第3話 白鷺乃音は語る
奴らは生きている。
異星人が本当に居るのだと仮定して、知らない間に地球人の生活に紛れ込んでいたとしたら。
そんな作品はこの世にごまんと存在する。
白鷺乃音の言うことは実は本当のことで、彼女は人知れずその真実を知ってしまったことにより、ちょっとおかしくなってしまった。
或いは異星人達に悟られないように変人の振りをしながら、俺達地球人に向けて警鐘を鳴らしているのではないか?
そんなことを考えながら隣の席の白鷺乃音をチラっと横目で見るのだが、彼女はスマートホンを弄りながら、神妙な面持ちでブツブツとなにか独り言を言っていた。
しかしこうやって見ると、本当に同じ人間なのだろうか? と思えるくらいの絶世の美女だと思ってしまう。
彼女が近くにいるだけで、自然界の精霊たちが祝福するかの如く世界が光に満ち溢れるのは気のせいだろうか……。
いや、ただ単に彼女に反射して眩しいだけなんだろうけど。
それにしても、日常生活で不便に思うことはないのだろうか?
やはり彼女の体質は綺麗ごとだけではすまないものだ。少しの光でも視界が眩んでしまうだろうし、太陽光だって彼女のような人達にとっては非常に有害なものになる。
それでも彼女は、少なくとも今年から同じクラスになり、二カ月間隣の席で彼女を見てきた俺の知っている白鷺乃音は、そんなことはおくびにも出さない。
ちょっと変ではあるけれど、俺は彼女のそういったところに少し憧れていたりもする。
「さっきから、なにをジロジロ見ているのかしら?」
そんなことを思っていると、白鷺乃音は俺の方へ振り返りもせずにぽつりとそう言った。
「え? す、すいません。その、白鷺さんのことを見ていたというか、その……」
急な突っ込みに俺はしどろもどろになってしまう。
彼女はそんな俺のことを冷たい表情で見つめると、徐に手にしていたスマホの画面を見せてきて言った。
「あなたも興味があるのかしら?」
「え? なにが……ですか?」
「これよ、ゼイリブ」
彼女の見せてきた画面には、1980年代に公開されたB級傑作ホラーサスペンス映画、『ゼイリブ』の公式ツイッターが表示されていた。
「え? ああ、白鷺さん。随分古い映画に興味があるんですね」
「古い新しいは関係ないわ。この映画は傑作よ。資本主義、物質主義を批判する風刺作品の皮を被りながら。実は……人類は既にエイリアンによって洗脳され支配されていると警告している。ジョン・カーペンター作品の傑作ね」
「は、はぁ……。でも、内容はグダグダで、あまりの迷脚本に男二人がサングラスをかけるかけないで、延々と殴りあうだけのシーンが10分近くの尺を取るっていう、ある意味伝説の映画ですよね」
「あら、随分と詳しいのねあなた。ひょっとしてあなたも異星人の侵略を危惧していて?」
俺が昔のSF映画を意外に詳しかったのが嬉しかったのか、白鷺乃音は、グイっと前のめりになり近づいてきた。
こんなに目の前で彼女の顔をマジマジと見つめたことはないので、俺はなぜだか気恥ずかしくなり視線を逸らす。
いやまあ別に、宇宙人が侵略してくる映画とかは好きだけど、映画を真に受けて現実世界とごっちゃにしているわけではない。
ただ単に、CG技術の発達した最近の映画も好きだけれど、ああいうB級映画も好きだってだけなんだけどね。
「なかなか見どころがあるわねあなた。このゼイリブが、今度デジタルリマスターと言う形で期間限定のリバイバル上映を行うらしいの。すごいと思わない?」
「なにがすごいんですか?」
「決まっているじゃない。ロズウェル事件以降、UFOブームが起きてから様々な異星人映画が製作されてきたわ。異星人は人類を脅かす脅威として、或いは人類と友好関係を結ぼうとする良き隣人として」
「はぁ、ETとかが後者になるんですかね?」
「そうよそれっ! 私はあれほど恐ろしい映画はないと思っているわ!」
なんでだよ。
「スピルバーグは天才ね。そうよ、異星人はその地球人類を遥かに凌駕する科学文明をもってして人類を滅ぼそうとはしないのよ。まずは次世代を担う子供達の心を奪い、洗脳して、自分達が当たり前のような存在になった時、少しずつ少しずつ、その生活圏を拡大し気が付いた時にはもう手遅れ、この地球の覇権は奴らの手に渡っていると言う!」
「いやいや、考え過ぎですよ。あんなに心温まる映画はないじゃないですか。ETが死にそうになるシーンなんて涙なしには見られませんよ」
「それが奴らの戦略なのよ」
真顔でそう答える白鷺乃音に俺は絶句した。
あんな感動的なSF映画を、どういう風にそんな穿った見方をすることが出来るのだろうか。
「でもね。エイリアンやプレデターを始め。ヒドゥンやダークエンジェル。マーズアタックにインデペンデンスデイにMIB! 20世紀には、様々な映画で異星人の残虐性、そして地球侵略を描いてきたのに、ここ最近は地球に侵略をしに来るのは別次元から来た怪獣ですって? 馬鹿げているわっ! これはもう既にハリウッドも異星人に乗っ取られてしまったという証左よ」
「なんか急に、話しがおかしな方向にいきましたね」
「いいえそんなことはないわ。これは由々しき事態よ。アメリカ政府は1970年代から1990年代にかけて、映画と言うプロパガンダを使って人類に警告し続けていたのよ。異星人の侵略に備えよと。でもね、もうそれも終わり。世界最大の市場を持つハリウッド映画ですら、宇宙人映画は衰退の一途を辿っているわ」
SF映画一つでここまで妄想を膨らませることができるのだから、この人はある意味凄い才能の持ち主なのかもしれない。
「そ、そう思うのなら。白鷺さんが宇宙人映画を作ればいいんじゃないですか? ほらあれ、二年生の時の文化祭で作った映画、あれすごく良かったと思いますよ」
俺がそう言うと、白鷺さんは無表情のまま何かを考えている様子で、暫く黙り込むと静かに言った。
「今は、Vチューバーじゃないかしら」
なにが?
つづく。
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