act.12:伝説の真実
髑髏巨神 スカルキング
三首吸精邪巨神 ギドラキュラス
勇者珍獣 ピグマリー
登場
「あ〜〜〜〜、腹減ったな〜〜〜〜なんかよぉ〜〜〜〜!!」
ズーン、と足音が響く。
「なんかしらねーけど小さいのがよぉ〜〜〜、ブンブンブンブン、ハエみたいに飛びやがってよぉ〜〜〜〜」
やがて、たどり着いた水場で、足音の主は水を覗き込む。
「また面倒クセ〜〜〜〜〜〜のが俺のナワバリに来やがったんだよなぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜ったくよぉ!」
湖に移った顔の主━━━━先ほどまでパンツィアと戦っていたあの黒い邪巨神は、グァグァ泣きながらため息をついていた。
誰が呼んだか、名をスカルキング。
奴こそ、このスカルグラウンドの生態系の頂点だ。
「お……そこじゃいッ!!」
グワァ、と気合を入れて湖に巨大な腕を突っ込む。
再び引き上げると、その腕には巨大なタコが絡みついていた。
「やっぱ小腹満たしには8本足だよなぁ……うめっ」
生きたまま頭からかじりつき、肉を引き裂き噛んで飲み込む。
「……ふぃ〜〜……」
ボリボリ、とスカルキングは傷をかく。
「……俺のこと傷つけるかよ……
案外外のちっこい奴ら共も侮れね〜〜なぁ〜〜……!」
ちらり、と森の方を見る。
「けどなぁ〜〜…………お前ら、勝てるかぁ〜〜??あの『3本首』によぉ……」
***
「よぉ〜しよしよしよしよし!!
辛かったわねぇ……!
アイツ、1000年経っても相変わらずだったけど、だったけど……あんなんでもまだ心があったのねぇ……!!」
諸々の事情を話した直後、パンツィアはジュゼェに泣かれながら抱きつかれていた。
「あの、ジュゼェさん、私これでももう15で……」
「15でも1500でも泣くときは泣くのだわ!!!」
「いやあの、今は流石にそんな暇ないので……気持ちは嬉しいですけど……」
えぇー、と涙目でショックを受けたような顔になるジュゼェ。
……なんとなくパンツィアはこの人がどう言う人かわかってきた気がする。
「うぅ……なら良いのだけれど……
でも無理しちゃダメよ、あなたクマ出来ているもの」
「え……」
そういえば、と目を抑える。
あまり真面目に寝ていない気がする。
「まぁちょうど良いわ!!
パンツィア、だっけ?ちょっと貴女とは色々積もる話もしたいのだし……
何より、ケンズォの作ったとかいうイクスマキナの再現品も気になるから……
ジェロニモ、『例の話』はパンツィアには私から話すのだわ!
そっちの皆さんには……お願いしても?」
(無論だ魔女よ。元よりそのつもりだ)
「じゃあ早速!!こっち来なさいな!」
「あちょ、ノイン、ドライ!!」
と、あれよあれよとパンツィアは拉致されるようにジュゼェに連れ出され、ノインとドライが後を追うように走り出した。
「…………パワーあふれる女性だ」
(はっはっは!魔女殿は私の祖先が隣の家の祖先と兄弟だった頃よりあのような人柄だ!)
さて、とジェロニモは、立ち上がる。
(我々も少し移動しよう。
歴史好きな学者の方、あなたのような人にも見てもらいたい)
***
森を進んである一角、大きな木の下に建てられた頑丈な木の建物があった。
「私の家へようこそ!
大体同じ場所に立て直しながらもう1500年なのだわ!」
「石造りにはしなかったのですか?」
「ああ……同居者が、地下室以外は木にこだわっているの」
「同居者……?」
ふと、カコン、と木製のなかなか新しいドアノブが下がる。
「ジュゼェー、帰ったかみょー?」
と、中から出てきたのは、Tシャツらしき服1枚だけ着た少女だった。
当然、ジュゼェの隣のパンツィアを見て、固まる。
「…………」
「…………」
「…………失礼するみょ」
そう言って、彼女は静かにドアを閉めた。
***
「本当にはしたない格好で失礼したみょ……!!
お恥ずかしい限りだみょ……!!」
数分後、ちゃんとズボンを履いて現れた彼女は綺麗に土下座していた。
「あんた、開放的過ぎる生活が仇になったのだわね」
「みょ〜…………」
「……ところで、こちらは?」
「おっと、ごめんなさい?
