act.12:運命の瞬間
-超古代竜邪巨神 ゴルザウルス 登場-
━━━グルルァァァッ!!
砦を僅か数秒で消滅させたゴルザウルスが進んでいる、その同時刻。
バンッ!!
「ロクデナシは居るかぁ!?!」
森の中の一軒家に、カーペルトとシャーカが入って来た。
「あ、ヤッホー!カーペルト君なんか久々だねぇ」
その目的に人物であるケンズォは、ちょうど地下室の入り口から顔を出してのほほんとした声を出した。
「そんなこと言っとる場合かぁっ!!
邪巨神がすぐそこまで迫っておるわい!」
「ケンズォさん!!早くここから逃げないと!!通信が入って途中急いだんで……ああ、窓に!!窓に!!」
ん、と振り向いた先の廊下の窓、遠くに木よりも高い巨大な影が歩いてくる。
「おぉ、とうとうこんな首都近くまでに出現かぁ……!」
「だからお前は呑気に感想を漏らしておる場合かぁーッ!!」
「あー、でも竜騎兵部隊もいるし、もうちょい時間あるんじゃない?」
「どう見てもブレスと相性悪そうな見た目じゃないですかぁーッ!?!」
そーだろーねー、と言いながら、なんとまた地下室へ行こうとするケンズォ。
「あ、何しとる!?この状況で戻るアホがおるか!!!」
「いや実は、君たちを呼んだのは……」
ふと、何か上でヒィィィィ、と音が聞こえる。
「あ、この独特の『ジェット噴流』の音は……!」
***
「姫さま、アレを!」
「まさか!!」
アイゼナの視界にも、それは見えた。
一瞬巨大な鳥にも見える影は、やがて大きく翼を広げた『鋼鉄の機械』だとわかる。
風防という水晶化オリハルコン製のある操縦席にいる、同い年ながらも幼い顔立ちは、間違いなくパンツィア。
「アレはウィンガー、か!?」
「それも……!」
驚くのも無理はない。
山吹色に塗られた機首に伸びる二つの
「あんな大型飛竜種並みの装備で……!」
「飛び立てただけじゃないぞ!!
明らかに速い!」
さしずめ、『アタックウィンガー』と言うべきそれが、敵へ向けて機種を下げる。
***
「喰らえぇーっ!!」
操縦桿の引き金を引いた瞬間、機首が跳ね上がりそうな衝撃がやってくる。
アタックウィンガーの吐き出した実弾の雨が、巨大な邪巨神の腹部で火花を散らすように着弾する。
「まだまだぁー!!」
悲鳴をあげる邪巨神の隣を飛び去り、爆弾を土産がわりに一回転した勢いでぶつけて去る。
「うひゃぁ〜!1回転爆撃なんて我ながら大胆だ〜〜……!!」
後ろで上がる爆煙を振り向きながら見て、一度高度を上げて言うパンツィア。
「まぁ、効いてないか……!」
キシャァ!
大声で叫んだゴルザウルスが、超振動波を放つ。
「やばいっ!?!」
再び急旋回でそれを回避する。
「くっ……!!」
(旋回してからの速度の持ち直しが遅い……!)
速度の落ちた状態からの持ち直しが遅いと言うことは、
追加で来た反撃を避ける時の速度が、足りないという事。
「げっ!?」
なんとか避けつつ高度を稼ぐ。
運動エネルギーは位置エネルギーの有無で大きく変わり、常に空中では意識しなければいけない。
「あっぶないなぁ!!これでも喰らえ!!」
***
そのアタックウィンガーに追従するアイゼナ達がいた。
「竜騎兵のセオリーをあそこまで完璧にできるとは……!」
「当たり前だ、魔法博士にならなければ私が竜騎兵に誘っていた」
「しかし、思った以上に小回りといいますか、いや直線では速いんでしょうが……」
「だが目的は分かる。手伝ってやろう。
部隊の配置はいいな!行くぞ!!」
3回目の攻撃、
「こっちだ化け物!!」
「ついでにこっちだ!!」
撹乱し、狙いの方向から攻撃を当て━━━━━誘導する。
「頼むケンズォ氏、いくらロクデナシと言えど、意図を理解して逃げてくれ……!」
一人、目的の場所の見える位置にいるアイゼナが唱える。
***
「よぉ〜し、逸れたな逸れたな!」
「だから逃げろと言うとるじゃろうて!!」
未だに逃げる気のないケンズォに痺れを切らすカーペルトに、すでに死の恐怖に泣きはじめているシャーカという、極限状態さながらの状況が家の中で繰り広げられていた。
「ご主人様?いい加減、外に出るかこちらの少なくとも外より頑丈な地下に籠るかどっちかをお選びいただかないと」
「ごめんよ、ドライ!そっちに行くからさ、ほらみんなも!」
「なんで自分から墓穴に入らないといかんのだ!!!」
「嫌だよぉー!!死にたくないよぉー!!!
