act.9:パンツィア先生の楽しい授業
何処にでもいそうな青年のエドワードは、どういうわけか今国王陛下と魔王陛下二人一行を案内するために、『フローター』という移動用の機械に乗って広大なHALMITのヘルムス魔法博士の研究区画に向かって進んでいるのであった。
「胃が痛くなってきたかもしれない」
「頑張れ、パン屋の息子さん」
隣にいた幼馴染の護衛の女騎士のオティーリエがいなかったらおそらく吐いていた。
自分よりも幼いのにパン屋を継いで今朝も遅刻しそうなのを笑っていた妹のティオが自分を弄る為の話が増えるとは思っていなかった。
「おーいまだか、暗殺者ー!」
「ネリスちゃん、普通の人間にそういうこと言わないほうがいいよ」
「少年、気にしないでくれたまえ。
間違いは誰にでもあるし、こんな危険な場所に暗殺する間抜けもいなかろう!」
そりゃ遅刻しそうだからって乗り込んだ高速鉄道が王族専用車だったなんて思いませんよね!!
言えば不敬罪、心で叫ぶエドワードはもう気が気でなさすぎて、医学区画の胃薬が欲しかった。
そうこうしているうちに、この『空飛ぶ円盤』はHALMITの山岳にそびえる広大な施設へたどり着いた。
「む、なんだここは?
地面をわざわざタールを焼いたものでこんなに広く塗り固めて?」
「ここは滑走路と言いまして、パンツィア先生の飛行機械が発着陸する為に必要なんですよ」
「何故にだ、学生?」
「あー……『
着陸の場合速度を落とす必要と共に、反重力魔導機構を一度低出力にしないといけない為、もしも失敗すれば一気に墜落する危険があります。
その場合、緊急措置として胴体着陸をするのですけれど、」
「長いからもういいぞ」
「酷いねネリスちゃん」
そうこうしている間に、巨大な施設の前へやってくる。
「なんだここは。我が城並みに巨大な物置ではないか」
「その表現は正しいですね」
開いた扉を進むとそこは……
「おぉ、」
「いつ見てもここは壮観だ」
クレドの右側には、二年前に賢者の宮殿へ飛んできたウィンガーが鎮座していた。
ズラ、と並ぶ実機、少し小さな模型の数々。
トレイルの高速鉄道に実際に使われている『
そしてこの二年、改良が続けられていた反重力魔導機構の数々が解説付きで展示され……
「物置ではなく……ここは博物館であったか……!」
「壮観ですな、ここはいつも、なんというか……子供心がくすぐられる」
数々の機械を両脇に眺めながら進めば、気づけばそれらの主の元へとたどり着いていた。
「おはようございます、陛下。
ちょっと散らかっていて恐縮ですが……私の研究室へようこそ」
「やぁ、ヘルムス卿。この散らかった研究室が、見たかった」
「あの、すみませんお話中で申し訳ないんですが、先にこれだけ出しても?」
ふと、恐る恐る手を挙げたエドワードが、一つに紙の束を見せて言う。
「もちろん、レポートの提出を真面目にやってくれる人の気持ちを受け取らないわけにはいかないですし。
というかエドワードさんの方が年上なんですし、別に敬語じゃなくってもいいんですよ?」
「無茶言わないでくださいよぉ〜……」
「所で、レポートって何かね?」
ひょい、とクレドはエドワードの持っていた紙の束を取り上げて読む。
「あっ……!?」
「ほう?『
「あわわわわ……!?」
顔面蒼白のエドワードの横で、一枚ずつそれを黙読するクレド。
「……なぁクレド王、面白いのかそれ?」
「物語的な面白さはないですが……どうぞ」
在ろう事か、ネリスにまで渡されて読まれてしまい、気が気でないエドワードが短く悲鳴をあげる。
「ねぇ、魔法科学の事はわからないけど、どんな内容なの?」
「かいつまんで言えば、ほら数時間前まで乗っていた飛行艇にあったクルクル回るアレがあろう?
