第2話 一ノ瀬チヒロは青春する

 土曜日。


 佐藤君に言われた時間に学校の校庭にやってきた俺と白鷺さん。

 なんだかんだと文句を言っていたくせに、結局は天文部の天体観測兼三年生壮行会に参加するのであった。


「結局なんだかんだで参加するんですね」

「素人にUFOとのコンタクトを任せて手違いがあったら困るでしょ。22世紀がやって来る前に宇宙人の侵略が始まったら、今の人類の技術ではとても太刀打ちできないわよ」


 まったくもって素直じゃないなこの人は、と思いながら話しているのだが、俺はさっきから視線を感じていた。

 俺達のことを遠巻きに見ている天文部の1~2年生達。とは言っても8人しかいないのだが。

 一応天文部自体の部員数は一クラス分くらいはいるらしいのだが、今夜は深夜まで天体観測を行うと言うので、保護者の許可を取れた生徒と公共交通機関を使わない家の近い人だけの参加なのでこれくらいの人数になったらしい。

 下級生達は皆、一様に白鷺さんのことが気になっているようだ。

 普段から学校内でも目立つ白鷺さんだが、こうやって近くでマジマジと見るのが珍しいのか、皆ソワソワと落ち着きない様子だ。


 そうこうしていると、部長の佐藤君が職員室から戻ってきて皆に集まるように言う。


「さて皆さん、毎年恒例の秋の天体観測会ですが。無礼講とは言っても、これはあくまで部活動の一環として行うものです。ハメを外した行動や、夜間に近隣の方々に迷惑になるような行為は慎むように。こうやって深夜時間まで活動を行えるのも、これまでも先輩方が、学校の信頼を得てくれたからだという事を忘れないように!」


 佐藤君の言葉に皆が大きな声で返事をすると、副部長である3組の松山さんが代わる。


「まあ、とは言っても折角のパーティーですから。楽しむところは楽しんで、引き締めるところは締めると言った感じで、堅苦しいのはつまらないからね」


 ニコニコと朗らかな感じでそう言う松山さん。彼女はいつもこんな感じなので、なんだかとても癒される。


 早速、皆が天体観測用の望遠鏡などの準備を始める中、同時に別の物も用意される。


「佐藤君、これは……もしかして」

「もしかしなくてもバーベキューコンロだよ」

「な、なんだとっ! こんな、学校の敷地内でバーベキューだなんて! 天文部は毎年こんなずるいことをしていたのかあ!?」

「なにを言っているのだね君は。運動部の連中なんて夏休みの間に花火とかもしているのだぞ。帰宅部の君には知る由もなかっただろうがね」


 なんてこったい。くっそぉ。世の陽キャどもはそんなことをして夏を満喫していたのか。

 俺はと言ったら黒子と一緒に、夜な夜な山の中や森の中を白鷺さんに連れ回されて、食事と言ったらコンビニで買ったカップメンとかおにぎりばかりだったってのに。


「白鷺さん、なんかバーベキューとかもやるみたいですよ」


 そう言って白鷺さんの方を見ると、グラウンドの真ん中に行ってライン引きでなにやら書いていた。

 俺と佐藤君は近づいて行って何を書いているのか聞いてみた。


「これは宇宙人と交信するのに必要なものよ。彼らとコンタクトが取れた時に、自分達の居る場所の目印として書いておくの」


 グラウンドいっぱいに書かれたその何かの全貌は、地上からではとても見てとれないのだが、誰かのスマホの着信音が鳴ると、白鷺さんがポケットから取り出して操作を始める。


「さっき、一年生の子を一人、校舎の三階に走らせたのよ」


 そう言いながらスマホの画面を俺に見せてくると、画面は暗くてよくわからなかった。


「残念ね、光量が足りなくて何も見えないわ」


 ひでぇ……。使いっぱにされた一年生の子はまったくの無意味だったな。


 そんなことをしている内にバーベキューの準備ができると、皆が集まりパーティーが始まる。

 丁度いい感じでお肉が焼けて来ると、職員室に居た引率の先生が降りて来た。


「ちょうどいいタイミングで降りて来たわ!」


 引率の先生は高坂先生であった。

 すると女子達はわっと先生の元に群がりお喋りを始める。

 あれで結構人気あるんだよなぁ律姉ちゃん。おっといけない、学校では高坂先生と呼べって怒られるのでこの言い方は厳禁なのだった。


「一ノ瀬くん、ちゃんと食べてる?」

「ええ、頂いてますよ。俺達タダで参加しちゃってよかったんですかね?」

「一応部費から出ているらしいから大丈夫だって彼が言っていたわ」


 佐藤君のことを指差しながら言う白鷺さん。

 おそらく佐藤君の名前、いまだに覚えてないんだろうな。

 そんな佐藤君は俺達のことをチラチラとなにやら気にしているようなのだが、後ろから松山さんに声を掛けられてビクっとなっていた。


 一頻りバーベキューを楽しむと高坂先生が俺の方へやってきた。


「どう、楽しんでる?」

「ええ、ようやく人並みにティーンエイジャーの遊びを出来た気がします」

「なによそれ。まったく、部活に入っていれば青春を謳歌できただろうに、なんで帰宅部なんて選んだのよ」

「決まってるじゃないですか……。姉ちゃんの為ですよ」


 俺がそう言うと先生は小さな溜息を吐いた。そして、俯きながら言う。


「そうよね……。あいつ……。チヒロが家事をやってあげないとなにもできないからねっ! あいつ一人にしたら文化的な生活なんてできない、まるで原始時代のような部屋になっちゃうのは私もよーく知ってるからああっ!」


 それなのになんで高所得なんだと、泣きながら文句を言う高坂先生。酔っぱらっているのだろうか? アルコールなんてないはずなのに……ないよな?


 そうして、夜も更けて来ると、本命の天体観測。


 そして、UFOを呼び出す儀式が始まるのであった。



 つづく。

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