act.16:巨神戦鎧《イクスマキナ》、再び


 頭剣乱舞邪巨神 ギロニアヘッド

 超再生獣邪巨神 ザンダラ

 結晶反射力邪巨神 プリズマエル

 超弩級岩塊邪巨神 イワサイガミ

 石化偽蛇獣邪巨神 メタデューサ

 三首吸精邪巨神 ギドラキュラス



 髑髏巨神 スカルキング


             登場











 大空戦艦、ブリッジ



「うむ!

 どうやら我らの出番らしいな……!」



 空中を浮く戦艦の艦橋ブリッジから、いつのまにか5体になった邪巨神を見据えてネリスは言う。


「数が増えていますね。

 まとめてまずは砲撃といきましょう」


「であるな。しかし、あの数か……

 自慢の大空戦艦だ、一発で魔王の魔法と同じ火力は出せる砲だ。

 しかし、相手は質量も硬さも規格外。

 余でも一騎打ちは今は嫌な相手だ……


 慎重に、一体づつ仕留めるべきと考えるが、どうだ?」


「珍しく意見が一致しましたね。

 まぁバカ姉様といえど戦闘においては嘘は言いませんから。


 下部主砲、照準用意!!」


 ネリスの言葉にアルトナも同意し、下部主砲を火器管制官に向けさせるべく命令を出す。


「目標、まずはあの細身の剣頭を!」


「剣頭照準。

 よぉーしっ!!」


「主砲、撃てぇぇぇいッ!!」



 ズドォンッ!!!


 3連装46cm砲。

 おそらく大陸で最も大きい実弾砲は、大地をえぐる威力を持って着弾し、地面を震わせる。


「よぉし!剣頭ギロニアヘッドが死んだかの確認だな!!」


「それ今名付けたんですか?呑気なことで」


「視界回復します!」


 と、ギロニアヘッドのいた位置が爆ぜた。


 煙を切り裂き、鋭い放物線を描いてギロニアヘッドが大空戦艦へ跳んでくる。



「面ぉーも舵ぁーじ!!」


 操舵手にとっさの判断で船体を逸らす。

 しかし、避けきれず、あまりに綺麗に船体下部の主砲が切断される。


『うわぁぁぁぁッ!?!』


 揺さぶられる艦橋で一人、悔しそうに外を見るネリス。


「奴め……まさか余の魔法火力を参考にして作り上げた砲が……あの細さで利かぬほど硬いとは……!!」



       ***


 その様子は、パワーライザー01回収と同時に飛び立ったドレッドノートからも見えた。


「なんてこったい!?」


「あ、アイツ……!!

 なんて言う跳躍力だ……!!!」


「バッカあぶねーからとっとと顔戻せだみょ!!」


 開けっ放しのハッチから顔を覗かせて感想を言うテトラとジョナスを、ミョルンが引っ張って戻す。


「しかしまずいぞ!!

 このままでは後数分で奴らはギドラキュラスと合流してしまう!!

 そうなっては本当にまずい!!」


「何がまずいと言うのだジョナス!!


 ただでさえ今もどん底でまずい状況なのだぁ!!


 この周りにいる彼らの文化が消え去ろうとしておるのだぞぉ!?」


 格納庫には、避難のために所狭しと並ぶビッグフット達がいた。

 皆、恐怖や悲しみで震え、打ちひしがれているような目でこちらを見ている。


「合流すれば、真のギドラキュラスが目覚めてしまうんだディード!!」


「何?どう言うことか詳しく話せ!!」


 ジョナスのあまりに深刻な顔にディードが尋ねると、彼はこう語り出した。



「ギドラキュラスは、言わば今は冬眠後の『朝飯前』なんだ……!


 奴のエネルギーは、周りの生命力に魔力……!!


 今は、目覚めの口の渇きを癒すために周りの木々のエネルギーを吸っているが、メインディッシュはおそらく、



 あのザンダラだ!!」



 バーン、とジョナスは、外でこちらにやってくる邪巨神の一体━━毛むくじゃらの獣人、ザンダラを指差す。


「アイツの生命力!!

