act.10:『敵』は、何なのか?

-超再生獣邪巨神 ザンダラ  登場-








「しかし……」




 HALMITの内部、かつてはダンジョンだった場所。


 右を向けば、最新の理論を生徒達に講義する魔法博士。

 左を向けば、おそらく何かの実験を行なっているであろう魔法博士。




「違うッ!!かつていたこう言う形状の生物が神として崇められていたに違いない!!現地に必ずこの生物がいるはずなんだ!!」


「クドい、クドい、クドいぞ!!

 よく見るのだ!!明らかに形状や性質のモチーフはこの近辺に良く発生する気象現象と酷似しているのだと言っておるだろうがァーッ!!」




 廊下の会話は、大抵が研究に関する討論。

 すれ違う人間は、大量の資料や書類を携えて歩く。

 この国の王が歩いていると言うのに、一切顔を向けず、研究に没頭しているような人間が大半だ。


「ここはいるだけで頭が良くなりそうよな。

 知恵熱で倒れることもありそうだが」


「そう言う場所ですから。


 ここにいるのは、その分野の研究者としては間違いなく最先端に位置する人ばかりです。


 なんせ、その人しか研究していない事も多いですし」


 ふと、右手で魔法障壁を展開する。

 ボン、と爆発が発生してドアが吹き飛び、「すまない!」と声が響く。


「手慣れているな」


「いつものことですしね。

 後ろ気をつけて」


 ダッ、と先程まで討論していた屈強な魔法博士が「遅刻なんだすまないッ!!」と叫びながら通り過ぎる。


「阿呆!!もう少し優しく通り過ぎるのだ!!300年前の余なら十分の九殺しだぞ!!」


「あー、ジョナス魔法博士は多分アレ聞こえてませんよ。

 普段は紳士なんですけど、ちょうど我々の目的地での作業に遅れているみたいで……研究のことになると最早ブレイディア急行です」


「そういえば、この混沌とした道の先はもしや……?」


 ええ、とクレドの言葉にうなづく。



「生物研究区画です。皆さん、武器は持ってますか?」




       ***


 ビー!ビー!ビー!ビー!


