第5話 ILOVEYOU
人類滅亡の時が訪れたのは、ヴァイス型アンドロイドが停止してから半世紀ほどの、短い期間であった。
ジュピターナとの戦争が激しさを増してくると、ブライダルウェポンを凌ぐ兵器が開発された。
それは、惑星をも砕く威力の兵器。地球人類とジュピターナ達は、この悪魔の兵器の応戦による応戦で、銀河系の星々を塵へと変えて行った。
もう、誰にも止められはしなかった。
自らをも滅ぼす兵器を使い続けた双方には、最早生存の道はなかったのかもしれない。資源を使い果たした人類は故郷である地球へ帰還する手立てさえも失っていた。
人類の記憶と共に、地球の記憶と共に、二つの文明が今、宇宙から消滅するのである。
ヴァイス型が停止してから、シュバルツ型ヴァルキュリヤで対応していた地球軍は、それ以降のヴァルキュリヤ生産は行わなかった。
また、いつエラーが発生するとも限らないアンドロイドを、前戦に投入することは極めて危険であると判断した為だ。
人類の兵器は再び有人登場型兵器へと変わるとそこからは泥沼であった。
兵士の育成には時間が掛かる為に、アンドロイドの代わりに人類の選択した手段は、クローン技術であった。
クローン技術による人間の生産及び、それを兵士へと転用することは、倫理的観点から何世紀にもわたり否定されてきたことであった。
しかし、特別時大戦法案の制定及び、クローン法9条の廃案により。クローン技術の軍事転用が可能になると、人類はクローン達を大量生産、前戦へと配備するようになった。
クローンの登場は人類の滅亡を加速させた一因になったのかもしれない。
ドクターイチノセの提唱した、再生技術とアンチエイジング医療は、最早古臭い過去の遺産となっていた。
人工パーツによって肉体の損傷を補うよりも、クローンと言う新しい肉体に転移するほうが効率的であると人々は考えたのだ。
しかし、クローン転換技術が当たり前になってから人類は、思いもよらなかった危機に直面することとなった。
クローン技術により作られた肉体の寿命が、わずか50年しか持たないことに、最初の被験者達が死亡してから初めて気が付いたのである。
一時期は200歳近くまで伸びた人間の寿命が、一気に19世紀初頭くらいまでに落ちてしまったのである。
そして、それに気が付いてからでは遅かった。
25世紀初頭まで使われていた再生医療技術の多くが失われた26世紀現在。誰も、それを再現する技術を持ってはいなかった。
*****
それを最後まで見届けたのは、シュバルツ・ドライツェン1420。十三番目黒子であった。
姉妹達の居なくなったこの世界でたった一人、この世の終わりを見届けることになった黒子は500年以上も前にあった出来事を思い出していた。
自分のことを好きになったと言う一人の青年のことを思い出す。
鈴木智。彼とは、言葉を交わしたことは一度もなかった。だから、彼がどんな人物であるのか、どんな声で話し、どんな顔で笑うのかも知らなかった。
黒子の知る鈴木智という人物像は、彼の仲間達から聞いた話と、彼自身の書いた黒子宛のラブレターからだけであった。
拝啓、十三番目黒子様
俺はこの学校で番を張っている3年B組の鈴木智と言います。仲間達とやんちゃばっかしているこんな俺ですが、この度、あなたのことが好きになりました。どうしても、この思いを直接あなたに伝えたくて、突然呼び出してしまい申し訳ありません。こういった手紙を書くのも初めてなので、なにを書いていいのか悩みました。この手紙を黒子さんが読んでいる時、俺と黒子さんはもう付き合っているのか、まだ答えは聞けていないのか、それとも振られてしまっているのか、今はまだわかりません。でも、俺のこの思いを、誠心誠意伝えることができたのではないかと思います。今日は、こんな俺の我儘に付き合ってもらってありがとうございました。結果がどうであれ、これからも仲良くしてもらえたら嬉しいっす。
敬具
拙い文章と文字で、一生懸命に書いてきたことだけは伝わってきた。
好きだとか嫌いだとか、そういうことはよくわからなかったけれど、それを読むと胸の奥がジンと温かくなるのと同時に、とても苦しくなるような、そんな気持ちになった。
それを、一ノ瀬チヒロや白鷺乃音に話すと、それは黒子が人としての感情を理解できるようになったからだと言われたが、その時はよくわからなかった。
そんな黒子が、今はあの時の感情が理解できるような気がしていた。
滅びゆく人類達の姿に黒子は一筋の涙を流す。
「ヴァイス・ノイン61298。私にも理解できたよ。多分私は、人間達を愛していたのだと思う。アンドロイである私に、心というものを与えてくれた人間達のことを、そして地球のことを愛していたのだ」
もうあと30分もすれば全てが終わるだろう。
人類の歴史は今ここで終わりを迎える。
星をも砕く大量破壊兵器により、木星とジュピターナ艦隊を殲滅した後、地球人達はみな、寿命によって死を迎えるだろう。
その最後の瞬間を、黒子はたった一人で見届けるのだ。
最後の、地球人として……。
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