第31話 それはヒカルすら、未だに到達していない力

前回のあらすじ

農場と牧場をつくるため、ジャガイモと牛を入手しに北海道に。

牛は絶滅。じゃがいもは大繁殖。

あらすじおわり。




3日後。


「「「キュー、キュー!?!?」」」


僕とソーフィヤさんの目の前には、ウマイウサギモドキが10体縛られて転がっていた。

そしてウマイウサギモドキの他には、20体の首輪を繋げられたヤギ。みんな狂ったように暴れている。


牛が絶滅してしまったので、牛の代わりにヤギとウマイウサギモドキとヤギで代用することにしたのだ。


牧場の場所は、家から一キロだけ離れた近場にし、範囲はサッカー場5つくらいの大きさだ。その範囲の周囲を二メートルの柵で覆い、10mごとに護衛ゴーレムを配置することにした。何も置かなかったら、そこらからくる巨大野生動物に食べられてしまうからね。


ゴーレム戦隊の戦闘力は割とやばい。考えてみてほしい、無限の再生力をもつ超絶硬い鎧を纏ったとても力が強い大男だと。それがたくさん。しかも彼らに、どんな兵士でも心のどこかでは持つだろう感情というものはない。つまりそれは相手に同情する機能はないということだ。飛び遠具だろうがなんだろうが勝つためならどんなことでもするし、ゴーレム内で意思疎通も完璧で、仲間のピンチには駆けつけ、囮役、攻撃役、補助役など彼らの中で決め、チームで行動し連携してる。


割と恐ろしいことがわかるんじゃないだろうか。


というわけで、そのゴーレム戦隊を新たなにつくり、配置したので牧場の警備は万全だったりする。


「ここからだね、完全な家畜化をたった数年で行うのは無理だ。これはヒカルの力を使ってもいい案件だと思う。それに、たった十体しか確保できなかったからこれを繁殖させた場合、遺伝的に奇形がでるはずだ、そこも能力でいじらないといけない」


そういったソーフィヤさんの顔は、僕に能力を使わせることにすこし心配していた。


僕の超能力。

もとは、生物の心の声を聞けるだけだったそれは、UEの発生とともに変化し、今ではまるで神と呼べる力になった。


生命の心の声を聞くことができ、

生命の情報を触るだけで完全に読み取り、

その情報から完全なるクローンを作り出すことができ、

触れた生命体を構成する細胞を都合のいいように変化させ、

完全に新しい生命体を作り出すことができる。


その、触れた生命体の遺伝子レベルから変化させる力があれば、奇形の発生率を抑えるどころか、ヤギやウマイウサギモドキを、美味しい部分だけは残して僕たちに都合のいいように変化させる。


例えば、ヤギの乳の量を増やしたり、食べられる部分が発達するようにしたり、性格は僕たちに従順になるように。


だが。

僕が複雑な表情するのをみて、ソーフィヤさんが声をかけてきた。


「ヒカル?、もしかして倫理感とか考えてる?」


「うん」


そう、僕はすこし躊躇っていた。

こんな神のような力を、まだ20年しか生きていない僕が好き勝手に振るってもいいのかと。他者の生命を変質させる。その業を。

今はもう、僕たちしかいないから倫理なんてどうでもいいんじゃないかと最初は思ったのでけど、長期的に見れば僕たちしかいないからこそ人類持っていた倫理や正義というものを大事にしていかねばならないんじゃないかとも思う。


