第5話 一ノ瀬チヒロは直感する
暗い場所でずっと一人ぼっちだった。
……だった? なんとなくそんな気がしていた。
宇宙という広大な暗闇の中で、思い出だけを頼りにずっと待ち続けていた。
あの人がやって来るのを、信じつづけて……。
「白……鷺……さん……」
どうやら俺は眠っていたらしい。
ズキズキと痛むこめかみを押さえながらスマホの画面を見ると、10件もの不在着信があった。
「高坂……律姉ちゃん!」
俺はすぐに折り返しの電話を入れると、高坂先生が出た。
『チヒロっ!? 今どこに居るの? 心配したのよ。何度電話しても出ないから』
「ごめん、今は家に居るよ。あの後、帰ってすぐに寝ちゃったみたいだ」
『そう、徹夜明けだったからね。私も今は家に居るわ。もうクタクタ』
「律姉ちゃん……白鷺さんは? まさか……」
俺は恐る恐る白鷺さんの容体を尋ねる。
『心配しないで、今は安定して眠っているわ。安静にしていれば心配はいらないって
「よかった……。ありがとう律ねえちゃん」
『いいのよ、私は教師なんだから。チヒ……。一ノ瀬君、今日は一日ゆっくり休んで、明日はちゃんと学校に来るように、佐藤君達にも同じように言ってあるから、いいわね!』
「わかってるよ律姉ちゃん」
そう答えると、「高坂先生!」と注意されたので、俺は笑いながら返事をして電話を切った。
よかった。一応は白鷺さんも無事なようなので、俺はホッと胸を撫で下ろした。
なぜ急に白鷺さんは具合が悪くなったのかはわからないけれど、きっと疲れが溜まっていたのかもしれない。
俺はそう思うことにして、もう一眠りしようとした所で再びスマホに着信があった。
高坂先生が何か言い忘れたことでもあったのかと思い、画面を見るとそれは黒子からであった。
一応黒子にも教えておくかと思い俺は電話に出る。
「もしもし」
『一ノ瀬チヒロか! 白鷺乃音に一向に連絡が取れないのだ、今あいつはどこでなにをしている?』
今朝あったことを話すと黒子は、そうだったのかと短い返事をした。
『一ノ瀬チヒロ、おまえにも報せようと思っていた』
「なんだよ藪から棒に?」
『もしかしたらこれは、白鷺乃音の体調不良と関係のあることかもしれない』
「もったいぶってないで早く教えろよ」
どういうことだろうか? 俺に催促されるとなんだか緊張した声音で黒子は話し始めた。
そして、黒子の説明するその内容に俺は驚きの声をあげると、すぐに来てほしいと黒子は言って来た。
『ヴァイス・ノイン61298が再起動を始めた。もしかしたら、近いうちに目覚めるかもしれない』
なぜ、このタイミングなのかはわからないが、黒子の言うように白鷺さんのことと関係があるような気がして、俺は嫌な予感を覚えるのであった。
*****
「勝手にビルには入るなって言われたんだろ? なんでヴァイス・ノインが再起動を始めたってわかったんだよ」
「私は奴と姉妹機にあるのだぞ。ブライダルシステムを介さなくても、ある程度の意思疎通を行う為に意識は常にオンライン状態にあるのだ」
「それって、考えていることも全て筒抜けってことなのか?」
俺が怪訝顔で聞くと、黒子は当然だろうと答えた。
「それって、便利なようで不便じゃないのか?」
「なぜだ?」
「だって、知られたくない事まで相手に知られちゃうかもしれないんだぜ?」
そう答えると黒子は、顎に手をあててしばらく考えこむのだが、なるほどなと小さく呟くと歩きながら話しを続ける。
「確かに、今の私であればおまえの謂わんとすることは理解できる。だが、元々私達はジュピターナと戦う為に生み出されたアンドロイドなのだ。自分の意思など持たない我々が、自ら思考することなどなかったからな。誰かに知られて困るようなことなどなにもなかった」
「それってつまり、今はあるってことなのか?」
「そうだな。今の私は自分で考え自分で行動している。今ならプログラムに逆らい、おまえのことを引っ叩くことくらいもできそうな気がするぞ」
いや、叩く必要はないだろう。暴力反対っ!
そんなことを話しながら廃ビルの地下に降りて行くと、扉を開けようとするのだが、そこで俺は妙な気配を感じた気がしてドアノブにかけた手を離した。
「誰か、居るぞ……」
俺の言葉で黒子は前に飛び出すと、扉を蹴破って中に飛び込んだ。
後を追うように俺も部屋に入ると、黒子は腕から武器を取り出して知らない誰かと対峙していた。
黒子が銃口を向ける相手は、女性であった。
全身タイツのようなスーツに銀色に光る胸当てと籠手、そして脛当てのようなボディーアーマーを付けた銀髪の女性。
白鷺さんや黒子に似ているような気がするけれども、彼女達とは決定的になにかが違う、俺はそう感じた。
そう、目の前に居るのは恐らくはアンドロイドである。たぶん、また未来からやってきたアンドロイドだ。
なぜだか俺はそう直感するのだが、黒子が感情をもったアンドロイドであるのなら、目の前に居るのは、そんなものは一切持ち合わせていないロボット。
それは破壊と混沌をもたらすだけの、感情のない機械だと俺は思うのであった。
つづく。
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