act.22:倒せ、絶望!!

 三首吸精邪巨神 ギドラキュラス


 改め、


 超魔竜邪巨神

 エンペラーギドラキュラス


 髑髏巨神 スカルキング


             登場










「治癒魔法照射(ピュリファインフォース)!」




 ブレイガーOの右手から放たれた優しい色合いの光が、倒れこむスカルキングへ降り注ぐ。

 苦しそうな顔をしていたスカルキングの顔が少し和らぎ、呼吸が落ち着く。


「これでよし……ありがとう、スカルキング」






 ズゥン!!!





「……ッ!!」


 一歩、変態を終えたギドラキュラスが踏み出しただけで、思わず後ずさりしそうになる。


 なんというプレッシャー。


 これまでと一味違うと、全身の細胞が訴えている。


「…………っ、」


 キュルルルルルルルルッ!


「……、黙ってる訳にもいかないッ!!」


 勇気を奮い立たせ、ブレイガーOを前へと走らせる。


爆発魔法推進弾錬成機ラケーテンビルダー!!」


 両肩の装甲が開き、大小無数のミサイルが放たれる。


 発射、命中。


 しかし、爆煙を羽ばたき一つで吹き飛ばし、無傷の白い身体を見せる。


「だったらこいつだ!!!

 速射貫通榴弾スティンガーグレネイドッ!!」


 肘の装置が貫通榴弾を錬成し、毎分100発で放たれる。

 一瞬でギドラキュラスは蜂の巣になり、


 ━━━数秒も立たず全ての穴がふさがる。


「何それ卑怯!?」


 瞬間、ブレイガーOを超える巨体が凄まじい速さで回転し、二股の尾がハンマーのように襲いかかる。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?!」


 吹き飛んだ先の建物を破壊して、地面を背中でえぐり、ブレイガーOは立ち上がる。


「なんてパワー……!

 そして異常な再生力だ……!」


 今の衝撃で、パンツィアは額を切ってしまい血が頭から垂れる。

 ぬぐいながら、再びギドラキュラスへと向かい合う。


「こうなったら…………本来『こういう相手用』のコレを……!!」


 コンソールに備え付けられた、水に浮かぶ球体を模したスイッチへ指を向ける。


 しかし、瞬間あの三つの龍の首が口を開き、赤い稲妻を向けるのが見える。


「マズイ、反射魔法障壁展開リフレクトシェードォッ!!」


 反射魔法障壁展開リフレクトシェード展開とほぼ同時に、三つの極太の赤い雷がブレイガーOを襲う。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?」


 一瞬で警告音がコックピット内の鳴り響き、あまりの威力に姿勢はぐらつき、踏ん張れず後ずさりし始める。


 左腕から展開された反射魔法障壁リフレクトシェードはビキビキ音を立ててヒビが入り始める。


 やがて、バリン、と割れ、


「あっ……!?」


 ビシャァァァァッッ!!!


「うわぁぁぁぁぁぁっ!?!」


 ブレイガーOはその赤い稲妻をまともに被弾してしまう。


「ぐっ……ああ!?」


 そうして目に飛び込んできたのは、中指から外側が完全に吹き飛んだブレイガーOの左マニピュレーター。


 いや、腕も半ば走行は吹き飛び、肩も辛うじて基部が無事な有様だ。





「超合金スーパーオリハルコンが……!


 たった……一撃で……!?」





 黒焦げのダメージ部分を見るだけで、パンツィアは血の気が引く自分の顔を見ずともはっきり認識できた。


「嘘でしょ……!」


 一撃で警報がうるさいほど鳴り響くダメージを負うブレイガーOに対し、目の前のギドラキュラスは傷一つなく、なんならば一歩も動いてはいない。


「……どうする……?

 いい案なし……!」


 瞬間、再び3つの口から赤い稲妻が放たれる。

 まだ動ける。

 即座にパンツィアはブレイガーOを動かし、広い更地を走って雷から逃げる。


神光切断砲レイジウムスラッシャァァァッ!!」


 牽制に放つ神光切断砲レイジウムスラッシャーの光は、ギドラキュラスが翼を広げて発生させたバリアに防がれ、拡散していく。


「だったらこれだ!!