『緊急事態発生!!生物災害バイオハザード発生!!緊急事態発生!!生物災害発生!!』


「ああ、気にしないでください。

 今週6度目です」


 赤くランプが点滅し、各所でクリーチャーと傭兵魔法騎士のいつもの血みどろな戦いが発生する中、悠々と進むパンツィア。


「まだ水曜日なのに、1日2回も起こってるんですね……」


 皆、その様子に引き気味になっているが、最早日常なのかパンツィアは、明らかに外に出てはいけない様な見た目の何かと挨拶しながらさも平然と進む。


「ヤバすぎる奴は『レベル4』という最も深い場所で隔離しているので、ここは平気です」


『レベル4収容違反!!応援をm……うわァァァァァァァァァ!?!?』


「まぁ、最悪ここまでは来ませんって」


「━━クソォ!!レベル4から登って来やがった!!!」


「はっはっは、今日は元気だなぁ」


 そろそろ命が危ないのではないのか、と最後の通信を考える国家のトップ達だが、確かに言うほどこっちまでは被害はやっては来なかったのも事実だった。


「ま、前が、見えねぇェェェェェ!?!」


衛生兵メディック衛生兵メディ━━━━━━ック!!!!」


 ━━━後ろの無事を祈り、進んでいく。





 一行は、幅広く銃痕や血と臓物だらけのエレベーターに乗り込み、明らかに何人か喰っていそうな恐ろしく巨大な怪物と一緒に下へ降りていった。


「ジィゃあワたしハこコデぇ……」


「収容違反はもうダメですよ〜」


「ぅマぁいメシ、うえニしカぬぁイィィィィ……」


 レベル4と書かれた文字盤の場所で怪物が降りると、血糊だらけの文字盤の下にある鍵穴に鍵を刺して回す。


「今からの数字、出来れば忘れてください」


「それ、他国の人間に言うか?」


「『禁呪』で死にたくなければ」


 さ、と後ろを向いた三人の背後、文字盤にある数字を打ち込む。


 途端、エレベーターの魔法陣が起動して、すぅ、と背後の壁を抜ける。


「ようこそ、5へ」


 そこは、今までの生物研究区画とは明らかに違う場所だった。


 広大にくり抜かれた地下空間を防護魔法以外遮る物のないエレベーターが横へ進んでいく。


「あれは……!」


 ふと、一部の区画に飛ぶ鳥を見たクレドがつぶやく。

 黄金の体毛を持ち、鶏のトサカに似た頭の毛の冠を揺らし、竜の皮で出来た防護服で守られた職員の腕に止まる鳥だ。


「私でも知ってる!!アレって!?」


「ヴィゾーブニル、だと!?」


「人工孵化例2匹目、オスのトルフォ君です。

 あそこのメスのデオちゃんとは、上手く言ってるみたいで、」


「今すぐ資料を!!いや触りたい!!今すぐに!!!」


「そう言って陛下、1日中観察日記を付けるんでしょう?」


「当たり前だ!!例え国を売ってでもその価値はある!!

 幻の鳥!!高空でしか見れず、いまだハッキリとした写真すらないのだ!!

 神話にわずか数行しか書かれていない『黄金の鶏の正体』だぞ!?」


「後で、見つけた時の資料と、この場所で偶然孵化した資料、まとめて送りますし、ここのキーは教えますので、落ち着いてください」


 興奮するのも無理はないと言うべきかあ、この場所に他にいる生物は、さっきまでいた場所の物とは一線を超えていた。


 なにせ…………その大半が、幻想種や神話の存在と言われていた、あるいは神とも言われていたはずのものばかりだったのだ。


「……君は、私の依頼を……こなしていてくれたのだな……」


「報告はしてあったはずでは……もしや資料不備?」


「いや、忙しくて詳しく見なかったのだ。

 だが、ヴィゾーブニルは死んでも渡して欲しかった」


「いや実は……おっと、着きました」


 ガコン、とある区画に止まったエレベーターが降りていき、あの『幻想神話の動物園』の1区画に入っていく。




 ガコガコ音を立てて開いたエレベーター降りた瞬間、再びしまった扉と同時に上から何かの魔法が発動する。


対抗魔法レジストはしないでください。

 炎魔法と雷魔法の応用の殺菌消毒魔法です」


 全員を魔法陣が通り抜けるよう往復し、ようやく前方へ進めるよう扉が開く。


「念入りよな」


「レベル4までの動植物園とは違います。

 ここは、病の元となる微生物や、あまりに研究材料のない生物達を研究する場所ですので」


「いい場所だ。我々は生き物の中でも、毒耐性がありすぎる故にすぐ変な病気を媒介する」


「そう言うのに弱いのもいますので、とここの主任は申しております」


 と、目的地らしい場所の入り口、誰かがちょこんと座っていた。


「あ、レアちゃん!」


「うぉ!?」


「げぇ!?」「うっそ……?」


「おや、」


 不思議な少女だった。


 黒く短い髪の上、鳥の翼が生えており、その瞳も人間というよりは竜に似た細く赤く輝く物だった。

 人間では、間違いなく、ない。


「パンツィア、おはようございます。

 ふむ?そういえばもうお昼近くです?」


 ふと、白いケープのこれもまた白い服から、懐中時計を取り出してそう言う。


「うん、そうだけど……あ、もしかしてお使い終わったばっかり?」


「「お使い!?」」


「いえ、かれこれもう1時間前には。

 今はお昼と引き換えにアルバイト中です」


「「アルバイト!?!」」


 いちいちのセリフに大仰な反応を見せる魔王二人。


 だがまぁ……彼女の正体を知っていれば、それは納得の反応だった。


「……レア、本日もお日柄もよく」


 クレドが、目上の人間にするような言葉遣いでそう会釈を交え挨拶する。


「17人目のクレド王さん、そんなにかしこまらないでください。

 私はただただ長生きなだけの、変わった竜ってだけなんですよ?」


「いえいえ……我がブレイディアの守護竜神、超古代竜神ハイエンシェントドラゴン レア様にそのような無礼は」


「ねー、パンツィアちゃん?

 4500万年生きるとなんで偉い人はみんな畏るのです??」


 少女━━超古代竜神ことレアは、意味が分からなそうにそう首をかしげる。


「うーん、神話はね〜、正直専門外なんだけどね〜……


 確かレアちゃんは、大昔にやってる事がやってることだから……」


「あ!

 怖くないですよ〜〜、私そんなに怖くないですよ〜〜??」


 と、物凄くオブラートに包んだ表現で察したはいいが、そう言うことじゃない反応をするレア。


「……これが、『火の七日間』の主犯?」


「シッ!刺激しちゃダメ……!」


「ムゥ…………私そんなに怖くないのです……」


 ぷくー、と頬を膨らませる中、ふと咳払いするクレド。


「ところで、レア様のアルバイトとは?」


「うん。いざって言う時の緊急手段なのだ!です!」


 デーン!

