第15話 キャラメイク ※TS注意


「わからん」


僕はディスプレイの前で呟いた。

手にはコントローラーを構え画面を睨みつける。


新たな能力に目覚めて3日。僕はいつものようにゲームをしていた。


『クリーチャーハンターZZ』


それが今してるゲームの名前だ。

まあ、いつものやつである。


なにがわからないかといえば、進め方がわからんのである。


「なんで業獄龍アブルハウルでないのまじで」


業獄龍アブルハウルとは、クリハンZZのいわばラスボスである。

だがそのアブルハウルを討伐するミッションがでないのだ。


「わからん」


必要なミッションを満たしてないのか?

それとも何か他に条件があるのか。


なぜ僕がここまで手こずっているかと言うとラスボスの攻略情報が一切ないからである。

インターネットという最強の文明の力がなくなったためゲームですら手探り状態なのだ。


『クリハン』の攻略本自体は持っているが僕でも知っているような浅い情報しかない。


どうしよう。


とりあえず思いつく限りのことはやった。


だがゲームが進まない。


「とりまベア狩るか」


キャラクターを操作し、ミッション版の前に持っていく。


ベアッド、正式名称は緑蟹熊べアッド。


べアッドとは序盤にでてくるクソ雑魚ボスモンスターである。

なんというかすべてが大ぶりで戦っていると楽しいモンスター。


僕はいつもこのべアッドを気分転換用に使っている。

どのくらい早くべアッドを狩れるかというタイムアタックである。


最新の記録は1分16秒。


もうかれこれ1000匹はベアを狩っている気がする。


僕はそんな感じで気が済むまでベアッドを狩った。

でも記録は更新できなかったし進め方も特に思いつかなかった。









「暇」


僕は河原で青空を見ながらつぶやいた。

サンは川際で魚と睨めっこしている。


どうすんの、本当に暇なんだけど。


僕はいままで暇を『クリハン』で潰してきたため、その『クリハン』が進まないとなるとこうなるのは必然であった。


「なんか漫画って気分じゃねえしなあ」


どうしよう。ほんとに死活問題である。

暇すぎて死んじゃう。


普段ならば冗談に聞こえるが今の状況に限っては冗談ではない。


僕は能力とUEの影響でほぼ完全生命体になった。

顔が爆散しても数秒で再生し、ビルを殴ればビルが軽く倒壊するそんな化物に。


そして僕にはもはや寿命はない。

ほぼ完全な不老不死だ。

地球が消滅しない限り、僕は生き続ける。


いや、もはや地球が消滅しても宇宙で生きていけるか……。


僕の脳裏にたった一人で宇宙を彷徨う光景が浮かんだ。


「こわ……」


僕は自分を殺す方法について考えてみる。

能力をOFFにすればいいと思うのだが、再生や自身の生命に関わることは実は僕は何も操作していない。なんというか能力が勝手に再生してくれるのだ。まるで死ぬことを拒絶するように。


炎で焼き殺す。……そう簡単には無理だ。この前オムレツを作るときに間違ってやけどしそうになった。すると一瞬のうちに僕の皮膚は黒く輝き、火をまったく通らなくさせた。すぐに火に耐性を得たのだ。たとえマグマでも僕を殺すことは無理だろう。


生半可な火力では僕にやけど一つつけられない、なら太陽ならどうだ。

表面温度は6000℃。中は数千万℃の炎の星。


「死ぬか」


それなら死ぬかもと僕の身体を調べた能力が言ってくる。

でも、苦しんで死ぬのはまじで嫌なんだけど。


その他に現実的な自殺方法は思いつかなかった。


話が脱線した。

もはや寿命のない僕にとって最大の天敵は暇なのである。


なので数百年後、暇すぎて太陽に突っ込むということが起きないとは断言できないのである。


太陽に突っ込んで焼身自殺とは新しい……。


そんなことを思っている僕の顔に何かが当たった。

チラシだ。


それは結構有名なピザ屋のチラシだった。


ピザも食べたいなあ。


チラシの真ん中では僕の好きな女優が片手でピザを持ってポーズをとっている。


「クッソかわええ」


だが彼女はもうどこにもいない。

つまりもう現実で一目見ることはかなわない。


ほんとにそうか?。


僕はバッと立ち上がった。

やばい、僕は天才か。


彼女がいないなら僕が彼女になればいいじゃないか(錯乱)。


「サン!」


サンにちょっと先帰っといて的なジェスチャーをし、僕は背中から6対の翼を出した。

地面をける。


地面がえぐれると同時に僕の身体が宙に飛び出す。


向かう先は本屋と、DVDショップである。








本屋とDVDショップで目的のものを手に入れ僕は本気で能力を使い、マッハ3、戦闘機もかくやという高速移動で家に帰った。


目的のもの、それはさっきピザ屋のチラシに写っていた彼女の写真集やDVDである。

彼女の写真集をじっくりと変態チックに見る。


目の前に鏡を置く。

そして。


「フハハハ、変身!」


僕の身体が膨らみ、まるで人間大の蝶の蛹のように変化する。

視界が黒に染まる。


それははたからみれば奇妙な光景だったであろう。

僕の身体が膨らみ、石でできた蛹のような何かになる光景は。


そして数秒後、その蛹のような何かが縦にゆっくりと開いていく。


僕はパチリと目を開け、ゆっくりと蛹のようなものから外に出た。


近くに置いた鏡。


そのなかには”女”がいた。

写真集に写っていた彼女の面影がある女が。


「うわあ、本当にできた」


僕の好きだった女優が鏡の中にはいた。

右手を動かす、鏡の中彼女の左手が動く。


僕は、僕が好きだった女優になっていた。


これ、やばくない?。

謎の興奮が僕を満たす。


「なんかハマりそう」


簡単に女に変身できると知った僕はさらに肉体を変化させた。

まるでゲームのキャラメイク画面のように顔を変えたり、髪の色を変えたり、脚を長くしたりする。


「やばい」


僕はゲームはだいたい女キャラでプレイする派だ。

むしろどうして男のケツをずっと見ないといけないんだ。


そんな僕が自分の体でキャラメイクするのにハマらないわけがなかった。








一時間後。

鏡の中には絶世の美女がいた。


「……楽しすぎる」


僕はつぶやいた。

艷やかな長い黒髪に、赤く吸血鬼のように輝く眼。


女性にしては高い身長に、もう漫画かっていうくらいのメリハリのある体型。

肌にはシミ一つない。


とんでもない美人ができてしまった。

僕の好きだった女優の面影を残した絶世の美女。


こういうのを傾国の美女と言うんではないだろうか。

僕がこの顔でハニートラップを仕掛けたら国をいくつか滅ぼせる自信がある。


「っ!」


一階で物音がした。

やばいサンは帰ってきた。


あまりに集中しすぎて気づかなかった。


「変身!!」


元の男の身体に急いで戻る。


サンがキャンと吠えながら部屋に

入ってきた。


そして怪訝な顔をした。


”部屋で裸で何してるの”


”声”を使わずともそう言っているのがわかった。


「な、なんでもないよ」


僕の脳裏に昔の感覚が甦った。


呼んでいた漫画にHなシーンがあり、それを読んでいる最中、母親がノックしないで部屋に入ってきたような感覚。


羞恥。


僕はうをおおおと謎の恥ずかしさに襲われ壁に頭突した。








『今日の日記

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー。(汚い字で乱雑に書かれており読めない)』


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