これ、アレの改良型のエンジンについて割と詳しく欠点やら何やら書いておるのだ」
えっ、と驚かれる中、勝手にネリスはページをめくっていく。
「そこのちっこいのが作った物は、要するに炎の水車と言うべきものだ。
だが、水車を回す方式にも色々なものがある」
「回すだけなのに?」
「分かっておらぬなタニア。
回すだけといったが、力強く回すのと早く回すのとは違う。
あえて複雑に歯車や滑車を駆使し、あらゆる回転数を任意に切り替えて回し続けるような物もあれば、これのように一本化した歯車の群れが生み出す信じられないほどのパワーをそのまま回していくものもある。
要するに、中級魔法連打して足止めして上級魔法でトドメか、極大魔法で一気にドーンかの違いよ」
「回すだけなのに??」
「回すだけでも色々できるよ、タニアはバカだn」
嘘のように顔に拳がめり込む。
一瞬凄まじい殺気立った面持ちがハッ、となり、倒れこむネリスを無視して恥ずかしそうに会釈した。
「……お見苦しいところを」
「…………とりあえず、専門外でも少し詳しくなれる、私の授業を始めても?」
***
生徒たちの背後に、この国の王と魔王がズラリと並ぶ中、パンツィアの授業は始まる。
「さて、みんなも久しぶりの中の久々な授業です。
今日は、前回までターボプロップエンジン仕組みを終えたいよいよ、そのコアとなる『
黒板にチョークを走らせ、事前に書いていたターボジェットエンジンの簡単な図の仕上げを終える。
「先生!すると、ターボジェットエンジンは完成したのですか!?」
「えっと、グリーニンさん、完成は前からしていたじゃないですか。
ターボジェットエンジンはすべての基礎ですよ。
ほんのちょっと冷却機構の開発に難航して内部を溶かしたのが1〜20ほどあるだけです」
笑顔だが相当怖い圧力で言うパンツィアに、貴族風の出で立ちの生徒は小さく謝りながら座る。
「なぁ、クレド王。あやつなんであんなに怒っておるのだ?」
「ジェットエンジン完成は、二年前からの彼女の悲願でありましてな」
ああ、と納得したところで、授業へ耳を戻す。
「
内燃と名の通り、内部で発生した炎魔法によって生まれた力により動力を生み出します。
炎魔法は魔力を燃料とし、大気を触媒に強く燃焼させるのがまず基本理論。
それを動力に変えるには、機械的には四つの工程を必要とします」
黒板に描いた絵は、俗にシリンダーと言われる機構の簡単な図解だった。
「触媒の『吸気』、そして『圧縮』、魔力を注入し炎魔法を発生させる『点火』、炎魔法によって変質した触媒の『排気』、この一連の動作によりシャフトを回して動力を得ます」
ぐるぐる、と空中で四つの工程を示すようチョークを回し説明をする。
「さて、私が意地で完成させたこの『
ふと、小走りでその場を立ち去り、コロコロと台車と共に大きな機械を持ってくる。
「これが、ターボジェットエンジンの基本構造モックアップです」
例えるなら、筒を縦半分に割った中を、一本のシャフトを軸に大量の歯車と言うべきか……
「質問である!」
「あ、えっと、ネリス魔法陛下様どうぞ」
「畏まらんで良い!
それよりもだ、さっきの……ターボプロップ、であったか?
図を見てからずっと不思議だったのだが、これは…………ギアボックスもなければその図の内燃機関の最大の特徴のシリンダーも見えん。
どういう事なのだ?」
「そうか、魔王諸国連合にはまだ、『
「アレはなかなか良いものだ。
風車を括り付けたようなデザインが最初は気に入らなかったが……今では愛嬌を感じる。
で、そんな気に入ったものゆえ余もこの真っ白で嫋やかな指を黒に染めるほど弄ったのだ。
それとは全く違うのは見れば分かる。
いや、むしろ見てわからなくなった。
これはなんなのだ?」
ふむ、と非常ににこやかな笑みを浮かべるパンツィア。
心の底から待ち望んだ質問だった。
「これはですね……この四つのサイクルを一本の筒の中で行う機構です」
「何?」
「こっちが前です。この前のタービンブレードで『吸気』、中腹のここは『圧縮』の為の回転翼。
ここ、
そして、この後ろからでる『排気』の『推力』でコレを取り付けた物を飛ばす。
というのが、このターボジェットエンジンの基本構造です」
おぉ、とネリスが声を上げて、ターボジェットエンジンの模型へ近づいてくる。
「この一本にあの複雑な機構を!?