 などと擬音が付きそうな様子で中々いい形とサイズの胸を張るレア。


「緊急手段?」


「━━━助けてーッ!!」


「って声をかけられたら出動です」


「…………今ぁ!?!?」


 慌てて声の響いた部屋のドアを開ける。




 瞬間、あまりにもおぞましいものと目が合う一行。


 例えるなら、虫の死骸に映えるキノコだ。


 何か、肉のようなものが乗った台の、その肉を突き破り、ドクドク蠢くヘソの緒のような物を纏い、醜い人間のような上半身が天井にぶら下がる。


「━━クハァ〜〜!!」


「レア様ァ!!レア様大明神!!

 今だから焼いてぇ!!!!」


「焼くんだァーッ!!!焼かないと大変なことになるッ!!」


 部屋の隅にいた手術用の衣装の女魔法博士と屈強な男魔法博士の言葉に、


「スゥ……」


 レアの口から放たれる、高温のドラゴンブレス。


 ドラゴンの、飛行能力の要であり、ブレス攻撃を可能とする肺が分かれ進化した器官は、パンツィア曰く『生態内燃魔術器官ワイバーンジェットエンジン』と呼ばれている。


 最大の特徴は、ブレスにも使われるとある通り、逆噴射出来ること。


 今醜い敵を焼く攻撃は本来は、急停止や方向転換に飛行型ドラゴン種が使う為の機能を攻撃に転用したものなのだ。




 ジェットエンジン、と名付けるべき熱量を持って、醜い怪物は炭となった。


「…………」


 しかし、異様な光景だった。

 何があったのか、それが想像できないほど。


「……ん?」


 ふと、台の上でまだくすぶる肉塊だったものの一部が床へ垂れ下がり、

 そこから何かを引きずったような後を見つけるネリス。


「……」


 それは、自分の足元まで続いており、同じく気づいたタニアとともに視線がそれを追ってしまう。


「!」


 ふと振り返れば、猿の頭のような物から蜘蛛の脚が生えたような怪物が、カタツムリのように目を伸ばし歩いているのを見つける。


「なんなんだ、コイツは……!」


 背後を振り向いたクレドが見つけ言った瞬間、タイミングよく振り返ったそいつは、クハァと口を開いた。


おぞましいッ!!」


「気持ち悪い!!」


 二人の氷と雷の攻撃で、それを二度と元には戻れぬように消しとばす。


 その場にいた者全てが、

 今夜はねれなくなるような、おぞましい光景だった。


       ***


「アレが、今回送られた邪巨神の一部!?!」


 特殊清掃の入る研究室の脇の研究室を臨時に開き、一同は一息つく為にパンツィアの呼んだノインの入れた紅茶で一息付いていた。


「あんなおぞましい上に訳の分からない気色悪い芸術性皆無の悪夢のようなのをよくもまぁ輸送できたものよな!」


「うっわー☆

 そのまま送る訳ないじゃないですかー、私だってあんなの嫌ですしぃ?

 普通はまともなお肉の塊だけ冷蔵で送られてきたって分かりませんかぁ〜?」


 随分猫なで声な口調で、長い尻尾を揺らして扇情的な下半身をわざわざ見せつけるように足を組み直す彼女、


 生物ラボ主任魔法博士、ビュティ・ビュティ。


 種族は淫魔サキュバス

 これでも専門は、生物学で医師の資格を持つ。


「ムキィ!?バカにしておるのか!?」


「バカにしてるんですぅ。

 私ぃ、魔王とか王族とか気取ってるくせして頭脳が持ち腐れてる系の生物って嫌いなんですよねぇ」


「コイツ不敬罪で殺してもいいか?」


「殺しても良いですけど、まずは話を聞きましょう?」


「さすがパンツィアちゃん学長〜〜、可愛いくって頭のいい子は無条件で大好きですよ〜〜♡チュッチュ♡」


 分かったから話を早く進めて、その羨ましいぐらい大きな胸を押し付けないでほしいパンツィアだった。


「それで、ビュティ・ビュティ魔法博士?」


「はいはい、せっかちで早漏な催促はやめてくださーい」


 明らかな不敬罪の中、それでも彼女はあるサンプルを見せる。


「まずこれをご覧ください。

 今回の時期最初の、出現した邪巨神の提供いただいたサンプル。

 ドラゴンみたいだったらしいですねぇ?」


 変色はしているが、案外綺麗に溶液の中でそれは形を保っていた。

 巨大な細胞の形と言うべきか、はっきりとそれが邪巨神の細胞とわかる。


「そして……ちょっと、ジョナスくぅん〜〜???