 異常なまでの回復力!!


 朝食にステーキを食うのは重いとは言うが、栄養学的には理にかなっているらしい……これから動き回るんだ、当然ハイカロリーなものは必要じゃあないのか!?」


「つまり、貴様はあの邪巨神の群れは、ギドラキュラスの朝食ルームサービスだとでも言いたいのかッ!?」


「ああそうだディード!!

 奴が胃もたれするかどうかはわからないが、少なくとも朝食を済ませたら食後の運動ぐらいするはずさ!!



 この大陸を火の海に包めるような、をだ!!」



 なんと言うことだ……と言わんばかりにディードがその屈強な身体を崩させる。


「……奴の伝説を考えれば……おそらく正しいであろうかつての伝説ならば……!!

 そんなこと、『朝飯前』では……ないか……!!」


「ディード……!」


「つーかよ、だったらヤベーんじゃあねぇのかアレ!?」


 戦慄の空気漂う中、反対側の窓を見てテトラがそう声を上げる。









 スカルキングの拳がギドラキュラスを捉える。

 重い一撃、半死半生の体へ叩き込む。


 だが、すかさずそれと同じだけの威力の一撃で反撃が来る。


 ズガァン、と背後の小山を崩してスカルキングが背中から地面に倒れた。


「ぐっぷ……!!

 ……〜〜、やったなぁ!?!

 半殺されの癖によぉ!!」

 

 怒声一発、全身の筋肉をもって全力で跳躍し、スカルキングの一撃が落ちる。

 しかし、それに合わせて同じぐらい重い一撃を放ったギドラキュラスにより、クロスカウンターの様な形となる。








「なんという戦いだ……!

 ヘビィ級とミドル級の決闘だと言うのに……!!」


(王が押されている……!!

 我が大地最強である王が……!!)


「ヤベーよぉ!!!アレじゃあ、ジリ貧だ!!


 今でも苦戦してるっていうのに、本気になれるぐらいに回復したら……!!」



 テトラの言葉通り、それは恐らく最悪の事態だ。




 そして、最悪の事態は、既にすぐそこまで来ている。




「…………ったく、仕方ないわね」




 その時、デウシアは一言そう言って、自分の懐から何かを取り出す。


 それは、小さな彫刻のような物だった。

 神殿の柱のような部分の上に、閉じた翼のような装飾のある何か。




「━━━やめなさいデウシアッ!!」




 ふと、格納庫に響く声。


 全員が振り向いたそこには、月と豊穣の女神フェイリアが、息を切らしながら立っていた。


「あれは、女神フェイリア様……!?」


「あーら早かったわね。覗き見でもして……」


「ふざけないでッ!!


 もう貴女は戦えないのよ!?


 次にそのイクスマキナを作ったら……!!















 貴女は、


 全ての力を使い果たして死ぬ……!」














 ハッ、と全員がデウシアへ視線を送る。

 その言葉の意味を、重さを理解したからだ。


「…………で?」


「やめてちょうだい。そこまでする必要なんてないのよ…!!」


「それは聞いたのよ。

 私はねぇ、フェイリア?




 他に方法があるかって聞いてるの!」




 ゆっくりとフェイリアに近づいて、デウシアはその肩を掴む。





「で??


 プランBは何??


 ブレイガーOを待つ??


 間に合うわけないでしょうがっ!!


 その間にギドラキュラスは本当の姿になる!!


 私たちが生まれる前の、古の邪巨神がね!!





 ……止める方法は一つよ」






 その時のフェイリアの見せた顔は、各地に伝わる慈愛に満ちた顔ではなかった。

 ただ、目の前で起こる悲劇を止められないという事実に、絶望に打ち震えるただの女性の顔を見せていた。


「……やめて……お願い……!!」


「屍は拾ってね」


 デウシアは、その彫刻のような物を構える。


「━━━それは少し性急ではないか、女神殿」


 しかしその時、再びデウシアを止める声が響く。


 その声の主━━━今操縦室よりやってきたカーペルトは、静かな視線をデウシアに向けていた。


「何よ、元国王?あんたにはプランBがあるってわけ?」


「いや、残念ながら、私は貴女に同意しておる。

 さっき通信がやってきた。


 やはり、ブレイガーO到着までは10分はかかる」


「いいわね、その報せ!最高よ!