む?というか、冷却機構が見当たらないぞ?」
「そこ気になります?実はちゃんとあるんですよ」
ふと、足元から何かの機械を取り出す。
「突然なんだそれは?」
「これは、『
スイッチを入れると、ぐぉぉぉぉん、と甲高い音が出始める。
拳銃に似たホースの繋がった部分の引き金を引くと、たしかにプシューと空気が出てくる。
「これを、」
それをジェットエンジンの模型の前の方……ちょうど空気取り入れ部分と圧縮機部分の中間に差し込む。
「こうすると…………」
プシュー
と、ジェットエンジンの回転翼部分を覗き込んでいたネリスの前髪が突然出てきた風に巻き上げられた。
「……おう?」
と、ぞろぞろとほかのみんなも集まってきたので、もう一度覗き込んだ皆に空気をお見舞いするパンツィア。
「……この内部の回転翼から、空気が出てきた、という事、だな??」
「でもそれが、何??」
「…………そうか!!空気の膜か!!」
クレドとタニアの腑に落ちない顔を横に、ネリスは大きな声でそう叫ぶ。
「ご明察ですね。そういうことです」
「どういうことだ?」
「この圧縮機部分はまだ点火前の空気があります。
これ自体はどんなに温度が高くても200℃程度しかありません。
そこで、点火部分のタービンブレードの中身を空洞化、一部に穴を開けることで高圧の空気をタービンブレードへ送り、空気の膜を作ることで熱を遮断し、タービンブレードが融ける事を防いでいるんです」
おぉ、と言うどよめきはクレドだけではなかった。
周りもその簡素に見えてとても計算された機構に感嘆し、手元の紙へメモや図を描いていく。
「私にとってエンジンの開発はですね、常に温度との戦いでした。
ここに2000℃の熱を出すことでようやく使うことのできるエンジンの設計図があります。これを作りなさい
ただし、素材が耐えられる温度は1500℃までとする。
そんな、どうやって解決をすべきか分からない問題を、どこからのアプローチで、どういった手法で解決するかを模索するのが大半だったんです」
「そうか……考えても見れば、レシプロエンジンはその大半が冷却機よな。
アレは水冷式、奇跡の物質である水の比熱の高さを利用した物が大半だが、何文水なんぞを循環させたり保管するのに大きさがかさばる。
小型化は難しいのが現状であったはずよな」
「ええ、それに変速機なども含めますから、ハイパワーな物を作るとなるとかなり大型になりますしね」
「…………もしやこれ、変速機がないのか?」
ジー、とターボジェットエンジンを見ながらネリスは尋ねた。
「ありませんね」
「なるほど…………これは、そうか……
要するに全ての基礎なのか、ターボジェットエンジンとやらは」
「ええその通り。
言うなればの一本のシャフトの上で四つのサイクルを通して行う単純な構造のエンジン。
それが、『純粋内燃魔術機関』の名の意味です」
「なるほど、これなら構造も、シャフト一本の上に詰めれば良いというぐらいの思い切った構造故に、レシプロよりは『簡単』なものだ。
小型化も容易であろうが…………」
ふむ、とネリスは、ツンツンと中身のタービンブレードを突く。
「…………推力増減幅が低い」
「おぉ!分かりますか、これの欠点」
「ちょっと待ってくれ、推力増減幅とはなんだね?」
「ブレイディア王は、自動車は乗らぬか?
