第12話 「目覚めよ我が天の羽衣よ」
トン、トントンと頬を叩かれる。
いや叩かれるというか突かれてる。
痛え。
なんか暖かい。
薄っすらと目を開ける。
朝だ。
いつの間にか意識を失っていたらしい。
横を見ると肩に鳥がいた。
「うわあっ」
驚いて後ろにのけぞる。
鳥はそれに驚いて空に羽ばたいていった。
そのまま膝をついたまま寝ていたようだ。
周りを見渡す。
「なんだこりゃ」
僕の回りには異常な数のミイラが存在していた。
全部で百体くらいいるだろうか。
近くには車と刀がきちんとある。
「あー」
思い出した。
コープスワームから情報を抜き取ったあとすぐに謎の頭痛が襲ってきて意識を失ったんだった。
そして起きたら回りにコープスワーム寄生死体がたくさん襲ってきてて。
「よく生きてたな僕」
適応段階が上がったのは本当に悪いタイミングだったがそれで切り抜けられたのはなんとも言えない話だ。
手のひらを開いたり、閉じたりする。
僕は昨日、新たな能力に目覚めた。
”自己進化”
それが僕が昨日得た能力。
例えば。
「おっ生えた」
僕の手のひらから更に小さな手が生えていた。
これは簡単に言えば身体を自由に変化させる力。
まあ正直、進化というよりは変態であるが進化のほうがなんとなくかっこいいのでそう命名した。
ほら、某育成ゲームも変態のことを進化って言ってるし。
「にしても本当に完全に人間やめちゃった」
今の僕は正直言ってトンデモ生命体である。
恐らく身体が半分ちぎられても数秒で再生し、やろうと思えば深海にも生身でいけるだろう。
いや、深海だけではない、宇宙にすら行ける気がする。
手のひらから生えた小さな手がジュルリと音をたて手のひらに戻っていった。
うーんなんかエグい。
昨日、背中から飛び出した光り輝く大樹の根のような翼は僕がコープスワームを絶命させるために考えたものだ。
根の先端に触れれば対象のUEや、水、生命力を一瞬で吸収し自分のものにする。
コウモリが血を吸うように。
植物の根が死体から栄養をもらうように。
いかにコープスワームと言えど、一瞬でほぼすべての生命力、エネルギーを吸収されれば即死する。再生できようが分裂しようがそのエネルギーがないのであればどうしようもない。
「ふむ、さしずめドレイン・ウィングと言ったところか……」
…。
やっぱなんかダサいからやめよう。
「
かっこいい。
あの技の名前はこれにしよう。
確か小さい頃にみた漫画に、これと似た技感じの技が合った気がする。
それから技名をつけた。
うーんと背筋を伸ばす。
とりあえず一段落である。
「帰るか」
僕は地面落ちてた刀を取り、車に向かった。
***
なんやかんやで三ヶ月の月日が流れた。
光陰矢の如しとはよく言ったもので、崩壊した世界でも時間はいつのまにか過ぎていった。
その三ヶ月僕が何してたかと言えば。
「そこっ、避け、へ、ブレスそんな一瞬で動か?ふざ、ちょ、ま、まって、うわああああああああ!」
画面の中でキャラクターがドラゴンからでたレーザービームをうけて消滅した。一瞬でHPバーが消えた。
「ええ、一撃って……」
ええ何こいつ、まじで強すぎるんですけど……。
コントローラーをテーブルの上に置いて立ち上がる。
うーんと背筋を伸ばす。一日中『クリハン』をしていたからか色んな部分が凝っている。
そう、僕、佐藤光はこの三ヶ月間ほぼ引きこもってゲームをしていた。
外に出るときと言えば基本サンの散歩か狩りだけである。
ある意味夢のような生活。
後ろを見るとサンがベッドの上であくびをしていた。
異常にでかくなったサンが。
「それにしてもデカくなりすぎだろ」
そう、サンはこの三ヶ月でめちゃくちゃ成長した。
もう成犬並である。
部屋の隅の本棚から犬に関する本を出す。
「えーと、大型犬の成長期はだいたい二年ほど」
サンがここまで大きくなったのは三ヶ月。
「早すぎ」
サンがゆっくりと立ち上がる。
そして”狩り行こう、ご主人さま”と”声”で言ってきた。
「めんどくせえ」
そんな僕の抗議を無視してサンは僕の服を引っぱる。
