第26話 ウマイウサギモドキ


パチリと目を開ける。

丸太が並んだ、知ってる天井だ。

壁にかけられている時計を見ると、深夜4時。


戻ってきたんだ……。


そう、ここは僕の家。

ゴーレムたちが作ってくれた、すべてが丸太のウッドハウス。

壁も天井も、出入り口もすべてが丸太。

それでも、


「さすがに宇宙よりは落ち着く」


あれから、サンとめいっぱい遊んだ後、僕とソ―フィヤさんは寝た。

もちろんエロい意味でなく、睡眠的な意味で。


もう爆睡であった。


くるりと回って、横を見る。

そこにはソ―フィヤさんが布団ですぅすぅと寝息を立てていた。


さすがソ―フィヤさん、寝ている姿もお美しい。


さすがに疲れたのだだろう。

精神的にも、肉体的にも。

起こさないようにしようと。


それにしても、自分は変な時間に起きてしまった。


ゆっくりと音を立てずに起き上がる。

扉もなにもない入り口。


ゆっくりと半円状の丸太でできた出口をくぐると、まだ薄暗い空にいくつもの星が輝いていた。


「あそこにいたんだよな……」


空を見上げてつぶやく。

視線を前に戻し、周囲を見渡すとウッドハウスの横でサンが丸まっており、ゴーレム戦隊は、このウッドハウスを中心にして正方形に配置されていた。


ゴーレム戦隊には、この家の守護も任せているのだ。

野生動物などが近づけば動き出し、それ以外では微動だにしない。


静かだ。


すーと息を吸う。


透き通った空気とでも言うのだろうか。

清涼な空気。


三年前、崩壊してすぐの臭いは酷かった。

周りが死体、死体、死体だらけで、腐った肉と血の匂いでなれるまでは吐きそうであった。


あれから随分とときがたった。

もう死体はほとんどない。


世界は人間がいなくても回っていく。

そんなことを感じさせる。


「……」





帰ってきたんだ……。










朝である。

太陽は僕らが帰ってきたのを歓迎するように、さんさんと輝いていた。


「いい天気だな」


今のはソ―フィヤさん。

僕はあの後、一度寝てソ―フィヤさんに起こされた。


今の時刻は朝7時。


「ヒカル朝ごはんはどうしようか」

「ハッ、そういえば」


そう、我が家にはなにもないのである。

冷蔵庫という文明の利器を失った我が家には。


「久しぶりに狩りに行きますかー」

「狩り?」

「狩り」

「何を狩るの?、鹿?」

「美味しいやつ」


ソ―フィヤさんは、少し首をかしげていた。

僕は、”声”の能力を応用し獲物を探した。








近くで見るとさらにデカイ……。

ソ―フィヤは、そのゴールデンレトリバーの大きさに驚いていた。


名前はSUN。ヒカルが子犬の頃から育てたペットらしい。

筋肉や骨組織はどうなっているのだろう。

心臓に掛かる負担は、そんな言葉がソ―フィヤの頭によぎる。



(それにしても……)


小型ステーションNOAHから、地表を観察してだいたいわかっていたがここまで世界が変わっているとは。


まるで、モンスターパニック映画の世界のようだ。

研究が研究だけに生物学を齧っていたソ―フィヤは、その生態にめまいを起こしそうになった。まるでデタラメだ。崩壊前の生物でもおかしかった生物はいたがここまでではない。