道楽には面白いぞアレは?」
「あいにく、竜車が肌に合うようで」
「自動車やレシプロエンジンの飛行艇はな、中に浮いておる状態や停止状態から進む時に力が多く必要だが、速度が乗ればそこまで推力は必要がない。
例えばここで、推力を多く産み続けるようなエンジンの力を速度が乗った時に続けてしまっては、燃料がもったいない。
だが、内燃魔術機関は基本的に、一定の幅でしかその推力の増減を制御できぬのだが……」
「その幅は極めて低い。
回転数で言えば、基礎の3000回転から2950回転や3050回転の間でしか回転数を変えられません」
「それが何か問題なのか?」
「速度に乗るまで時は3500回転は必要で、移動中は1000回転あれば良いぐらいと言えばわかりますか?」
「思っていた以上に深刻な問題ではないのかそれは!?」
「だから、通常動力が直接出力される部分のシャフトは、いくつかのギアを挟んでワザと回転を落とせるようになっている。
いわゆるギアと呼ばれる部分でな、一速、二速、という具合に速度域や必要な時に変えているのよ」
「ただ、これはまだ用途が用途だけに、高出力、ハイパワー、大馬力と、」
「それ全部同じよな」
「そんなマキシマムな最っ高な推力と、軽量さとコンパクトさが必要なためにこのような構成になっているんです」
と、クレドは何故かピンと来た顔をする。
「飛ぶためかな?」
「ええ、その通りです」
「なぜ分かったクレド王?専門外であろう?」
「私も一応はブレイディア王族の伝統として魔法博士ではあります。
そしてその通り、専門は鳥類学。
ただ、鳥を骨から生活から全てを見てきた自負があるとおり、空を飛ぶことがどれほど難しいかを知っております。
ところでここにいる生徒諸君は、空を飛ぶということがどれほど難しいかは分かるかな?」
ふと、前に出てきたクレドがパンツィアにチョークを借り、動く黒板をひっくり返し、真新しい面へ何か絵を書き始める。
「基本だとは思うが、ジェットエンジンの話を聞く限りもう一度おさらいすべきと思ったのだ。
私の専門は鳥類学だが、鳥は空を飛ぶために数々の進化、変化を遂げてきた。
とりわけ、翼の形状と『軽量化』に関しては、恐らく我々人間が彼らに最も学ばなければいけない部分だ……これが何か分かるかね?」
書かれた物は、左側が丸く、右側に従って鋭くなる楕円のような物だった。
「はい陛下!鳥の翼の断面です!」
「正解だ。
流体力学はパンツィア魔法博士や私のような鳥類学者にとっては基礎。
この形状は飛ぶための『翼』が必ず取らなければいけない形状なのは周知の事実だ」
「もっと薄くても良くはないのか?」
「ネリス殿のような魔王達の魔力の翼は、翼と言うよりはそこのパンツィアの発明、
通常、翼とは、この上の部分に流れる空気と下の部分に流れる空気が違う事によって生まれる『揚力』によって飛行を可能にする物なのですが、実はこれのせいで我々が作り出そうとした航空機達は、パンツィアが解決する以前は上手く出来なかったものが多いのです。
他の生徒諸君も、それが何故か分かるかね?」
す、と案外物怖じせず手を上げる生徒がいた。
「それは、陛下……鳥は、神話の存在であるロック鳥以外は……極めてサイズが限定され、どれほど大きくても我々よりは大きくなれず、大きくなればなるほど揚力を得るための速度が出せなくなったからです」
その生徒はエドワードだった。
「…………パンツィア、君の教え方は間違いなく上手いぞ?
一度で正解を引き当てた」
「恐縮です」
「さて、教鞭を戻そう。ここからが彼女の分野だ」
席へ戻るクレドにいわれ、すこしウズウズしていたパンツィアが黒板近くへ戻る。
「……空への戦いは、重量と揚力の戦いです」
クレドの書いた『理想の翼』の絵を指して、断言する。
「我々は大きく重い。故に、鳥のように空を飛べない。
なので、まず私は重量を何とかする為に、リパルサーリフトを開発しました。
でも、それはあくまで、『空に浮く』ための発明。
飛ぶには浮くためだけじゃなく……『浮いて進む必要』があります。
反重力魔導機構、とは言いますが完璧な物ではありません。
小型化はこの二年難航し続けましたし、何より消費魔力は凄まじく。
実は、最新のMk-46ウィンガーも、最初のウィンガーよりも反重力の出力を下げているほどです。
それに、浮く必要はなくても、方向を変えるためには翼も必要。
そして、進む力として、
反重力魔法による重量低減の数値が限られている以上、エンジンやその他重量の軽量化は必須。
『重量と出力の
「しかし、パンツィア先生!
あの、そこの魔王様が仰った通り、変速機の無いターボジェットエンジンでは、やはり出力が高くても、出力増減幅があまり見込めないジェットエンジンでは、不都合も多いのでは無いのでしょうか!?」
ふと、生徒の一人の言葉に、「その通り」とうなづくパンツィア。
「パワー・ウェイトレシオに優れると言っても、やはり現状での使い勝手は、レシプロや、これの先端にプロペラを付けた、この前の授業でも取り上げた『
他にも計算上問題もありますし、何より冷却がようやく出来たと言っても、他のエンジンより高温で高圧の状態に内部を常に晒し続ける都合上、スーパーオリハルコン製と言えどメンテナンスの頻度や難しさも跳ね上がってはいますし」
「なんか、そこまで聞くとあまりジェットエンジンに魅力も感じなくはなるな」
━━━その言葉を待っていた。
パンツィアは、静かに近くの箱から、耳あてと首輪の様なものをとりだし、生徒や来賓達に配り始める。
「こちら、骨振動魔力通信機と耳栓です」
「耳栓?こつしんどうってなんだ??」
「ちょっとうるさくなるので、骨を伝って耳の鼓膜へ直接音を伝える機構を持った通信機を配らせていただきます」
手早く首輪型のそれを装着し、耳栓を当てるパンツィア。
『チェック、ワンツー。ちょっと場所移動しまーす』
見よう見まねで、あるいは手慣れた手つきで付けた中、手で全員をある場所へ連れて行く。
***
ブブブブブブブブブ!!!
