エピローグ:そして平和が……


 髑髏巨神 スカルキング


             登場





 グゴォォォォォン…………

 グゴォォォォォン…………


 ━━━ツンツン


 ング、ング……

 …………グゴォォォォォン…………





「だーめだこりゃ。

 この馬鹿でかいよその王様完全に寝てらぁ」




 町娘ティオが、そこら辺の木の棒で横になるスカルキングをつついてみる。


 が!


 瓦礫もない更地と化した一角で寝るスカルキングは、起きる気配なく、寝返りをドスゥンと打つ以外動く気配がない。


「それはそうと、ティオ様はなんでこんな場所でパンを焼いているのですか?」


 そんなティオの後ろ、世界初のパンの移動販売車「焼きパン号」の前にいたノインは、そうティオへ訪ねてみる。


「ぁん?いやいや、コイツを焼くのにすっごく都合がいいんさね」


 と、小さな体をぴょんぴょん動かし、パンを並べる場所から一つ、皿に乗せてみせる。


「甘くてサクサクなパイ生地を表面につけて焼いたパン!


 その名も「ドクロ王パン」だ!」


「まぁ♪」




 そこには、スカルキングの顔の様な模様のパンがあった。


「随分と可愛い……恐ろしい顔が返って愛嬌があって……♪」


「味も当然、黄金小麦亭のままさ!!

 一個やすくしとくよ?」


「いただきましょう」


「てか、そういえばパンツィア姉ちゃん無事かい?

 あれから一週間立ってまぁ……今日何日?」


「3月20日、ヴィーナシアですね」


「え、もうヴィーナシア?

 明日大方の仕事は休みじゃないさね!」


「ええ、オートマトン・メイドの私には関係ないですが……」


「やべー、じゃあ明日はこまねーぞきっと!

 ぐあー……仕込みやりすぎたわー……!!


 なー、ノインちゃーん?パンツィア姉ちゃんに頼んでダースでパン買ってくれないかい?

 このままじゃあ、明日は復興もそこそこに仕事切り上げられて商売上がったりだよきっと……!」


「流石に、まだ明日も皆お仕事では?」


「こういう時だから休む!

 私も明後日のソルの日は休みさね!」


「ふむ……しかし難しいですね。

 なにぶんまず、私も本人に許可を取るのもままならず……」


「えっ!?

 パンツィア姉ちゃんまさか、そんなに悪いの?」


「そこそこには。


 いえ実は聞いてください、実は…………」




       ***


 それは、戦闘後の医務室であった。


「……頭部の裂傷、左腕骨折、右足骨折に内臓損傷に口内粘膜裂傷、それらに不適切な治療ぅ……………!」


 ワナワナ震えてパンツィアを診断していたビュティビュティは、とうとうキレた。







「安静ぇ━━━━━━━いッ!!




 絶・対・安・静!!




 一ヶ月は何もするなぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!




 その可愛い体を傷物にしたブゥアツゥだぁァァァッッ!!!!」







 べキィ、と鉛筆を折ってまでそう叫ぶのであった。




「……………………はい」




 まぁ、当の本人も自覚はあったので、従ったのであった。


       ***


「ただ、本人の回復力も中々高くもう歩けてはいます……

 とはいうものの、たまにリハビリする以外は、主治医であるビュティビュティ氏が近づき過ぎなくらい付きっ切りで安静状態で……」


「災難だったなぁ…………」


 おまけしとくよ、と一個余計に貰い、ありがとうとノインも会釈する。


「……しかし、災難といえばそちらも……

 町の復興に大分かかるのでしょうし」


「かもなー。

 けど、私もみんなも生きてりゃそのうち街を治せるって!

 前よりいい家にするんだってみんな張り切ってるさ!」


 トントン、と少し離れた場所でトンカチが鳴り響く。

 木造の家の支柱作りや、レンガの積み上げがあちこちで行われ、復興の兆しは見えている。


「……みんな、お強いんですね」


「これがブレイディアの人間さ!

 あ、人間以外も当然だ!!」


 …………ブフー


「「わっ!?」」


 突然、突風が二人を襲う。

 見れば、スカルキングが目を開けており、こっちに顔を向けて鼻息をかけたようだった。


 驚いているうちに、巨体の割に早い動きで体を起こし、街に大きな影を落とし立ち上がる。


 ━━━クワァァァ…………ッ!