 多分10分も待っちゃあ、くれないってこと以外はねぇ!」


「ああ、じゃから、女神殿にお頼みするしかあるまいて。


 ━━━ただし、何もしないというのは、人間の名折れじゃ」



 一瞬、怪訝な顔を見せるデウシアに対し、カーペルトはニィ、と笑った。







 デウシアの体に巻きつけられる人工魔力回路。


 その背後には、ブレイガーにも使われるようなサイズの反応魔導炉がくくりつけられている。


「もしもの時のブレイガーO用じゃったが、今使う」


「なるほど、足りない力は魔力で補うのね。

 これで、全盛期の1割は力が出せる……!」


 後ろで作業を手伝っていたテトラが起動スイッチを押した瞬間、ブゥン、と起動時に上がる音と共に魔力が大量に流れてくる。


「デウシア様、コイツを持っていくのじゃ」


 と、カーペルトはあるものを手渡す。


「コレは……ブラストリガーのレプリカ!?」


「胸の下の装置に刺せば、緊急時に約3分は出力が大幅に上がる!」


「ありがとう。

 これで不安はないわ。


 でしょ!?フェイリア!!」



 一人、不安そうな顔を隠さず見ている女神フェイリアに、デウシアはあっけんからんといった様子で答える。


「…………人の気持ちも知らないで、貴女は行くのね」


「お互い人じゃないでしょ?」


「…………貴女っていつもそう………愛想なんてとっくに尽きているわ。


 でもね?


 お願い、?」


 今にも泣きそうな笑顔で、フェイリアは送る言葉を紡ぐ。




「…………、行ってくるわ」



 ウィーン、と目の前の格納ハッチが開く。




 その手に握る物の名は、「原初のアルファスパーク」と名付けられし物。


 巨神戦鎧の収められし、光の神具。





「━━━イクスマキナァァァッッ!!」




 デウシアの叫びと共に、アルファスパークが強烈な閃光を放つ。



       ***







 巨神戦鎧イクスマキナ



 古の神話にこう書かれる。




『女神デウシアの声に応え、


 勝利の調しらべと共に光の道を通り、


 巨神戦鎧イクスマキナは、大地へと降臨す』








 その日、髑髏大地に流れたファンファーレ。


 渦巻く眩ゆい光の渦の中、片手を上げてグングンとやってくる巨大な物。


 邪巨神達の足が止まり、その前に対峙するように光の奔流が落ちる。


 光が収まった瞬間、空中に現れる銀と赤の巨人。


 巨人は、両脚で力強く屈みながら着地する。

 その力強い着地の瞬間地面が爆ぜ、盛大に土煙が上がった。





「ぐっ……!!」


 イクスマキナの内部空間、3つのリングが回る中心で、デウシアが苦悶の表情を浮かべる。


「何よ……!!ブレイガーOの動力でも、私の全盛期の『3%』が限界だっていうの……!!」


 すぐさま、胸の機械にブラストリガーを指して起動。

 反応魔導炉のリミッターが消え、ようやく満足に動ける力がやってくる。


「3分…………やってやろうじゃないのよぉッ!!」





 土煙が晴れる中、銀色のオリハルコンボディに、所々サビで赤く色づいたボディが立ち上がる。


 シンプルな兜の顔の、宝石のような白い目が邪巨神を見据える。


 ━━ジャッ!!


