20.涙のスライム

 次の日の朝。

 起きてきたフェリに、早々に別れを切り出した。


 フェリはある程度察していたのか、ボクが話している間、口を挟むことがなかった。

 ずっと口をへの字にしたまま、黙って聞いてくれた。


 ……怒って、る?

 いや、泣きそうなのをガマンしてるのかな……。


「やっぱり……行っちゃうんだ、ね……」


『うん。一人立ちする時が来たと思ったから、ね』


 フェリだけの話じゃない。

 ボクも、だ。


「……お父さんとお母さんも、同じこと……言ってた……」


『フェリのご両親?』


「これからは一人で、生きていかなきゃいけないって、言われた……お父さんもお母さんも、いないと思えって……」


 もう居ないって言ってたから亡くなってるのかと思ってたけど、そういう意味だったのか!

 それにしても、生きていくすべ持たない8歳の子供を一人で放り出すって……どうなんだ。

 竜人の風習だったりするのかなぁ。


 それにしても、二回もそんなこと言われたらショックだよね……。

 うぅ、なんだかとっても悪い事をしている気分……。


『フェ、フェリ……ボクも本当のご両親も、フェリがキライになったとか、一緒にいたくなくなったとか、そんなんじゃないんだよ?』


「うん……前はわからなかった、けど……今は……何となく、わかる」


『そ、そうなんだ?』


 フェリはコクリと頷くと、下がっていた眉を上げ直した。


「守られてばっかりは……終わり。これからは自分で自分を、守る。それから、ボクは……他の人も、守りたい!」


『フェ、フェリ……ッ!』


 まっすぐな瞳で言い放つフェリ。


 い、いつの間にかこんなに立派になって……!

 ボクは……お父さんは……感動だよっ!!


『フェリがそんな立派になってくれて、ボク嬉しい! きっと本当のご両親も、喜んでるに違いないよ~!』


「そうかな……? でも、まだ本当には、守る力がないから……」


『その志だけでも立派だよ! ……ううん、フェリなら実力も追いつくこと間違い無しだ。ボクが太鼓判押しちゃうっ!』


 ――ぽいんぽいーん、ぽいんっ!


「ありがと……」


 フェリは嬉しそうだ。

 離れるのはちょっと心配だったけど、これならバッチリ大丈夫そうだね!


「すぐ、行くの……?」


『そうだね……クリス達の都合もあるだろうけど、できるだけ早く、かな』


 ずるずる一緒にいたら、離れられなくなりそうだもんね。

 ぷにぷにの意思のニイムちゃんなのだ!


「ん、わかった……。ねぇ、ニイム」


『なぁに?』


 フェリは真剣な顔でボクを見つめた。


「今まで一緒にいてくれて、ありがとう」


 そして最後に、とびきりの笑顔を見せてくれる。



「……ずっとずっと、大好きだよ!」

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