act.15:アポカリプス・ナウ

 ミサイル眼魔邪巨神 ガンクロン

 頭剣乱舞邪巨神 ギロニアヘッド

 超再生獣邪巨神 ザンダラ

 結晶反射力邪巨神 プリズマエル

 超弩級岩塊邪巨神 イワサイガミ

 石化偽蛇獣邪巨神 メタデューサ

 三首吸精邪巨神 ギドラキュラス

 分裂小型護衛獣 ラキューラ



 髑髏巨神 スカルキング

 超古代竜旧支配者 ゴルザウルス

 大飛竜旧支配者 ジャンドラーゴ

 放射性鉱石旧支配者 ガボパゴス



               登場




 封印の山、大空洞。

 常に高熱のガスが吹きすさぶ過酷なその場所に、壁を破ってドリルがやってくる。


 ギャルギャルと履帯で岩だらけの場所を進み、パワーライザーはやがて止まった。




『お前も行くのかよぉ、デカブツ!』


『当然だとも!!僕もこの目で確かめたい!!』


 専用の極限環境防護服を纏い、巨大なジョナスと小さなテトラが通信機越しに声を荒げる。


「お二人とも、身体は鉄ではないのですから無理なさらずとも……」


『いいや、ノイン君!僕は生物学者として行く!!興味もあるってだけじゃない!

 この目で見て、ギドラキュラスの弱点を暴けるかもしれない!』


「関節部分を狙えばいいんじゃないの?」


『ゼクス君!君たちは優秀なオートマトンだが、果たして生物の関節の位置、体表の硬度が理解しきれるかな?』


 透明なレンズ越しに視線ゼクスに向けてジョナスは真剣な声音でいう。


『オイラは、まぁ地質学かじってるってことで、岩で爆弾の威力が下がらねーかの位置どり担当だぁ!

 ま、そんなわけで行くってことさね!』


『━━━それで女神にお留守番を頼むってわけ??

 本当、この時代の人間って図太い神経しているわね!』


 ふと、コックピットにいるデウシアの声が無線に響く。


「申し訳ございません。適任が他にいないものでして」


『いいのよ、9番目の人形ちゃん。

 ただ気をつけなさい?

 この先にいる怪物は、わ。


 こんな邪悪な気配、神話の時代以来ずっと、感じたことがなかった程よ……!』


 ふと、圧力調整室の扉を開けようとしたテトラ達の動きが止まる。

 無線越しでも、デウシアの…………仮にも女神であり、それも戦いを司るような武闘派の女神の、本気の冷や汗混じりの声を聞いたが故に。


『……扉を開けるぜぇ』


 テトラの言葉と共に、外と同じ圧力になっている調整室の外へ通じる扉が開く。


『気をつけてね。


 ここは、いやこここそよ』


 暗く嫌に静かで、生命の文字のない外へ、いよいよ進み始める。




 広い空間は、案外舗装されたような足場が多く、突起も少なく歩きやすい。


 だが、暗く広大であり、明かりの先は本当に何も見えない。


『…………溶岩がそのまま固まったみてぇだな……ここまで綺麗な足場は帰って気持ち悪いぜ……』


 特殊防護服の頭にライトで足元を照らすテトラが言う。


『なんで、こんな大きな空間があるんだ……?』


『普通空洞ってのは、雨が長い年月をかけて岩を溶かし進むものだ。

 けどここはなぁ……んなぁ……なぁんか不自然だよなぁ……?』


 あちこちを照らしてみるテトラ。

 不自然な空洞の壁は、奇妙なほどにツルツルしている。


『…………なぁよ、』


『どうしたんだい?』


『変なこと言うぜぇ、ジョナス』


 ふと、テトラはそう前置きして、そろそろ空洞の奥になる場所を照らして言う。


『もしかして……アイツが掘ったんじゃねぇの??』


 光に照らされた先に、それはいた。


 半身を、背後を岩の埋めて俯く恐ろしい竜のガイコツのような顔。

 真ん中に一つ、そして其処から脱皮して割れたかの様な半分の顔が━━しかしよく見ると、斬られたような側にも目のようなくぼみのある頭が━━両脇にそびえている。


『う、わぁ……!』


 ジョナスは、思わずそう声を上げる。

 まるでむくろの様な異様な風体の巨大な生物が、


 ━━━フスゥ……


 まだ、息をしているのだから。


『よく寝てるなぁ?

