act.6:邪巨神


-細胞超再生邪巨神 ザンダラ  登場-








 午前6:00

 エーゲ森、12キロ奥、



『━━━第一防衛陣接敵確認。準備砲撃用意』


『目標確認。魔導砲、1から46まで発射!』


『弾着ゃーく!!

 …………今!!』



 ズガァァァァン!!


 ━━━ウォォォォォオォォォォォオォ!!!ドンドンドンドンドン!!!





 西の森を進む巨大な影は、火炎魔導砲を巨体に似合わない速度で避けていく。


『G-4-αがや━━━━ぴきゅぃー……』


「線が切られたか……!クソッ!!」


 優先通信機の受話器を乱暴に戻し、肩の階級章から下士官らしい男が言う。


「どうします?化け物が近いってことじゃないデスか?」


「おめぇみてぇな豚ヅラほど酷くはねぇだろ!!図体がでかいくせして弱気になってんじゃねぇ!!」


 隣で心配そうな顔をしたオークを殴り、自分にも喝の代わりに拳を叩き込む。


「クソッ……距離が近い、まだ霧が濃いうちに陣地を移動だ!

 オレの喝以外で死ぬつもりのないやつは急ぐぞ!」


 言うや否や、人も亜人も関係なく編成された部隊が動く。


「通信線、どうしマス?」


「オメェの好きにしな!オレは足引っ掛けて死にたくねぇや!」


 ドサリとここまで背負ってきた通信線の塊を下ろすオーク兵を見て、すぐに全員とともに移動を始める。



 ……キバキ……!!


 

 一瞬、周囲に響く音。

 全員が立ち止まり、周囲を警戒しつつ、手持ちの魔法銃を構える。


 ガサリ、と葉の動く音の方向へ銃を向けた瞬間、


 ピョンピョンと跳ねるウサギの群れが足元を通り過ぎていった。


「…………ずいぶん急いでいたな……?」


「…………、しまった!!急ぐ理由がすぐ近くに、あ━━━━━━━」



 気づくのが遅かった。


 叫んだ人間を高速で掴みかかった腕。

 絶叫の方向へと銃を向けると、巨大な毛むくじゃらの怪物が仲間を口へ運ぶ姿があった。


「うおぉぉぉぉぉお!?!?」


 撃ち始める。しかし、中級火炎魔法程度の威力の連写では意味もなく、仲間の身体はひと噛みで半分になり、上からは血しぶきが落ちてくる。


「後退ぁーい!!!後退ィ━━━━ッ!!」


 魔力が続く限り撃ちながら撤退する。

 ビクともしないのは分かっている、だが撃つのをやめれば喰われるまでが早くなる。


 あまりに人間じみた醜い顔が、こちらを見下ろし真っ赤に染まった口から息を吐く。

 一歩進めば、こちらの50歩分の距離が詰まり、一つ手を振るえば木々をなぎ倒し地面をえぐり、人間を三人は掴む。





「クソッ!!邪巨神め!!」





 誰が呼び始めたのか、それはわからない。

 突然奴らは現れた。

 形態も違う、共通しているのは、古の時代の神話の怪物並みに大きい事、そして生物とは思えない異常な能力を持つことだけ。




 故に『邪巨神』

 その名は、見事に姿を現していた。





「何が邪巨神だ!!

 デカイだけのブサイク毛玉野郎!!」


 と、一人が携行型火薬式の大砲を担ぎ出し始める。


「てめぇなんか怖くねぇ!!!

 野郎ぶっ殺してやる!!!!」


 魔法で点火、即座に砲弾が飛び、なんと敵の目玉へ命中する。


 ━━グォォォォォォォォォ!!!


「どうだこの野郎!!ブサイクな面がマシになったか!?」


 直後、目を失った怪物がそちらを睨む。


 すると…………


 落ち窪んだ眼孔が内側から膨らみ、ボコン、と青白く光る血と共に新しい目が生える。


「…………」


 あまりに呆気にとられた顔をした瞬間、振り下ろされた手のひらがそこに振り下ろされた。

 パァンと赤いシミが地面にできた。

 だが治らない。まだこんなものでは無い。


 グォォォォォォォォォ!!!


 咆哮と共に握った拳で厚い胸板を叩く邪巨神。

 その怒りに、あらゆる生き物が動きを止め、恐怖する。




 しかしその時、

 空を切る火球が、邪巨神の背後を襲った。



      ***


『━━━撃つな、退避しろ!』


 兜に仕込まれた通信機の言葉通り、飛竜を操り邪巨神の横を通り過ぎる。


 この巨大な相手の周りを飛ぶ飛竜達。


 薄くも破壊不可能な軽いスーパーオリハルコンの飛竜用鎧カタクラフトを纏い、

 飛竜種特有の体内で生み出した超高温プラズマの熱波を脚の噴出口から出しながら急加速し、あの巨大な腕の射程から逃げつつ、超高温のプラズマブレスを吐きつける。


『姫様、地上部隊があと少しだけ時間を稼いで欲しいとの通信が入っております!』


『それはいいが、お前は今何処だ!?

