第5話 十三番目黒子は常識がない
すごい。
リーゼントに短ランにボンタン。今時あんなステロタイプなヤンキーが存在するなんて、茨城にもあんな不良はいないぞ(風評被害)。
そんな輩が5人、ぞろぞろとメンチを切りながらこちらに近づいてくる。
あんな、漫画でしか見たことないようなヤンキー共に絡まれたことなんてないのでビビッていると、黒子が耳元でボソボソと囁いてきた。
「一ノ瀬チヒロ。あいつらが何か言って来ても知らぬ存ぜぬで通せ。私は十三番目黒子じゃないと言え」
「ええ? そんなの無理でしょ、バレバレでしょ」
いいから! と強く言われて俺はしかたなく黒子の言う通りにする。
「あぁん? おめぇ、なにガン飛ばしとんじゃワレこらぁあっ!」
あぁぁぁぁ、わかりやすいぃ、わかりやすい絡みかただぁ。ちょっと目があっただけなのに言い掛かりをつけてくる典型的なヤンキーのやり口だあああ。
「え、雁を飛ばすって? 雁とは、カモ目カモ科ガン亜科の水鳥のうち、カモより大きくハクチョウより小さい一群の総称で、現在では猟を禁止されてるってウィキペディアに書いてありますよ」
「んぁぁああはあああん? んだ、こらてめえ、おいこらてめえ、喧嘩売ってんのかてめえこらわれこらてめえあぁん!?」
わーい、なにそれ日本語?
すると、別のヤンキーが俺に絡みまくってくるヤンキーを制止して、黒子に話しかけてきた。
「やめろトシ、話しが進まねえじゃねえか。すいません黒子さん。どうか、おねげえしやす。もう一度だけでも
「あ、あのすいません。この人は、その、人違いで、決してあなた方の知っている十三番目黒子ではないですよぎゃあああああああああ!」
その瞬間俺は、黒子に脇腹を思いっきり抓られて悲鳴を上げた。
「馬鹿かおまえはっ! そんな言い方したらバレバレだろうがああっ!」
「うっせえ! 元からばればれじゃねえか! これで上手く誤魔化せなんて無理難題を振ってきてんじゃねえっ!」
そんな感じで俺と黒子が言い争いになっていると、ヤンキー達はぽかーんとしたままそれを見ていた。
すると、なにやら勘違いした駅の警備員が、どうやら俺達がヤンキーと喧嘩をしていると思ったらしく飛んできたので、皆して一目散に逃げ出すのであった。
駅から少し離れた公園に逃げ込むと、家とは逆方向に逃げてしまった為に俺は黒子に文句を言う。
「おまえの所為で、えらい遠い所まで来ちゃったじゃねえか」
「なぜ私の所為なのだ。おまえが誤魔化すのが下手くそだから、こんなことになったのだろう」
「大体なんであんなヤンキー達に追われてるんだよ? それがわからなきゃ誤魔化すもなにもないだろうが」
「ふむ。なんと言ったらいいのか。あいつらの上官に当たる、バン? とか言う奴の命令で、ことあるごとに私は追われているのだ」
番な、番長のことね。
「あいつら、私が反撃できないことを知ってか。しつこくて困っているのだ」
「ふーん。なんか嫌がらせでもしたのか? おまえ、常識ないもんな」
「馬鹿を言え。私はアンドロイドとはいえ、規律と上官の命令が絶対の軍隊に所属する兵士だぞ。常識の塊ではないか」
未来の軍隊常識はあっても、現代の一般常識は皆無だろうがおまえは。
てーかなんで公立高校に通ってんだよ。どうやったのかはわからないけど、絶対に白鷺さんの差し金だな。
「まあいいや。で、なんで追われてんだ?」
「それが、バンチョウの智とか言う奴が私に一目惚れしただとかなんとかで。一度私と直接話しをするべく、デートとか言うやつをしたいのだそうだ」
「へー。まあ、見た目だけは可愛いからなおまえ。無理もないかもしれない」
俺がそう言うと、なにやら誇らしげな表情をする黒子。
白鷺さんと違って、意外に感情豊かなのでこいつの方が人間らしく見えてしまうのが、なんとも複雑な気分になる。
「それにしても、その智君も。おまえに惚れたんなら直接自分でデートの申し込みにくればいいのに」
「それは無理ってもんですぜっ!」
突然背後から大声で言われて俺は驚いて飛び上がってしまった。
振り返ると、先程のヤンキー達が勢ぞろいして皆して膝を突いて頭を下げている。
「黒子さん。智さんはもう、自分一人では立ち上がることもできねえかもしれねえ、そんな身体になっちまったこと、あんただって知ってるだろう」
「別に私の所為ではないだろう」
「もちろん、あんたの所為だって言っているわけじゃねえ。むしろ、俺達はあんたに感謝しているんだ。あの時、黒子さんが居なければ、智さんはもうこの世にいなかったかもしれねえ」
一体どういうことだ? 黒子はなにをしたって言うんだ?
とにかく一から説明してくれないかと言うと、ヤンキーの代表っぽい奴が説明をしてくれた。
今から半年ほど前、俺が黒子と出会うよりも前の話だ。
彼らの学校に黒子が転入して来た時から、智君は黒子にぞっこんだったらしい。
智君は意を決して、黒子を放課後に呼び出してそこで告白するつもりだった。
しかし間の悪いことに、そんなところへ悪い報せが舞い込んでくる。
同じ学校の一般生徒が、智君達と対抗していた極亞九高校の奴らに拉致られて、智君一人で来いと脅迫してきたらしいのだ。
一般生徒に手を出すなんて許せねえと。正義の番長智君は救出に向かうのだがその途中、交通事故に遭ってしまったのだ。
その現場にちょうど居合わせたのが、智君の呼び出しを無視して帰宅途中だった黒子なんだって。
こいつ、最低だな。
つづく。
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