第37話 はじめに人間を100体造り出した
「ヒカル様……起きてくださいヒカル様……」
凛としているのにどこか柔らかさを感じさせる声。
その声で意識が覚醒に向かっていき、数秒後僕は眼を開けた。
そこには、まるで簡易な薄い布を纏っただけの美女たちがいた。
「「「「「御主人様おはようございます」」」」」
「おはよう……」
背中から見える、小さな純白の翼が彼女たちを人外と認識させる。
アレクシア。イリス。ウルスラ。エレオノーラ。オシリス。
僕が作り出した超特異生命体。
「おはようございますヒカル様、顔をお拭きしますね」
金髪の髪をたなびかせたアレクシアが、白いタオルで僕の顔を拭いた。
温かかなタオルで顔を拭かれると、気持ちいい。
「では主様、口の中を洗いましょう」
イリス。美しい黒曜石のような髪の女が、歯ブラシを手に持ち僕の顎を上げた。直後、口の中に感じる異物感。でもその動きかたは優しく、僕は抵抗する気も失いされるがままだった。
「はいマスター、口開けてくれ」
ウルスラ。褐色の肌に白銀の髪の女が、コップに水をいれ、口に差し出してきた。水を口の中に含み、歯磨き粉を洗い流しておく。そして、小さなボウルにぺっと出した。
「我が君、お着替えを失礼しますわ、腕をバンザイしてください」
言われるがまま、腕を上にあげる。
エレオノーラ。紅蓮の髪の美女が、僕にあたたかな服を着せていく。そのやり方は手慣れていてまばたきの間に服を着替えさせられた。
「御主人様……お食事の準備……できています」
ベッドサイドを見ると、青藍の髪をもつオシリスと呼ばれる女が、たどたどしい言葉で食事の準備ができていることを知らせた。
そして、ベッドから立たされた僕は、アレクシアとウルスラに腕を支えられリビングまで移動した。
そして「ヒカル様あ~ん」の言葉と共に食事が始まった。
古代の王様も眼を見張るほど、彼女たちは僕の世話をしていた。
僕はすべてされるがままだった。
彼女たちを造り出してから自分でなにかするということはなくなってしまった。ダメ人間の極地のような生活。まるで甘いはちみつを無限に食べさせられているような生活。僕はこの生活を気に入っていた。
アレクシア。イリス。ウルスラ。エレオノーラ。オシリス。
僕が造り出した絶世の美女たち。
彼女たちが違うのは、見た目だけではない。
その性格。能力も様々だ。
例えば金髪緑眼のストレートヘアの美女。Alexia。アレクシア。
彼女は、この5人の中で、一番しっかりものだ。
他の四人を統括する立場として造った個体。
他四人の能力を統合し、オールマイティーのような能力値だ。
黒髪。浴衣の似合いそうな美女。Iris。イリス。
彼女の性格は、全てを包み込むような献身という言葉がぴったりだった。
得意分野は、研究。
能力値を知能面に割り振り、そういった科学分野に興味を示すように造り出した。だから僕の世話をしていないとき、彼女はずっと研究室か図書室にこもりっぱなしだ。
ウルスラ。褐色銀髪の彼女の性格は、粗野だが、不器用な女性らしさをイメージして造り出した。口調は、オレ口調。そこは譲れなかった。
得意分野は戦闘全般。武器の扱いから使い方まで、そういった分野に能力値を割り振った。身体を動かすことが好きでよく僕を外に連れ出そうとした。
エレオノーラ。紅蓮の髪の彼女の性格は、少しが気が強めだ。
だけど、誰よりも家族思いで優しい女性だ。少し悪役令嬢っぽいといったほが伝わりやすいだろうか。
得意分野は、生産系。生活で必要になる、タオルや洋服、そういったものを制作する才能を強くした。
オシリス。青藍の彼女の性格は、控えめで気弱。
でも、誰よりも料理や掃除が好きかつ得意になるように造り出した
料理は基本的彼女の役目だ。小動物を撫でることが好き。
とまあ、そんな感じで彼女たちの性格は様々だ。
ただ、唯一同じなのは、僕を崇拝し、僕の世話を至上の喜びとしていること。そういう風に造り出した。
僕は快楽と安楽と一種の虚しさを感じながら、この怠惰に日々を過ごしていた。
その生活の中でいろんな遊びをした。
彼女たちにバニーガールの格好をさせたり。
地球全体でかくれんぼをしたり。
誰が一番強いか、闘技場を作らせ戦わせたり。
普通では考えられないような狂った遊びもたくさんした。
彼女たちと遊び、世話を受けながら僕は暗い歓びに浸っていた。
彼女たちのような絶世の美女が僕を崇め、隷属する。
それは幸せと同時に僕の心を少しずつ破壊していた。
こんな生活をずっとしていると、僕はいつのまにかおかしくなっていた。
甘やかされた子供がわがままになるように、傲慢に暴力的に。
いや、ソーフィヤを殺し、一人になったときには僕とっくにおかしくなっていた。
そんな生活が100年くらい続いた。
*
ある日、面白いことが起きた。
一言でいうと、宇宙人が地球に襲来した。