 爆発魔法推進拳ラケーテンファァァウストォッ!!」


 右腕爆発魔法推進拳ラケーテンファウストを放つも、真ん中の首を鞭のようにしならせた一撃で上へ振り払われる。


「━━そうくると思った!!

 超高熱火球砲プラズマキャノン発射ぁッ!!」


 しかし、打ち上げられた腕が変形しながら狙いを定めた。


 ピィンッ!!!


 甲高い音とともに放たれた超高温のプラズマは、真ん中の首を吹き飛ばす。


 ドシン、という音は地面に落ちた首と同時に跳躍したブレイガーOのジャンプの音。


 のたうちまわる首を尻目に、右腕を戻して振り上げる。


「この距離ならバリアは張れないな!?

 超合金製実体刃オリハルコンカッタァーッ!!!」


 シャラン、と展開された超合金製の刃が振り下ろされ、竜の胴体へ突き刺さる。


「どうせ片方使えないんだ!

 もう一本くれてやらぁッ!!!」


 パンツィアは素早く赤いボタンを押してスロットルを上げる。





 ゼロ距離での極大炎熱魔砲ブラストバスターだ!





「うぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 スロットレバーに再び力をかけた時、


 ━━━キュルルルッ!

 ━━━キュワァァッ!!


 突如、左右の首が蛇のように絡みつき、ブレイガーOを縛り上げる。


「何ッ!?」


 瞬間、ギドラキュラスの二つのあぎとがブレイガーOに噛み付いた。


 先ほどの赤い雷の攻撃とは違い、超合金製の体に歯が立つ訳ではない。


 だが、一瞬口がスパークした瞬間、驚くべき事態がブレイガーOを襲う。


 ビーッ!ビーッ!


「魔力流出警報!?


 まさか……ギドラキュラスに吸われている!?!」


 それを裏付けるように、怪しい光を二つの首が走り、まるで飲み込まれるように蠢くのがコックピットから見える。


「まずい、まずいまずいまずいまずいまずい……!!」


 操縦桿の通り腕が動かず、目の前の画面の広さも魔力量低下によってだんだん狭まっていく。


 視界では吸収する魔力が撃ち抜いた真ん中の首へと集まっていき、傷口から新たな口が、牙が目が……と生えていくのが映る。


「くっ……もう……ダメ……!!」


 ブレイガーOのコックピットから見える景色が、完全に黒へ塗りつぶされる。


 外ではブレイガーOの瞳から光が消え、力なくうなだれていった。


       ***


「…………」


 プルプル、と小さな頭だけの身体を震わせるマーシャ。


「……………………………………嘘なのぜ」


 目の前のモニターには、[信号途絶]と大陸共通語で書かれている。


「嘘なのぜ、嘘なのぜ……!

 うっ、くっ、クゥ〜〜……!!


 クゥラァァァァァッ!!!!!

 嘘なのぜェェェェェッ!!!!


 HALMITの叡智の結晶っ!!ったるブレイガーOがっ!!!


 負けるわけが、負けるわけがないのぜェェェェェッ!!!


 クゥラァァァァァ!!!!」


 てしっ、とはたから見れば弱々しいおさげ触手が画面に振り下ろされる。

 しかしそれは、小さな悲しみを携えた重い一撃だ。






 …………だが現実はやはり、心など加味はしない。

 画面は黒いまま。



 信号途絶の文字のまま。





「うぅ、うぅ……!!!」


 その時、ポン、と優しい掌がマーシャの小さな身体の上に置かれる。


「……?」


 そちらに視線を戻せば、まだ少し眠そうな顔のシャーカがいた。


「シャーカさん……!?」


「大丈夫ですよ、マーシャくん?

 自立自動詠唱機スタンドアロンは動いているはず」


 隣のオペレーティング用の自動詠唱機コンピュータの前へ座り、システムを立ち上げる。


「あ……!

 もしものために、確か化学式電源が搭載されてるはずだったのぜ!!」


「周囲に魔力が根こそぎ吸われているのは想定外ですが……でよかった」


 まず、電波媒介でデータ送受信を行う魔法式システムを立ち上げる。

 かのジュゼェ・ヘルムスの協力あって、突貫とはいえ作れた物だった。


「ブレイガーOシステムと同期リンク


「……生命維持装置問題なくデータ送受信っ!なのぜ!!

 生体情報バイタルが異常なしっ!