そしてそんなことを考えながらも青臭いななんて考えてる自分がいたり。

僕は自分がわからなくなっていた。


「……」


「ヒカル……」


ぎゅっとソーフィヤさんが、僕を抱きしめる。


「大丈夫、私がいる。ヒカルが道を踏み外さないように私がずっとヒカルの側にいるよ」


「ソーフィヤさん」


「さんは要らない、ソーフィヤで良い。私達は家族なんだ、たった”二人”の家族なんだから」


僕は、その不安を消すようにソーフィヤの後ろ腰に手を回した。


「「「キュー!?キュー……」」」


そんな僕たちを、つぶらなひとみをしたウサギモドキと、ヤギたちが見ていた。








そして三日後。


僕たちの家の近くには、ウマイウサギモドキとヤギたちがおとなしく草を食べている小さな牧場と、ジャガイモやにんじん、ゴーヤーなどが植えてある畑があった。






*







真上から太陽の光が僕を照らす。

ぐでーっと僕はモフモフの上で横になりながら、暖かな太陽の光を浴びる。


絶賛、サンの背中で日光浴中である。


あったけえ……。モフモフ幸せ……。


サンも、気持ちよさそうに目を細めながら地面に横になっている。


ちなみに、サンにダニやノミなどは全くついていない。

一日に二回は、終ノ翼フリューゲルでサンの身体についた虫などを一匹残らず取り、掃除している。病気になったら僕が能力で治療できるとはいえ、何があるかわからないしね。


その掃除を毎日続けていると、なぜだかわからないがあまりダニなどがつかなくなった。いや、僕が地上に宇宙から帰ってきた日からはもうついていなかったか……。

あまり覚えてないけど、とりあえず今、サンにダニやノミは付いていない。


だから不純物のない、完全なモフモフである。


幸せ……。


目を細める。サンの金色の毛が、光に反射し、キラキラしている。

黄金に輝く体毛。


綺麗だなと思った次、僕は一つおかしなところに気づいてしまった。

あれ、ゴールデンレトリバーの体毛って黄金に輝くものだったっけと。


まるで、体毛の先が黄金のように、鉱石のように輝いているのだ。


僕は、目を閉じて第2能力、触れた生命体の情報を読み取る能力を使う。


サンのDNA、細胞の数、ミトコンドリアの大きさから、何から何まで読み取る力。

サンを構成するすべての情報が僕に流れ込んでくる。


そして、僕はサンの体毛の先端が黄金に輝いている理由と、ダニが寄り付かなくなった理由を理解した。


「マジカヨ」


サンの体毛、それは普通の哺乳類の体毛とは根本的に構造から違っていた。


通常、髪などの体毛は、死んだ細胞が毛母細胞から分裂し、角化し押し出されることによって髪になる。角質化した細胞は、死亡している細胞だ。


だが、サンの体毛一本一本が、完全に通常とは違っていた。

完全に変質している。

いままで見たことがない細胞小器官が中に存在していのだ。


強いていうならば葉緑体に近いかもしれない。


それが、光を吸収しエネルギーを蓄えているとでも言えば良いのだろうか。


それが太陽光パネルのように反射し、サンの体毛をキラキラ輝やかせていた。

しかも、ただ吸収するだけではなく倍増している?


UEの影響で、おかしくなったサンの体毛。


それが、身体に付着する虫などを発見すると、ピンポイントで超高温になり虫を焼きつくす。新たな免疫機能とでも呼べる機構がサンの体毛に組み込まれていた。


ってあれ?


「……サン、もしかして光線とか吐けたりする?」


サンの胃袋の上、気管を覆うように何か新たな臓器ができていた。

それが、あの体毛の細胞小器官といくつかの経路でつながっている。


「ワン!」


サンが僕を載せたまま立ち上がり、シューと深呼吸をする。


そしてサンの口から白く輝く閃光が放たれた。

閃光は前方に合った丸太に綺麗に穴を開け、直線に進んでいった。


……。


ブレスじゃん……。


一ヶ月宇宙に行っていたらいつの間にか、うちの犬がブレスを吐けるようになっていた件。


えぇ。

反応に困る。




サンはどうよ、みたいな顔で僕を見てくる。

どうよじゃねよ。

もはや完全にモンスターじゃん……。今まではただの大きい(バス並み)のゴールデンレトリバーだったのに、もうクリハンのモンスターだよ。


えぇ……







*






ヒカルとサンが、日光浴したり、じゃれあってる庭。

それをソーフィヤは、二階からヒカルたちの視線から隠れるようにして覗いていた。


ソーフィヤは、ヒカルとサンが遊んでいる光景を、無表情でじっと見ていた。


(わからない……けど何か嫌だ……)