そして、何故人間だけが死滅したかを理解した。
ついでに自分の出生も。
僕は宇宙人だった。
まじで。といっても半分だけであるが。
彼らの目的は、地球を自分たちの住みやすい星にすること。
人間が滅んだのは、そんなB級SFのような理由だった。
彼らは何億光年離れた遠い星からこの星にやってきた。
そしてまず始めに、地球に住む知的生命体を確実に絶命させるため、ある物質を地球に投下した。そう、それがあの隕石である。
だがそれには副作用があった。その物質はある一定の知性をもつ生命体を滅ぼす代わりに、その他の生命体も凶暴化、変化させる。それがUEによって変化した生物たちだった。このままでは、地球で生活できないため、もう一度あの隕石のような物質を投下し、今度はある一定の危険性のある生物だけを滅ぼすつもりだった。そのために彼らは地球に今回訪れた。ソーフィヤさんを一度殺したA001MBSも彼らの兵器だった。
僕の正体は、彼らの先遣隊のハーフ。
彼らは僕の母親に寄生し、僕を生んだ。
そして、本来は生まれるはずのない変異体が生まれた。
母は寄生されてるとも気づかなかっただろうが。
僕は自分の正体に笑った。
ほんとに人間ではなかったのだ。
そして人類が滅んだのもなんの変哲もないただの生存競争。
僕はあまりの馬鹿馬鹿しさに笑った。
そして僕は、彼らを皆殺しにした。
彼らの科学力を奪い、彼らの母星にも訪れ、一匹残らず絶命させた。
胸の中は虚しさだけが満たしていた。
その頃地球では1000年くらいの時間が過ぎていた。
*
NOAHは彼らから奪った科学力によりさらに発展した。
具体的には、宙に浮いた。
まるで天空に浮かぶ楽園のようになった。
始めは興奮したが、次第にそれが当たり前になり、何も感じなくなった。
そして今日も僕は、アレクシアたちに世話されながら怠惰に過ごしていた。
そしてある時、イリスが面白い技術を開発した。
具体的には、手から炎を出したり、冷気をだしたりする漫画のような技術だった。ナノマシン。それがこの現象を起こしている正体だった。
科学によって作り出された魔法だった。
僕はしばらくそれにハマった。
*
魔法があるなら、ドラゴンがいてもいいのでは?ということで今度はドラゴンを造り出すことにした。
そして僕は、ドラゴン、竜と呼ばれる存在を生み出した。
具体的には、以前、インドネシアだった場所にいた、コモドオオトカゲをベースに、炎を吐けるよう生体改造し、巨大化させた。
それは、完全にドラゴンだった。
僕はそれに興奮し、世界を変える歓びを知った。
それからは、気が向くまま生命体をいくつも造り出した。
それは、まるで子供が粘土で組み回せて造ったかのような化け物だった。
僕は彼らを様々な大陸に離した。
彼らの生存競争を見て僕は楽しんでいた。
それは面白かった。
アレクシアたちは、僕を喜ばすかのように、生物の数を調整した。
僕の造り出した生物が増えすぎないよう、餌となる生物が減りすぎないよう。
*
そして僕は、知性のない動物を見るのにも飽き、ついに彼らを造り出した。
知性ある存在を。
はじめに人間を100体造り出した。
文明もなにもない、ただの人間だ。
言葉だってない。理性すら。ただそこらの動物と変わりない。
だけど、彼らは確かに人間だった。
知性があり、繁殖し、命をつないでいく。
いや、唯一違うのは、細胞の中に自己増殖するナノマシンが含まれていること。
かんたんにいえば、彼らは魔法を使える可能性があるということだ。
だが、魔法を使える可能性があると言っても、このまま彼らを外に放り出しては、他のUEによって変化した生物に殺されることが確実だった。
だから、一体だけ特異個体を作りだした。
人間という種族を導いていくように。
その個体は他の個体とは比べ物にならないくらい優秀にした。そしてある程度の知識をその脳に詰め込んだ。
いわば、前の世界の破片。
彼らはたった100年足らずで、数十倍にも増えた。
そして増えた人間たちを、僕はさらに世界中に散らばせた。
人間という種族が発展するように。
彼らの生き様は、僕の退屈をなくした。
*
僕は人間を作り出すと同時に別の知性ある存在を造り出していた。
それは、耳が尖った美男、美女の種族。
僕はその名をエルフと名付けた。
そしてエルフも人間と同じように、100体造り出した。
人間と違うのは、耳が尖っている点、寿命が人間の数倍ある点、人間に比べて繁殖能力が低い点、そして魔法が得意になるようにナノマシンをその細胞に多量に含ませた。
だが、エルフもこのままでは放り出した瞬間、他の生物に蹂躙されることはわかっていた。
だから、エルフにも一体だけ、特別な個体を創り出した。
彼女は、完全に不老にした。
そして知識を与えた。