 おいフィーア、ここの空気の組成は?』


「えっとねぇ、ペロリ…………硫化水素と窒素と微妙な量の酸素!」


『よく生きているものだなぁ……!!

 邪巨神ギドラキュラスか……あまりにも常識から外れている……!』


「そんな事いいですから、さっさと爆破しません??

 いい加減、こんな場所嫌なんですけどぉ?」


 たしかに、とジョナスもテトラもゼクスの意見にうなづく。




「よし、最後は胸の中央に」


 なんと、数分後テトラ達はギドラキュラスの身体を登って作業をしていた。


 肩の上からの指示で唯一飛べるノインが、最後の『極大炎熱魔法爆弾ブラストバスターボム』をみぞおちにあたる部位にセットした。


 両脇腹、首の付け根2箇所、おおよそ形から見るに充分急所と言える場所へ極大炎熱魔法爆弾ブラストバスターボムはセットされていた。


『つーか、こんな近くでやろうだなんてお前怖いもの知らずだよなぁ?』


『君が言ったんじゃないか、この空間はギドラキュラスが掘ったんじゃないかって。

 手足が塞がれているし、どう見ても伸縮自在な首じゃない……ハズのこのギドラキュラスはどうやって掘ったんだと思う?』


『分かんねぇけど……ここの岩肌はまるで超高熱で炙って融けたみたいな様子だってことはなんとなく分かるぜぇ?』


『じゃあ、仮説として『ドラゴンブレスのようなもので炙って溶かした』、って言うのも一つだと思う。

 だったら、離れていた方が万が一起きたとしたら危険さ』


「……なぁなぁ、大きな生物学者様?