まだ私384歳なのにし゛に゛た゛く゛な゛い゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
「はいはい、地下は超合金製だからだいじょーぶ!!」
二人を無理やり押し込むケンズォ。
━━━━その時だった。
***
━━グゴォォォォォォン!!!
いい加減、痺れを切らしたような怒声が響く。
ゴルザウルスはおもむろに、長大な尾で地面を薙ぎ払い、木々と砂を空高く打ち上げた。
「!?」
「回避しろ!!!」
しかし、回避できたのは、アイゼナとピナリアに連れられた数名のみだった。
空中へ勢いよく舞い上げられた石、木々に次々と飛竜が巻き込まれ、落ちていく。
「うわぁぁ!?!」
それはウィンガーをも落とした。
そして、怪物はもう一度尾を振るう。
***
巻き上げられた木々、迫り来る土砂で、ケンズォは地下室にようやく身体を突っ込ませ叫ぶ。
「二人を防御するんだ、ドライ!!!」
「!?」
そして、
━━━━ズゥゥゥゥン!!
***
鳴り響く緊急サイレン。
ぐるぐる回る全ての計器。
煙を上げるエンジン排気部分と、崩れ落ちた鋼鉄部分の翼。
「脱出!」
音声認識魔法は働き、キャノピーが吹き飛び座席ごと爆発するように上空へ打ち出される。
十分な高度まで上がったところで、今度は
プツン!
━━━━打ち上げられた小石が引っ張った糸を貫く。
「あ━━━━」
死……んだと思う前に、ガクンという衝撃と共に空中を上っていく。
「あ……あれ……?」
「速度は良かった。武装を載せられるパワーもだ。
小回りが問題だな!何度もオーバーシュートしてからに!」
「あ……!」
背後の白い飛竜の顔と、不敵に笑う女騎士の顔。
「アイゼナちゃん!ライン!!ありがとう!!」
「いいさ、親友。それより、一旦あそこへ降りる」
数分で、地上へと降り立ち、降ろされた座席からようやく身体を外すパンツィア。
「……みんな、無事かな?」
「ダメだろうな。我らも生き残りは少ない」
「くっ……」
「そんな顔をするな。
アイツ……流石は邪巨神と言うべきか、単純な力任せでここまで出来るとは……」
ズゥン、ズゥン、
少し離れた場所で、どこか軽快な足取りで進む邪巨神の背中を見る。
もはや興味を無くした、とでも言うべき姿に、思わず火炎魔法でも投げてしまおうかとパンツィアは思ってしまった。
「姫様ーっ!!ヘルムス公爵ーっ!」
と、ピナリア以下、数少ない生き残りの数人の竜騎兵が、こちらへと着地してきた。
「ピナリア、よく戻ったな!
