第13話 鳥になった僕

黒いフードをかぶった怪しい男が人影一つない崩壊した街中を歩く。

まあ、僕なんだけど。


街は相変わらずの光景だった。むしろ時が経ち今まで以上に野生動物がよく見られる。


「うわ、ワニいるじゃん」


どこかの動物園から逃げてきたのだろうか、町を横断する大きな川には一匹のワニがスイスイ泳いでいた。


こわ。


今、僕は街を歩いていた。

サンの散歩含め街中の探索だ。


サンは数百メートル先で鳥と追いかけっ子をしている。

頑張れ鳥。早く逃げないと今日のご飯はお前だぞ。


「んー」


暇だ。

回りを見渡す。


いい感じのビル群。家から結構歩いていたようだ。


「お、本屋発見」


ビルの横に、シャッターの閉まっている小さな本屋を見つけた。

小さなと言ってもよこにあるビルと比べたらだが。


裏に回り、ノブを回す。カチカチと音がなる。


「鍵しまってるか」


まあ、当たり前である。

だがしかし。


「我が魔法を見るべし、カギニナーレ」


適当に呪文を唱え指先に意識を集中する。

すると右手の指先がものすごく細長くなる。


そしてその変形した人差し指を鍵穴に差し込んだ。


「うーんここかな」


鍵内部をさぐり、少しずつ内部を理解する。

その内部に合わせて中で人差し指をまた変形させる。


そしてくるりと回した。

カチッと音がする。


開いた。


中にゆっくりと入る。


「結構、綺麗」


その本屋はきちんと戸締まりされてたため中は綺麗だった。

店員の死体もない。


「さすがにシャッターもしまってるから見えにくいな」


後ろには窓があるため少しは光が入るのだがやはり見えにくい。

変形した人差し指をもとに戻し今度は右手を閉じた目に当てる。


能力を使う。


そして目を開けた。薄暗かった視界が鮮明に映る。

今の僕の目を人が見たら驚くだろう。


なぜなら今の僕の目は人間の目ではないのだから。

猫目。黒い部分がまっすぐたての目。


「もう少し調整するか」


猫の目はすごい。暗いとこがよく見える。

本によれば人間の七分の一の光量でも十分らしい。


そのぶん視力は弱いがそれもいい感じに調整する。

すると暗い場所でも本が読めるようになる。


適当に本を取り表紙を見る。


「面白そう」


透明なカバーをとり中を一ページ目をめくる。

へー女戦士ものか。


面白そうだな。

僕はサンの”声”を聞きながら漫画の世界に入っていった。












パタンと漫画を閉じる。


「面白かった」


これは僕のお気に入りリスト決定である。

そのくらい面白かった。


「にしても」


敵の能力の使い方が面白いな。

敵側は僕と近い能力を持っており、それで分体を作って主人公を翻弄していた。


「分体か」


やってみるかと僕は外に出る。

眩しい。暗い場所に調整したため急に明るいとこに出るとほんとに眩しい。


目に手を当てまた調整し直す。


「よし」


準備完了である。

右手を硬質化する。


刃のように鋭く。


すると右腕は巨大な刃のようになった。


「よっこらせ」


腰を下ろすように発しながら僕は刃になった右腕で左腕を切断した。

ぷしゃーと血が出る。


痛みは感じない。こうすると決めたときに痛覚は切っていたのだ。


血が止まる。そして切断された左肩の断面から新たな腕がにゅるんと生えた。


さてここからだ。


地面に転がる切断された左腕がうねうねと変形する。

肌色のスライムみたいだ。


うーん、どうしようかな。

とりあえず目は必要か。すると肌色のスライムに目ができる。

視界が繋がる。おお、すげえ。


それと翼も欲しいかな。すると目のある肌色のスライムにバサッと翼のようなものができた。空は飛べると便利だしね。


特に人形にする意味はないか。うーん。

動物。僕はさっきサンと追いかけっ子していた名も知らぬ鳥のことを思い出した。


