第14話 適応段階4


僕は薄暗い部屋でカレンダーを見る。


「そろそろ一ヶ月か」


僕が一人と一羽に分裂してはや一ヶ月。

そろそろ帰ってくる頃だ。


というかもうこの町の空にいる。


僕は窓を開け屋上に向かった。


素足のまま屋上に到着する。


ひーと息をつく。

そして僕は空を見た。


そこにはいた。

巨大な鳥が。


それにしてもでかすぎるだろ。

体重何キロだよ、よくその体で飛べるものだ。


ほんとうにジャンボ旅客機くらいあるぞ。


僕も背中から6対の翼をだして空に翔んだ。


「ピピ(ただいま)」


「おかえり」


僕と鳥の僕の身体がくっつく、二つの身体がスライムのように混ざっていく

いや僕の人間の体が鳥の体に取り込まれていく。


二つの僕だった存在が一つになっていく。


そして最終的にもとの人間の身体になりすべてが吸収された。


トンと家の屋上に降りる。


「あー」


結論から言おう。日本に生き残っている人は居なかった。

北海道から沖縄まで”声”を使いながら回ってきたが人間の声はしなかった。


僕の”声”を聞く能力は生きているなら例外は存在しない。

寝ていてもその”声”が聞こえる。


そしてUEの影響で今は軽く県一つくらいは覆えるようになった。


つまりわかっていたことだが今日本に僕以外人間がいないことが確定した。


いや僕も人間かどうか怪しいか。こんな身体が木っ端微塵に破裂しても一瞬で再生する化物……。


「……」


ふー。これからどうしようかな。


日本に人はだれも生き残っていない。

そんな絶望的な状況。


いやこれならおそらく外国も。


と、目眩が襲ってきた。


「能力進化か」


もうこの感覚にも慣れたものだ。

視界がくるくるまわる。


ゆっくりとバランスを取りながら部屋に戻る。


とてつもない頭痛を感じながらベッドにダイブする。


「こんどは何かなあ」


僕は絶望的な気分のまま意識を失った。









パチりと目を開ける。

知ってる天井だ。


ゆっくり身体を起こし、手を開いたり閉じたりする。


「そういう能力か」


僕は実験のために庭に降りた。

庭ではサンと拾った鶏二匹が遊んでいる。


そして今ではひよこも数匹いる。


「お母さんの方は……と」


とさかが小さい方の鶏を持ち上げる。


「コケ、コケ」


今のは僕じゃないよ。鶏だよ。

メスの方の鶏を持ち上げながら新たに得た能力を使う。


鶏の情報が流れ込んでくる。鶏を地面に下ろす。


これだけなら第二の”解析”能力と一緒だ。


だが新たに得た能力はインプットだけではない。


複製クローニング


僕の目の前で空間が歪む。いや歪んだように錯覚する。

その歪みの中心そこに小さな球体が現れた。


重力に逆らい空中で浮遊している半透明の球体。


半透明の小さな球体が少しずつ大きくなる。


ビー玉くらい、ガシャポンポンの玉くらい、そしてバスケットボールくらい。

そして半透明の膜に覆われたバスケットボールくらいの大きさになった球体は空中で静止した。いや半透明の膜の中にまたもう一枚半透明の膜があり、中の球体だけがくるくると回っている。


半透明の球体の中の中には何かの生き物が居た。

パチンと膜が破裂する。


そして中にあるもう一つの球体がゆっくりと地面に落ちる。


そしてその中から透明な殻を破るようにその生き物は現れた。


「コケーッ!」


あ、ちょっとパニクってる。


少しパニクってるその生き物は鶏だった。


ただの鶏ではない。さっき僕が持ち上げていたメスの鶏と完全に同一の鶏。


身体的な特徴でだけではない、記憶すらも同じ鶏。


”寿命も記憶も同じ完全なクローンを作る”


