第21話 普通の男なら、もう見ただけで失神するね。

これまでのあらすじを三行で。

僕は超能力者、カラオケで寝てたら人類が滅亡していた。

誰もいない中で彷徨っていると、空に浮かぶ点滅する何かを発見。

宇宙きた。←今ここ




拝啓、天国のお母様、お父様、僕は今宇宙にいます。

眼の前には無知な僕には宇宙船なのか、宇宙ステーションなのかわからない鉄の塊があります。


少し飛び、上から……。


あれ、宇宙で上ってなんだ?。


まあ、上から見ると謎の鉄の塊はサッカー場2個分くらいの大きさがあった。

真ん中には大きな球体があり、トンボの羽のように太陽光パネルのようなものが存在していた。


「(宇宙きたああああ)」


あれ?

声を出したつもりだったが、出なかった。

さすが宇宙。


それにしてもやはり思ったとおりだった。

寒いのか熱いのかもわからないし、息もできないが僕は宇宙で生命活動を無事行えている。


だけど、なんか身体が破裂しそう。

ヤバい。能力を使い再度、自分の体を宇宙用に調整する。


そして太陽光パネルのようなものに降り立つ。

横を見ると太陽光パネルのようなものと球体の接続部の近くに小さな四角い窓が見えた。


「(ああ、明りだ)」


窓からは青白い光が見えた。

僕が関与したもの以外、初めて見たインフラ崩壊後の光。


UEの推進噴射に押されるようにして僕は窓の近くによった。

材質を確認するように窓をコンコン(音無)と触る。

なんか普通……。


宇宙船の中を覗き見る。

そして僕は彼女を認識した。


宇宙船の中には金髪の外国人らしき女がいた。

彼女も僕を認識した。

あ、固まってる。


「(やば、外国人じゃん)」


僕、英語喋れないマン。

とりあえず友好を示すために手をふる。


ゆっくりと彼女の思考が伝わってくる。


”これは夢か?”


彼女の心は、そう言っていた。

久しぶりの、いや三年半ぶりの人間の思考。


やば、なんか涙出てきた。


数分後、彼女は宇宙船のハッチを開けた。









ガシャンと一度目のドアが閉まる。

ドアは二重になっており、すぐに2つ目のドアがプシューと音を立てて開いた。


空気がある……。


久しぶりの空気に感激し、思いっきり深呼吸をする。

スーハースーハー。


しばらく宇宙船の中の空気を堪能していると、ゆっくりと奥から彼女が現れた。


僕は固まった。

なぜか、彼女が信じられないくらい美人だったからである。

パット見の印象は、キリッとした目の金髪長身のお姉さん。

あっ、僕より身長高い……。


『――――』

”天使様?”


彼女が呟く、その口から出てきたのは当たり前だったが日本語ではなかった。


天使?天使ってなんだと思って自分の体を見たら、僕の身体からはきっちり翼が生えていた。


いっけね。翼を消すの忘れていた。こんなん、人間じゃないってひと目で言ってるようなもんやん。ってそれも今更か。


生身で宇宙にいたんだから。


僕と彼女は何も言わず正面に向き合った。

これからどうしよう……。

なんて言えばいいんだ。


僕は、宇宙船に人が生き残っているかもしれないということでこの船を訪れた。そして人は生き残っていた。


彼女ひとり。


僕は彼女に「新世界のアダムとイブになろう」とでも言ううつもりか?。


僕が口を閉じていると彼女が一歩僕に近づいた。


一歩、また一歩と近づきついに僕のすぐ目の前に来た。

彼女は信じられないものを見る目をしながら、恐る恐る右手で僕の顔に触れる。


”暖かい”

暖かい……。


二人の思考が一瞬重なった。

生きている人がいた、それだけでこんなにも嬉しい。

それが彼女の心から伝わってくる。


彼女の瞳から涙が流れる。


彼女の口から言葉が漏れる。

それはよく聞いてみると、英語でもなかった。


そうだ、これロシアあたりの言葉だ。

ロシア語?。


『――――――――――――』

”君は……いったい……?”