 大きなあくびだった。

 呑気な顔で、作業を止めて自分をみる住人を後に、ぽりぽり背中をかきながら、遠く湖の方角へ歩き始めた。


「…………あらまぁ、散歩かい?」


「ふふ……いえきっと、彼も王様ですもの。

 他国とはいえ、民の復興の邪魔にはなるのが許せないのでしょう」


 のっそのっそと眠そうに大欠伸をするスカルキングの背中を見て、ノインはそう感想を述べた。


       ***


「おや、『来賓』が散歩をしているようだ」


 のっそり歩くスカルキングは、王城のバルコニーで昼食をとるクレド達ブレイディア王家3人にも見えた。


「『怪物陛下』殿も、短いかもしれないこの平和を謳歌したいのでしょう。

 本当、今日はいい日ですね」


 淹れたての熱い紅茶を飲みながら、アイゼナもそう感想を漏らす。


「春じゃからのう……朝晩は冷えるがのう……」


 なんだか丸くなったとでも言うべき印象で、最高齢らしい言葉をカーペルトも漏らしながら紅茶を飲む。


「……しかし、これも長くは続かない。


 あの戦い以降、二人の耳にも聞き及んでいるだろうが……」


「ええ、ちょうどパンツィアの所に顔を出しましたが、同じ事を言ってました」


 クレドの言葉に、アイゼナとカーペルトの二人は表情を引き締める。


「……この大陸だけで、実に18ヶ所。


 18


 眠っていた旧支配者の活動が確認されておるらしい」


「父上、たとえ旧支配者といえど、かの『怪物陛下』ほど話の分かる者ばかりともいえませんでしょうな。

 同盟内の人間や魔族でさえ、対立することは日常茶飯事」


「じゃな、クレド。

 そうなってくれば、テーブルとはいえんが、立ち話をさせるための『武力』は必須」


 一瞬、静まり返る。

 動くのは、茶のお代わりを無言で入れる侍従のみ。


「……既に、パンツィアには、一応将軍職である私から正式に、ある依頼をしておきました」


「そうか……出来ると言ってくれたのだな?」


「はい。

 竜騎兵を今のまま再編は不可能とし、例の『構想』をいち早く。


 ……ラインの犠牲を無駄にはしません」


 固い決意と深い悲しみ。

 二つが混ざったような表情で、アイゼナは語る。


「…………これで、パンツィアが最後に聞いた言葉への準備も始まるということだな」


 言うクレドも、表情は固い。


 空はこんなに青いのに、

 風はこんなに暖かいのに、








 その空気は、張り詰めた弓のよう。


 戦場の、気配が漂う。








 グルルル……!



 遠くで、スカルキングが低く唸る。

 何処かを見つめて、ただ睨みつけているのだ。







「なにかが……


「ああ、確実にの」




 言い知れない、不安の波が、

 真綿で首を絞めるように、迫る。




「私の代で、一体なにがこの国を、


 この大陸を押そうと言うのだ……!?」






       ***





























「駄女神ー!ペットー!

 何処にいるのですかー!?

 お前ら有機体ナマゴミ供のエサの時間ですよー!!」





 ━━我々の言う、宇宙空間のような場所、


 暗い中、数多の星々のような物で彩られた上下左右の空間の中…………



 ポツン、と半分は機械、半分は緑と青で塗りつぶされた、星の様なものが一つ。





 ガシャン、ガシャン、ガシャン、


 鋼鉄のブーツを鳴らし、スカートの様な腰の装甲が揺れ、何処か分厚い冬服や軍装に似た全身を持つ、顔が人間を模した機械色の肌の、ウシャーンカ━━ロシア帽と我々の世界で言うような物の様な増設コンピュータユニットを頭に付けた女性型のアンドロイド━━━ガイノイドとでも言うべき何かが、美味しそうな湯気を立てるハンバーグステーキとライスを持ってやってきた。


「駄女神ー?ペットー??


 ……フム、この私の声帯スピーカーユニットの出力不足でしょうか?

 いやいや、もしやセンサーユニットの不調?


 そこ忠実なる同志ドローン!!」


 と、機械の壁で作業をしていた宙に浮く丸い機械が、センサーユニットをガイノイドに向ける。


「ピピッ?」


「この辺りに有機体ナマゴミの反応があるはずですが、返事をしないのです」


「ピピー……ピピピッ!」


「なんですと?いや、音声データは不要。

 私の中枢に不快信号を受け取ったが故のバグ行動です」


「ピィー……」


「同情ありがとう、同志。

 では、早速起こしてくると━━━━」


 バキャッ!