 両腕を前に構え、中腰で取るファイティングポーズ。


 内部空間で同じ姿勢をとったデウシアの通りに構えたそれは、かつては幾度となく目の前の怪物達を屠った戦いでも見せたもの。








 そう、


 これこそ、巨神戦鎧イクスマキナ


 数千年前まで邪巨神の侵攻を防ぎ、


 神々の暴虐を撃ち破った、戦と発展の女神デウシアの神具!


 その、勇ましき姿である!








「久々に行くわよイクスマキナッ!」


 デウシアの戦意に答えたオリハルコン製の巨人が、まずは巨大な体のイワサイガミに飛びかかる。


 待ってましたと言わんばかりの尾の一撃のカウンター。


「ガッ!?

 ……くぉん、のぉ……!!」


 鈍い音と共に脇腹にぶつかったそれをイクスマキナの両腕は掴み、着地と同時に勢いを利用して巨体をぶん投げる。


 ズガァァァァァン!!

 ギィィヤァァァァァァァァッ!?!



 巨体が手頃な山の形を変えて倒れこみ、地震のような衝撃が辺りを包んだ。


「っしゃあおらぁッ!!

 全盛期ほどじゃないけど結構いけんじゃない!!」


 と、肩で息を切らすデウシアが言った瞬間、何か回転するものが飛んできて間髪入れずに避ける。


 ブモォォォォォォン!!


 見れば、刀のような頭の邪巨神ことギロニアヘッドが、頭の近くから生える十字形の鱗を飛ばして来ていた。


「飛び道具勝負!?

 受けて立つわよッ!!」


 デウシアが石を投げる時の構えをすると、同じポーズをとるイクスマキナの右手に光り輝く円板が現れる。


神光臨斬アルティマスラッシュッ!!シャラァッ!!」


 ヒュッ、と抜群のフォームで投げ放たれた円板は鱗を切り裂き、ギロニアヘッドの頭に命中し爆ぜる。


「チッ……!!

 全盛期なら首ごと落とせたのに……!」


 と、悪態をついた瞬間、左端にチカッと光を感じる。


「ヤバッ!?

 神聖結界プロテクトサンクチュアリ展開ッ!!」


 とっさに、空中で四角をなぞるように両腕を動かし、その形の魔法障壁を展開してビームを防ぐ。


 光が晴れた先には、空中で再びビーム発射体勢となるプリズマエルの姿があった。


「あんたに用は無いわよっ!!

 神罰魔法拘束バインドリングビーム!!」


 パンチする要領で突き出した拳から、リング状の光を放つ。

 あらゆるエネルギー攻撃の効かないプリズマエルは避けなかったが、それは攻撃ではなく


 見事、発射体勢のまま空中で身動きが取れなくなった。


「よし!!

 アイツは……!?」


 3体を足止めした隙目的を果たす。

 それは……密かに逃げていた毛むくじゃらの醜い巨獣人。


「何逃げてんのよブサイクッ!!」


 イクスマキナは飛び上がり、ザンダラの頭を掴みながらボディプレスを仕掛ける。

 ズダァンと衝撃で木々と土砂が舞い上がる中、さらにそれらを吹き飛ばす勢いでマウントポジションで殴りつける。


「このっ!このっ!!

 暴れんな、暴れるんじゃ無いわよ野獣如きが!!」


 どこまでも泥臭く、もがく怪物の頭を掴みながら、錆びと白銀の腕で滅多打ちにする。


「この、こ、ゲフッ!?」


 しかしその時、背後からやってきたメタデューサの腕に蛇のような触手が首を締め上げ、イクスマキナをザンダラから引き剥がす。


「ぐっ……私も、ぐびじまる……ぐぅ……!!」


 フィードバックする痛みと酸欠の中、デウシアは姿勢を落とす。


「が……ァァアアアアアアアアアアッッ!!」


 気合いを込めた声と共に、首に巻きつけられた触手ごと一回転し、相手を投げる。


 ━━キュワァァッ!?!

 ━━グワァァァッ!?!


 逃げようとしたザンダラを巻き込み、地面に叩きつけられるメタデューサ。


 痛みにのたうつその横で、傷は治っても鈍痛は残り続けるザンダラが這って逃げ始めている。


「そこのブサイクだけは殺すわっ!!