お前達も生きていたか!!」
「我々はなんとか!しかし……!」
何か言おうとした一人を手で遮り、ピナリアが下竜して、跪く。
「ご報告がございます、殿下。
そしてヘルムス魔法博士公爵殿」
「……まさか、」
***
予想通りの報告を聞いて、すぐ走り出した。
嫌な予想を何とか振り払ってそこまで、皆がついていけなくなるほどの速さで。
結果から言えば、
ケンズォのいた家は、大量の木と土砂で潰れていた。
「〜〜〜〜〜〜〜ッ!?!?!?!」
パンツィア自身、何を言ったのかよく分かっていない。
気がつけば、背負ってきた携行反応魔導炉を始動させて、反重力魔法を唱えていた。
「パンツィア!!!待て、早すぎ、!?!」
ようやく追いついたアイゼナが見る頃には、かろうじて家だった物が見えていた。
「姫様!!いや、ヘルムス殿も早すぎ……あ……」
ようやく追いつけた皆の前、アイゼナは膝から崩れ落ちていた。
「そんな…………これでは、ケンズォ殿も…………お爺様も……シャーカ殿まで……!!」
「姫様、お気を確かに」
「気は確かだが、ダメだ。やはり肉親となると辛い…………まともな指示は出せん…………」
「大丈夫です。まだ時間があります。
幸い生き残った数も多く、竜も呼べば3人を掘り起こすなど、」
「二人ですよ」
やけに、そのパンツィアの声は抑揚がなかった。
なにかを、残骸の中で見下ろしている。
アイゼナは、ここにきて力が戻ってしまった足を呪う事になるのだが、しかしゆっくりとピナリアと共に……いや皆、付いてきてしまった状態で、パンツィアのそばへ寄る。
予想通り、ケンズォの死体がそこにあった。
「ひっ……!」
上からやってきた木に、上半身を見事押しつぶされた即死体。
生きてるわけがないと悟るのは容易い物だった。
「そんな…………そんな…………」
「…………ごめんなさい。悲しむの、後にしましょう。
辛すぎて、今は嫌です」
そ、と近くに散乱したタンスの中身から、いつものローブを被せるパンツィア。
「……パンツィア、お前……」
「お爺ちゃんがなんで一人でいるのか。
簡単な推理ですよ、このロクデナシは……最後はこう言ったんです。
ドライ、二人を守れ、って」
突然、近くの瓦礫が動く。
皆驚く中、瓦礫を押しのけた本人が姿を見せる。
「━━━━ご明察にございますわ、パンツィア様」
ズン、と細い腕と思えない力で、近くに瓦礫を退けるメイドの姿があった。
「そして申し訳ございません。
主人の命令とは言え、ご主人様を犠牲にするような悪いオートマトン・メイドなど……わたくしは失敗作にございます」
「そんなこと言わないで!!!
……だって、二人は救えたんだ」
ゴホゴホという咳き込む音とともに、二つの影が姿をあらわす。
「あー、死ぬかと思ったわい!!」
「生きてるって幸しぇぇぇぇっ!!」
「シャーカ殿!!お爺様ぁぁ!!!」
おぉ、と喜び手を広げたカーペルトへ、アイゼナが飛びかかるように抱きつく。
「アイゼナ、我が孫よ……!もう手に余るほど大きくなったが……
こうして、こうして乳飲み子の頃から抱いていた感触を二度と味わえぬと考えただけでも、もう一度、と涙を流してしもうたぞ……!」
「私も嫌でした……!!お爺様はまだ死ぬべきではない人です……!!
私はまだ、お爺様が元気に飛んだり爆発したりする姿が見ていたい……!!
まだ床に横たわるには早すぎると思いました……!」
「うむ……うむ……!!」
一通り泣き、そしてふとパンツィアへ顔を向けるカーペルト。
「……パンツィア、すまんが案内してくれ」
ローブで隠されたケンズォの死体を、しゃがんで見下ろすカーペルト。
「…………はぁ…………不思議じゃのぉ、若作りジジイ。
ワシは、てっきり逆だと思ったぞい」
静かに、静かにそう語りかける。
「お前さんは、ワシがこのパンツィアよりもチビで、バカなボンボンのはなたれ小僧の頃から、既にジジイだったのぉ……
いやしかし、こんな話を、一応は家族にするべきか、とも思うが…………
ワシもな、色気付いたガキじゃった頃、よく身分を隠して抜け出しては……やれ西の川で女の水浴びを覗き、東の修道会でひっそり暮らす美人のシスターの裸を覗き……
今考えても褒められん!!
そして、お前さんも共犯者だったのぉ!!」
バンバン、と少し乱暴に頭のあたりを叩き、そう語るカーペルト。
「あー、良く妻とまぁ、浮気せずに過ごせたわい!
いや、妻とは政略結婚だが、美人で性格もいいから良かったの!
