19.脱走スライム

『何もない、って? どういうこと?』


 別に逃げたいとは思わないってこと?


「お父さんもお母さんも、もういない……。他の知ってる人もいない。無理やり連れて来られたから、にげたいけど……にげても……何もないの」


 そっか……フェリは外に出たところで逃げ込む先が無いんだ。

 まだ子供だから一人で生きるってのも辛いだろうしなぁ~。亜人なら余計にそうだよね……。

 今でこそ迫害されたりなんてことは少ないみたいだけど、それでも亜人を忌避きひする人間は多いらしいし。


 でもだからといって、ここに置いていくのもちょっとなぁ……。

 だってあの男たち、明らかにソッチ系の人にフェリを売る気だよね?

 しかも、ボクが逃げちゃったらフェリが叱られるよね?

 かと言ってボクまでここに居ちゃ、二人とも売られちゃうわけで……。


 うぅーん……。


 ……よしっ、ボクも腹を決めようじゃないか!

 旅は道連れ世は情け、袖振り合うも他生たしょうの縁……ってね!


『フェリ、ボクとここから逃げよう!』


「でも……」


『大丈夫! 外に出てもボクが一緒にいるからさ!』


「ニイム……さん? が、いっしょ……?」


『ニイムで良いよ! もっとも、スライムと一緒はちょっと~って言うんなら、無理にとは言わないけど』


 スライムと一緒にいたところで何が変わるんだ? ってのもあるよね~。

 まぁでも一人よりは二人、だよね!


「ううん、うれしい……! ニイムといっしょに、にげたい!」


『そっか! じゃあ一緒に逃げよう、フェリ!』


 ――ぽいーんぽいんっ!


「うんっ!」


 おおっ、初めての笑顔いただきましたー!

 ふふふ、さすがは美少年。笑顔もステキだね。


 んじゃ早速、脱獄だつごく計画スタートだっ!


『んーと、どこか消化しやすそうなところはないかな……』


「……しょうか?」


『ボクね、何でも溶かして食べれるんだ。だから壁でも溶かして逃げちゃおうかなーって』


「す、すごい……何でも食べちゃうんだ……」


『えっへん、好き嫌いしないイイ子だよ! ……あ、うそ。ホントはお菓子とか美味しそうなモノの方が好き』


 お菓子なんてまだ食べたことないけども……。

 くうっ、いつか食べてみたい!


『よし、扉から死角になってそうな、この壁にしよう』


 ――ぽいんぽいんぽいん……ぺちょっ


 体の中に取り込めたら消化も早いんだけど……張り付いて溶かすのはちょっと時間がかかるなぁ。


 ――じゅわじゅわ、もぐもぐ……


 もうちょっとでフェリもって出れそうかな?

 頑張れボク! の、消化液!


 ――じゅわわわわ、もぐもぐもぐ……


 ……よーし! 脱獄トンネル完成だーッ!


『フェリ、準備できたよ!』


「うわぁ、ほんとうに穴が空いてる……ニイム、すごい!」


『えっへん♪』


 ふっふーん、たまには褒められるのもイイね~♪

 え? リーリオ? あれは特殊だしノーカン!


『ささ、ここから外に出よ!』


「う、うん!」

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