 それって我々が帰る時に起きでもしたら……!」


『そこが問題だなジーベン君。

 さぁ、さっさと降りよう』



 そんなわけで、一行は素早くギドラキュラスから降りていく。


 道具は置き去りにし、一行は素早くギドラキュラスから離れるために動き出す。




 どちゃっ



『!?』


 ふと、背後からそんな音が聞こえる。

 全員が振り向く。

 ライトを照らしたそこには…………なんだかネトネトと粘液を滴らせた肉塊があった。

 そして、再びそれが上から降って来る。


 まさか、と思って上へライトを上げる。


 そこには、こちらを見据える赤い目が6つ。

 両脇の口から何か肉塊を再び吐きながらこちらを見ている。


『走るぞ!』


 そう叫ぶや否や、皆走り出す。

 だがその瞬間、キュルル、という奇妙な声を背後で聞く。

 振り向いたジョナスが見たのは、口を開けて襲いかかる3mはある怪物だった。


『うわ……!?』


「チィッ!!」


 瞬間、怪物を腕から伸びたブレードを突き立てて殴り切り裂くゼクス。

 左ブローで竜の首に足が生えただけの怪物を押しとどめ、腹部装甲を開いて爆発魔法推進弾錬成機ラケーテンビルダーを発射してトドメを刺した。


『すまない!』


「いいから走りなさいよデカブツ!!」


 と、あの滴り落ちた肉塊が徐々に変形してさっきの怪物になっていくのが見える。


『うげぇ!?気持ち悪いなぁおい!!』


「お二人は生身ですのですぐにお逃げを!!」


「ここはわたくし達が押しとどめます」


「ここは戦闘もできる有能オートマトン・メイドにお任せなのだ!!」


「入り口開けといてねっ!」


 瞬間、飛びかかった怪物の一匹を、ノインが肘からロケット噴射をさせたパンチで押しとどめる。

 ノインを蹴って飛んだジーベンの腕からブレードが伸び、吹っ飛んだ怪物を一刀両断した。

 続く一匹は、2体が避けた背後から突進したフィーアの腕が変形したドリルで頭から穴が開けられ絶命。


 そこで、大量の怪物が走ってやってきた。


「のわー!?団体客がご登場なのだなぁー!?」


「えぇ!?フィーア達食べても美味しくないよぉ!?」


「そういう問題かおバカ共!!」


「多いですね。右は私が。ドライ!」


「あら、左を全部?なかなか働かせますわね」


 瞬間、ドライの腹部が開き、二つ繋がった機関砲が左右二つ現れ、ノインはカチューシャを外す。


「「今!!」」


 そして、ドライの機関砲から毎分三百発以上の実弾が放たれ、そして豪速球で投げられたカチューシャが高速回転する刃となって飛ぶ。


 当然、大量に現れた怪物達は次々3枚下ろしかミンチへと調理されていった。



       ***


「いよぉっし!!生きて帰れた!!」


「おかえんなさい!!大変だったわね?」


 パワライザー01のコックピットへ戻ったテトラとジョナスは、素早く座席へ座りシートベルトを閉めた。


「早く迎えに行かなければ!」


「ジョナス、お前の席が動力コントロールだ!始動してくれ、ボタンに書いてある!」


「これか!」


 ボタンをおすと、反応魔導炉から送られた魔力がエンジンにて動力へと切り替わるようになる。

 パンツィア製のエンジンは問題なく掛かった。


「おっし!エンジン出力レバーを目盛りが2のあたりまで上げてくれや!」


「あげた!」


「じゃ女神様、乗り心地は保証できないけど天からのお言葉でナビゲート頼むわ!」


「アイアイ、キャプテン!」


「パワーライザー01、発進!」


 ギュラララララララララッ!


 履帯が地面の岩を削るように唸り、パワーライザー01は発進する。


       ***


「ちょっ!?よだれだらけの口で噛むな化け物!!このメイド服おろしたてなのよ!?」


「うがー!!部屋のクソザコナメクジより多いのではないのかー!?」


「やだぁ!!私の身体にに臭いの移るぅ!!」


 揉みくちゃにされるように襲われるゼクス達3人は、泣き言混じりにこの小さな化け物を次々殺していく。


「くぅ!!超合金製の身体とはいえ……!!」


「まったく、よってたかって襲いかかるだなんて、野蛮ですこと……!」


 しかし多勢に無勢。

 ノインの鉄拳が怪物を洞窟の天井で肉塊に戻し、ドライの腕から展開された機関銃の弾丸の雨で怪物を両断し数を減らしても一向に勢いは衰えない。


『おい!全機生きてるか!?

 生きてたら今すぐ後退だぁ!!』


 ふと、5体の内臓無線に響く声。

 すぐさま、全力疾走でその場を離れ他瞬間、頭上を強い光が走り、背後で爆発が起こった。


       ***


 デウシアの持つトリガーコントローラにより、掘削用光破壊魔砲ドリルビームが放たれる。


「Fooo!

 あらやだはしたない……!失礼?」


「いやいや、これはそう叫んでも仕方はありませんとも!!」


「対ゴルザウルス用に威力をあげてて正解だな!!」


 と、ビームで薙ぎ払う間に後ろのドアが開く。


「援護を感謝します!全員無事です!!」


「っしゃあ!!狭いコックピットの復活の前だ!!