『こちらが、従来のレシプロエンジン。
現在は3000回転をキープさせていただいてます』
まるで巨大なハエが羽ばたくような音と共に、暴風が室内に吹き荒れる。
『相変わらず良い音だ!パワーを身体で感じる』
『……ほうほう、それは良かった』
ネリスの言葉に笑みを浮かべ、試験用レシプロエンジンのスイッチを切る。
プロペラが完全に力を失い、緩やかな惰性で回り始めたあたりで、皆を反対側へ移動させる。
『では、『
ふと、左手側に広がっていた生徒達をもっと後ろに下げるパンツィア。
下がったのを確認し、魔法を発動して遠隔でジェットエンジンを始動させる。
カァオ!
ギュゥゥゥゥゥ……ィィィィィィィィイイイイイイイイイイッッ!!
始動直後、ガタガタと建物全体が揺れ始めるような振動が起こる。
耳栓越しというよりは、地面を伝わって聞こえるような断続的に来る鳴動。
ジェットエンジンが吸った空気は、地獄の釜が開いたような熱波となり、蜃気楼を起こして吐き出されるのが見えた。
(なんという…………なんというパワー……!!)
隣にあったレシプロエンジンの音が、せいぜい人間の魔導師が全力で撃った雷魔法なら、
これは自分が本気で撃ち放つ、神族やかつていた勇者を殺すつもりの全力。
そのぐらいの差が、直に感じ取れたネリスだった。
『E=MCの二乗!』
『……エネルギーは、物体の質量と速さを掛け算したものの2乗の力があるというやつか……!?
確か、そなたの養父の式だったな』
『まぁ、細かい理屈は違いますけど言いたいことはこういう事です。
馬力が違う』
『なるほど、さてはそなた、鳥のように飛ぶつもりはないな!?
生きながらにして、流星になる気か!』
『まだ、流星よりは遅いです!
まずは音速、音の速さを超えます!』
『しかしなぁ、コレは……勢いが良すぎやしないか!?』
『実は、計算上空を飛ぶ場合、機体の速度とこのジェットエンジンが吐き出す、あの高熱の排気の速度を考えた場合、空気抵抗の都合上、ジェット噴流は搭載した航空機の速度より若干早い程度の速度がもっとも効率がいい計算になってまして、ああもちろん実機でも計測済みです!』
『当ててやろうか!!今出せる飛行機械の速度では相当効率が悪いな!!』
『音速超えるまでは酷い魔力消費ですね!!』
『音速は超えられたか?』
『後……大体、400キロぐらいですかね?』
ジェットエンジンのスイッチを魔法で切り、徐々に鳴動と轟音が収まってくる中、マイクと耳栓を外す。
「……しかし、パワーはどのエンジンよりも、そう……とてつもないな」
「……お腹になんかまだ響いている気がする……」
タニアの言葉通り、周りはクレド王含めほぼ全員圧倒されたような顔で、まだ残る衝撃の余韻に放心していた。
「えー、今!
魔王ネリス様の言葉通り、ジェット噴流の速度の問題を言いましたけど、
みなさんが振動で放心しているのは、そことも密接に関わっています。
なぜなら、噴流速度が速すぎれば、爆音と衝撃波は当然大きくなるからです」
と、その時、カランカランと大きな金の音が聞こえる。
「午前の授業、1時間目は終了です!!
今日のジェットエンジンの基礎に関するレポートは明日までに簡潔にまとめてください!
はい、授業は終わり!!おつかれさまです!」
パンツィアの言葉に、生徒達はぞろぞろと解散していった。
そして、クレド達来賓へむきなおり、
「では、我々も移動しておきましょう。
見せたい物がそろそろ届いたと思うので」
と、パンツィアは会話を切り出した。
***
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