彼らは人間に比べると繁殖能力が低いが、長命なためその数は順調に増えていった。その特別な一体は始祖と呼ばれた。
*
エルフと人間という種族を造り出した僕は、その味をしめファンタジーの中にしかいないような種族をいくつも造り出した。
まずは亜人。ほかの生物の遺伝子と人間の遺伝子を組み合わせた別の生命体を創り出した。
そう、ファンタジーでよくいる獣人という存在だ。
いやだってネコミミを見たかったんだ。
誰だってネコミミには憧れがあるだろう。
イヌの亜人。
ネコの亜人。
魚の亜人。
熊の亜人。
キツネの亜人。
虫の亜人。
キリンの亜人。
牛の亜人。
兎の亜人。
etc。
彼らは、身体能力が高く、それぞれの生物の特徴を活かすように造り出した。
副作用としてはやはり、人間やエルフに比べ、知能が劣る点だろう。
僕は彼らもそれぞれの100体ずつ生み出し、一種族ずつ始祖個体を造り出した。彼らの文明が発展するように。
彼らも順調に増えていった。
100、143、289、430、603と時間の経過とともに増えていく個体数を見るのは面白かった。
*
そしてあるとき僕は思った。
具体的には、1500年は過ぎたあたりだっただろうか。
やべえ、増えすぎたと。
人間は軽く億を超え、エルフや獣人もそれに近い数増えていた。
彼らは最初、増えて、減ってまた少し増えて、とゆっくりした速度で増えていたが、ある一定のラインを超えると今度は爆発的に増殖した。
それは一つの国が、文明がはじめてできた瞬間だった。
あまりに増えすぎたので、どうしようか迷い、アレクシアたちに聞いてみると、「減らすための生命体を生み出してはどうでしょうか」と言われた。
というわけで、僕は新たな生命体を作り出すことにした。
人間の姿をしているが、不死不老で人間の血を吸い、その数を増やしていく存在。
緑色の肌をした、小男のようで、人間を食べる存在。
緑色の肌をした、大男のようで、人間を主食とする在。
ドラゴンの遺伝情報を組み合わせたこの世で最強の亜人。
それは、ファンタジーで、吸血鬼、ゴブリン、オーク、竜人と呼ばれていた存在だった。
だが、これらの存在をそのまま野に離すと確実に人間を滅ぼしていくことが判明したため、彼らにはきちんとバランスをとるよう弱点もつけた。
吸血鬼には、名前らしく昼間は外にでられないようにした。
太陽の直射日光にあたれば、皮膚が焼けただれるように。
そしてその数を100ではく10体に調整した。
そして、彼らに血を吸われてもほとんどの生物は死に、ある一定の遺伝子をもつ生物だけ吸血鬼化するようにした。
ゴブリン。彼らは知能を獣人以上に低下させた。
繁殖能力、それが彼らの武器だった。
まるでゴキブリのように彼らはその数を増やしていった。だが、あまり文明や知識が発達しないようにした。
オークはゴブリンの上位互換になるように調整した。
繁殖能力ち卓越した身体能力。
だが、彼らもゴブリンと同じようにほとんど知能や文明は発達しないようにした。
竜人。彼らを作り出すには時間をかけた。
思った以上に、気合が入ってしまった。
彼らは基本、人間と同じ姿形だが、彼らの手首や足首からさきには竜のような鱗が出現するよう調整した。
彼らの身体能力は、この世界で一番高いものにし、ほぼすべての個体をエルフ以上に不老にした。知能も高く、その性格は好戦的。人間だろうが、獣人だろうが、彼らは襲うようにした。そして、1000年生きた個体は、その身体を竜にする変態能力もつけた。つまり、彼らはオタマジャクシのように、彼らは1000たつと竜に、ドラゴンに変態するように設計した。だが、その繁殖能力はエルフ以上に、退化させた。それが彼らの弱点だった。
彼らは順調に、増えていき、人類、亜人、エルフの数を減らしていった。
具体的には人類の5割が絶命、亜人の7割が絶命、エルフの3割が彼らを生み出して100年で絶命した。
そして人類や亜人、エルフの増えていく速度はゆっくりになった。
僕は自分が造り出した生命体が虐殺さていくのを見ても、何も感じなかった。
むしろ面白いと僕は感じていた。僕はとっくに心も人間をやめていた。
*
そして、僕は新たに三体のアレクシアたちのような存在を造り出した。
名前は、アイン、ツヴァイ、ドライ。
名前に特に意味はない。
彼女たちを造った理由はただ一つ、全ての種族の数を調整すること。
増えすぎないよう、減りすぎないよう。
*
僕は生命を弄んでいた。
それに罪悪感を感じぬまま、ただ無邪気に彼らが増えたり減ったりするのを見て楽しんでいた。誰も、僕を否定するものはいなかった。アレクシアたちは、僕のやることを全て正義とし、自分から僕を楽しませようとしていた。
そんな生活が数えるのも馬鹿らしくなるくらい続いた。
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