 これだけ色とりどりの女の子集まっているって言うのに、お人形さんを口説いてるんですか〜〜??」


 ふと、入り口近くで、ノインの紅茶入れの手伝いをしていた体格のいい男性へ声をかけるビュティ。


「すまない。手伝わないのは紳士としてどうかなと思ってね」


「ジョナス様、御心はありがたいのですが、貴方も魔法博士。

 ここはお任せください、助かりました」


「いいさ。たとえ鉄の身体でも、女性を助けないのは、紳士的じゃあない」


 と、厚い胸板の上半身を改めて白衣で包み、丸太のような腕から生える太い指で眼鏡をかけ、タブレットを持ってくる。


「シャーカ副学長の研究の素晴らしい所は、自動詠唱機コンピュータの応用で写真をそのまま現像せず、詠唱のように情報をコレの内部に刻んで見せることが出来る事です。


 これを見てください」


 タブレットに写った写真。

 それは、あの怪物が出た台と同じものの上に乗った肉塊。


 ━━━そこのサンプルと瓜二つ、新鮮な色の違いだけの物が。


「これは……このサンプルのかつての姿か?」


「いえ、


 一瞬にして、クレドが━━鳥類学、生物学に精通する彼の顔が驚きに染まる。


「驚きました?驚きましたよねぇ??

 じゃあ、これもどうぞ!!

 今夜は誰か抱いてないと寝れませんよぉ〜〜???」


 フォン、と魔法で起動した壁の画面。

 自動詠唱機は、すぐにあるスライド写真を出す。


「これは、トレイルから送られた個体のサンプル!!

 甲殻類型の、ようやく切り落とした脚一本の物です!」


 白い肉塊のようなものを見て、ますます顔色が悪くなる中、次が映る」


「そしてこちらがぁ、そちら二人の魔王サマの地に出た、ああウネウネして気持ちわっるぅい、タコ型のサンプル!!

 ああヤダヤダ、滑りが酷ぉい……!」


 その肉塊を見て、とうとう震え始めるクレド。


「どうした?クレド王??」


 口元を押さえ、せわしなく視線を動かし、何かを思案するように部屋を右往左往し始める。


「……『二重螺旋』解析は?」


「?」


「『二重螺旋解析』だ!!してあるのだろう??見せてくれ、今!!」


 ふと、そう声を荒げて言い放つ。


「ちょ、クレド王?」


「パンツィア、なぜもっと早く言わなかった!?」


「こうなるからです。

 いえ、言い訳をするなら、出立前に見せるべきだった」


「そう言うことなのか!?

 こんな、ことが……!」


「待て待て!!話が読めんよ!!」


「クレド王、どうしたんですか?」


 ふぅ、と大きなため息をつき、タイミングよく渡されたアイスティーを一気に飲み干す。


「……少しだけ生物学の授業をさせてもらう」


       ***


「全ての生物には、通常目で見えぬほど細かな、そして細長い『二重螺旋』で出来た『設計図』を内包している。

 人によっては『遺伝子』とも呼ぶこれは、今も全てを解析したわけではないが、我々の寿命、種族の能力、性格までもを決める、文字通りの『設計図』なのだ!」


 画面に映る二重の螺旋、その合間を色の違う四つの橋とでも言うべき物が繋ぐ図が映る。


「これを詳しく解析すれば、いずれは防げるはずの病気や、美味しさと病への強さを同じく獲得する穀物を作り、果ては自分と同じ存在を想像するも容易くなる、もはや神の領域に踏み込む発見かもしれない!!


 だが、一番今!!

 この研究で役立つことは……二重螺旋による比較による近縁種の解析だ!」


 ちょうどそこで、四つの二重螺旋の画像が出てくる。


「今のところ親と子の二重螺旋の差は分からないが、人と猿と魔族の差は分かるようになっている」


「いや、その三つはあまりに生物として遠くないか?