彼女が僕の頬に右手を置いたまま呟く。

僕が何者か。だけど、それは僕にもわからないのだけれど。


とりあえず僕は彼女を安心させるように微笑んだ。

笑顔は世界の共通言語てきなそういうノリである。


彼女の僕に対する心の壁が少しだけ小さくなった気がする。


そして彼女は涙を流したまま僕に抱きついた。

彼女の嗚咽が深くなる。


「うっ、ひっ……うぅ……」


大きな胸が服越しに首筋にあたっていたがこのときはなぜかそんな気分にはならなかった。普段ならばうへっへへへへと気持ち悪い声を出して道端でブリッジするくらい喜んでいたであろうが。


自分より小さな体にすがりつく彼女をみて、彼女を守らなければと思ったのだ。

母性本能、父性本能、そのような何かが僕の心の奥から滲み出していた。


背から生えた純白の翼で彼女を包み込む。

彼女の心から、安心、安堵といった気持ちが伝わってくる。


それにしてもこの船にはなぜ彼女一人しかいないのだろうか。

能力で探してみても、人間の生命反応は彼女しかいない。

虫や植物のような生命反応は多数あるが。


こういう場で研究する上で一人しかいないというのはありえるのか?。


おおかた、自殺や事故で彼女の仲間は死んだのだろう。

宇宙船で地球との連絡が取れなくて孤立状態、それを3年と半年ほど。


そんなに人間は強くないのだ。


「……すぅ……すぅ……」


と、その時、僕は彼女の意識が消えていることに気づいた。

眠っているだけ?……と考え僕はすぐにその考えを取消した。


違う、これはただの眠りじゃない。


彼女の身体を能力で調べる。


「UEの影響か」


やってくれる。

今現在、僕の身体の周囲は薄いUEの膜で覆われている。

僕が生身で宇宙に来れたのはこの膜の影響も大きい。


だが、これは本来人体にとって毒なのだ。

あの日のように、彼女は死のうとしている。


僕が持ち込んだUEと言う名の毒によって。


「させないさ、そんなこと」


幸いにして、今の僕は無力じゃない。

自分のケツは自分でふけるのだ。


「生命操作」


彼女の細胞一つ一つに人間には存在していなかった小さい細胞小器官が生まれる。

今僕が作ったものだ。

それは酸素を取り込むミトコンドリアのようなもの。

UEを取り込みエネルギーに変える細胞小器官。


目を瞑る。

影響を最小限に、彼女の身体を変質させる。


勝手に身体をいじくることを許してほしい。

そうしないと人間という種はこの世界に生きる権利すらないのだから。














ソーフィヤは自分が今どこにいるのかわからなかった。


暖かい……ずっとここにいたい……。


ここまで安心できたのはいつぶりだろう、三年ぶりいや違う。

もうずっとずっと前、赤子の頃だ。


お母さん……?


何かに包まれている。暖かいふわふわの何か。

薄っすらと目を開ける。


そこにはまだ青年と少年の間のように見える男の子がいた。

優しそうな顔立ちだ。瞳には奇妙な赤い輪が浮かんでいる。


少年は目を閉じて自分の頭に両手を当てている。

あれ、なんでこんな状況になってるんだっけ。


頭がはっきりとしない。

ソーフィヤは目だけを動かして周りを観察した。


あ、翼生えてる。


「キャアアア」


現状を認識したソ―フィヤは飛び起きた。

ソ―フィヤがそんな声を出したのは、子供の頃以来だった。


無重力下のため、天井に頭が当たりそうになるのを右手で防いで、足元を見る。


そこには純白の翼が生えた東洋系の顔立ちの少年がいた。

驚いた顔でこっちをみている。


「き、きみは?」


口から出る言葉はロシア語。

驚きのあまり、英語ではなく母国語がでてしまった。


慌てて英語で言い直そうとすると


「僕の名前はヒカル」


少年の口から出てきたのもロシア語であった。


「き、きみロシア語話せるのか?」


少年はうんと頷いた。

地球の大地から高度400キロの宇宙の一角に、翼らしき何かでで飛んできた謎の少年はロシア語を喋っていた。


ソーフィヤは頭がパンクしそうだった。今までの常識、勉強したことがすべて破壊されかけていた。








ソ―フィヤは、矢継ぎ早に質問をした。

君はなんなのか?。

宇宙人?それとも天使様?