「うっさいじゃないの。この私が寝ているのだけど?」


 ━━━突然、下着姿のままの銀髪の少女が、先程までガイノイドと話していたドローンを上空から落ちた勢いで踏み砕いて現れた。


「…………」


「ちょっと、読んでおいて無視?」


「…………パプンッ♪」


 変な声を発した瞬間、その顔が突然真っ暗になり、何かのロゴが現れる。


「ビビビッ、ビビビッ、ガガー……キュゥン……」


 真っ青な画面に大量の文字。


「……………………」


 そのまま電源を切らずお待ちください、の文字。


 そして暗転し、オペレーティングシステムのロゴが現れ、再び暗転。


 デスクトップ画面がちらつき、パッと元の顔が写り、その顔はハッとなった表情になる。


「……あまりのショックで予期せぬシャットダウンをしてしまいました……!!

 コンピュータとしてなんたる不覚……!!」


「どうでもいいから、とっとと用事は何か言ってくれる?」


 ガシャーン、とさっきまでドローンだったものを蹴って辺り一面に転がし、ギャーとガイノイドが叫ぶ。


「貴様ァ━━━ッ!!!

 貴様、貴様……!!


 有機体ナマゴミの血は何色だァ━━━━ッ!?!」


「はいはい、赤よ赤」


 あまりに悲壮な声を上げるガイノイドに対し、銀髪の少女はハイハイと興味なさげに手を振る。


「ぐぞぉー!!もういいです!!

 お前なんかにエサをあげようと思った私の電子頭脳が旧式化してバグだらけな思考ルーチンでした!!


 ペットー!!出て来なさーい!!

 もう全部あなたにあげますから!!」


 プリプリと怒るガイノイドがそう呼んだ瞬間、


 ━━━━Quaaaaaaaaaaー♪


 何処かから、そんな鳴き声が響く。


「ん?

 声紋解析中……これは、ペットが悲しんでいる??」




 が歩く背後から、機械を食い破り植物が生える。

 咲いた花がすぐに実り、中から動物が生まれ、急速に巨大化し、喰い、喰われ、土に還る。


 だんだんと無茶苦茶な生態系を広げるその主は、申し訳程度の薄い何かの素材で股間と胸を守っているだけのあられもない格好の、


 ━━━━巨大なツノの生えた少女。




「おやおや、掃除が大変な……

 駆除班、清掃班、J区画へ急行!」


 そのツノの生えた少女は泣いていた。

 見つけたガイノイドは持ってきた食事を壁が変形したテーブルに置いて駆け寄る。


「どうしましたか、ペット?

 貴女が泣くだなんて……」


「……Quuuuuuuuu…………uAaauuuuu……」


 そう泣いて何か言語とも鳴き声ともつかない旋律を口から放つ彼女に、ガイノイドは怪訝な顔をする。


(解析によれば今……『子供』『死』『悲しみ』『痛み』……と?)


「もしかして、貴女の子が死んだ……?」






 数分後、デミグラスソースたっぷりハンバーグを鷲掴みにして頬張るツノの少女の近くで、ガイノイド達二人は話していた


「駄女神、面白い事態ですよ。

 ペットの子供達が、世界の侵攻を失敗したそうです」


「は?面倒くさ…………いつぶりよ」


「はっはっは!無駄を楽しむ有機生命体の端くれの癖に『面倒がる』のですか!

 機械の真似などしても我々のような完璧かつ完全な物には慣れないというのに!」


「鉄臭い完璧と完全なんて要らないわ。

 そういうあんた、なんでそんなに楽しそうなの?」


「私は、アナログで不気味の谷を超えた不条理な喜びを理解しているのです。


 楽しみですとも、そう!」


 ザッ、と靴を鳴らし、大仰に天を仰ぐ様に腕を大きく広げるガイノイド。




 瞬間、くらいその場所が照らし出される。


 ソレらは、整列する様に立っていた。

 黒光りする鋼鉄の軍団。


 人型、重型、異形、異様!!


 さまざまな形の━━━ロボット軍団がズラリと並んでいた!