 女神様、起爆方法分かるかい!?」


「さっき待ってる間にマニュアル読んでいて正解ね!」


 取り出したケースを開くと、それが起爆スイッチだった。

 爆弾の起動を行うスイッチを全て上げ、赤い起爆ボタンを叩くように押す。


 カウントが開始。

 残り10秒。


「ジョナス!!超振動波発生装置起動!」


「わかった!これだな!?」


 小さな怪物を轢き殺し、パワーライザー01は壁へドリルを突き立てて素早くその場を離脱する。


 カウント0


 その瞬間、ギドラキュラス本体を起点に大爆発が起こった。


       ***


 HALMITへ降り注ぐ、大量のミサイルの雨。

 とっさに、パンツィアは反転したが━━━マッハ20はある速度相手では間に合わない。


 だが、そのミサイルの雨の前に、火球が飛ぶ。


「まさか……!」


 HALMITの盾になるかのように並ぶ竜騎兵達。

 アイゼナ達が、壁になってミサイルを迎撃している。


「辞めて!!無理だ!!回避しろぉッ!!!」


 だが、明らかに数が見合っていない。

 このままでは……皆全てが盾として消えるだけだ。


       ***


「すまない、皆。申し訳ございませんお父様、お爺様……

 付き合わせて悪いな、ライン」


 ラインの首筋を優しく撫でながら、アイゼナは覚悟と諦めの言葉を紡ぐ。


「後は頼んだぞ……パンツィア……!」


 その瞬間まで、目をつぶらず待つ。


 だがその瞬間、ぶちり、と何かが切れる音と共に、跨った鐙(あぶみ)ごと自分が落ちる。


 緊急時、外れないと都合が悪いため、超合金製のカタクラフトは、下地は誰でも斬り裂けるようになっている。


 もちろん、飛竜の顎の力と牙でも。



「なっ……!?」


 落ちながら、自分の愛竜がわざと切ったと理解する。


 もう手を伸ばしても届かない位置にいるラインを見るアイゼナは、命令せずに必死に火球を放つ白い竜を見た。






 思えば、ただ速い竜だったからという理由だけで気にいっていたなどとは、ずいぶん失礼な話だなと思う。

 若い飛竜で、妙に人懐っこいのがラインという竜だった。

 ……ふと、ほぼ訓練か、東の渓谷で速度の自己ベストを更新していたぐらいしか思い出がない事にアイゼナは気づいた。

 もっと大人になったら、あの山に行ってみよう。

 ……そう思っては、ずっと同じ場所にしか行っていなかった気がする。


 …………ああ、パンツィアのウィンガーに負けて拗ねたのはもう2年以上前か……


 アイゼナは、滲む視界で上を見る。



 ━━━思えば、いい騎手とは、お前の相棒とは言えなかったな。なのに……



 必死に火球を吐き、その一瞬下を見るライン。



 ━━━それでも、お前はそんな顔をしてくれるのか



 仕留めきれなかった迫る『目』を尻目に、


 爆発に巻き込まれる瞬間、


 ラインは、あの人懐こい目で、

 笑うようにアイゼナを見ていた。


       ***


 何発かが、HALMITを爆炎で包む。


 怒りの咆哮で煙をかき消したレアは、しかしその視界に映るのはその間に距離を離し、あの荒野へと向かっていくガンクロンの後ろ姿。


 火球も射程圏外。すばしっこい奴。


 苛立たしげにレアは、HALMITの方向へ戻っていく。



「……!」


 そして、道中の光景を見て、人型に戻ったレアは息を飲んだ。


 ブレイガーO格納庫近くの荒野に無数に広がる火柱。

 それは全て、ミサイルから盾になった飛竜達の死体。


 傍らには、パラシュートを開いて降りてきたであろう竜騎兵の皆が、涙を流し、あるいは呆然と立ち尽くし、それらを見ている。


「…………ひどい……!!」


 思わず呟いた瞬間、頭上で甲高い音がしたかと思うと、すこし離れたところにウィンガーが着陸する。


 勢い良く飛び降り、パンツィアはすぐその場所へ駆け出す。


「みんな無事ですか!?!

 しっかり!!!立てますか!?!」


 一人一人声をかける。

 だが、大抵返事は虚ろで、みなうずくまったままだ。


 当然だ。当然だが、今惚けてもらっては困る。


「気を確かに!!

 くっ……!」


 荒地から見えるHALMITの、大型搬入口のある場所は燃え盛っていた。

 ミサイルは数発防げなかったのだ。


「格納庫は無事かな……!」


 これほどに犠牲を出しても、最悪の場合は起こりうる。


「━━━ラインは無駄死にだったのか?」


 ふと、ふらふらと前方からアイゼナが歩いてくる。


「アイゼナちゃん!!」


「なぁ、答えてくれ……!!

