静かに燃えるような、そんな言葉では言い表しづらい感覚。


僕は怪魚を食べて地面に横になった。

都会の空のはずなのに三年前には考えられなかった満天の星空が見える。


「……」


無限に広がる星々。


その星々の中に、ひときわ輝く星を僕は見つけた。


ってあれ。


「点滅……」


光ってる。ただ光っているだけじゃない。点滅しているのだ。

まるで夜空を駆ける飛行機のように。


頭が一瞬空になる。


「あ、え……」


地球上の人間は僕以外一人残らず死んだ。


ソレに関してはまちがいない。


だが宇宙なら?。


なぜ気づかなかった。

今は21世紀。


人類が宇宙に進出できる時代。

どこかの宇宙船や人工衛星に、わずかでも人は残っているかもしれない。


空に浮かぶ点滅する星はまるでこちらに呼びかけるようにずっと輝きを発していた。









朝。

太陽の光がログハウスを照らす。

そしてその脇に僕はいた。


体をうーんと伸ばす。

何をしているかと言えば準備運動中である。


そう、僕は今日行くのだ。


偉大なる宇宙へ。

だが宇宙服もロケットもない。


ただあるのはUEの影響により異次元の生命体とかしたこの体のみ。

正直なめているとしか思えないが、なぜか僕はなんとなく確信があった。


僕は宇宙で生きていけるという絶対的な確信が。


僕の背がふくらみ、中から六対の純白の翼が姿を現す。


僕は空へ飛び出した。


眼前には誰もいない街が見える。

街にはところどころ何かに潰されたかのように崩壊している建物がある。


もうだいぶ空を飛ぶのにもなれたものだ。

人間が地面を歩けるように、魚が水の中を泳ぐように、僕は空を飛べる。


高度100メートル。

自分の体を叩きつける風が心地よい。

今は特にかわらない。

一説では100メートル毎に約0.6℃寒くなるらしい。


高度500メートルになった。

少し気温が下がったか。

これでも富士山の約7分の一の高さだ。

富士山しゅごい。


高度1000メートル。

気温が一桁くらいになった。

もちろん風の影響で体感温度は恐ろしいことになっているが。


高度5000メートル。

僕は富士山を超えた。

流石に息が苦しいし、寒くなっている。


「へっんっしん!!」


風に声をかき消されながら僕は能力を使う。

僕の背中からでた翼が形を変えていく。


より巨大に、より薄く。

そして。


羽と羽の一定の間隔から小さな筒のような奇妙な羽が生まれる。

そしてその筒の中からでたのは、光だった。


紫に妖しく輝く光。

地球にいる人間すべての生命を奪った破滅のエネルギーそのままの光。

UEのフォトンとでも言うべきそれを、僕は翼と翼の間から放出していた。


僕の体が流星のごとく空へと駆け上がっていく。


先程まで地面にある家や建物が玩具のように見えていた景色が、変わる。

おそらく高度10000メートル。約10キロほど。

街自体は見えるが能力で視力を強化しないと細かい形まではわからない。


「寒……くな……ってき……たな」


気温が先程とは比べられないぐらい低くなる。

だが僕はそれでも平気だった。


体が異常に発熱している。周りはマイナス50℃ほどなのに、湯気すら出ていた。というか体中が熱であぶられた鉄のように真っ赤だ。


異常なほどのUEによる代謝が常軌を逸した熱を生み出していた。


おそらく人間では考えられない温度になっているだろう。


人間は体温42℃以上で死に至るという話を聞いたことがある。

人間の体を構成するタンパク質が42℃から変性しはじめ凝固しもとに戻らなくなるのだ。


ミルクをレンジで温めたときにできる表面の薄い膜あれが人間の体で起こるのである。

僕が頂上異次元生物でなかったら即死である。


空気も薄いとかいう話ではない。

普通の人間なら間違いなく低酸素症になる。


だが僕の身体はそれすらも克服していた。

心臓の鼓動がどんどん加速していく。


肺静脈から、酸素を大量に含んだ血液が左心房に入り、左心室から大動脈で全身に運ばれていく。


血管が普通の人間ではありえないくらい拡張し、赤血球がどんどん血液内に増えていく。


そして高度15キロ。


(なんか今度は熱くなってきたな)