 全然違うではないか」


「……1%から2%です」


「何?」


「……人間と猿、魔族の遺伝子の差は、現在のところ、1〜2%しか違いはありません」


 クレドは、真剣にそう答えた。


「そんなバカな!?」


「いえ、これはあくまで、遺伝子の差だけです。

 二重螺旋は設計図と言いましたね?

 設計図は工程こそ同じと言えど、順序が違っていたり、記述している文字が違う箇所があったりする為に、結果である我々が違う生き物になるということも同時に分かっております」


「む?なるほど……ただ同じ部分を捕獲したり、順序を変えてみればだいたい同じと言うことよな?」


「パパオの実と人間は50%同じ二重螺旋ですよ……ただ、」


 映像の四つの二重螺旋は、ほぼピッタリと重なる。


「━━━この邪巨神たちは、順序も書いてある言語も同じにも関わらず、情報量も同じでありながらも形が違う!」


「!?」


「いや、逆と言うべきか!

 形が違い、生態も性質も、増して節足動物や軟体動物、竜種に霊長類!!


 そこまで種が違うにも関わらず、99.9%、二重螺旋の形も配列も同じ!!」


「いったいそれはどう言うことだ!?」


です」


 ふと、そう言葉を漏らすジョナス。


「ホムンクルス?あの、瓶の中で作られる魔法生物の?」


「我々、生物学の分野の魔法博士においては、一つの細胞から作られた生物を……要するに『複製された生物』とでも言うべきでしょうか?

 そう言ったものを指しても言います」


「出た〜、のトンデモ理論〜」


「ほかにどう説明すべきだと思う?

 君もそうとしか思えないと言ったじゃないか……!」


 ジョナスは、重なり合う二重螺旋の映像を、その太い指で指差して自説を続ける。


「今まで歴史に名を残してきた邪巨神がそうだ、と断言する材料がありません。

 しかし、彼らは違う。


 彼らが遺伝子上全く同じものならば、それはなぜか?なぜ同じものからこのようにあらゆる生物を作り出したか?


 ホムンクルスは、我々の技術では瓶の中から出せば死ぬような失敗例が殆ど!!

 仮に外へ出せるような個体を作れても、大抵は体質的に貧弱であったり、成長ができないような……どこかしら欠点がある!!


 だがこの邪巨神達には、それがない!!」


「待て……つまり、この邪巨神達が同じ生物であるというのは、ホムンクルスであるということはつまり……!?」


「ホムンクルスのように人造で、なおかつ工業製品のように大量に生産する必要があるという事!!


 つまり彼らは、!!」


 深刻な面持ちで断言するジョナス。


「我々が、飛竜を掛け合わせより強く乗るのに適した生物を作るように!!


 これらは同一の生物から、より凶暴に、より厄介に、!!


 そう考えた方が、自然だとは思いませんか?」


 ジョナスの力強い言葉を、プークスクスと笑う声が響く。


「自然か不自然かで言ったら、あーっきらかな不自然な事だらけじゃないですかそれ〜〜??」


「ビュティ!!だが現にデータは!!」


「私が兵器を作る立場なら、コントロール出来ないような凶暴な生物を送り込むなんて下策しません」


 う、と言葉に詰まるジョナス。


「目的が侵略であれ我々の消滅であれ、もしも生物兵器を使うのならば、使うべきは『細菌』『ウィルス』。先祖代々、人間が人間同士争うときも、勇者が魔王と争う裏でも、ずっと使われてきた、コントロールもしやすく、仮にコントロール不能になってもまぁ殲滅は出来る最高の生物兵器。


 魔王吐血病?ブレイディア風邪?レール病?梅毒に流星症候群。


 とにかく、そういうものを普通は『生物兵器』とするのが城跡。我々凶暴で極悪な星の怪物供の流儀であり、他もまともな考えならそうでしょう?」


「くっ…………たしかにその通りだ」


「でも、彼らの解剖の結果は、まぁ非常識な構造、細胞、遺伝子配列なのはさておき、


 そういう食らったらおっそろしいものはなし。


 いっそ不自然すぎて何か意図を感じるんですけどねぇ」


「不自然?」


 と、最後の言葉に疑問符を投げかけるパンツィア。


「土地ひとつ違うだけで、流行る病は全く違うのに、次元を超えてきたはずの彼らの細胞には、なんのウィルスも無く、生物実験でも死なないにしろ何か以上の起きる微生物が全くいない。


 おかしくないですか?」


「ふむ。それは不自然だ」


「ちょっと待てクレド王。何が不自然なのだ?