こっちはミョルン。昔は敵だった魔族よ」
「ミョルンだみょ。1000年前は魔剣士とか呼ばれてたけど、今じゃただのだらしねー女だみょ……」
そういうミョルンは、まだ恥ずかしそうに顔を伏せている。
「まぁその話は忘れましょ!
それよりミョルン、アレは出来ている?」
「設置はしたから微調整とやらはお前がやるみょ」
はいはい、と言いながら、パンツィアを誘い、ある場所へ連れて行く。
地下室へ降りると、パンツィアの目に映った物は……
「これは……!」
グォングオンと唸りを上げる空冷装置、むき出しの基盤回路とコードの数々。
そこに繋げられた抵抗や魔石ダイオード、トランジスタはそう、
「
「あら、もう外ではこれ出来ているの!?
でも、15年前に先に完成させたのは私なのだわ!」
驚きつつ、パンツィアはタブレットを取り出して、このコンピュータの魔術式に介入するプログラムを起動させる。
「えっ、何それ??なんなのだわ??
えっえっ、なんなのだわそれぇ!?」
「すごい……結構完璧だ……言語が古いだけで充分に使える……!」
「ちょっとまってぇ!?!
それ、コレよねぇ!?!
もうとっくの昔にコレを小型化していたっていう訳ぇ!?
あ、しかも何それ!?指でクイっとすると画面が動いたり触ったら開たりってズルい!!」
当たり前だ、オドオドしていても副学長になる実績を持つシャーカ製なのだ。
と思いつつ、勝手にこの
「これ……なんの為の
「え!?あ、うん……ちょっと、私の脳みその再現?というか……この家の上にある、アレの制御にね?」
と、この地下の工房の中央、机の上に置かれたある機械があった。
「コレって……?」
一見、メーザー兵器にも使われたパラボラアンテナの様な、しかしなんと言えばいいのか、アンテナらしく見える部分は、小さな鏡面上の板が無数に並んでいる奇妙な姿だった。
「
言ってしまえば、見えざる手であり目なの」
「レーダー……!?」
それは、とても聞き覚えのある名前の装置だった。
「これはね、指向性を持たせた雷の波を照射して、反射して戻ってきた波長の違いで物体のおおよその形や距離を見つける機械よ。
雷の波、いわゆる『電波』は伝達魔力波よりも強い指向性と、大体のものを跳ね返ってくれる特性があるおかげで、こういう装置が作れるのだわ。
主な利用法がギガフラシの位置を知ることで洗濯物を干すか干さないかを決めたり、ジャンドラーゴが発情期でブンブン飛んでこっちにきたかどうかを知るためだけど……」
「すごいですよコレ……!
よく発想から浮かんだなって思う大発明じゃないですか……!!」
元の世界でも、全く同じ原理の気象衛星にはレーダーが使われ、軍事においてもレーダーは所構わず活躍中だ。
「発想は、私達を見ればすぐ浮かぶじゃな〜い?」
「え?」
「あら……ほら、私半分は夢魔でしょう?
夢魔って夢を操る、と言われているけど、そもそもなんで他人の夢の内容を分かるのか知っている?」
そういえば、とパンツィアは疑問符を浮かべる。
夢━━━レム睡眠時における記憶の整理現象とも言われる。
必要な記憶、要らない記憶を選別する為の現象とも言われるコレを、夢魔はどうやって知って操ることが出来……
途端、ハッと思いつくパンツィア。
「……脳波ですね!」
「そう!よく分かったわね?」
そう。
魔力のある世界だが、人間や生物の脳からの指示や考えると言った行動を支配するのは、生物の電気信号である事には変わらない。
「脳波は電気信号である。ゆえに、考えたり夢を見たりする時には当然活発にそれが発生する。
と言うことは、ある程度パターンを知っているのならば、夢の内容が少なくとも良いか悪いかも判断できるし、」
「表面上考えていることも分かる。
ケンズォも、よくギャンブルでどう考えても不自然なくらいに相手の手を読んでいたことは無い?」
そういえば、と納得してしまう。
「でね、それをさらに進化させたのが、あなた達の会ったビッグフットなの。
あれはね、ある種指向性の、聴覚を司る脳で使っている生体電流と同じ波長の電磁波を出して、それが脳に直接響く声となって聞こえると言うわけ」
「そうか……!