 ラインの犠牲は……無駄だったのか……!?」


 近くなりパンツィアに掴みかかり、涙の伝う顔でそう問う。


「っ……無駄死なんかじゃないっ!!

 無駄死にさせてたまるか!!」


 パンツィアも、そうであってくれと格納庫へ無線をつなぐ。


「こちらパンツィア!!

 格納庫!!だれか、応答を!!」



       ***


「良し……こんなものでいいか!」


 ぎゅ、と頭に包帯を巻き、ジャン・ピエールは無線機を取る。


「こちらブレイガーO格納庫、ジャン・ピエールだ!

 最悪な知らせといい知らせのどちらを聞きたい?」


『ジャンさん!?!

 ……状況の確認ができる方からを!』


「いいとも!

 悪い方だが、格納庫の大型搬入口は完全に潰れている!!

 瓦礫に撤去には……半日は欲しいな」


 ジャンの視線の先には、外に繋がる出入り口は、瓦礫の山と化している。

 怪我人だらけだが、現状死者はいない様子で、ある意味そちらもいい知らせだとジャンは思う。


『そんな……!!ブレイガーOは!?!』


「そこがいい知らせだ。


 ブレイガーOは無傷!!後は、発進するだけの状態だ!」


 見上げるジャンの真上、ウィンガーの無い気の抜けた頭部を見せるブレイガーOは、新品同然の真っ黄色のボディで静かに鎮座している。


「機体は新品、プログラムもシャーカ君たちが気合いを入れてデバッグまで終わっている。

 弾薬、推進剤、反応魔導炉の魔法石残量も満タンだ!!」


『やった……なら出撃はできる……!』


 ふ、と無線の向こうの嬉しそうな声に、ジャンも顔を綻ばせる。


「しかしどうするかねパンツィア君?

 瓦礫の撤去よりは解体して外に運んだ方が速いぞ?」


『ジャンさん、『プランD』です』


 ほう、とその提示された言葉に驚きの顔を見せる。


「……いいだろう。それならば30分で出撃ができる……!」


『無理はしないでください!

 怪我人により作業人員が不足しているはずです。気をつけて』


「ああ、そちらこそ!」


 無線を切り、ジャンは周りを見る。


 ズラリ、と並ぶ作業員達。

 全員、どこかしら怪我を負っているにもかかわらず、まるで指示を待つようにこちらを見ている。




「━━━作業を始めよう!!


 プランDだ!!」




 その言葉と同時に、全員が作業へと取り掛かる。



       ***


「パンツィア!?プランDとはなんだ!?」


「いわゆる、ピンチの時の非常手段。

 HALMITの、真の姿を見せる時って事かな」


 そう言って、パンツィアはウィンガーの方向へ戻り始める。


「ラインのお陰で完成したブレイガーOの……出撃の時だ!!」


       ***


 ズガァァァァァンッッ!!


 背後で山が爆ぜると同時に、安全そうな平野の地面から二つのドリルが顔を出す。


「っしゃあ!!地上に帰って来たぜぇ!!」


 まだ正常に働いてくれているGPSによれば、恐らく数キロ右……いや精度的には直進?の位置にドレッドノートは止めっているはず。


 パワーライザーは土の雨降る中、そちらへと進んでいった。


「生きた心地がしなかったなぁ!!

 まさか目を覚ますだなんて!!」


「流石に綺麗きれ〜〜いにぶっ飛ばしたんだ!!

 原型とどめてないだるぉ!!」


「…………そうとも言えないかもね」


 と、テトラ達とは対照的に、なにかを感じて鋭い視線を背後に送るデウシアは答える。


       ***


 崩れた山の中、土砂の霧と言うべき物を切り裂いてそれは現れる。


 あちこちが焼けただれたしゃれこうべのような外角を纏う、2足の竜。


 欠けた左の首と半分吹き飛んだ真ん中の首の赤い目は、苦痛と怒りでギラギラ燃えている。



 ━━━キュワァァァァァァァァッ!!