「次は、我が鉄獣鬼オルガロイドも出ましょう!!


 ひさびさに、感情の波形が踊るのですから!!


 ……ふはは、



 ふはははははははははははッ!!」





 ザンッ、


 一糸乱れぬ敬礼を頭上に掲げ、怪しい光を目から放つ。






 異世界に……危機が迫っていた。





       ***















「聴け。


 どうやらオレ達は、オリハルコンの組成データを間違っていたらしい」




「ええ。

 私のイクスマキナを調べて分かったの」







 HALMIT医療研究区画、パンツィアの病室。




「それはすごい発見ですね。

 ところで、怪我人のいる病室の中でそれを言う必要あります?」



 リピートアフターミー

 HALMIT医療研究区画、パンツィアの病室。




「あ?お前が一番知りたそうな情報だから持ってきてやったんだぞ??」


「そうよ!どうせ怪我み大体治って暇でしょ?」


 なぜか、アンナリージュとデウシアが妙に意気投合した状態で病室に現れていた。


 ついでに言うとお見舞いのリンゴはデウシアに食べられている。


「なぜ、二人は一緒に?」


「いや、あんた訪ねてきたらこの口の悪いチビと会ってなんか意気投合してねぇ?」


「態度も胸もでかい割には話してて楽しいんだよこの女神」


 はっはっは、と二人は妙に楽しそうに笑う。


「……それで、組成が違うとは?」


「この女神の巨神戦鎧……もはや残骸だったが、実物を調べたところ……


 どうも今までのオリハルコンは『偽物』だったらしい」


「偽物?」


「強度は本物と変わらないわ。

 ただ、どうも神具に使われているのや、本当に神代の時代の武器は、」


「別の金属が使われている。

 間違いない。オレが錬金術の知恵を振り絞って全ての検査をした」


「放射線測定でも?」


「ああ!例のウラヌス鉱石から抽出した『ラジウム』で使う殺人級の奴を使った最新機械でな!

 それで元素を特定したんだが……」


「……もしかして、」


「ああそうだ。


 この元素は今、」


、って事ね」


 なるほど、と合点のいくパンツィア。


「そろそろ、『ストリィムラボ』並みの量子加速器は必要ですね」


「量子加速器のパーツ錬成なんぞ数時間、稼働まで数日でできる。


 規模は全集40km欲しい」


「土地代いくらかかると……」




「は?神の財力舐めんな」




 ……納得せざるを得ないデウシアの言葉だった。


「……オリハルコンの完全再現のために?」


「そんな小さい事にこだわるかよ!!


 オレが目指すのは、『ニュースーパーオリハルコン』!!


 最強の超合金だ!」


「そして、私のエクスマキナもついでに直してもらうわ!

 超合金製にね!!」


 なるほど、とパンツィアはその案に納得する。


「それがいいかもしれません。


 今後も、どうしてもブレイガーOは戦わなければいけませんでしょうし、改修は必須……」


 フォン、と枕元にあるタブレットを起動させ、ある画像達を開く。


「すでに、ブレイガーOの改修プランとともに、サポートメカの案をいくつかみんなあげてくれています」





 そこには、地底を進むドリル戦車が腕に変形する青写真、


 そして、2つの砲を持った戦車が、ブレイガーOの前面へ合体し火力と装甲をあげる計画書、


 さらには、大型航空機とのドッキングにより空中戦へ対応したブレイガーOのCGまで出来上がっていた。


「ヒュー!カッコいい!結構真面目に憧れるわ……!」


「ハッ!!要はオレの個人的興味が優先してもらえるということか!!」


「ええ。

 ニュースーパーオリハルコンには、私も全力で支援させてもらいます。


 ━━━もう1つのプランの為にも」


 と、その言葉に怪訝な顔を見せる二人に、パンツィアは自分の個人ファイルを開く。



「ブレイガーOだけでは、いずれ立ち行かなくなる事もあるはず。


 必要なんですよ……


 が」




 それは、簡易な設計図に書かれたブレイガー。


 ブレイガーOではない。


 背中のパーツ、腕部、武装、全てが、


 O


 




「コレ、何?」


「まだ当分先の完成でしょうが、強いて名前を付けるならば…………」


 パンツィアが、ツノのついた精悍な顔の頭部を拡大して、その名を言う。


















「これの名は、


 グレートブレイガー」
















             第2章 終

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