電気信号なら突き詰めて考えれば全部2進数だから、我々がしゃべっている言語に関係なく意味を理解できる……!」
「正解!
と言う分には簡単なのだけど……
今はまだこれ理論の話で、実在するものとはいえそこまでの解析は難しいのだわ……」
ただし、と再びレーダーを見せてジュゼェは語る。
「こと、反響定位に電波を利用するともなると、理屈も完璧に出来ている。
……わよね?そっちはどうなの?」
「実は、無線誘導自体は研究も実地もできていますが、精度があまりにもお粗末で…………それにも関連している電波を利用した反響定位機は無いです」
「あらら。じゃあ、レーダーはまだ出来ていないの?
私ったら、1000年引きこもってた割に最先端だった見たいね?」
「ええ……これを応用すれば今のブレイガーOも格段に強化ができる……!
ジュゼェさん!!この技術をお借りできませんか!?」
「こらこら、そんな簡単にできると思うの?これでも1000年ぐらい素子作りから悩んだ物なのよ??
私が技術を教えたと言っても再現できるかは微妙だし、再現したらしたで自分の手柄にされちゃうかもしれないのよ?」
「ダメですか?」
パンツィアの視線に、ジュゼェはにっこりと笑う。
「いいわ!!
私も愚弟の発明品とやらに興味はあるもの!!」
にこりと笑ってピースサインを出す。
この世界でもいい意味を持つサインをだ。
「よかった……これで迫ってきている邪巨神に、確実に勝てる……!」
「……迫っている、か」
ふと、パンツィアの喜ぶ様子を、少し浮かない顔で見るジュゼェ。
「どうしたんですか?」
「……あのね、貴女達の仲間のみんなにも、すでにジェロニモが話しているはずなんだけどね、」
ジュゼェは、そう前置きしてパンツィアに極めて真剣な顔で語りかける。
「あなた達の、そして邪巨神の目的である、この大地の山に眠る邪巨神……
ギドラキュラスは、とてつもない強さと特性を持つ邪巨神なの」
***
スカルキングは、その場所を見るたびに大昔を思い出す。
まだ小さかった頃、自分より『小さな友』がいた時代。
『洞窟虫』がまだいた頃、『青白』が夜を支配していた頃、自分と小さな友はずっと遊んでいた。
「━━あの野郎が現れるまではなぁ」
今、その場所には、
外の『小さいの』がゾロゾロと連れられていく。
「ビビるかなぁ??それともなんかすんのかぁ??
まぁよぉ〜〜……何が起きたかは理解してくれよなぁ〜〜」
スカルキングは、そこへ進む『小さいの』をずっと見ていた。
***
ぼう、と土でできた建造物の中の火が灯される。
「ほう……!」
ディードを筆頭に、皆が感嘆の声を上げる。
中は、
そこには、所狭しと機でできた彫刻と壁画で覆われている。
「ここは……なんなんだ……?」
「オッオーッ!!
ウホッ、ホッホォーッ!!」
突如、導いてきていたジェロニモが、杖を持った両手を広げて吠える。
全員が顔を向けると、ジェロニモはそのままうやうやしくこの場所の中央にある物に向け
中央に位置する医師の台座の上、
そこには、なんとも奇妙な大理石らしき像が鎮座していた。
それは、全身が岩のようにゴツゴツしている生物で、首と胴の区別のない、顔もどこか愛嬌のある不細工な出で立ちの生物の像だった。
「なんだか、不細工だが可愛いなこの、」
「悪いが魔王殿も頭を下げろ。
これはきっとそう言うための像だ」
と、ネリスの言葉を遮りディードが頭を下げる。
む、となるネリスだったが、周りのビッグフット数体も、仮にもこちら側の人間の王族であるカーペルトも頭を下げているので仕方なく下げた。
━━━ンー………………♪
それは、低く流れ始めた何かの歌だった。
極めて小さく、低い音程の音がずっとずっとこの空間を満たす。
…………何故だろうか、直感的に皆それが『祈り』だと分かった。
(…………彼は、我らの『勇者』なのだ)
ややあって、ジェロニモがディード達へと語りかける。
す、と指差した先の壁画へ、視線を移動させて。
(小さき者だった。
しかし聡明で優しく、我ら以上にこの大地に住む大きな者達……君達の言葉で言う『邪巨神』『旧支配者』といった者達との仲をとりもつ『調停者』だった。
彼が、森の奥で震えるだけだった我々の先祖に、この力でかの者の役割を引き継ぐよう教え、そして文明を授けた……!)