そして一階まで僕は引きずられていった。
陽の光に照らされる。
うっ眩しい。
引きこもりにこの光はつらいです。って言っても3日に一度はでているんだけど。
それはなぜか。
サンのご飯のためである。
もはや霞だけで生きていける中国の仙人のようになった今の僕は食事を必要としない。
なので外に出る時は基本、サンの散歩か狩りのときだけなのだ。
サンが”どっち”と聞いてくる。
僕はそれにあっちと指をさす。
するとサンはものすごい速度で走っていった。
ものすごい速度を具体的にいうとだいたい時速200kmくらい。
サンはUEと僕の能力の影響で身体が大きくなると同時に異常な身体能力を手に入れていた。
簡単に言えば、一匹でゾウを仕留められるくらい。
そんな身体能力を手に入れてもやっぱり一応心配なのできちんと”声”でサンと獲物を追う。
物事に絶対はないしね。
「目覚めよ我が天の羽衣よ」
支配者ポーズをしながら誰に向かってでもなく言う。
すると僕の背中が一瞬膨れ上がりそこから巨大な純白の翼が現れた。
片方6枚、両方合わせて12枚の純白の翼。
ビルのガラスに写った自分を見る。
か、かっけえ。
バサバサと6対の翼を動かす。
か、かっけえ。
しかも驚くなかれ、この翼は見た目だけではない。
ちゃんと飛べるのである。
まあ、飛ぶためにはいろいろ試行錯誤したのだが。
まず翼の浮力だけでは飛べなかったので体重を極限まで減らした。
さっきまで63kgだった僕の体重が今は32kgくらいに調整した。
これ以上は根本的に体を変える必要があるため断念した。
そして今度は飛べたはいいが、バランスが取れなかった。
はじめの頃は高度100メートルあたりから何度も地面に叩きつけられたりした。
痛覚を切っていたので痛みは感じなかったが、100メートルから落下した身体はものすごかった。いや色んな意味で。
そんな傷……損傷も数秒で再生したからいいのだが。
で結局人間の脳では鳥のようにあんな器用に動かすことが難しいとわかったので、今度は鳥のマネをした。
正確には鳥の脳の構造のマネ。
具体的には無理やり小脳と中脳を発達させた。
生物の脳の構造というのは、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、爬虫類で結構違う。
鳥がなぜ綺麗に空を飛べるか、それは体重が軽いということや気嚢という臓器の影響もあるが脳の割合が根本的に人間とは違うのだ。
小脳とは運動の調節を司っている。
中脳は視覚、姿勢反射などを司る。
鳥類はこの二つが発達しており、この脳の構造を真似たら空を飛べるんじゃと僕は考えたのだ。
能力の影響で完全生物になった僕には脳の構造を変えるくらいインスタントラーメンを作る並にお茶の子さいさいなのだ。
すげえ、もう完璧に人間じゃねえ。こんな姿、隕石落下前に見られていたら怪しい組織に拉致され速攻で研究所行きである。
脚に力を溜める。そして地面を思いっきり蹴った。
視界が青一色になる。
下を見ると30メートルは飛んでいた。
10メートルはある純白の翼が羽ばたく。
ゆっくりとバランスを取り、空中に浮遊する。
遠くにサンの姿が見える。
そのさきには一匹の野生のイノシシ。
サンがイノシシに飛びかかる。
一応すぐ駆けつけられるよう準備をするがその心配は杞憂だったようだ。
サンが飛びついて一秒もかからずイノシシは絶命した。
首もとを大きく食いちぎられていた。
ウォーウーンとサンが遠吠えをする。
どうやら呼んでいるようだ。
ゆっくりと近くに降りる。
それにしてもネズミを捕まえるような動きで仕留めやがって。
しかもゴールデンレトリバーが。
血塗れの口を大きく開きながらしっぽをブンブン振って近づいてくるサンを見て僕は複雑な気分になった。
『今日の日記
朝ゲーム。その後、サンの散歩兼狩り。サンはイノシシを半分分けてくれた。優しい』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます