楽しいスライム生活 ~お気楽スライムはスライム生を謳歌したい~

杜本

第一章

1.気が付けばスライム

 ……なんか……頭が……ぼーっとするな……


 ここ、どこだっけ……なに、してるんだっけ……


 ……だめだ……頭が……回らない……


 ああ、意識が……しず……む…………――





 ***



 あ。目、覚めた。


 なんか今……変な夢見てたような、そうでもないような~?


 っと、何で床の上なんかで寝てたんだろ?

 しかも石の床だ。そりゃ夢見も悪くなるってもんだよね……。

 周りは薄暗くてロクに見えないし……ホント、何でこんなところに?


 とりあえず起き上がるか、よいしょ。


 ……っと、あれ?


 体が動かない。っていうか動きにくい。

 もぞもぞモゴモゴ、ちょっとしか動けないぞ?

 なんだか袋の中に入ってるみたいな感覚……。


 今、どうなってるんだ? ちょっと体を動かして確認を……。


 手、無い。――ぷよんっ

 足、無い。――ぷよんっ

 頭は……ある、かな? たぶん。


 ――ぷよよよんっ


 …………。


 え、何これ。どういうこと?

 体が半透明のつるつるボディになってる……。

 鏡があるわけじゃないし、体の感触と見下ろせる範囲で確認しただけだけど……どう考えてもおかしい!


 え、これ、いわゆる『スライム』ってやつじゃない?!

 ぷにぷにしてて弱っちい、あのスライム。

 なんで? なんでスライムになっちゃってるの?


 夢かな? 夢だね??


 だって自分は……。


 って、あれ?

 何だっけ、スライムじゃない……んだけど、自分が何だったか思い出せない!

 えっ、そんなことってある?

 ちょっと待って、目が覚める前に一体何が?!


 ……って、それも分からないぞ。

 寝る(?)前に何をしていたのかも、ここがどこだかも分からない。


 ……えっ、記憶喪失ってやつ?!


 いやいや落ち着け自分。

 「スライム」だの「記憶喪失かも」だの、知識があるんだ。脳は生きてるってことだ。

 頑張って思い出せば記憶の手がかりが……!!


 ……無いわ。ぜーんぜん無い。


 この体がスライムだとか、スライムはモンスターだから人間の敵だとか、そういうことは知ってる・・・・けど、自分が生きてきた記憶が一切無い。


 ん……人間?

 そうだ、よくよく考えたら、こんな風に考えるのって人間だよね!

 そうか、オレは人間だったんだー!!


 ……って、ちょっと待てよ?

 俺? アタシ? おいら? わし


 ……自分の性別すら覚えてない……。


 うん……あれだ、『ボク』って言おう。

 ほら、ボクっ娘もいることだし、男でも女でも問題ないよね。セーフセーフ。


 えーっと、これからどうしようかな。

 ボク、これからスライムとして生きていかなきゃいけないんだよね?

 スライムの役目と言えば……勇者の経験値になること?

 え、ヤダヤダ、ボク死にたくない。


 死にたくないよ~~~!!


 ――ガタガタバタンッ、ガシャンッ!


 えっ、今の音はどこから……って、何だこれ?


 目の前に画面が浮かんでる。

 床や壁と繋がってる部分はなくて、ホントになんの支えもなく浮いてる……。

 どこかの部屋が映し出されてるみたいだけど……何だろこれ。


『めっ、目が覚めたんですかっ!!』


 うおっ、おぉう?!

 いきなり画面に男の人が映りこんできた! でもって近い!

 やたらと美形な人だけど……そんな顔して画面にかぶりついてちゃ、おキレイな顔が台無しだよ。

 近い近い、近いってば!


『うぅうっ、良かった……てっきりこのまま意識が消えてしまうのかと……』


 おぅ……なんか激しいな、この人。

 あ、でもボクと知り合いっぽい?

 事情を聞きたい……けど、スライムって声出せないね?!

 どうしよう、体の動きで分かってもらえるかな。


 えいっ、えいっ!

 ボ・ク・は・い・い・ス・ラ・イ・ム・だ・よ!


 ――ぷよぷよ、ぷよよよんっ


『か、かわいいッ……』


 あ、伝わったかな?

 意味は通じてなさそうだけど。


『……ハッ!! すみません、少し取り乱してしまいました』


 いえいえ、正気に戻って良かったです。

 あと映り込む位置も戻ったみたいで良かったです。


『貴方は今、目が覚めたばかりですよね? 記憶が無くて困っているのではないでしょうか』


 あ、そうですそうです、ぽよんぽよん。

 って、これどうやって会話したらいいんだ!


『こちらに声を届けようと意識しながら言葉を思い浮かべれば、ちゃんと伝わりますよ』


 なんと! テレパシー的なあれですか?

 よし、いっちょ試してみよう。


『あーあー、キコエマスカー?』


『はい、聞こえています。……よく目覚めてくれましたね……ううっ』


 また涙ぐんでる……涙腺るいせん弱いのかな。

 いい年っぽいんだから、もうちょっと気を強く持ったほうがいいよ。


『あの、どうしてボクがスライムになってココにいるのか、知ってたら教えて欲しいんですけど……』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る