 久々のぉ……!!」


 その背にめがけて気合一閃、






神光奔流砲スペリオル・レイ・シュトロォォォォォォムッッ!!!」






 胸の前で腕を交差させて強力な光属性魔法を放つ。


 甲高い音で空気を切り裂いて進む光の本流がザンダラを捉え、頭の先から細胞ひとつ残さないように消滅させるように降り注ぐ。


 ━━グワァァァ……!!


 やがて、足先までチリ一つ残さずに、静かにザンダラが消えた。


       ***


『おぉぉぉ!!!』


 その様子を見ていた、ドレッドノートの全員が歓喜の声を上げる。


「デウシア……さすがね」


 フェイリアもほっと胸を撫で下ろした。


       ***



「……!」



 キュルルル、と小さく唸り、6つの赤い目を見開くギドラキュラス。


「てめぇ、この野郎……!

 よそ見で初めて表情変えるたぁ……


 寂しいじゃねぇかよぉぉぉぉッ!!」


 キシャァァァァァッ!!!


 怒号一線、両拳をハンマーの様に握り合わせ、叩き込む。


 ズンッ!!


 ギドラキュラスの足元に出来るクレーター。


 さすがの重い一撃に、ギドラキュラスの防いだ腕が折れる。

 

「……!?」


「へへ、ちったぁ驚いたかよぉッ!?」


 次で仕留めると腕を再び構えた瞬間、


 ギドラキュラスは、これまでと打って変わって凄まじい手際のよさで近づき、背後からスカルキングを羽交い締めにする。


「何……!?」


「…………お前の様な、下等生物如きで、」



 キュルルル、と唸った瞬間、ギドラキュラスの3つの口が大きく開く。




「わたしは、


 腹を満たしたくはなかったのだがな」




 ガブリ、と三つの首がスカルキングを噛む。


       ***





「いよぉっし!!

 ふぅ…………結構疲れるわね……1分半の戦闘でも……!」


 デウシアは、久々の戦果に興奮しつつ、思ったよりも消耗したことに驚く。


 しかし、一体倒せたのは、今のイクスマキナでは大戦果だった。

 ……ふと、バキバキ、とイクスマキナから異音が響く。


「げっ!?」


 腕の赤い錆が、まだ銀色に輝く部分に広がっていく。


「うわっ……あっちゃ〜〜……無理させ過ぎたわね……!」


 ……神の加護が減り、オリハルコンのボディが劣化するように赤い面積が増える現象だ。


「こうしちゃいられないはね、戻らなきゃ、真面目にフェイリア心配させるわ」


 まだ生きている邪巨神はこれから来るブレイガーに任せ、ドレッドノートへ戻るべくイクスマキナを動かす。





 ━━━その瞬間、恐ろしい気配を察知するデウシア。




「!?」


 その方向を見て、思わず息を飲む。


 ダラリ、と力なく垂れ下がる腕。

 今にも気絶しそうに目を白黒させ、閉じることもできない口が震える。


 そんな姿のスカルキングを咥える赤い目が6つ。


 メキッ、メキッ、と肉が盛り上がり、傷が塞がっていく。


 スカルキングを噛みしめる三つの口から漏れる青白い光━━━生命の光がギドラキュラスへどんどん吸収されていく。


「ッ!!」


 咄嗟に、神光臨斬アルティマスラッシュを放つ。


 首を落とす勢いのそれは、しかしスカルキングを離したギドラキュラスは避ける。


 ━━━その素早さは、一瞬見失うには充分だった。


 気がつけば、ギドラキュラスは背後にいた。


「何ッ!?!」


 瞬間、首筋に感じる痛み。




「ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?!??!」





 そしてやってくる、何もかもを根こそぎ吸われる感覚。



「こいつ、私の、魔力を、神の力を、吸ってぇ!?」


 瞬間、ブラストリガーからピコン、ピコン、という赤い点滅が起こる。

 感覚でわかる。


 もう、あと少しで力が全て吸われる。


「ぐ、こ、れ、じゃ……!!」


 抵抗は力なく、銀色だった部分へ赤錆が侵食していくイクスマキナ。


 デウシアの胸の機械のブラストリガーの危険信号は、より明滅を早める。


「ぐ、うぅ……!!」


 自分も、魔力を吸われている。

 視界が暗くなっていく。


(チッ…………大見得切ってこのざま……!!