 やったぁっ!!!のぜっ!!」


『━━━やったぁ、はこっちのセリフだよ、マーシャくん!』


 そして、スピーカーから響いた声にさらに二人を明るい表情に変える。


「パンツィアちゃん!!無事だったんだね!?」


『ええ、なんとか!!

 ただ……状況は結構ひどい!』



       ***


 暗いコックピット、セーブモードで起動したシステムからブレイガーOの状況を見てパンツィアは呟く。


「現在、ブレイガーOの反応魔導炉からのエネルギーは全部ギドラキュラスに回ってます。

 燃料は残量67%、毎分3%ずつ減ってる……!」


『クゥ??結構残ってるのぜ……?』


「さすがはブレイガーO!

 体に回ってないってだけで、反応魔導炉のパワーは凄まじいってこと!


 でもだからこそ、動けないままギドラキュラスにエネルギーを与えていられない……!」


 パンツィアは、静かに右手に握られたものを見る。


 真っ黒な色でメーターのついた拳銃のグリップだけのような物、


 ケンズォ・ヘルムス製の反応魔導炉のリミッター解除装置、ブラストリガー。


 かのロクデナシの形見のオリジナル。


「選択肢は二つ!

 自爆か、このブラストリガーでバカな事やるか!」


『賭け事は嫌ですが、パンツィアちゃん!!

 もちろん、馬鹿な事するんですよね!?』


 シャーカの必死な言葉に、獰猛そうに口の端を曲げるパンツィア。


「じゃあ、HALMITの……


 いや、今動ける全ての人間の力がいるので、すぐに今から言うプランの実行を!!」


       ***


「何!?

 ブレイガーOへ魔力を照射する!?」


 結界で守られた城の一角で、クレドは思わず叫ぶ。


「驚きですが、理にはかなっておりますな。

 ですが問題は……現状魔力がギドラキュラスに吸われるせいでどこも足らないのでは……?」


「たしかに大臣の言う通りだ。

 照射するのはいいが、ギドラキュラスに吸われるのでは?」


「お待ちを陛下!

 どうやら奴め、ブレイガーOの栄養分で満足しているがために、周辺での魔力吸収をしておりませぬようです!」


 と、側近の将軍の言葉に、一同が喜びの声を上げる。


「ならば勝機はあるな。

 魔力発電所に連絡はできるか?」


「いつでも」


「よろしい、どうせ失敗すれば全て滅びるのだ。

 成功した際の被害の責任は王である私の務め。


 賭けに乗ろう。そう伝えてくれ!!」


       ***


 魔力発電所が魔力をHALMITへ流す中、HSXブレイディアの全ての電車が止まっていた。


「おい、オルファスの旦那よぉ〜?

 なんでこんなトレイルの首都近くの駅まで全部運行が止まってんだ〜?

 おいらが2駅先のマイハニーに会えない理由はなんだってんだよぉ〜??」


 酔っ払いが駅舎の窓に問いかけると、駅長であるオルファスはあん、といつも通りガラ悪く答える。


「災難だったがまぁ……諦めな。

 明日マイハニーの住む街が死なないように、今俺の会社の会長は大博打してんだ」


「あぁん??大博打ぃ〜〜??」


「ああ、


 会社の使う魔力全部かけた、とんでもねぇ博打さ」



       ***


「錬成班サッサと配置に付け運動不足どもがッ!!

 まだボケてない自信があると抜かす暇はない!!

 頭に図面を叩き決め!!」


 アンナリージュの指示のもと、かき集められた錬金術師が全員配置について巨大錬成魔法陣を作る。


「わーお、大規模にして複雑な陣ねぇ……!」


「当たり前だ、ロートル。

 お前の送魔力装置とやらは、デカいんだ!

 デカい物は寸分の誤差で歪な形になる!!

 大半が大きさの狂いを無くすための錬成計算式だ!

 ほら邪魔だ、デカいの!」


「あん!」


 たゆたゆ、とジュゼェの胸を叩いて、先頭に立ち錬成陣を構築、修正し始めるアンナリージュ。

 その自体には汗が浮かび、アイコンタクトと共に錬成陣から周囲に用意した必要な原材料を分解して再構築し始める。


「……口が悪い割に、いえ口の悪さが許せるほど手際がいいのね?」


「黙れ。集中力が落ちる」


「あらそう?ふふっ」


 やがて、HALMITの一角に、


 超巨大なパラボラアンテナがそそり立つ。


「おぉ……!