マイナスだった温度がどんどん上がっていく。

地面を見ると、そこに大地があるくらいしかわからない。


そして僕はオゾン層を突き破っていつのまにか高度50キロメートルほどに到達していた。もう完全に地球が半円を描いている。


地上からでは見えない母なる星の輪郭が浮かぶ。


僕の翼の間から幾重にもでた紫色の炎がさらに光り輝く。

身体がさらに加速していく。


また一瞬気温が下がったと思ったらすぐに熱が僕の身体を襲ってくる、


身体が一瞬で燃え尽きそうになるくらい熱い。

まるでマグマの中に浸かっているようだ。

なのに同時に氷河の川に浸かっているような奇妙な感覚。


高度100km。

カーマン・ライン。


宇宙の入り口に僕はついた。

もはや呼吸ができない。

地球の大気がほとんどないからだ。そこにはもちろん酸素も含まれる。


だが僕の意識は明瞭で、生命活動も無事行えている。

化学的なことはまったくわからないが僕には最初から確信があったのだ。


宇宙で僕は生きていける。

そんな確信が。


それはまるで僕の故郷が地球ではないとでも言っているかのようだった。


酸素がないのになぜ生きているか。

今の僕には無限と言ってもいいエネルギーがあるからである。


もはや周りにUEがある必要がない。

ほぼ無尽蔵にUEを生み出す器官。それが心臓にくっつくような形で新たな臓器として存在していた。


身体に力があふれる。

まるで自分が神にでもなったかのような全能感。


その思いをすべて力に変える。


探す。昨日見たあの光を。


そして地球を何周回ったかなという時、高度400キロ、そこには壁面にNOAHと記されてる巨大な鉄の固まりがあった。


















ソーフィヤは夢を見ていた。

小さい頃の夢だ。

周りには木と雪しかないような家。。


部屋の中、暖炉の前には、椅子に腰掛けた父とその父の膝に座る妹がいた。


母と、自分は、キッチンで夕食の準備をしていた。

暖かく、ごく当たり前の家族の生活。


人、恋しいのだろうとソーフィヤはは夢うつつの中で薄っすらと思った。


当たり前だと思った。

地獄のような閉鎖空間の中で、ただ孤独に過ごしていたのだ。

寂しい、辛い。帰りたい。


どこに?。


わからない。

なにもない帰って寝るだけのマンションの一室か?。


それとも母と父と妹がいる実家か?。

違うと、ソーフィヤは思った。


今の家でもない、実家でもない。

じゃあどこに帰りたいんだ?。


――私は――。


ビリリリリリリリという音でソーフィヤは夢の中から引き戻された。

その音が緊急のアラートだと脳が認識した瞬間、ベッドから飛び降りた。


下着姿のまま、部屋を出て壁に突き出ている無重力移動用のレバーを握る。

宙に浮いた身体がレバーに引っ張られ前へと進んでいく。


移動する間も頭は全速力で思考を始めていた。

緊急アラートには数種類ある。


一つ目、艦内の何かが破損し、乗組員の生命活動に危険が生じる可能性がある時。これはピピピピピピピピと音が鳴り響く。


二つ目、仲間内の誰かが艦内の緊急アナウンスを使う場合。

だがここには自分しかいない。


三つ目。デブリなどの浮遊物、または艦の進行に影響を及ぼすものが存在する時。

ビリリリリリリリという肌が逆立つような音は三番目のものであった。


宇宙船の前面中央にある艦の操縦フロアに到着する。


「う……あ?」


前面の大型モニタには赤い文字で艦を直撃しようとする正体不明アンノウンがあった。


あまりの事態にソーフィヤの思考は一瞬停止した。


デブリではない。

この艦には、進行周辺のデブリなどを観測するシステムがある。

そのシステムによりNOAHは、いままでデブリとぶつからなかった。


スペースデブリはたった一センチでも、艦を破壊するだけの衝撃を備えている。そんなスペースデブリがあっても艦が無事でいられるのは一ミリ以下のデブリでも認識する探知システムのおかげというのもあるが、あくまでデブリは無機物なのだ。自分で動くということはない。


だが。


目の前のあれは、意思を持つようにまるでこちらを狙っているかのようだ。


何かの弾頭?だろうか。まず、どこかあら現れたんだ?。

そんな思考が刹那で流れる。

今からでは何もできない、それをソーフィヤの頭は理解していた。


数秒後、正体不明アンノウンはこの艦に直撃する。

今現在、この艦に回避する手段は……ない。


そして三秒後、正体不明アンノウンの赤い点と、この艦の位置が重なった。


走馬灯は浮かんでこなかった。




「?」


ソーフィヤは薄っすらと目を開ける。

どうして生きているのだろう。


あれほどの速度と質量のものがぶつかったのだ、無事なはずがない。

だがその前になぜ衝撃がないんだ。


まるで時が止まったようだ。

確認するように画面を見る。


そこには点と点が重なっていた。


そしてコン、コンという小さな音が壁面からソーフィヤの耳に届いた。

思わずその方向に身体を向ける。


そしてそれをソーフィヤは認識した。


自分は今、夢の中なのだろうか。


実は今自分は死んでいて、死ぬ身体が見せた刹那の夢なのではないか?。


そんな思考がよぎる。


なぜなら、艦の窓から、純白の翼を持つ少年がこちらに向かって手を振っている姿が見えるのだから。


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