 ええい、無線は便利だが、味方の位置の把握が難しくもなるか!!』


 純白の飛竜に乗る竜騎兵━━━アイゼナは、自身の竜騎兵団との連携をしつつ悪態を吐く。


『これまでは、横につけて喋ってましたしね!!うわっ!』


『お前は右翼か!

 くっ……便利になったが使いこなすには時間がかかる……!』


 副官にあたる竜騎兵が危うく右腕に捉えられる寸前だったのを見やり、アイゼナは急上昇する。


『全員、合図をしたら一気に散開!!

 を使うぞ、しばらく引きつけてくれ!!』


 了解、の声を聞き、アイゼナは背負う装置のスイッチの紐を引き、右腕をあげる。


「『我が右手に集え。雷鳴の力、神の権能よ』」


 古式の魔法詠唱を開始した瞬間、太陽の見えていた上空に暗雲が立ち込める。


「『豊穣を呼ぶ稲妻、その名は神の叫び』、

 今だ散会しろ!!」


 無線への声と共に、竜騎兵達が散らばっていく。


 愛竜、ラインの背に立ち上がり、右腕人差し指を暗雲立ち込める天に向ける。


「『極大サンダー━━━━━』」


 ピシャーン!!

 瞬間、いくつもの稲妻がアイゼナへと落ちる。


「『━━━雷撃ブレ』━━━イクッッ!!!!!!!」


 稲妻の落ちた右人差し指を下ろした瞬間、太い雷が邪巨神へと落ちる。


 脳天から足先まで、一瞬骨が透けて見えるほど光り輝き、やがてプスプスと焦げた煙を上げて、動かなくなる。


「━━━ダメか」


 やがて、小刻みに震え始めた邪巨神のその毛むくじゃらの体がボロボロ崩れ始め、まるで人間の様な綺麗なピンクの肌を露出させる。


 全身が裸になったかと思った瞬間、毛が伸び、かっと見開いた炭化した目が新しい目に押し出されて下へ崩れ落ちる。



 ━━━━━グォォォォォォォォォ!!!



 あまりにすぐに元どおりの身体を取り戻し、再び怒りに燃えて叫び出す。


「何という再生力だ……!

 神の癒しですらもっと時間がかかる……!」


 やはり、と無線機の回線を開く。


『聞こえるか?配備は完了したか!』


『地上部隊です、もう少しお待ちください!』



        ***


 ギャルギャルギャル!!


 凄まじい音を響かせ、大地をえぐり進む帯のついた車輪。


 『履帯』と名付けられたそれで不整地を進むは、鋼鉄の塊。

 竜車と違う、自走する車━━━自走車に引かれてさらに異様なものが現れる。


 倒れた鉄塔の先、傘を柄の方向で取り付けた様な物に、ガラスのレンズをはめた様な何かが鎮座する。


『D車、所定の位置に到着』


安定脚アウトトリガーを下ろし次第、地図座標3-G-βへ発射口を向けろ!』


 奇妙な鉄塔の様な外装が二つに割れ、中の光り輝く柱の様な物を露出させ鎌首をもたげる。


 レンズのある部分が向くは━━━あの邪巨神の位置。


『『メーザー殺獣雷属性砲』展開完了!

 反応魔導炉起動!出力、80まで上昇!


 竜騎兵部隊、『ネット』の設置は終わったか!?』



       ***


『こちら西側の第2班、今最後の『ネット』を投下した!』


 素早く飛びさった飛竜から落ちてきた四角い箱。


 木にぶつかり、地面を転がりながら、邪巨神近くの地面で突然ピタリ、と止まる。


 直後、箱がゼンマイ仕掛けで開き、あの傘のような何かがニョッキリと顔を出す。


 それが、ポウとレンズの部分を光らせた瞬間、稲妻が邪巨神へ向かって放たれた。


 グワァァァァァァァァァ!?!


 無数の稲妻達が、邪巨神が進もうとするたびに邪魔をし、身動きを取れなくさせる。


       ***


『足止め成功、成功!

 作戦を第2段階に移す!』


 そして、本命の雷が走る。


 メーザー殺獣雷属性砲は、名に恥じぬ雷を次々と邪巨神へと放ち、その身を焼いていく。


 グワァァァァァァァァァ……!!!!


 再生が追いつかないほどの雷の雨に晒せれ、やがて膝をつく。


『まだだ!!炭化するまで照射し続けろ!!』


 だが、雷の雨は止まない。


 約、一時間ほどその場は雷が雨あられと飛び、森の一角が黒焦げになっても続けられた。


       ***

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