 私の超大型送信装置マーカライトファープ……!!」


「オレ達の、だ。

 オレとクソだが一流の錬金術師達とでこの短時間で錬成したんだぞ……!」


 周りがへたり込むのと同じく、額に脂汗を流してアンナリージュは答える。


「ええ、そうね。


 私達の希望……!」


 ジュゼェは、そびえ立つ巨大な超大型送信装置マーカライトファープを見て、静かに言った。



       ***


「星は丸いからよぉ〜、距離があると地上が邪魔で伝達魔力波も電磁波も届かねぇんだ」


 ガチャガチャと格納庫のパワーライザーのドリル部分の基板を弄りながら、テトラはそう語る。


「だから、HALMIT側から大規模魔力送信しても確実に届かねぇんだぁ。

 だからこのドレッドノートを中継地点にするって訳だんなぁ?」


「それで、送信装置をこのパワーライザーで代用する、そうだね!」


「そゆことだんなぁ!

 ほれ、そのデカいケーブルここにさせやジョナス!」


 と、言われてジョナスの体格でも重そうなケーブルを持って来させられ、ドリル基部の端子へと刺し込ませる。


「おい、外!お前ら無事かぁ!?」


『無事なわけがなかろうなのだー!!」


       ***


 びゅおぉぉ、と突風の吹き荒れるドレッドノート下部外壁で、命綱と手足の電磁吸着魔法を頼りに作業するジーベンたちオートマトン・メイドの面々。


「怖いよー!!落ちたら超合金製でも壊れちゃうよー!!」


「我ネコっぽいナマモノ系オートマトン・メイドだとしても!!

 ここは高すぎると思うのだなー!!

 バカでも煙でももはや上らぬ高度!

 ふしゃー!!」


「無線で文句垂れる暇あるんならサッサとこのパネル付けてもらえますぅ!?」


 と、隣で即席で作った集魔力パネルを取り付けるゼクスに怒られるジーベン達。


「お前のような危険信号オフのかしこまりましたご主人様系忠犬ではないのだぞ!?」


「ハァ!?誰があんなジジイのために、うぼぁ!?」


「「あっ」」


 と、無駄口をたたいた拍子にゼクスが落ちる。


 ……ややあって、唯一飛行が出来るノインに拾われて戻ってきた。


「ツンデレも結構ですが、ゼクス?」


「ごめん、ありがとうノイン。

 あとツンデレとかじゃないですし」


 ブツブツ言いながら作業に戻る一行の上、一足先にパネルをつけ終えていたドライがいつもの微笑を見せながら目を光らせ信号で合図する。


「こちらはオートマトン・メイド隊。

 完成9割です、送電はすぐに可能。

 戻ったらお茶をお入れしますわ?」


       ***


「シャオラァーンッ!!

 こっちも準備完了だぁ!!」


「ゲート開くぞ!」


 パワーライザーの固定具の状態を確認し、コックピットのスイッチを押す。


 途端、ウィーンと床が斜めになり、隙間から強風が吹き荒れ始める。


 ドレッドノートの下部ハッチが開き、固定されたパワーライザーの超振動波発生器である二つのドリルが砲身のように外へ晒された。


「よぉし!ブリッジ!!

 準備はいいぞ!!船を向けてくれ!!」


       ***


「了解クットゥッルーン!!」


 パチェルカの明るい言葉とは裏腹な、おさげ触手による慎重な操作でドレッドノートの向きが変わっていく。


「横風が強いな、固定は出来るか?」


「やぁねぇ、前国王様?

 私は、パンツィアちゃん並みの名パイロットさんっ!なのよ?

 でも、流石にキツいから補助をお願いするわっ!」


「無論じゃよ。若い人間だけにいい格好はさせん」


 隣の副操縦席でカーペルトも真剣な面持ちで、補助を行う。


「西風が強いわ……修っ正!!」


「少し下に傾けたほうがいい」


 やがて、ブレイガーOの方向へとドレッドノートの下部ハッチから覗くドリルを向ける。





「こちらドレッドノート!

 準備!完っ了!!よ!!!」





       ***


「クゥラァァァァァ!!!

