第7話 一ノ瀬チヒロは予感する
ヴァイス・ノイン61298が過去へと転移してしまった為に、ヴァイス型アンドロイド達の機能が停止してしまった。
それは地球軍の保有するヴァルキュリヤの、約8割が機能しなくなったことになり、戦況は圧倒的不利な状況に立たされることを意味した。
これを機に、攻勢に出れると見たジュピターナ達は、約半世紀近くも続けた茶番に終止符を打とうとしたのである。
『再び、ジュピターナによる大侵攻が始まると、シュバルツ型では対抗しきれなくなった地球軍は、有人機による戦闘を余儀なくされたの』
「白鷺さん、さっきから一体何の話を?」
『聞いて一ノ瀬くん、これはヴァイス・ノインが聞いた話なの……。今、黒子と……戦っているアンドロイドは……ズィルバーン・ツヴァイ』
白鷺さんは、途切れ途切れ、苦しそうに説明を続ける。
「もういい、わかりましたから! 白鷺さんは安静にしていてくだい!」
『駄目よ一ノ瀬くん、最後まで聞いて』
「もういいですよっ! もう、白鷺さんは!」
俺は、いつの間にか涙を流しながら声を荒げていた。
どうしてかはわからないが……いや……。本当は気が付いていた。
なんとなくだけどわかっていた。
これが、白鷺さんとの最後の会話になるであろうことを。
俺は、そう予感していた。
白鷺さんは、ヴァイス・ノイン61298がもうすぐ目覚めると言っていた。
それは、白鷺さんの中にあるヴァイス・ノインが、本当の身体に戻ろうとしているということではないだろうか? つまり、それが意味すること。おそらく白鷺さんの意識は、事故直後の状態に……。
『一ノ瀬チヒロっ!!』
突然の大声に、耳がキーンとなる。
『あなたが頼りなの。このままでは最新型の殲滅型ヴァルキュリヤに黒子は破壊されてしまうわ。でも、あの子となら、ヴァイス・ノインと一緒なら勝てる。二体のヴァルキュリヤが共闘すれば』
「そうしたら、白鷺さんはどうなってしまうんですか?」
俺の質問に白鷺さんは無言のまま答えない。
そのまま数十秒。大きな音を立てて、目の前に黒子が落下してきた。黒子は左足を大きく損傷し、膝から先を欠損していた。
黒子はまだここに俺が居ることに気が付くと驚き、早く逃げろとジェスチャーするのだが、直後忌々しげな顔をして見上げると再び空へと戻って行った。
『一ノ瀬くん、あいつは一ノ瀬くんを抹殺した後に、あなたに代わってブライダルプログラムを完成させようとしているわ。未来でヴァイス・ノインが機能を停止することのないように、終わりのない戦争が続くように、あの子達の心を塗り替えようとしているのよ』
そんなことを言ったって、俺は白鷺さんのことが……。
『大丈夫、いつかまた、必ず会えるわ。必ず迎えにきて一ノ瀬くん。それまで私は、ずっとあなたを、待ち続けているから』
白鷺さんがそう言うと、カツンとなにかが落ちた様な音が響き、声が聞こえなくなる。
俺は、電話機に向かって何度も白鷺さんの名前を叫んだのだが、しばらくすると知らない人の声が聞こえた。
『もしもし? もしもし? どなたですか? 白鷺乃音さんのお知り合いですか? もしもし、私は医大病院の看護師の松山と言います。もしもし?』
気が付くと俺は電話を切り駆け出していた。
瓦礫に埋もれている廃ビルの入口まで行くと、なんとか潜り込める隙間を見つけて中へと入る。
黒子の攻撃で中は無茶苦茶になっており、瓦礫の隙間を這うようにして俺は進んで行った。
そして、地下まで辿り着くと、ベッドから転げ落ちてうつ伏せに倒れ込んでいるヴァイス・ノインを見つけた。それを抱え上げて俺は声を掛ける。
「おいっ! 起きろ! もう意識は戻っているんだろうっ!? 黒子が戦っているんだ。相手は最新型のヴァルキュリヤで、黒子一人じゃ太刀打ちできないって。だから、おまえが目を覚まして一緒に戦ってくれ! お願いだ!」
ヴァイス・ノインには何の反応もない。
初めて見た時と同じように、眠ったままで、とても目覚めそうには思えなかった。
しかし、抱える肩に確かに感じる肌の温もり。
そして、鼓動。
生きている。
アンドロイドである彼女が生きていると、俺はそう感じた。
「お願いだ、ヴァイス・ノイン……。目覚めてくれ……白鷺さん……」
そう呟いた瞬間。地面が大きく振動し始めて、轟音が鳴り響く。
まさか? ビルが倒壊するかもしれない。そう思い俺は慌ててそこから逃げ出そうと思うのだが、ヴァイス・ノインを抱えて逃げるのはとても無理であった。
すると、コンクリートの割れる音が鳴り響き天井にひび割れが生じる。
このまま生き埋めになって死んでしまうのかと覚悟を決めたその時、耳元で声が聞こえた。
『リブート完了。システムオールグリーン。ヴァイス・ノイン61298は、これより作戦行動に移る』
真っ白に光り輝く天使が降臨したのかと錯覚した。
ヴァイス・ノインが両手を天井に向けると眩い光を放つ光線が天井を貫き、気が付くと俺は彼女に抱えられて空を飛んでいるのであった。
「イチノセくん、しっかり掴まっていて。シュバルツ・ドライツェン1420を援護するわ」
つづく。
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