 余とタニアは置いてけぼりぞ?」


「ああ、つまりはです。


 この世には、ある種の生物には無害でも、我々には有害な細菌がいたり、逆もまた発生することがあります。

 また、細菌より小さな『ウィルス』という病の元は、単純な生き物、とでもいうべきものの性質上、変異し、突然我々の間で感染し合うようになったり、我々を殺すような毒性を持つことが常にあります。


 それがむしろ当然の流れであり、それすらないというにはあまりに不自然です」


「要するに、わざわざこっちを殺しにきた生き物が、手を洗って身体を洗って、清潔にしてから戦いに来るような?」


「汚い話ですけど、殺し合いをするような相手なら……その……ウンチの一個二個投げつけてやりたいと思うのも常じゃ?」


「同じ人間ではそうはならんが、こと異種族だとそういうことは歴史的に日常茶飯事よな。

 余、最後の世代の勇者の一人に、精液と小便をぶっかけられたことあるぞ。


 当然、二度とそんなものを出せぬ身体にしてやったがな」


「唾ぐらいならいっそ許せるよね。

 私は許さなかったけど」


 うんうん、とうなづかれても、気まずいだけだった。


「……案外、そう考えると、ジョナス魔法博士の意見も一理はあるな。


 だが一番の問題は、」


 ふと、ガリガリという音が扉に響き、ゴン、という音がなる。


「騒がしいな」


「外には……確か清掃班とレアちゃんが?」


「呼んだです?」


「キシャー!」


 ふと、両腕で抱えた見にくい猿の赤ん坊が牙を生やしたような生物を掴んだレアがドアから顔を覗かせる。


「うわっ、それさっきの!?」


「まだ生きていたのか!?」


「やはり、邪巨神を『どう倒すか』が最も議論すべき事らしい……!!」


 キシャー、と叫びを上げて、ジタバタ暴れるソレ。


「パンツィア、国王としてもう一度頼みたい。

 このおぞましい生物を倒せる武器がいる!」


「もちろん、あらゆる手を尽くしますよ……でも…………」


 ガジガジとレアの指に噛み付き、引っ掻き回すも、たおやかな少女の指に見えてソレは竜種の体表。


 歯が折れ、再び歯を生やして噛みつきを、爪を削っては伸ばして引っ掻きを続ける。


「こんなの……どうやって倒せば??

 何を使えばいいんだろう……??」




       ***


 ここは、かつてパンツィアも住んでいた、ケンズォの家。


 そこには地下室がある。

 いや……『室』と呼ぶには余りにも広いような……巨大な空間が。


「━━━ところでご主人様?

 そろそろが冷めてしまいますわよ?」


「ああ、No.3《ドライ》君、今い……え?『昼食』?『朝食』じゃないの?」


 いつもの魔術師のローブではなく、パンツィアに贈られた作業用のツナギ姿のケンズォが、油まみれの顔でそこから出てくる。


「今何時とお思いなのかしら?

 朝から起きるなりずー……っと、わたくしへの返事をおざなりにしていたのですわよ?」


 オートマトンメイドが一人、ミネルヴァ・No.3《ドライ》は、クスクス笑ってそう言葉を紡ぐ。


「うわぁお、年甲斐もなく張り切り過ぎたかなぁ?

 お、サンドイッチか、美味しいね」


「出来ればお手ぐらい拭いてほしいのですが、まぁケンズォ様ならまだお行儀はいい方ですわね」


「ごめんって〜!僕君には割と感謝してるんだよ〜??」


 食べながら喋るケンズォに、お淑やかな美人の顔でため息をつくドライ。


「まぁさ、一昨日パンツィアも言ってたけど……してるって僕も思ったし、はまだまだ未完成だけど、形ぐらい仕上げておこうと思ってさ」


 す、と見上げた視線の先……遥か上、


「こちらの発明、お名前はなんでしたかしら?」


 大木よりの太い『足』、巨人と呼ぶにふさわしい『身体』、強靭なスーパーオリハルコンの『腕』、そして巨大な『目』を持つ『頭』


「パンツィアの、前の世界のお話から名前をとったよ。


 ブレイガーO《オー》


 あえてコレを何かと表現するなら、試作超巨大自動人形兵器……いやよそう、気取り過ぎてカッコ悪い!」


 その巨大な空間を所狭しとばかりにそびえ立つソレを、ケンズォはこう表現した。





「『超越機械人スーパーロボット』、ブレイガーOさ!」


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