その翼はどうなってるの?何故飛べるの?。

なぜ宇宙空間で生身で生存できるの?

呼吸は?

歳は?。

人間なのか?。

どうして宇宙に?。

いま地球はどうなってるんだ。


ヒカルはゆっくりと質問に答えた。

僕はおそらくいわゆる超能力者と呼ばれるものだと思う。

魔法使いかもしれない。

歳は19、精神年齢は16歳だけど。

変なことはだいたい超能力。

宇宙に来たのは、自分でもわからない、ただ生き残りがいるかと思ったんだ。

地球は……だれもいないよ。もう誰も。


色々省略したが、ヒカルは誠実にはっきりと質問に答えていった。

地球がいまどうなってるかあたりの質問は、ヒカルもソ―フィヤも表情を失っていた。


「そうか……」


両親も、妹も、高校の同級生も、もう誰一人として生き残ってはいないらしい。


ソ―フィヤは顔に出さないながらも少なからずショックを受けていた。家族が生き残ってはいないという事実よりも、その事実を聞いてまったく揺れ動いてない自分の心に。長い孤独な宇宙生活が、もともと感情を出すのが苦手だったソ―フィヤの心をさらに摩耗させていた。


「え」


何故かソ―フィヤはヒカルを抱きしめていた。

孤独。いままでも孤独だと思っていたが、家族の死に何も感じない自分の心に気づいたとき、その寂しさを一層深まった。そしてその寂しさをどこかに持っていこうと思ったら勝手に身体が動いていた。


「ソ―フィヤさん?」


暖かい。

本当に。








そうして、なんやかんやで光の宇宙生活が始まった。









翌日である。あの後、僕はすぐ気を失ったらしく、ソ―フィヤさんが寝床に運んでくれたらしい。流石に生身で大気圏突破は疲れたのだ。

肉体的にというか精神的に。


そして朝、僕は最高の目覚めをした。

たぶん生まれて一番の目覚め方である。


目を開けたら目の前にソ―フィヤさんの寝顔があったのだ。

僕はこの日を一生忘れないだろう。

超絶ハイパーウルトラスーパー美人が僕に抱きつきながら寝ているのだ。


普通の男なら、もう見ただけで失神するね。

僕、12回くらい失神したし。


ソ―フィヤさんも長い孤独な宇宙生活の中で人恋しかったらしく、色々と無防備だった。

よくこんな翼生えてて生身で宇宙で生存できる得体の知れない生物に抱きついて眠れるなと思わんでもなかった。


そして現在ソ―フィヤさんは朝食準備中である。


それにしてもクッソかわええええなこの人。

何だこの人、本当に人間か?。

女神様じゃないのか?。


料理をするソ―フィヤの横顔を見ながらそう思った。

信じられないくらいかわいい、というか美人。


ブロンドの髪を後ろでまとめて、彼女は包丁を握っていた。

高い身長に、スラリとした長い脚がひどく蠱惑的だ。


脚長え……。踏まれてえ……。


外国人だからだろうか、背が高い。

170後半はありそうだ。


キリッとした瞳には、明らかな「できる女」感がでている。

キャリアウーマン感といえばわかるだろうか、日本語で言い換えたら知的な女性だ。


それにしてもソ―フィヤさんはさっきから何作ってるんだろう。

なにか、見慣れないものがフライパンの上に乗っている。

ソ―フィヤさんは慣れた手際で、謎の食材を一切のためらいを見せず調理していく。


「ソ―フィヤさん、今何作っているんですか?」


ソ―フィヤさんはゆっくり振り向いてこういった。


「カイコの甘辛煮だよヒカル」


カイコか……。カイコってなんだっけ、ロシアではソーセージの一種なのかな?。

それとも宇宙食?。


あーどうしよう。ソ―フィヤさんの記憶思い出しても、虫しかでてこない。

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