それが僕、佐藤光がUEに脳みそをいじくり回されて得た新たな能力。


「いや、ここまでくるとほんとに魔法か」


まるでUEが僕に何かになってほしいとでも言うように僕は新たな能力を得た。










今まで居たメスの鶏と能力で生み出した完全に同一の鶏は巣に走っていった。


さてここからだ。クローンには様々な問題がある。

伊達に社会が禁止しているわけではない。


鶏の家族は同じメスが二匹現れたことで混乱しているようだった。


だがしばらくするとその混乱は収まった。


なにもない。クローンの鶏もオリジナルの鶏も仲良く餌を食べている。


「んー」


やはり自己認識できないからこその成功か。

恐らくオリジナルの鶏が自己を自己として認識できないからああやって仲良くご飯を食べれるのだろう。


動物は意外と自己を認識できないものが多い。


だからこその成功か。


だがこれを成功とするならば自己を認識できる別の生き物でも能力を試さねばならない。


例えば、イルカやチンパンジーなどで。


だが結構残酷かと僕は思い直した。


「まーいっか、これで食べられる卵は二倍だ」


ぐへへ。卵料理最強だぜ。卵がないと生きていけない。特に親子丼最高。

この世界になってまだ一度も食べれてないけど。


食べられる日は近そうだ。やったぜ。


別にご飯を食べ得なくても生きていけるがやはり娯楽としては美味しいものを食べたい。








まだ実験中である。


「サン!」


庭で遊んでいるサンを呼ぶ。

しっぽをブンブン振って近づいてくる。サンかわ。


「狩りに行こう!」


いつもはサンから言うが今日は僕から言った。

サンは僕が玄関を出る素振りをするとだいたい理解したようだ。


うわ、めっちゃ嬉しそう。


サンとともに外に出る。


「さあどこだ」


”声”を探る。近所、街、小さな波がソナーのように広がる。


いた、ここから3キロ先の公園に鹿の群れ。


サンに指をさす。するとサンがミサイルかと言うほどんの勢い走っていった。


「いくか」


僕も走る。人間の最高速度を超えた動きで。

脚を動かすたびに脚の骨と肉が断裂するが、一瞬でそれも再生する。


景色が線になる。


時速500キロは硬いだろうか。


一瞬で景色が変わる。


この体にも慣れたななんて思ってたらサンの姿が見えた。


追いついた。


30秒もかからずに公園につく。

鹿達はまだ僕に気づいていない。


そして一番近くにいた、鹿の首を右手で掴んだ。


他の鹿がそれに驚いてすぐさま逃げていった。

指先を刃に変形させすぐさま捉えた鹿を絶命させた。


「悪いな」


サンが少し遅れて公園に到着する。

僕の手に鹿が持ち上げられているのを見て少し悔しそうだ。


今日のご飯ゲット。


だが今日の要件はこれだけではない。


僕は鹿が完全に絶命したのを確認し、さっき得た能力を使った。


鹿の情報が流れ込んでくる。


複製クローニング


空間が歪んだように見える謎の現象の後、また半透明の球体が現れ少しずつその形が大きくなっていく。


ビーダ玉くらい、テニスボールくらい、バスケットボールくらい……。


まだ続くのか。先程はバスケットボールくらいで止まった半透明の球体はまだ大きくなるようだった。


「鹿の大きさ分ってことか」


最終的に半透明の球体は大きなバランスボールくらいの大きさで落ち着いた。

また膜が割れる。


そして中には”生きた”鹿がいた。


鹿は膜からでてきてすぐに群れが逃げた方向に走っていった。


サンがそれを追いかけようとするが手で止めた。


「成功か」


サンとオリジナルの鹿の死体の間で僕はつぶやいた。

僕が新しく得たこの能力は死体にすら作用する。


記憶も遺伝子もなにもかも同じ生命体を生み出せる。

今、走っていったクローン鹿はいつもどおり群れに帰るだろう。


どの個体も一匹の鹿がクローンに置き換わってるとは気づかない。

生み出されたクローンの鹿すらも。


「……」


まるで死者蘇生だ。

すべてが同一の存在は何もかもがオリジナルと同じだ。


身体も、性格も、寿命も、記憶も。


それは死んでいた鹿が蘇ったと言って何が違うのだろう。





「この能力を使えば」


人間を生き返らせれる。

だが。


「生み出された人間がこの世界をどう思うか」


か。自身がクローンと気づくこともあるかもしれない。


「って」


そこまで考えて僕は気づいた。

無理だ。


この力を使い、人間の死体のデータから生前と完全に同一の生きた状態の人間を作る事はできる。


だがそれだけなのだ。


生き返った瞬間、その人間は即死する。


なぜなら、UEに人間が適応できないからである。


結局、その問題を解決しないことには人間はこの世界で生きていけない。


「まあ、全人類のクローン作るっていうのも無理だけど」


なんとも言えない気分だ。









僕はこの後、サンと一緒に鹿の死体を引きずりながらゆっくりと家に帰った。


こんな感じで新たな能力の実験は終わった。







『今日の日記

わかっていたが日本に生き残ってる人はいなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーー。(汚い字で乱雑に書かれており続きは読めない)』

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