「普通に鳥でいいか」


少しずつ形が定まっていく。

そして。


「完成!」


そこには地味ーな鳥が居た。

人間の僕が鳥を見ている視界と鳥の僕が人間の僕を見ている視界が交わる。


バサバサと翼を動かす。

うむ、順調。


鳥の僕がとりあえず飛んでみる。

おお、面白い。


二つの感覚が交じる。

自分がラジコンになっているかのような変な感覚。

使えそうだ。


「決めた」


この鳥の僕で日本中を探索しよう。

僕の能力はUEや適応した動物を吸収するほど進化が早いのは経験済みだ。


鳥の姿であるがきちんと能力は使える。行く先々で適応した生き物とUEを吸収しまくろう。


それと、もしかしたら生き残りがいるかも知れない。

それも探そう。


「やばい天才か」


探索を鳥の僕に任せ本体の僕は家で引きこもってゲームしてればいい。


やばい僕は天才かもしれない。

かしこい。


鳥の僕は飛び去っていった。


くいと何かに服を引っ張られる。

サンだ。


サンは”何だ今の”と言うような目で鳥の僕が飛び去った方向を見ていた。










鳥の僕は悠々に空を飛んでいた。

やっぱり空を飛ぶのは気持ちいい。


人間の体ではできないような動きも鳥の体ならできる。


すると空中のはずなのに横から”声”がした。


鷲が滑空している。僕を狙ってるようだ。


「ピピイ(かかってきな)」


唐突に空中バトルが始まった。

鷲が僕に突っ込んでくる。


身体をくるりと回す。


ふっ甘い。


かわされた鷲が今度は斜めから突っ込んでくる。


僕は翼を大きく広げ一気に急停止した。


鷲はいきなり止まった僕に驚いて変なとこに飛んでった。

だが急旋回してまたすぐに戻って来る。


はやい。


僕が小賢しい動きで鷲をかわしても鷲はすぐに追いついてくる。

ちっ、やはり身体の性能が違うか。


空中には逃げ場がない。基本的に身体の性能で勝敗が決まってしまう。


「ピピ(やるなっ)」


ならば。

こちらも身体の性能をあげるまでのこと。


僕の身体が変化する。

正確には僕の翼が。


翼のちょうど真ん中。

羽と羽の間からボールペン半分くらいの筒が現れる。


今の僕の姿はまるで小さな旅客機のようだろう。


小さな筒が火を噴く。


鷲の姿が消えた。はるか後方をみると鷲がきょろきょろ僕の姿を探していた。


勝った。ふっ鷲風情が僕に勝てると思うなよ。


僕は旋回し、鷲に向かう。


僕に気づいた鷲がこちらを向いたときにはもう遅かった。


もはや僕の身体は鷲の身体にくっついていた。


「ピッピ(フリューゲル)」


鳥である僕の背中が膨れ上がりそこから光り輝く大樹の根が飛び出てくる。


終ノ翼フリューゲル

光り輝くそれは僕の背中から飛び出し、鷲の身体にいくつも突き刺さる。


「ピピ(ドレイン)」


瞬間、鷲の身体が干からび、鷲は絶命した。


「ピピピ(ごちそうさまでした)」


鷲の生命力やUEが僕の身体に流れる。

僕の身体が一回り大きくなった。


光り輝く大樹の根を引き抜く。

すると鷲のミイラが下に落ちていった。


僕はそれに一度翼を合わせた後、また翼を羽ばたかせた。


生き残ってる人いればいいなあなんて思いながら。




『今日の日記

今日、僕は一人と一羽になった。人間の僕は家に居て、鳥の僕は今は秋田の空にいる。今も視界と感覚はつながっている。うーん、これを誰かが読んだらまじで意味わからないだろうな。

それと少し、自分の能力がわからなくなりそうなのでまとめてみる。

第一の能力「なんとなく生命が考えていることがわかる」

第二の能力「生命の塩基配列や記憶などの情報を解析する」

第三の能力「”自己進化”自身の身体を都合のいいように変化させる」このくらいか。

今日はこれで、おやすみ』

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