 ……やっぱり、私も弱く……なったわね……)




 ギドラキュラスが口を離した瞬間、よろける様にイクスマキナの巨体が離れる。



(ごめん、フェイリア……!

 人間の皆……後は、頼んだ、わ……!)



 静かに、立ち尽くすイクスマキナ。

 デウシアの胸のブラストリガーの明滅が、止まる。





 イクスマキナのオリハルコンの部分は、全てが赤錆に覆われる。


 ピタリ、と動きを止めたイクスマキナは、


 ややあって、地面へと崩れ落ち、倒れた。


       ***


「そ、んな…………あ、あぁ……!!」


 ドレッドノートの窓からそれを見ていたフェイリアが、涙を流して崩れ落ち、震える。


 あまりの出来事に、周りの皆も文字通りの絶句のまま固まっている中、追い討ちの如き現象が起こる。









 ━━キュルルルルルッ!!


 妙な響きの鳴き声をあげ、歓喜に震える身体を広げるギドラキュラス。


 周りの邪巨神たちが、それを祝福するかの様に囲み、吠えて囃し立てる。





 ━━キュワァァァァァァァァッ!!!




 ひときわ大きい咆哮と共に、3つの頭から雷の様な赤い光を天へと放つ。


 ギドラキュラスの眩くも禍々しい光が空中で拡散し、髑髏大地に降り注ぐ。


 爆発。

 森が、丘が、山が、ビッグフット達の住居が消し飛んでいく。








「なんという……なんという光景だ……!!」



 カーペルトは、世界の終わりの光景と言うべきものに恐怖した。


「勝てるのか、これ??」


 誰が、ともなく、


 そな言葉が漏れてしまう。


「ブレイガーOは……勝てるのか、これに!?」





 ━━キュワァァァァァァァァッ!!


 ギドラキュラスが髑髏大地を更地にするのは、そう未来の出来事ではなさそうだった。


 更に未だ、4体の邪巨神をつき従えている。



 状況は、悪い。




       ***






























「よぉし!!固定開始!!







 HALMIT地下、A02区画

 別名、「水魔の闘技場」


 広大な地下に天然洞窟に、人口の滝が四方を囲む円形の闘技場風の建物のあるここは、HALMITがダンジョンだった頃から存在する場所だった。


 その闘技場中央に、運ばれてきたブレイガーOが立てられる。


 いくら広大といえ、天井は後ほんの少しでブレイガーOの頭の部分が擦れてしまいそうだ。



「ブレイガーO搬入確認!!」


「しかし、良いんですかピエールさん!?

 こんな場所にブレイガーをおいても、ここは地下の最奥地ですよ!?」


「なんだね、君はここがか知らないクチかな!?


 そりゃあいい!!

 きっと面白いぞ!?」


 はぁ、と疑問符を浮かべる作業員を尻目に、ジャンはごまかし笑いで通信機を開く。


「こちらはブレイガーO搬入班だ!!

 パンツィア君、発信の準備はいいかい!?」



       ***


 マスタースイッチをオン。

 ウィンガーの反応魔導炉が起動する。

 オールスイッチ、オン。

 電子機器が立ち上がり、ジェットウィンガーのエンジンがかかる。



「ええ、発信準備は完了です!!」


 専用スーツに身を包み、コックピットでパンツィアは笑って答えた。


『後は君の出番だ!!

 頼むよ!!』


「了解!!

 ブレイガーの出撃です!!!」


 ウィンガーの格納庫の扉が開く。


 いよいよ、出撃だ。


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