壁画には、あの像のようなシルエットの何かが、怪物と話すような絵や、農耕や狩猟をビッグフットや虫のような者、牙の生えた細い人影に教える様子が描かれていた。
「そうか、これがピグマリーか……!?」
「なんだい、ディードそれは??」
「古代吸血鬼伝承に必ず現れる『知恵の神』の名だ。
だがまさか……未知の小型邪巨神、いや旧支配者が正体だったとは……!!」
「まて吸血鬼!余もその昔話を小耳の挟んだことがある。
つまり、この不細工は、まさか……!」
ネリスのつぶやきに、ジェロニモがうなづいた。
(『神』と言う言葉も間違いではない。
だが、私は『勇者』と呼びたい。
彼こそ、このスカルグラウンドの、いや世界を救いしもの。
……その命をかけて、ギドラキュラスを封じた英雄なのだ……!)
壁画には、火山の絵に落ちるピグマリーの絵と、それに続いた3本首の怪物の絵が描かれていた。
***
スカルグラウンドがほかのただの地続きの大地だった時代、
ピグマリーの知恵を借りて、洞窟虫と呼ばれた種族、古代吸血鬼、そして彼らビッグフット達が静かに暮らす場所だった。
しかしある時、空間を割ってギドラキュラスが現れた。
ギドラキュラスは、底なしに命を食らう。
草木が枯れ、大地が痩せ、動物も魚も死に絶えるほどに、ギドラキュラスは喰らい尽くしていった。
ピグマリーは、三つの種族と、その地に住む旧支配者達を率いてギドラキュラスを倒すために行動を起こす。
腕っ節に自信のある旧支配者達でギドラキュラスを疲弊させ、3種族の知恵と集団の力で命の薄い火山へ誘い込み、火口へ落としたのだ。
しかし、その過程であらゆる旧支配者や3種族達は多くの命が消え、洞窟虫は全てが死んだ。
計画を作りしピグマリーも、自らの魔力をギドラキュラスの囮のために使い果たし、火口へとその身ごと誘い出す事で死んでしまった。
だが、ギドラキュラスは火口へ落とされても死ななかった。
暴れまわり山に埋め尽くされながらもなお、ギドラキュラスは呪詛を吐いた。
「我は死なぬ。
いつか我が兄弟達がやってきて、再び復活しこの大地全ての命を枯らす」
…………山は、神殿が作られてギドラキュラスは封印された。
だが、今も山の中でギドラキュラスは身を溶岩で焼かれながらも生きている。
いずれ、復活の時を狙って。
***
プゥン、とジュゼェは自動詠唱機のモニターのスイッチを入れる。
「…………私はね、超音波反響定位機をそのギドラキュラスの封印された山にも仕込んでいるの。
案外精度がいいのよね」
カカカ、と自動詠唱機は音を立てて、画面にあるデータを写す。
「反響定位で得たデータを視覚化した物よ。
何が見えると思う?」
山の半ばの空洞のあたり。
何かが、見える。
「これって……生物……!!」
うずくまる生物は、山の縮尺を考えてもかなり大きい。
……驚くべきことに、見てわかるほど鳴動するように動いている。
例えるならば、心臓の動きのように。
「コレが、おそらくギドラキュラスよ」
やはり、とパンツィアの表情が暗くなる。
「……生きている」
「観測を始めて大体300年…………
こうはっきり形がわかって70年。
ずっとこの様なのだわ」
なんという生命力か。
やはり、邪巨神は生命の常識をはるかに超えている。
「……火山の中で、地熱とかもあるはずなのに……」
「ええ。本当嫌になるのだわ」
「…………でも、生きているのか…………」
だが、パンツィアはただ恐れおののいていた訳ではなかった。
「生きているのなら、」
「?」
「━━殺せるはず、ですよね?」
ふと、口の端を曲げて言うパンツィア。
「……あらあら、なぁに?
あなた今、ケンズォが悪巧みをしている時と同じ顔よ?」
ジュゼェの言葉に、パンツィアはただ一言、笑ってこう言った。
「私にいい考えがあります」
***
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