 ギドラキュラスは、半死半生の身体で怒りの咆哮を天高く響かせた。


       ***


「うわぁ……あれで良く生きていられるなぁ……!!」


「見ていて痛々しいんだよなぁ〜〜……!」


「つーか素直に気持ち悪い」


「グロは嫌い!」


「嫌いである!」


「はいはい、しかしまさか生きているだなんて……!」


 やや、見えるようにパワーライザーを傾けて、明らかに弱りきったふらつき方で穴の空いた山から這い出るギドラキュラス。


 その様子ではそう長くはない。


「……あら?」


「ドライ、どうしましたか?」


「何かしらこの反応??周囲の魔力濃度が急速低下……?」


「……ッ!?」


 とは、思っていない女神が一柱。




「アイツ…………!!」


 デウシアが叫んだ瞬間、周囲に凄まじい現象が起こる。


 突然、今まで実っていた木々が萎れ、枯れて風化していく。


「オイオイオイオイ!?!

 なんだよこれぇ!?」


「警告!周囲の魔力濃度急激低下!!」


「ジョナス殿や!!席にある緊急防御障壁装置のボタンを!!!」


「分かったよジーベン君!!なんだか様子がおかしい!!」



 歩いていた地竜が、突如その数百年は生きられる寿命が削られていき、瑞々しかった体が急激にしぼみ、骨と皮だけになり、そして……土に帰る。


「発進よ発進!!こんなとこいられないわ!!」


「何が起こっているのですか女神様!!」


「見てわからない!?


 アイツが、のよ!!」


 ギドラキュラスの傷の一部が、ほんの少し塞がり始める。


「なんだってぇーッ!?!


 伝説にある命を貪り食うとは、こういう形でだったのかッ!?」



「今見えてるのが真実よ学者先生!!

 ここはまずいわ、早く移動して!!」


       ***


 ふと、ギドラキュラスに降り注ぐ一発の岩石。


 再び傷を負い、ふらつきながらもその相手へと視線を向ける。




「━━━いよぉ!!


 はじめましてだなぁ、ギドラキュラスさんよぉ!!」



 グワァ、と咆哮を上げ、もう一つの岩を持ち上げる、黒く巨大な腕。


 ギドラキュラスの顔に負けないほど恐ろしい髑髏のような白い頭を持つ巨神。


 スカルキングが、現れた。



「……キュルル……キュルキュル……」


「なんだぁ、息なんか切らしちゃってよぉ〜??


 久々の目覚めで、運動不足かよジジイがぁッ!!」


 ズン、と持っていた岩で頭を叩き割るかのように殴る。


「俺は短気で凶暴な奴だからよぉ〜??

 容赦なんかしねーぞゴラァッ!!!」


 その巨大で力強い拳で殴りかかる。


 しかし、ギドラキュラスはそれをみて静かに、鳴く。


「来たか……!」


「あぁ!?」


 その瞬間、この髑髏大地を守る嵐の壁の一角が爆ぜる。


       ***



 嵐をかき分け、現れる邪巨神軍団。


 イワサイガミの腕にはゴルザウルスの頭が、ジャンドラーゴの翼が握られている。


 その背後に、巨大な刀のような頭の邪巨神が、刀身から血を滴らせて歩く。


 どさり、と崩れ落ちる石像。

 メタデューサの前で壊れるそれは、ガポパゴスと同じ形をしていた。


 邪巨神5体は、悠々とした足取りでギドラキュラスへと進んでいく。


       ***


「そうか、分かったぞ……!!」


 パワーライザー01からも見えた光景を見て、ジョナスは呟く。


「どうしたんだジョナス?」


「まずいって言うことだよ、この状況が……!!


 何より、あの邪巨神軍団をギドラキュラスに近づけちゃあ、いけない!!」


 ぴっ、と太い指をやってくる邪巨神軍団に指し示し、ジョナスは言う。





「特に、ザンダラはダメだ!!

 奴は、ギドラキュラス用のだ!!





 彼らがギドラキュラスに近づき切った瞬間、僕達の努力が無駄になるッ!!」





 その指先の邪巨神軍団は、誰にも止められない、と言った足取りで今も進む。



       ***

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