今じゃ子は王で、孫も美人じゃ!!
お前さん、上の悪事を一切他言無用にした恩は、お前さんに貸した20ラウンドのうち、10ラウンド分は、あるかの」
はははは、ととても陽気な笑い声だった。
━━━━滴り落ちる涙を見なければ。
「……馬鹿者が…………こういうくだらん話は、酒盛りでするんだろうて……!!
10ラウンド早く返せ……お前が返せ…………生き返って……返さぬか…………ロクデナシ大賢者……!!」
う、と膝をついたカーペルトを支えるパンツィア。
「パンツィア……うぅ、ロクデナシめ、最後にこんな出来た弟子を……家族を育ておってからに……!!
この子には請求せん、お前が払え……!!」
「カーペルトさん……涙を拭いてください」
「お前は泣かんのか!?
別にいい!!コイツは、コイツはロクデナシと言えど、お主に迷惑しかかけとらんと言えど!!」
「なんの思い出で泣けばいいんですか?」
ぴちゃん、と流れ落ちる雫。
「……私、カーペルトさんと違って……使いも一緒に過ごした時間も短いですけど……
8割、8割迷惑しか…………被ってないんですよ……??」
「お主……!」
「借金なんていつものことで……みんなとお前が払えって言いに行けば逃げて……一人のなったら私にだけ謝りに来て…………
いつも怒ればヘラヘラ笑って、研究のこと聞いているのに人の体のコンプレックス弄ってきて、わざと風呂に侵入しておいて「残念賞」とか言ってきて!
風邪を引いた時は「頭のいい証さ」て言っていつも看病してくれて!
風邪になった時は熱のあるふりして胸触ってきて!!
殴って!!泣いて!!謝って!!
どうせ反省してないんでしょって、やっぱり反省してなくって!!!
だけど、絶対にひどいことはしないし、一回街の怖い人に襲われかけた時は真剣な顔で助けてくれてすごく格好良くって!!!!!
その日の夜は、電気をつけて一晩中一緒にいてくれて!!!!!!
朝起きたら座ったまま寝てる顔が、昨日のかっこよさが全部吹き飛ぶぐらい可笑しくって!!!!!!!!」
もう涙が止まらなかった。
パンツィアは、その年頃通り、ただの少女として泣いていた。
「お爺ちゃんが死んだなんて嘘だよぉ!!!!
殺しても死なないようなのがお爺ちゃんじゃないかぁ!?!?!?!
なんでだよ!!!!
こんなことで死ぬなんて、なんでこんなことになるのぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
ぅうぅ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
釣られて、カーペルトも泣いた。
周りも皆沈痛な面持ちだった。
一人の命が、消えてしまった。
「…………申し訳ございません、パンツィア様。
このような時ですが……お話が」
やがて、まだひっくひっく泣いているパンツィアに、そっと清潔なハンカチを渡すドライが、そう言葉をかける。
「何?大丈夫だから言って」
「なぜ、こんな時に、前国王やシャーカ様をお呼びになったのかという理由と……
パンツィア様?
あなたへ、ご主人様が贈りたい物がございました」
***
地下室の奥へ、パンツィア、カーペルト、シャーカ、アイゼナがともに進む。
「ここの壁は、オリハルコン製です。
スーパーオリハルコンの剣などでなければ破壊は難しいでしょう」
先導するドライの、光る目の光を頼りに、一行は進む。
「知ってる。改装は私に予算面を頼まれたし」
「なんでここまで頑丈な作りに?」
「アイゼナ、ワシと同じ理由じゃよ。
これは、本来外ではなく内側、
研究が爆発するようなものを扱うのなら、うってつけな頑丈さよ」
やがて、通路の終わりへとたどり着いた。
「ここが……?」
「あ、パンツィア様。右手側に照明のスイッチがございます。
おつけいただいても?」
はーい、と照明のスイッチをあげる。
ブゥン、と魔力が流れる音と共に、パン、パン、と奥や天井から照明の光がともり始める。
「!?」
「ん?」
ふと、全員がこちらを見て固まった表情になったのに気づき、パンツィアもようやく振り向く。
「━━━━!?」
そこに鎮座するのは巨大な横顔だった
***
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