 このクソゲス送信システムがぁぁぁッ!!!

 ゆっくりしないでデバッグされろォッ!!

 レイアム以下名プログラマ達をゆっくりさせないクソゲスバグはこの世から消えてねェェェェェ!!!」





『すぐで良いよぉぉぉぉぉッッ!!!』




 額に青筋をビキビキィ、と浮かべ、血走った目で唇を噛み切りそうな顔で送電を行う自動詠唱機コンピュータのシステムを組み替えるオペレーションルーム。


「組み上がったラインから順次送電開始ッ!なのぜぇ!!」


「1、4、7から12番完了!!

 魔力送信開始!」


「くがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

 魔力送るだけでこんなにバグ出してるんじゃあないよクソゲスシステムがぁぁぁぁcywづxふぃsfwくぃうk!!!!」


 決死の突貫作業に、倒れるもの、泡を吹く者色々いる中、それでも準備が進められていく。



       ***


 オッ!オッ!オッオッオッオッオッオッオッオッオッオォォォォオォォォォォオォッ!!


 ドコドコパチパチ鳴り響く、ドレッドノートの一角。


 降りられなかったビッグフット達が、皆祈りを捧げ何かを奏でる。


「この儀式は……?」


「勝利祈願だみょ。

 ほれ、さっさとこれすり潰すみょ」


 なぜか手伝わされ、赤い色の実を潰して謎の液体を作らされるディードに、手慣れた様子でミョルンは答える。


「ここまでしないと救いに答えぬ神でもいるのか?」


「いるらしいみょ。ミョルンも見たことないけど」


(━━━━違うぞ、我らが祈るは神ではない)


 ふと、赤い汁を取りに来たと思われるジェロニモが語りかける。


「では誰にだ?」


(今、未来を守る為に戦っている、


 あの『山吹色の巨人』だ)


       ***


「いいんですか?

 大空戦艦の全スペックの開示をするのと同義ですよ?」


「かまわぬ。それもまた一興よ」


 はぁ、とネリスの言葉にアルトナはため息を漏らす。


「軍事情報開示を『一興』と申しますか?」


「だが考えてもみろ、この戦いに負ければ一興一つできぬのだぞ?


 それに…………喜び勇んで鳴り物入りで登場して大して活躍せぬなどお前も嫌であろう?」


「…………たしかに」


 す、とアルトナは軍帽を深めにかぶる。


「機関最大始動。

 艦首の『例の装備』から伝達魔力波をブレイガーOへ照射してやれ!」


「了解!」


 アルトナの指示で大空戦艦も、その艦首をブレイガーへと向ける。

 その艦首に半ばから亀裂が走り、上下へ船体が割れる。

 ウィーンと伸びた巨大な砲身。

 ピタリとブレイガーOの方向へと向く。


「間違っても攻撃はダメだぞ?」


「同盟国相手にそこまではしませんとも、魔王陛下?」


「うむ。


 何より、ブレイガーOを壊すわけには行かぬ。

 実物を直しているところに立ち会いたいからな!!」


 その為にも、とネリスはこう続ける。




「その為にも、勝つぞ」




       ***



「ゴホッ、ゴホッ、うわ、血じゃん……」


 すこし落ち着けたせいか、脇腹の痛みが酷くなってきた気がする。

 


 真っ暗なコックピットの中、魔力が座れて魔法が使えないために、化学蛍光ライトで光を得て、パンツィアは救急箱を開ける。


「…………」


 痛み止め。使うかどうか迷う程度にはいろんな場所が痛い。


 ブレイガーOのコックピットの振動防御は完璧ではなかった。

 まだまだ、未完成。

 実際に動いて見えた問題点はたくさんある。





(なにせ、これはお爺ちゃんが、


 この世界でんだ……)





 ━━━ブレイガーOは、この世界で初めて作られた『スーパーロボット』の概念の具現化である。


 元の、生まれ変わる前の記憶の世界では、使い古されたアニメのネタである。


 それを、本当に建造し、最初に世界へと生み出したのは、間違いなくケンズォ・ヘルムスその人。





(問題だらけだったけどねぇ……

 だから、私はみんなに協力を求めたんだ)





 いまだノウハウも確立されていないそれを、対邪巨神用決戦兵器にすべくあらゆる人間、あらゆる亜人、魔族、神……


 あらゆる知恵を結集し、やっとまともに戦うことができた。




 いや、


 邪巨神に『勝つ』事が出来るようになった。




「お爺ちゃん、草葉の陰で聞いている?