今現在、ソ―フィヤはヒカルと巨大ゴールデンレトリバーサンとともに狩りに受かっていた。

狩猟か……。


昔、お祖父様が狼を狩りに行っていたのを覚えている。

ロシアでは、一時狼狩りが盛んであった。


「ソ―フィヤさん、獲物見つけた」

「どこ」

「ここから、北東12キロ離れた場所にすごい美味しい生き物がいるんだ」


ヒカルが言うには食べられる生き物なら割とそこらにいるらしいが、美味しい獲物となると数は結構少ないらしい。


「じゃあ行こうかサン!」


ヒカルに手を取られて、巨大ゴールデンレトリバーの上に乗る。

ゴールデンレトリバーはこちらを見て、少し不服そうにしながらも背を屈めた。


「揺れるけど、楽しいから」


ヒカルは笑ってそう言った。







あのあと、めちゃくちゃ揺れた。

三半規管を調整しなかったら吐いていた。







ゆっくりと、ソ―フィヤは茂みから顔を出した。

もちろん隣には、ヒカルも一緒だ。

背後にはサンが、頭を下げて小さくなっていた。


「ほら……あれ見て」


ヒカルが指差した先には、一匹の動物がいた。


「うさぎ……か?」

「そう」


そこには、二足歩行のうさぎらしき動物がいた。

大きさは2メートルほどだろう。


ソ―フィヤはそれを童話に出てきそうなうさぎだと思った。


「あれを食べるのか……」


ソ―フィヤは正直乗り気ではなかった。

ヒカルは少しむっとした表情で言った。


「虫は遠慮なく食べるくせに」


昆虫食として認められている虫と、、大きなぬいぐるみのようなうさぎらしき生物は色々と違う。


ヒカルがサンと、目を合わせる。

そして、サンは一気に飛び出していった。


驚いたうさぎは、慌てて逆方向に逃げていく。


「速い」


驚いた。

時速100キロはあるのではないだろうか。


それにあの初速、まるでチーターだ。


なぜあの巨体で、あんなにも早く動けるのだろうとソ―フィヤは思った。

有袋類双前歯目の一群、カンガルーなどの走り方と同じだ。


だが、あのうさぎもどきにはカンガルーのような太い尾はない。


あのウサギモドキと同じ走り方をするカンガルーは、後ろ脚が発達しており、太い尾でバランスをとって跳躍する。だからこそ、四肢を使って走るより、エネルギー消費が少なく、長時間走れる。しかもその速度は、時速70kmほどで走ったという記録もある。


(解せない……)


なぜボールのような尾しかないのに、走れるのだろうか。

うさぎの尾の役割は、仲間内でも感情表現のためのものだ、カンガルーのようにバランスをとるためのものではない。


なのになぜ、あのような走り方になる?。

通常のうさぎは左右の前手を交互に出し、発達した両脚を同時に出して跳躍しながら走る。


なぜあのウサギモドキは前足を使わない?


すべての物事には理由がある。

あの走り方にも間違いなく理由があるはずだ。

ある……はずなのだが……。


ぬいぐるみのようなうさぎが逃げた先には、ヒカルが待ち構えていた。


「今夜はウサギ肉だぇ」


ヒカルはそう呟いて、腕を巨大な刃に変化させた。










「美味しい……」


ソ―フィヤは呟いた。


「でしょ」


ヒカルが胸を張った。

それにしても本当に美味しい。

ヒカルが言うにはこれはUmaiusagimodokiという動物らしい。

ヒカルが名付けたそうだ。


ソ―フィヤはウサギ肉を研究の一環として食べたことがあったが、こんなに美味しくはなかった。


前食べたときは、鳥肉のような味だったのだが、どちらかというとこれは牛肉近い。


ただ火で炙っただけなのに、旨味が強く、舌に乗せるとまるで溶けていくようだ。裕福な家庭で昔から良いものを食べていたソ―フィヤが、こんなにも美味しいものを食べたことがないと思うほどだった。







ソ―フィヤは今までこんな経験したことがなかった。

すべてのことが新鮮だ。


デタラメな世界であるが、世界には謎が溢れている。

それを一つ一つ解き明かしていくのも一興かもしれない。


自分が崩壊した世界でこんなにも落ち着いていられるのは、ヒカルのおかげだとソ―フィヤは思った。


(この子が一緒にいてくれるから私はこんなにも……)


ソ―フィヤは、ウサギモドキ肉を丸かじりするヒカルの横顔を見ながら薄く微笑んだ。




その後、帰宅しゆっくりと睡眠をとった。

少しずつ、文明が崩壊した地上での生活にソ―フィヤは慣れてきていた。












今日の日記

『久しぶりに日記を書く。

宇宙から帰還して二日目の夜。

今日は狩りにいった。

ウマイウサギモドキを食べた。

あれは本当に美味い。

ソ―フィヤさんも「美味しい」と言っていた。

明日はどうしよう。

そろそろ現代っぽい生活をしたいと思う。

風呂もない、電気もない、ゲームもない、ぶっちゃけ何もない。

3年間寝てしまったせいで全部消えた。

それに……UEの謎も、A001MBSについても調べないといけない。

やることは多い。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(字が乱雑で読めない)

もう寝ます』




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