最近、自分の感情がわからなくなる。

ヒカルとサンが遊んでいる光景をみると、胸が締め付けられる、心臓がきゅっと縮むような感覚すらする。


ヒカルとサンが遊んでいるのが、ヒカルが自分以外に笑顔をみせているのが、あんなに安心して背中を預けられる存在がいることが。何かがソーフィヤを憎悪させる。


(ただのペットだぞ、バカか私は……)


嫌な考えが浮かぶ。


(ヒカル……)


あの大きなペットはどうでもいい。好きでも嫌いでもない。

ただヒカルが自分以外に頼れる存在がいるのが、どうしても嫌だ。


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


視線の先で、サンがヒカルの顔をぺろぺろと舐める。

それを受けヒカルは「やめっサン、やめ」と言っているが、その顔は笑顔だった。


それを見て、ソーフィヤの心の中の何かが傾いた。

今まで、真ん中にあった何かが、嫌の方向に、たった少し、だけど決定的に。

もう針は戻らなくなった。


ソーフィヤの頭が方法を模索しはじめる。

ヒカルと関係をそのままで、あの巨大な犬を排除する方法を。

いや、それだけじゃない、これからヒカルが自分だけに笑顔を見せてくれる方法。


ソーフィヤは、自分の頭に手を突っ込んだ。

物理的に。血が、床にこぼれてる。髄液がソーフィヤの肌を伝って床に落ちていく。


変質。

可能性を探る最適な脳に。

すべてを予測する脳に。

脳を書き換えていく。

もともと、生物系の専門で、生物の機能と構造を熟知していたソーフィヤだからこそできる自己変態。


そして5分後。









「あは、あはははっは」


それは完成してしまった。

完全なる脳。


今から起きることが手にとるようにわかる。

明日、雨が降ること。

そして其の雨で、近くの山が土砂崩れすること。

その土砂崩れで、逃げ出した野生動物の何匹かが家にやってきて、ゴーレムに殺されること。明日起こることがすべてわかってしまう。


明日だけじゃない。明後日も明々後日も一ヶ月後も。

この家周辺で何が起きるかソーフィヤは理解した。


それは完全なる予測であった。

自己変態によって収集された莫大にもなるソーフィヤの知覚できるすべての情報が、組み合わされ演算され、もはや未来予知と呼べる予測を可能にしてしまった。


ラプラスの悪魔という言葉をソーフィヤは思い出していた。

ある一瞬のすべての物質の力学的状態と物理的情報を知ることができ、そのデータを解析できる能力を持った悪魔がいれば、過去も未来も全てわかるというもの。


いわば、宇宙が生まれた瞬間に、すべての未来が決まっているという説。


もちろん、すべての物質の力学的状態と物理的情報を知るのは不可能であるが、限定的であるならば、未来の予測というのは可能になる。


ソーフィヤは、その演算を、限定的であるが限りなく絶対に近い精度で行うことが今できるようになった。


未来予知。

それはヒカルすら、未だに到達していない力。


「あははは」


脳が熱い。そう感じる。

本当に湯気すら出そうだ。


鼻血が出る。


(数分が限界か……)


これ以上は、脳が耐えられない。

自己変態で行う再生ですら間に合わなくなる。


だが、

ふふふとソーフィヤは笑った。

この力があれば、私の願いは叶えられる。

ヒカルを私だけのものにできる。

ヒカルが認識するのは私だけでいい。


見るのも、触るのも、聞くのも、嗅ぐのも、感じるのものすべて私の情報だけでいい。


ソーフィヤは、悪魔、いや魔女のような顔をして、甘く、無邪気に笑った。

それはヒカルが見れば、ぞっとするような、悪意と欲望にまみれた笑顔だった。






*



『今日の日記


農場と牧場ができました。

これで、いつでも美味しい食料が取れるぜい。

これからは鶏とか、フルーツとかも増やしていく予定。


あと、うちの犬がブレス吐きました』



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