第二章

1.平和ボケスライム

 ボクとフェリは、久しぶりに二人きりの休日を楽しんでいた。

 たまには冒険を休んで町でゆっくりしようって、パーティーのみんなで決めたんだよね~。

 だから今は、気晴らしに町の散歩中!


『それにしてもフェリってば、かなり強くなったよねぇ』


「そう、かな……そうだったら、嬉しい」


『だってテイマーなのに従魔じゅうまのボクより強いじゃん! すごいよ!』


「ふふ……ありがとう」


 フェリと出会ってから数ヶ月が経った。

 クリス達とパーティーを組んで、ダンジョンに潜って……。

 危ないこともあったけど、みんなレベルも上がって強くなってきた。


 そして最近は特に、フェリが目を見張るような成長を遂げてる!

 最初は恐る恐る振ってた剣も今ではすっかり使いこなして、「テイマーってこんなんだっけ?」という感じだ。


 ボクの伸び率も良い方だと思うけど、フェリには負けちゃうね~。

 なんたって、ボクは消化の身体強化があるおかげだけど、フェリは純粋に努力と才能だもんなぁ……。

 ホントすごい! さすがパーフェクト・フェリちゃん!


『もうボクがいなくても、立派に冒険者としてやっていけそうなぐらいだね~』


「えっ……」


 フェリがピタリと止まった。


「ニイム……どっか行くの……?」


 え?

 ……あっ、違う違う!

 前フリみたいになったけど、そういう意味じゃないよ?!


『ち、違うよ! ただそれぐらい強くなったねーってだけだから!』


「そ、そっか……」


 ホッと息をつくフェリ。


 良かった、とんでもない誤解をされるところだったよ!

 まぁ、フェリが一人前になったらーっていうのは考えたりはするけどさ。


 大きくなって、お嫁さんをもらって、小さいけど温かい家に住んで……。

 そしたらお父さん(?)は喜んで送り出すよ……。


 そう、喜んで……よろこん、で……。


『うっうっ、お嫁さんをもらってもボクを忘れないでねぇ~フェリ~!』


「えっ?!」


『あ、ごめんごめん。妄想に感極まっちゃっただけだから、気にしないで』


「う、うん……?」


 最近はフェリ達と一緒にいるのにすっかり慣れちゃったなぁ。

 美味しいゴハンも食べられるし、みんなといるのも楽しいし、冒険にも行けるからレベルも上がる。

 トラブルの気配はゼロ!

 順調すぎて笑いが出ちゃうぐらいだねー、はっはー!


「ニイム、これからどこ行こうか……?」


『とりあえずブラブラして、気になるお店にテキトーに入る! とかどう?』


「……良いよ。おこづかいもあるし、ね」


『わーい、美味しそうなもの買お~! おやつだおやつ~♪』


――ぽーいんっ! ぽいっぽいっぽいんっ


「わっ……! 一人で先に、行かないで……!」


『だいじょーぶだいじょーぶ、この町なら大分慣れてきたし!』


 町の人達もボクの姿をすっかり見慣れてる。

 ブラックスライムのニイムちゃんの知名度はそこそこあるのだ!

 だから今じゃ、少しぐらい一人歩きしても平気なのでーす。


 さーて、美味しそうなスイーツはあーるっかなー♪


――ぽいんぽいんぽぃ……――ガシッ!


「おい。やっと見つけたぞ……」


 後ろからワシづかみにされたかと思うと、ボクの体が宙ぶらりんになった。


 え? 何? だ、誰かに捕まっちゃった?!

 ぎゃー誰っ?! まさかゴロツキ商人の追手?!

 あれから何も無かったから油断してたよー!


『わーん、離せ~! フェリ~、助けてぇ~!』


 ――もいっもいんっ! もいっもいんっ!


「おいこら、暴れるな」


「あ、あのっ……すみません、その子、ボクの従魔……なんです、けど……」


 フェリが控えめに、ボクを掴んでる男の人に声を掛ける。

 後ろから掴まれてるもんだから、どんな人なのかボクからは全然見えない……。


「……従魔? こいつが?」


「ぅ、は……はい」


 厳密には従魔じゃないけど……冒険者ギルドには従魔として登録してあるし、間違いじゃないよね?

 だから詰まらなくて大丈夫だよ、フェリ!

 もっと所有権を主張してして!


「……では、こいつを俺に譲れ。言い値を払おう」


『えっ?!』

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