 それとも天国か地獄かどっちかは知らないけど、まだ可愛い女の子の尻を追いかけている?」


 暗いからか、こんな状況だからか、そう死んだ相手へ語りかける。


「悪いんだけど、少しでいいんだ。

 もう少し、私に、力を貸して。


 それで、勝手に私のヘソクリくすねたのはチャラにしてあげるから……やっぱ嘘。これは許さない。


 でも、お爺ちゃんにとっては近いうちに取り立てに行った時は、減額してあげるから……」


 だから、と右手に持っていたブラストリガーを、スロットル脇に備えてあった端子に刺す。



『━━━パンツィアちゃん!

 送信準備完了!!』


「了解。お願いします!!」



 痛み止めはやめた。頭はハッキリさせたい。

 操縦桿を握り、パンツィアは呟く。




「お爺ちゃん……力を、貸して……!!」




       ***


「魔力照射開始!!」


 シャーカの言葉を皮切りに、かき集めた魔力が一斉送信され始める。


 巨大なパラボラアンテナ、超大型送信装置マーカライトファープへ送られた魔力が、上空を飛ぶドレッドノートへ照射される。


 船体下部に急増された集魔力パネルから専用ケーブルに伝わり、砲身がわりのパワーライザーへと流れ込む。


「来たぜぇい!!ジョナス、そっちの席の赤いボタンを押せぇ!!」


「わかったッ!!」


 後部座席でジョナスが赤いボタンを押し、一歩遅れてテトラが操縦席のトリガーを押す。


 一瞬ドリルが回転し、その先端から魔力の光が迸る。


 光の線がブレイガーOの頭部の後ろに伸びるV字の部分へ当たり、魔力が送られ始める。





「続けていくぞ!照射!」


「魔力照射開始!!」


「魔りょーぉく照ぉー射ぁー!開始ぃ!!」


 大空戦艦の艦首の巨大な咆哮が光り、そこでさらに収束させた魔力の光が放たれる。







 キュルルルル……!


 異変に気付いたギドラキュラスが、より魔力を吸収しようとし始める。


 だが、コックピット内でまだ灯る画面に映し出されるデータには、明らかに座れる量が減る━━━━送られている魔力の供給量が上回りかけている。


「一瞬でいい……一瞬でもチャンスがあれば……!」



       ***


「まだブレイガーOは再起動しないの!?」


「起きろぉ、パンツィア!!ブレイガーO!!」


 すでに、HALMIT側の送信魔力量は限界にきている。




「姉様、これ以上は!」


「くっ……もうひと押しと言うところを!!」


 当然、大空戦艦の魔力リソースもだ。


 あと一押し。


 その時、天から光が降り注ぐ。


「これは!?」







 場所は、浮遊大陸ヴァールファラ神国。


 地上のある場所に向けて、大量の魔力の光を降り注がせている神殿。


「雷神ソラの戦斧ストームブリンガーを急に無限宝物庫から出してきたと思えば貴女……!!」


「あんたがブレイガーOのピンチ見せたんじゃない!!

 ここまで持ってくるの重くってきつかったけどねこれ以外に魔力源になるものある!?」


 石の上に刺した黒に金の意匠が彩る片手持ちの斧に魔法を発動させ、膨大な魔力をブレイガーOに送るデウシア。


「そこまでするだなんてね……!」


「アイツには勝ってもらわなきゃいけない事情も義理もあるの!!


 負けたらただじゃあ置かないんだから!!」


 デウシア本人のなけなしの力と共に、地上へ魔力が送られていく。



「がんばんなさいよパンツィア……!」



       ***


 ブゥン、とモニターに光が戻る。


 各スイッチ類へ動力が送られ、今視界が映る。




「みんな、ありがとう。


 本当の戦いは、ここからだ……!」



 スロットル近くの端子に刺さるブラストリガー。

 上部のカバーを外しボタンを押して起動。

 その引き金に指をかける。





「いくぞッ!!


 全制限装置解除ブラストパワ━━━━━━━ッッ!!!」






 カチリ、とその引き金をパンツィアは引く。



       ***

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